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目の前が真っ暗に染まり、次第にどす黒い感情が溢れだすと、憎悪と嫉妬がこみ上げる。
姉弟として育ち、口には出せない想い。
苦しさに胸を掴むと、あふれ出そうになる感情を、必死に押さえつけようとした。
自分が誰よりも彼の傍に居られるのだと。
家族として切れない絆で結ばれているのだと。
だけど痛みは酷くなるばかりで、一向に収まる気配はない。
そこでようやく気が付いた。
わかっていたと思っていたけれど、私はなにもわかっていなかったのだとーーーーー。
衝動にかられ、私のパトリックを奪わないで、そう叫びたくなった。
だけどこれは皆を裏切る行為。
それに養子である私が彼と結ばれることはない。
両親は私を本当の娘として育ててくれた。
愛情を注いでくれた。
だけど弟の婚約を喜べる器量もなくて……。
だから私はこの歪んだ感情を隠すために、ここから逃げる口実が欲しかったのだ。
焦燥な思いで参加した夜会で、私は伯爵家のウェイン様と出会った。
ダンスに誘われホールで踊っていると、公爵家の令嬢と楽しそうに話すパトリックの姿が何度も映る。
時折こちらを見るパトリックの視線に、私は耐え切れなくなった。
涙が堪えられず頬を伝っていくと、彼は何も聞かずに優しく拭ってくれたのだった。
ダンスが終わると、彼は私を会場から外へ連れ出してくれた。
冷たいそよ風が頬に触れ、高ぶった感情が幾分ましになる。
ようやく涙が止まり、何も聞いてこない彼に頭を下げると、肩を引き寄せられた。
そしてずっと好きだったと告白されたのだ。
会ったばかりでどうしてと尋ねると、彼は夜会のたびに私へ話しかけてくれていたらしい。
正直全く覚えていなかった。
だけどこれはいい機会なのかもしれない。
彼の告白を受ければ、あの家から逃げ出せると、そんな浅ましい考えが浮かんだのだった。
私はパトリックに掴まれた腕を見つめながら、ゆっくりと感情を押し殺していく。
「もちろん本気よ。それよりも明日正式な挨拶が済んだら、家を出て行くわ。あちらでね、花嫁修業というわけではないけれど、お試しという形でお世話になるの」
「はぁ!?嘘でしょ……?今まで婚約や結婚になんて興味なかったじゃないか!なのに突然どうして?」
「ふふ、そんなことないわよ。私もそろそろ結婚を考える年だもの。ただそれだけよ」
息を吐くように嘘をつく。
笑みで全てを覆い隠す、浅ましく醜く酷い女。
だけどこの気持ちは、絶対にバレてはいけないもの。
義弟の幸せを祝えない姉でごめんね。
私は心の中で謝りながら、そっと彼の手を振りほどくと、荷物の整理に取り掛かった。
この家には彼との思い出が多すぎる。
早くここから逃げ出したい。
ウェインには申し訳ないけれど、私がパトリックを忘れる日は来ないだろう。
ずっと嘘をつき続ける生活がまた始まるのだ。
そんな私が彼のために出来ることは、精一杯尽くすことなのかもしれない。
私は黙々と作業を進めていると、パトリックが私の前へ座り込む。
彼の冷たい手が頬に触れ顔を上げると、青い瞳が冷え冷えとした様に変わっていた。
憎しみに似た強い感情、初めて見るその姿に視線が逸らせられない。
「パトリック……どうしたの?」
底冷えするような彼の瞳にブルっと体が震えると、彼は私の腕を再度掴み引き寄せると、耳元で囁いた。
「ダメだよ、僕から離れようとするなんて許さない。絶対に……」
冷たく囁かれた言葉に目を丸くしていると、体がふわっと宙に浮いた。
そのままベッドへ運ばれ落とされると、パトリックが覆い被さる。
「パトリックッッ!?」
「シー、静かに。母さんが見たらびっくりしちゃうよ」
パトリックは意地悪そうにニヤリと口角を上げると、私の唇へ人差し指を押し当てる。
