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エリザベート嬢はあきらめない
アルベールの想い
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エリザ達が学園に入学して数ヶ月が経った。
「ねえ、お聞きになりまして?エリザベート様とウィリアム殿下の不仲説。気位(きぐらい)が高く我儘(わがまま)なエリザベート様と、親しみ安く気取らないロリエッタ様。
2人の間で、ウィリアム殿下は揺れておられるそうよ」
「ロリエッタ様は次代の聖女様ですもの。ウィリアム殿下が心惹かれるのもわかりますわ」
「ところが、ロリエッタ様とウィリアム殿下が2人で話されてたら、エリザベート様が嫉妬なさるとか」
「まあ怖い!」
「ウィリアム殿下とエドモンド・ブラウン様が、ロリエッタ様とお昼休みをゆっくり過ごしたいと思っても、エリザベート様に気兼ねして(ロリエッタ様の)お側(そば)に行けないのですって」
「まあ、それで我慢してエリザベート様と一緒にいらっしゃるのね。お可哀想に」
このような噂が学生達の間に広がっている。この噂を流しているのはロリエッタとその取り巻きだろう。
私は噂に興味がないので、お好きなようにして頂こう。
今日は珍しくアメリアもウィリ様もエドも、用があるらしく、私は1人でお昼を過ごしていた。
食堂から寮の自室まで、ランチを持って移動する事が許されている。ゆっくり自室で頂いたあと、また、食堂に食器を返しに戻ってきた。
「珍しく1人なんだね。エリザベート嬢」
「あ、アルベール会長、ご機嫌よう」
「時間があるなら、久しぶりに〈生徒会長室〉でゆっくり話そうか?美味しいお菓子もあるよ」
「はい。今日は1人で時間を持て余していましたの。誘って下さってありがとう御座います」
「『生徒会長室まで』と言って移動してくれる?食堂からは『生活魔法』で移動できるんだよ。
貴方は部屋の前に着くからね。待っていてくれたら、僕がドアをあけるからね。
さあ、行こうか」
「「生徒会長室に移動」」
アルベール会長は部屋の中に、私はドアの前に、サッと移動してきた。本当に便利な生活魔法だ。
アルベール会長が中からドアを開けて下さった。
「生徒会の会長室でアルベール会長と向き合っていると、ドリミア学園の頃を思い出しますわ」
「そうだね、もう3年前になるのか。早いものだね。エリザベート嬢」
「アルベール会長、もしよろしければ私の事は『エリザ』とお呼び下さい。友人達にはそう呼ばれています」
「それは光栄だね。では『エリザ』と呼ばせてもらおう。僕のことも『アル』で構わないよ。エリザ」
「それでは『アル様』と呼ばせて頂きますわ」
「いや、『アル』でいいよ」
「先輩に対して呼び捨てだなんて。本当によろしいの?」
「勿論だよ」
「わかりましたわ、アル。こんな風に名前を呼ぶだけで、なんだか以前よりも親近感が湧きますわね」
「それは嬉しいね、エリザ。本当だ。なかなかの親近感だね」
本当は少し緊張していた。『アル』こんな風に僕を呼んでくれた友人はいない。幼い頃に両親から呼ばれた記憶しか残っていなかった。
これは僕の夢の一つ。
思わぬ形で叶ったよ。
幼い頃から僕はなんでも出来たから、同世代のクラスメイトに親しくニックネームで呼ばれた経験がない。
そして、女性の名前を親しみを込めて呼んだ事もなかった。
僕は今『アルベール会長』から『友人のアル』なれた。
こんなに心が浮かれるのは何年ぶりだろう?
