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第二章
治癒魔法について:前編
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あの後……私はブレイクと一緒に王都へ帰ると、私の部屋の前にエヴァンが佇んでいた。
エヴァン……どうしたんだろう?
私は扉の前に立つエヴァンへ視線を向けると、彼はニッコリ笑みを浮かべているが……よく見ると目が笑っていない。
うぅっ……不機嫌な様子ね……、まさか……私が勝手に魔法を使ってしまった事がばれたのかしら……。
でもあれは……不可抗力でしょ……?
怒りの瞳を浮かべるエヴァンは、深く笑みを浮かべたまま、ゆっくりとこちらへやって来ると、私の前で立ち止まる。
正面に佇む彼から漂う氷のような空気に、私は思わず萎縮した。
そんな私を余所に、ブレイクは徐にエヴァンと私の前に割り込むと、エヴァンへ挑発的な笑みを向ける。
「これは、これは魔導士殿、どうされたのでしょうか?」
「……、あなたに用はございません。彼女に言い聞かせなければならないことがありますので……そこを退いて頂けますか?」
ひぇっ……、言い聞かせるって何だろう……やっぱり魔法を使った事かしら……。
うぅ……離れていても、魔法を使えばわかる能力でもあるの……?
エヴァンの言葉に小さく体を跳ねさせる中、私はブレイクの背に隠れるように一歩後ずさる。
そんな私の様子にブレイクはエヴァンへ何かを耳打ちしたかと思うと、エヴァンから漂う空気が凍った。
緊迫した雰囲気に包まれる中、そっとブレイクの肩越しにエヴァンへ視線を向けると、彼の不敵な笑みが目に映る。
うぅぅ……怖いけれど……約束を破ったのは私だし……もしかしたら違う事なのかもしれないわよね……。
私は意を決し、恐る恐る顔を上げると、ブレイクの背中へ声をかけた。
「あの……今日はありがとうございました。色々と……ご迷惑を掛けてしまってごめんなさい」
そう深く頭を下げると、ブレイクは私の手を握りしめる。
そのまま私の耳元へ顔を寄せると、彼の吐息を感じた。
「いつでも蝶を飛ばしてください。あなたの誘いなら……真夜中だろうと駆けつけますから」
ブレイクは優しい笑みを浮かべながら、私の横を通り過ぎると、私は真っすぐエヴァンへ視線を向ける。
エヴァンは私を鋭く見据えると、彼のエメラルドの瞳が静かに揺れていた。
「はぁ……魔法は使わないように言っておいたはずですが」
ひぇっ……やっぱりばれている……。
「えーと、ごめんなさい。あの……でも不可抗力って言うか……なんというか……」
私はボソボソと言い訳を口にすると、彼はそっと私の頬へ手を伸ばす。
そのまま私の髪を持ち上げると、彼の表情が歪んだ。
「彼に抱かれて、魔力を補充したようですね。あなたの周りから彼の魔力を感じます……それにこんなところにキスマークまでつけられて、あなたは一体何をしているのですか?」
静かに淡々と話す彼の様子に、居たたまれない気持ちで頭を垂れると、彼はまた深い息を吐いた。
「女性はそうやってすぐに男に腰を振る。あなたもやはり女……同じなんですね。魔法を使えばこうなると分かっていて……使うのですから……」
彼の言葉に私はカッと目を見開く中、彼は鋭い瞳で私を見据えていた。
違う!そんな事ない!と言い返したいところだが……自分のしていることは彼の言う通り……。
魔力がなくなれば、私は誰かから貰わなければいけない。
そんなつもりはなかったとは言え、それを知ったうえで魔力を使って……彼から魔力を貰った。
どれだけ私が否定しようと……私の行動はきっと他人から見ればそういうふうにしか映らない……。
私は浅はかな自分自身を恥じるように目線を落とすと、強く拳を握りしめた。
「魔法を使ってしまって、ごめんなさい」
そう謝ると、彼は何も言わず私に背を向け歩き出す。
「……レックス殿には、すぐに背中の治療を行うよう頼んでおきます。あなたは部屋で待っているように」
彼の言葉にそっと顔を持ち上げてみると、彼の姿はもうどこにも見当たらなかった。
エヴァンに言われた通り、部屋で待っていると、すぐにレックスが私の元へ訪れ、背中を治療した。
痕が残っていた傷は、跡形もなく消え、私はほっと胸をなでおろした。
そうして翌日、いつも訪れるエヴァンが現れない。
私はそっと伝書蝶を呼び出すと、昨日の苛立った彼の姿が頭をよぎる。
約束破っちゃったから……もう教えてくれないのかもしれない……。
私は一人意気消沈する中、自分のしてしまった過ちを悔いた。
ここで蝶を飛ばしても彼は……来てくれないかな……。
私は深く息を吐き出すと、そっと黒蝶を消した。
一人で練習しよう……。
私は気合を入れなおす様に両頬をペシペシと軽く叩くと、静かな部屋の中で、じっと体を纏う魔力の流れを感じる。
どんなことでも基礎練習の往復は大事。
まずはオールから、後は自分のイメージする光に近づけて、魔力の量を正確にコントロールできるように練習しよう。
そう意気込むと、私は静かにオールと唱えた。
また翌日、やはりエヴァンは私の元へは訪れなかった。
翌々日も……彼が部屋に来ることなく、気がつけば一週間が過ぎていた。
そんなある日、私は一人での練習に限界を感じると、ドサッとベッドへ倒れ込み、項垂れていた。
まぁね……自分が悪いんだけどさ……何も言ってこないのはどうかと思うんだ!!
