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ある日の夜、夕飯を終え部屋にいると、ノックもなしに突然扉が勢いよく開いた。
「ねえさん、どういうこと!!!婚約するって本当なの?」
開口一番の言葉に顔を向ける。
焦った表情でこちらを見る、私の可愛い可愛い弟。
端正な顔立ちでブロンドの髪と澄んだ青い瞳。
黒い髪に黒い瞳で平凡な顔立ちの私とは似ても似つかない。
私はニッコリとほほ笑む、彼の瞳を真っすぐに見つめ返した。
「えぇ、先日の夜会で知り合ったウェイン様よ。まだ正式に婚約してはいないけれど、直にそうなると思うわ」
「本気なの?」
彼は目を細め不機嫌さを隠す様子もなく、ズンズンと近づいてくる。
がっちりと腕を掴まれると、小さな痛みがはしった。
先日参加した夜会で知り合った彼。
いつもなら、令息と会話をするのは一言二言。
楽しいとも思えなかったし、婚約や結婚なんて考えていなかった。
誰だってよかった、両親が決めた相手と家のために結婚する、それぐらにしか考えていなかったの。
だけど義弟のパトリックに、婚約の話が舞い込んだとなれば話は別。
格上の御令嬢で、容姿端麗気立てが良く評判もいい。
夜会で彼と令嬢が談笑する姿を何度も見てきた。
断る理由なんてどこにもない。
私と彼とは違うのだから。
パトリックと私は本当の姉弟ではなく、私は義父の親友である男爵家の娘。
不慮の事故で私の両親が他界し、親戚もいない天涯孤独な私を、伯爵家である彼の父が引き取ってくれたのだ。
初めて家に連れられパトリックを一目見て、天使のように可愛い子だと思った。
こんなかわいい男の子が存在するなんて。
ニッコリ笑う姿にクリッとした青い瞳。
愛らしい笑みに目が釘付けになったわ。
あの頃の私は、貴族のとしてのマナーや立場をまだわかっていなくて、不安で戸惑ってばかりだった。
だけどそんな私を傍でパトリックが支えてくれた。
頭が良くて優しくて、器用でだけど寂しがりやな彼。
私が彼の傍を離れると、大きな瞳を揺らせて泣きそうになって探してくれた。
遊ぶ時も食事の時も出かける時も寝る時も。
ずっとずっと一緒だった。
過保護なまでに私を気にかけてくれて、そんな私たちの姿に、どちらが年上なのかと両親は笑っていたわ。
最初は引き取られた私の事を悪く言う人もいたけれど、本当の家族のように仲の良い姿を見て、次第に誰も何も言わなくなっていった。
あの頃に戻れたらどれだけ幸せだろう。
私に間違った感情が芽生えなければ、今も変わらずずっと一緒に居られたのに———————————。
成長していく彼の姿を隣で見守る中で、いつの間にか私は彼を愛しいと思うようになってしまった。
姉弟としての愛情ではない別の気持ち。
お父様、お母様、そして弟に気づかれてはいけない強い感情。
気が付いた時には、もう後戻りできないところまできていた。
彼が他の令嬢と話をする姿に苛立ったり、隣に並んでいるだけでも許せなくなっていた。
だけど伝えようとなんて思わなかったわ。
誰よりも彼の傍に居るのは私だったし、理解しているのも私だと信じていたから。
恋人ではないにしろ、家族として傍に居られるそれだけで十分だったの。
そんな理由で、他の令息に興味がわかなくて……本当に愛している人と結ばれることはないのだと、自分に言い聞かせていた。
そうわかっていたはずだった。
だけど私は本当の意味でわかっていなかったのだ。
数日前、両親と彼が嬉しそうに話す姿を偶然見てしまった。
公爵家からいい話が来たと、パトリックが嬉しそうに笑い承諾する返事を返していた。
なんの話かと、こっそり耳を澄ませると、出てきた公爵家の名を聞いてすぐにピンッときたわ。
婚約の話だって。
夜会でパトリックが、その令嬢とダンスを踊る姿を何度も見た。
令嬢がパトリックを気にしていたのも知っている。
いつかそういった話が来るのも、覚悟していたはずだった。
だけど彼が別の女性に取られてしまう、そんな現実を突き付けられ、正気ではいられなかった。
喜ぶ両親の隣で照れながら笑う弟の姿。