「エリザ、甘いジュースを入れようか?」
「え?生徒会の会長室に甘いジュースがあるのですか?」
「それがあるんだなあ」
僕は生活魔法を使って、果物を絞りジュースをつくってエリザに出した。
「美味しい!アル、とっても美味しいわ」
ジュース一杯でこの笑顔が見れるなら、毎日でも作ってあげるよ。そう思った自分に驚いた。
(毎日でも?僕は毎日でもエリザに会いたいのか・・)
ヴァイオレットの瞳と目が合って、にっこりと微笑まれた。
顔が熱くなったような気がした。
「もう一杯飲むかい?」
平気を装って聞く僕に、彼女は無防備な笑顔を向ける。
「ええ。お願いします」
2杯目のジュースを彼女の前に置いた。その時だった。
彼女のポケットから緑の光がフワリと飛び出して、僕の肩にとまった。
『アルベール・ロレーヌ。貴方にエリザを想う資格なんてないのよ。自分が何をしたか見てくるといいわ』
誰かが僕にそう言った。途端にフラッと身体が傾いた。僕はそのまま眠ってしまったようだ。そしてとても不思議な夢を見た。
☆☆☆アルベール・ロレーヌの夢☆☆☆
僕はフワフワしたピンクの光の中にいた。
『アル』『アル』『アル』
その女性が僕を呼ぶ。
『私の名前はロリエッタ。ロリエッタと呼んでね』
彼女は僕の手を握りしめた。
『もう1人じゃないわよ。私がいるわ』
そう言って、僕の頬を両手で挟み口付けをする。甘く優しいその感触に酔いしれる。
いつも1人だった。
いつも頑張ってきた。
クラスメイトは僕を尊敬や憧れの眼差しで見てくれるけれど、遊び仲間にはしてくれなかった。
誰もが頼れる、アルベール・ロレーヌ生徒会長。それが僕だ。
そんな僕の前に彼女は現れた。
『アル。どうしたの?』
『アル。会いたかったわ』
彼女の微笑みを見る為なら何でも出来る。
『エリザベート様に教科書を破られてしまったの』
『エリザベート様に階段から突き落とされたの』
『エリザベート様に呼び出させて、厳しく注意されたの。男爵令嬢のくせに生意気だって』
『エリザベート様の取り巻きに、水をかけられたの』
毎日、毎日、彼女はやられっぱなしだった。エリザベート・ノイズ公爵令嬢。彼女の噂は聞いた事がある。
魔法騎士団総団長の氷の魔王、アフレイド・ノイズ様が溺愛している1人娘。ウィリアム王太子殿下の婚約者。傲慢で自分勝手なわがまま娘。
そんな女に僕の愛するロリエッタがイジメられているとは。
僕は王都学園の生徒会長だ。生徒会の総力を上げてロリエッタを守りたい。
僕が卒業した後も、エリザベート・ノイズの悪質なイジメは続いていた。僕もいよいよ我慢の限界に近づいていた頃、彼女達の卒業パーティーがあるという。
ロリエッタは僕だけの女神ではなかった。彼女は我が国の光の聖女だった。だから、ウィリアム王太子殿下と恋仲になっていると聞いた時、寂しいながらも、納得して応援していた。
卒業パーティーでウィリアム王太子殿下は、エリザベート・ノイズ公爵令嬢との婚約を破棄して、ロリエッタとの婚約を発表するらしい。ロリエッタが幸せになるならそれでいい。
あの悪役令嬢はノイズ公爵家の令嬢なだけあって、かなりの魔力を持っている。僕は今年の卒業生ではないけれど、ロリエッタを守る為、ゲストとしてそのパーティーに招かれた。王太子殿下の側近がそのように手配してくれたのだ。
ウィリアム殿下がエリザベート・ノイズにロリエッタにしたイジメの事を問いただしていた時、僕もとうとう我慢が出来なくなって、前に飛び出した。そしてウィリアム殿下や側近の彼と一緒に、心からの憎しみを込めて糾弾したのだった。
いくら問いただしても、エリザベート・ノイズは
「知りませんわ」