はぁ……あの時、ちゃんと理由を口にするべきだったのかしら……。
でももし言葉にしていても、言い訳っぽく聞こえて、もっと怒らせる結果になったかもしれない……。
まぁ……こんな自問自答していても……エヴァンが来てくれるわけじゃないよね……。
私は体を起こし、また蝶を呼び出してみるが、伝言を入れる際になると、どうしても止まってしまう。
連絡を取りたいけれど……彼が私に向けたあの時のエメラルドの瞳が頭をよぎると、なかなか勇気が出ない。
もしこの伝書蝶を送って……エヴァンから本当に見放されたと言う事実を知るのは恐ろしかった……。
モヤモヤと広がる不安に私はすぐに蝶を消すと、徐に窓へと向かう。
私はため息を吐き、呆然と外の景色を眺めていると、ふとこの前の少年の姿が頭をよぎった。
そういえば……少年の傷が私の魔力で綺麗に治ったわよね……。
あれは一体何だったのかしら。
呪文も唱えていないし、もちろん治癒魔法なんて教えてもらってはいない。
あの時は……只彼の背中に触れただけ……。
うーん……そうだわ!レックスへ聞いてみましょう。
私はすぐに黒蝶を呼び出すと、そっと唇を寄せる。
「突然すみません。聞きたいことがあるのですが、時間があればお部屋に来てください」
そう短く話すと、私は黒蝶の羽をもち、窓の外へ飛ばした。
エヴァン……どうしたんだろう?
私は扉の前に立つエヴァンへ視線を向けると、彼はニッコリ笑みを浮かべているが……よく見ると目が笑っていない。
うぅっ……不機嫌な様子ね……、まさか……私が勝手に魔法を使ってしまった事がばれたのかしら……。
でもあれは……不可抗力でしょ……?
怒りの瞳を浮かべるエヴァンは、深く笑みを浮かべたまま、ゆっくりとこちらへやって来ると、私の前で立ち止まる。
正面に佇む彼から漂う氷のような空気に、私は思わず萎縮した。
そんな私を余所に、ブレイクは徐にエヴァンと私の前に割り込むと、エヴァンへ挑発的な笑みを向ける。
「これは、これは魔導士殿、どうされたのでしょうか?」
「……、あなたに用はございません。彼女に言い聞かせなければならないことがありますので……そこを退いて頂けますか?」
ひぇっ……、言い聞かせるって何だろう……やっぱり魔法を使った事かしら……。
うぅ……離れていても、魔法を使えばわかる能力でもあるの……?