あまりのショックで、私は暫くその場から動けなくなっていた。
「ねえさん、どういうこと!!!婚約するって本当なの?」
開口一番の言葉に顔を向ける。
焦った表情でこちらを見る、私の可愛い可愛い弟。
端正な顔立ちでブロンドの髪と澄んだ青い瞳。
黒い髪に黒い瞳で平凡な顔立ちの私とは似ても似つかない。
私はニッコリとほほ笑む、彼の瞳を真っすぐに見つめ返した。
「えぇ、先日の夜会で知り合ったウェイン様よ。まだ正式に婚約してはいないけれど、直にそうなると思うわ」
「本気なの?」
彼は目を細め不機嫌さを隠す様子もなく、ズンズンと近づいてくる。
がっちりと腕を掴まれると、小さな痛みがはしった。
先日参加した夜会で知り合った彼。
いつもなら、令息と会話をするのは一言二言。
楽しいとも思えなかったし、婚約や結婚なんて考えていなかった。
誰だってよかった、両親が決めた相手と家のために結婚する、それぐらにしか考えていなかったの。
だけど義弟のパトリックに、婚約の話が舞い込んだとなれば話は別。
格上の御令嬢で、容姿端麗気立てが良く評判もいい。
夜会で彼と令嬢が談笑する姿を何度も見てきた。
断る理由なんてどこにもない。
私と彼とは違うのだから。
パトリックと私は本当の姉弟ではなく、私は義父の親友である男爵家の娘。
不慮の事故で私の両親が他界し、親戚もいない天涯孤独な私を、伯爵家である彼の父が引き取ってくれたのだ。
初めて家に連れられパトリックを一目見て、天使のように可愛い子だと思った。
こんなかわいい男の子が存在するなんて。
ニッコリ笑う姿にクリッとした青い瞳。
愛らしい笑みに目が釘付けになったわ。
あの頃の私は、貴族のとしてのマナーや立場をまだわかっていなくて、不安で戸惑ってばかりだった。
だけどそんな私を傍でパトリックが支えてくれた。
頭が良くて優しくて、器用でだけど寂しがりやな彼。
私が彼の傍を離れると、大きな瞳を揺らせて泣きそうになって探してくれた。
遊ぶ時も食事の時も出かける時も寝る時も。
ずっとずっと一緒だった。
過保護なまでに私を気にかけてくれて、そんな私たちの姿に、どちらが年上なのかと両親は笑っていたわ。
最初は引き取られた私の事を悪く言う人もいたけれど、本当の家族のように仲の良い姿を見て、次第に誰も何も言わなくなっていった。
あの頃に戻れたらどれだけ幸せだろう。
私に間違った感情が芽生えなければ、今も変わらずずっと一緒に居られたのに———————————。
成長していく彼の姿を隣で見守る中で、いつの間にか私は彼を愛しいと思うようになってしまった。
姉弟としての愛情ではない別の気持ち。
お父様、お母様、そして弟に気づかれてはいけない強い感情。
気が付いた時には、もう後戻りできないところまできていた。
彼が他の令嬢と話をする姿に苛立ったり、隣に並んでいるだけでも許せなくなっていた。
だけど伝えようとなんて思わなかったわ。
誰よりも彼の傍に居るのは私だったし、理解しているのも私だと信じていたから。
恋人ではないにしろ、家族として傍に居られるそれだけで十分だったの。
そんな理由で、他の令息に興味がわかなくて……本当に愛している人と結ばれることはないのだと、自分に言い聞かせていた。
そうわかっていたはずだった。
だけど私は本当の意味でわかっていなかったのだ。
数日前、両親と彼が嬉しそうに話す姿を偶然見てしまった。
公爵家からいい話が来たと、パトリックが嬉しそうに笑い承諾する返事を返していた。
なんの話かと、こっそり耳を澄ませると、出てきた公爵家の名を聞いてすぐにピンッときたわ。
婚約の話だって。
夜会でパトリックが、その令嬢とダンスを踊る姿を何度も見た。
令嬢がパトリックを気にしていたのも知っている。
いつかそういった話が来るのも、覚悟していたはずだった。
だけど彼が別の女性に取られてしまう、そんな現実を突き付けられ、正気ではいられなかった。
喜ぶ両親の隣で照れながら笑う弟の姿。
あまりのショックで、私は暫くその場から動けなくなっていた。
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