「そんな事はしていませんわ」
としか言わない。
それどころか、「私はそのロリエッタと言う方に、イジメるほどの興味がありません。」そう言ったのだ。
僕は怒りが止まらなかった。気がつけば、エリザベート・ノイズめがけて、火の攻撃魔法を放っていた。みごとに彼女の身体に当たり、彼女はこの場から逃げる事が出来なくなった。
僕は心の奥では、僕のロリエッタがウィリアム王太子殿下の婚約者になってしまうのが耐えられなくて、モヤモヤしていた気持ちもあって、エリザベート・ノイズへの攻撃が止められなかった。
エルザベート・ノイズは僕の攻撃に耐え切れずに、意識を手放した。彼女は間もなく気がついたけれど、聖女に不敬を働いた罪で、国王陛下から国外追放を言い渡される。
彼女を国外に追放するように国王に進言したのは、彼女を溺愛していたはずの父親、アフレイド・ノイズ魔法騎士団総団長だった。
そして次の日、供もなく1人で国境を越えようとした所で、待ち構えていた賊(ぞく)によって彼女は命を落とした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
アルベールの右手の指輪の下にある聖女レティシアの加護の印、紫の薔薇がひかる。
エリザのポケットから再び緑の光が現れて、アルベールに話かけた。
「自分がエリザに何をしたか思い出した?反省してよね。反省したなら許してあげるわ」
そう言って眠っているアルベールに手を置いた。そして、サッとエリザのポケットに戻って行った。
「ミール、何をしたの?」
「なんでもないよ。ちょっと夢を見せてあげたの。自分がエリザに何をしたか、思い出して反省してもらおうと思って」
「アルは思い出したの?」
「大丈夫。夢だと思っているから」
アルが倒れるように眠ってしまってから、まだ3分ほどしか経っていない。
「ああ!すまない。急に目眩がして」
「アル、大丈夫ですか?」
「アル・・」
僕は先ほど見た夢の中でも「アル」と呼ばれていた。あの女性はピンクの髪をしていた。ロリエッタ。ロリエッタ。ああ、彼女だったのか。不思議な夢だった。
それにしても
攻撃していた。夢の中だけれど。僕はエリザが気を失うほどの火魔法で、彼女を攻撃していた。
エリザに申し訳なくて、まともに彼女の顔が見れなかった。
その時、白いきめ細かい手が僕の両手を優しく包んだ。温かい手だった。
「アル、どうしたの?」
ヴァイオレットの綺麗な瞳が僕を見ていた。
「夢を見たんだ。夢の中で僕がエルザに火魔法で攻撃していたんだ。夢だけれど、貴方を傷つけた。ごめん!」
少し前まで『生徒会長』らしかったアルベールが、『友人のアル』になった気がした。
「アル、私は大丈夫よ。だってそれは、アルの夢の話なんでしょ?私の友人のアルが、私を攻撃するはずがないもの」
手を握ったまま、彼の黒い瞳を見てそう言ったら、抱きしめられた。
「少しだけ、少しでいいからこのままで」
アルが落ち着くまで、私はそっと彼のうしろに手をまわして、トントンと背中を優しく叩いた。
「ありがとう、エリザ。落ち着いたよ」
あまりにも真剣な瞳に見つめられて、私は思わず『ドキッ!』としてしまった。
(エリザ、貴方の為に僕を生徒会長にした、あの人の気持ちがわかるよ。貴方に会えて良かった。この気持ちに気がついて良かった。こんな気持ちになれる日がくるなんて思わなかったよ)
リアム先輩はノイズ公爵家の養子だ。彼もこの令嬢を想っている。けれど構わない。この想いは自由なんだ。
(貴方が好きです)
この心の中の告白の返事を、もらう事はないだろう。それでもいい。
夢の中での自分を反省して、これからは僕も貴方を守ろう。