空いている手が服にかかると、胸のボタンが一つ一つ外されていった。
姉弟として育ち、口には出せない想い。
苦しさに胸を掴むと、あふれ出そうになる感情を、必死に押さえつけようとした。
自分が誰よりも彼の傍に居られるのだと。
家族として切れない絆で結ばれているのだと。
だけど痛みは酷くなるばかりで、一向に収まる気配はない。
そこでようやく気が付いた。
わかっていたと思っていたけれど、私はなにもわかっていなかったのだとーーーーー。
衝動にかられ、私のパトリックを奪わないで、そう叫びたくなった。
だけどこれは皆を裏切る行為。
それに養子である私が彼と結ばれることはない。
両親は私を本当の娘として育ててくれた。
愛情を注いでくれた。
だけど弟の婚約を喜べる器量もなくて……。
だから私はこの歪んだ感情を隠すために、ここから逃げる口実が欲しかったのだ。
焦燥な思いで参加した夜会で、私は伯爵家のウェイン様と出会った。
ダンスに誘われホールで踊っていると、公爵家の令嬢と楽しそうに話すパトリックの姿が何度も映る。
時折こちらを見るパトリックの視線に、私は耐え切れなくなった。
涙が堪えられず頬を伝っていくと、彼は何も聞かずに優しく拭ってくれたのだった。
ダンスが終わると、彼は私を会場から外へ連れ出してくれた。
冷たいそよ風が頬に触れ、高ぶった感情が幾分ましになる。
ようやく涙が止まり、何も聞いてこない彼に頭を下げると、肩を引き寄せられた。
そしてずっと好きだったと告白されたのだ。
会ったばかりでどうしてと尋ねると、彼は夜会のたびに私へ話しかけてくれていたらしい。
正直全く覚えていなかった。
だけどこれはいい機会なのかもしれない。
彼の告白を受ければ、あの家から逃げ出せると、そんな浅ましい考えが浮かんだのだった。
私はパトリックに掴まれた腕を見つめながら、ゆっくりと感情を押し殺していく。
「もちろん本気よ。それよりも明日正式な挨拶が済んだら、家を出て行くわ。あちらでね、花嫁修業というわけではないけれど、お試しという形でお世話になるの」
「はぁ!?嘘でしょ……?今まで婚約や結婚になんて興味なかったじゃないか!なのに突然どうして?」
「ふふ、そんなことないわよ。私もそろそろ結婚を考える年だもの。ただそれだけよ」
息を吐くように嘘をつく。
笑みで全てを覆い隠す、浅ましく醜く酷い女。
だけどこの気持ちは、絶対にバレてはいけないもの。
義弟の幸せを祝えない姉でごめんね。
私は心の中で謝りながら、そっと彼の手を振りほどくと、荷物の整理に取り掛かった。
この家には彼との思い出が多すぎる。
早くここから逃げ出したい。
ウェインには申し訳ないけれど、私がパトリックを忘れる日は来ないだろう。
ずっと嘘をつき続ける生活がまた始まるのだ。
そんな私が彼のために出来ることは、精一杯尽くすことなのかもしれない。
私は黙々と作業を進めていると、パトリックが私の前へ座り込む。
彼の冷たい手が頬に触れ顔を上げると、青い瞳が冷え冷えとした様に変わっていた。
憎しみに似た強い感情、初めて見るその姿に視線が逸らせられない。
「パトリック……どうしたの?」
底冷えするような彼の瞳にブルっと体が震えると、彼は私の腕を再度掴み引き寄せると、耳元で囁いた。
「ダメだよ、僕から離れようとするなんて許さない。絶対に……」
冷たく囁かれた言葉に目を丸くしていると、体がふわっと宙に浮いた。
そのままベッドへ運ばれ落とされると、パトリックが覆い被さる。
「パトリックッッ!?」
「シー、静かに。母さんが見たらびっくりしちゃうよ」
パトリックは意地悪そうにニヤリと口角を上げると、私の唇へ人差し指を押し当てる。
空いている手が服にかかると、胸のボタンが一つ一つ外されていった。
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