エヴァンの言葉に小さく体を跳ねさせる中、私はブレイクの背に隠れるように一歩後ずさる。
そんな私の様子にブレイクはエヴァンへ何かを耳打ちしたかと思うと、エヴァンから漂う空気が凍った。
緊迫した雰囲気に包まれる中、そっとブレイクの肩越しにエヴァンへ視線を向けると、彼の不敵な笑みが目に映る。
うぅぅ……怖いけれど……約束を破ったのは私だし……もしかしたら違う事なのかもしれないわよね……。
私は意を決し、恐る恐る顔を上げると、ブレイクの背中へ声をかけた。
「あの……今日はありがとうございました。色々と……ご迷惑を掛けてしまってごめんなさい」
そう深く頭を下げると、ブレイクは私の手を握りしめる。
そのまま私の耳元へ顔を寄せると、彼の吐息を感じた。
「いつでも蝶を飛ばしてください。あなたの誘いなら……真夜中だろうと駆けつけますから」
ブレイクは優しい笑みを浮かべながら、私の横を通り過ぎると、私は真っすぐエヴァンへ視線を向ける。
エヴァンは私を鋭く見据えると、彼のエメラルドの瞳が静かに揺れていた。
「はぁ……魔法は使わないように言っておいたはずですが」
ひぇっ……やっぱりばれている……。
「えーと、ごめんなさい。あの……でも不可抗力って言うか……なんというか……」
私はボソボソと言い訳を口にすると、彼はそっと私の頬へ手を伸ばす。
そのまま私の髪を持ち上げると、彼の表情が歪んだ。
「彼に抱かれて、魔力を補充したようですね。あなたの周りから彼の魔力を感じます……それにこんなところにキスマークまでつけられて、あなたは一体何をしているのですか?」
静かに淡々と話す彼の様子に、居たたまれない気持ちで頭を垂れると、彼はまた深い息を吐いた。
「女性はそうやってすぐに男に腰を振る。あなたもやはり女……同じなんですね。魔法を使えばこうなると分かっていて……使うのですから……」
彼の言葉に私はカッと目を見開く中、彼は鋭い瞳で私を見据えていた。
違う!そんな事ない!と言い返したいところだが……自分のしていることは彼の言う通り……。
魔力がなくなれば、私は誰かから貰わなければいけない。
そんなつもりはなかったとは言え、それを知ったうえで魔力を使って……彼から魔力を貰った。
どれだけ私が否定しようと……私の行動はきっと他人から見ればそういうふうにしか映らない……。
私は浅はかな自分自身を恥じるように目線を落とすと、強く拳を握りしめた。
「魔法を使ってしまって、ごめんなさい」
そう謝ると、彼は何も言わず私に背を向け歩き出す。
「……レックス殿には、すぐに背中の治療を行うよう頼んでおきます。あなたは部屋で待っているように」
彼の言葉にそっと顔を持ち上げてみると、彼の姿はもうどこにも見当たらなかった。
エヴァンに言われた通り、部屋で待っていると、すぐにレックスが私の元へ訪れ、背中を治療した。
痕が残っていた傷は、跡形もなく消え、私はほっと胸をなでおろした。
そうして翌日、いつも訪れるエヴァンが現れない。
私はそっと伝書蝶を呼び出すと、昨日の苛立った彼の姿が頭をよぎる。
約束破っちゃったから……もう教えてくれないのかもしれない……。
私は一人意気消沈する中、自分のしてしまった過ちを悔いた。
ここで蝶を飛ばしても彼は……来てくれないかな……。
私は深く息を吐き出すと、そっと黒蝶を消した。
一人で練習しよう……。
私は気合を入れなおす様に両頬をペシペシと軽く叩くと、静かな部屋の中で、じっと体を纏う魔力の流れを感じる。
どんなことでも基礎練習の往復は大事。
まずはオールから、後は自分のイメージする光に近づけて、魔力の量を正確にコントロールできるように練習しよう。
そう意気込むと、私は静かにオールと唱えた。
また翌日、やはりエヴァンは私の元へは訪れなかった。
翌々日も……彼が部屋に来ることなく、気がつけば一週間が過ぎていた。
そんなある日、私は一人での練習に限界を感じると、ドサッとベッドへ倒れ込み、項垂れていた。
まぁね……自分が悪いんだけどさ……何も言ってこないのはどうかと思うんだ!!
はぁ……あの時、ちゃんと理由を口にするべきだったのかしら……。
でももし言葉にしていても、言い訳っぽく聞こえて、もっと怒らせる結果になったかもしれない……。
まぁ……こんな自問自答していても……エヴァンが来てくれるわけじゃないよね……。
私は体を起こし、また蝶を呼び出してみるが、伝言を入れる際になると、どうしても止まってしまう。
連絡を取りたいけれど……彼が私に向けたあの時のエメラルドの瞳が頭をよぎると、なかなか勇気が出ない。
もしこの伝書蝶を送って……エヴァンから本当に見放されたと言う事実を知るのは恐ろしかった……。
モヤモヤと広がる不安に私はすぐに蝶を消すと、徐に窓へと向かう。
私はため息を吐き、呆然と外の景色を眺めていると、ふとこの前の少年の姿が頭をよぎった。
そういえば……少年の傷が私の魔力で綺麗に治ったわよね……。
あれは一体何だったのかしら。
呪文も唱えていないし、もちろん治癒魔法なんて教えてもらってはいない。
あの時は……只彼の背中に触れただけ……。
うーん……そうだわ!レックスへ聞いてみましょう。
私はすぐに黒蝶を呼び出すと、そっと唇を寄せる。
「突然すみません。聞きたいことがあるのですが、時間があればお部屋に来てください」
そう短く話すと、私は黒蝶の羽をもち、窓の外へ飛ばした。
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