学園の女生徒の憧れ。ブラウンベージュの髪で神秘的な黒い瞳を持つ生徒会長。アルベール・ロレーヌは少し幼い表情をしていた。
「エリザ、僕は貴方のファンなんだ。仲間に入れてくれてありがとう。これからもよろしく」
彼はもう大丈夫だ。
「こちらこそ、よろしく。アル」
エリザの信頼しきった笑顔を見て、ドキッと胸が踊り頬が熱くなる。心が温かくなるのを感じるアルベールだった。
「ねえ、お聞きになりまして?エリザベート様とウィリアム殿下の不仲説。気位(きぐらい)が高く我儘(わがまま)なエリザベート様と、親しみ安く気取らないロリエッタ様。
2人の間で、ウィリアム殿下は揺れておられるそうよ」
「ロリエッタ様は次代の聖女様ですもの。ウィリアム殿下が心惹かれるのもわかりますわ」
「ところが、ロリエッタ様とウィリアム殿下が2人で話されてたら、エリザベート様が嫉妬なさるとか」
「まあ怖い!」
「ウィリアム殿下とエドモンド・ブラウン様が、ロリエッタ様とお昼休みをゆっくり過ごしたいと思っても、エリザベート様に気兼ねして(ロリエッタ様の)お側(そば)に行けないのですって」
「まあ、それで我慢してエリザベート様と一緒にいらっしゃるのね。お可哀想に」
このような噂が学生達の間に広がっている。この噂を流しているのはロリエッタとその取り巻きだろう。
私は噂に興味がないので、お好きなようにして頂こう。
今日は珍しくアメリアもウィリ様もエドも、用があるらしく、私は1人でお昼を過ごしていた。
食堂から寮の自室まで、ランチを持って移動する事が許されている。ゆっくり自室で頂いたあと、また、食堂に食器を返しに戻ってきた。
「珍しく1人なんだね。エリザベート嬢」
「あ、アルベール会長、ご機嫌よう」
「時間があるなら、久しぶりに〈生徒会長室〉でゆっくり話そうか?美味しいお菓子もあるよ」
「はい。今日は1人で時間を持て余していましたの。誘って下さってありがとう御座います」
「『生徒会長室まで』と言って移動してくれる?食堂からは『生活魔法』で移動できるんだよ。
貴方は部屋の前に着くからね。待っていてくれたら、僕がドアをあけるからね。
さあ、行こうか」
「「生徒会長室に移動」」
アルベール会長は部屋の中に、私はドアの前に、サッと移動してきた。本当に便利な生活魔法だ。
アルベール会長が中からドアを開けて下さった。
「生徒会の会長室でアルベール会長と向き合っていると、ドリミア学園の頃を思い出しますわ」
「そうだね、もう3年前になるのか。早いものだね。エリザベート嬢」
「アルベール会長、もしよろしければ私の事は『エリザ』とお呼び下さい。友人達にはそう呼ばれています」
「それは光栄だね。では『エリザ』と呼ばせてもらおう。僕のことも『アル』で構わないよ。エリザ」
「それでは『アル様』と呼ばせて頂きますわ」
「いや、『アル』でいいよ」
「先輩に対して呼び捨てだなんて。本当によろしいの?」
「勿論だよ」
「わかりましたわ、アル。こんな風に名前を呼ぶだけで、なんだか以前よりも親近感が湧きますわね」
「それは嬉しいね、エリザ。本当だ。なかなかの親近感だね」
本当は少し緊張していた。『アル』こんな風に僕を呼んでくれた友人はいない。幼い頃に両親から呼ばれた記憶しか残っていなかった。
これは僕の夢の一つ。
思わぬ形で叶ったよ。
幼い頃から僕はなんでも出来たから、同世代のクラスメイトに親しくニックネームで呼ばれた経験がない。
そして、女性の名前を親しみを込めて呼んだ事もなかった。
僕は今『アルベール会長』から『友人のアル』なれた。
こんなに心が浮かれるのは何年ぶりだろう?
「エリザ、甘いジュースを入れようか?」
「え?生徒会の会長室に甘いジュースがあるのですか?」
「それがあるんだなあ」
僕は生活魔法を使って、果物を絞りジュースをつくってエリザに出した。
「美味しい!アル、とっても美味しいわ」
ジュース一杯でこの笑顔が見れるなら、毎日でも作ってあげるよ。そう思った自分に驚いた。
(毎日でも?僕は毎日でもエリザに会いたいのか・・)
ヴァイオレットの瞳と目が合って、にっこりと微笑まれた。
顔が熱くなったような気がした。
「もう一杯飲むかい?」
平気を装って聞く僕に、彼女は無防備な笑顔を向ける。
「ええ。お願いします」
2杯目のジュースを彼女の前に置いた。その時だった。
彼女のポケットから緑の光がフワリと飛び出して、僕の肩にとまった。
『アルベール・ロレーヌ。貴方にエリザを想う資格なんてないのよ。自分が何をしたか見てくるといいわ』
誰かが僕にそう言った。途端にフラッと身体が傾いた。僕はそのまま眠ってしまったようだ。そしてとても不思議な夢を見た。
☆☆☆アルベール・ロレーヌの夢☆☆☆
僕はフワフワしたピンクの光の中にいた。
『アル』『アル』『アル』
その女性が僕を呼ぶ。
『私の名前はロリエッタ。ロリエッタと呼んでね』
彼女は僕の手を握りしめた。
『もう1人じゃないわよ。私がいるわ』
そう言って、僕の頬を両手で挟み口付けをする。甘く優しいその感触に酔いしれる。
いつも1人だった。
いつも頑張ってきた。
クラスメイトは僕を尊敬や憧れの眼差しで見てくれるけれど、遊び仲間にはしてくれなかった。
誰もが頼れる、アルベール・ロレーヌ生徒会長。それが僕だ。
そんな僕の前に彼女は現れた。
『アル。どうしたの?』
『アル。会いたかったわ』
彼女の微笑みを見る為なら何でも出来る。
『エリザベート様に教科書を破られてしまったの』
『エリザベート様に階段から突き落とされたの』
『エリザベート様に呼び出させて、厳しく注意されたの。男爵令嬢のくせに生意気だって』
『エリザベート様の取り巻きに、水をかけられたの』
毎日、毎日、彼女はやられっぱなしだった。エリザベート・ノイズ公爵令嬢。彼女の噂は聞いた事がある。
魔法騎士団総団長の氷の魔王、アフレイド・ノイズ様が溺愛している1人娘。ウィリアム王太子殿下の婚約者。傲慢で自分勝手なわがまま娘。
そんな女に僕の愛するロリエッタがイジメられているとは。
僕は王都学園の生徒会長だ。生徒会の総力を上げてロリエッタを守りたい。
僕が卒業した後も、エリザベート・ノイズの悪質なイジメは続いていた。僕もいよいよ我慢の限界に近づいていた頃、彼女達の卒業パーティーがあるという。
ロリエッタは僕だけの女神ではなかった。彼女は我が国の光の聖女だった。だから、ウィリアム王太子殿下と恋仲になっていると聞いた時、寂しいながらも、納得して応援していた。
卒業パーティーでウィリアム王太子殿下は、エリザベート・ノイズ公爵令嬢との婚約を破棄して、ロリエッタとの婚約を発表するらしい。ロリエッタが幸せになるならそれでいい。
あの悪役令嬢はノイズ公爵家の令嬢なだけあって、かなりの魔力を持っている。僕は今年の卒業生ではないけれど、ロリエッタを守る為、ゲストとしてそのパーティーに招かれた。王太子殿下の側近がそのように手配してくれたのだ。
ウィリアム殿下がエリザベート・ノイズにロリエッタにしたイジメの事を問いただしていた時、僕もとうとう我慢が出来なくなって、前に飛び出した。そしてウィリアム殿下や側近の彼と一緒に、心からの憎しみを込めて糾弾したのだった。
いくら問いただしても、エリザベート・ノイズは
「知りませんわ」
「そんな事はしていませんわ」
としか言わない。
それどころか、「私はそのロリエッタと言う方に、イジメるほどの興味がありません。」そう言ったのだ。
僕は怒りが止まらなかった。気がつけば、エリザベート・ノイズめがけて、火の攻撃魔法を放っていた。みごとに彼女の身体に当たり、彼女はこの場から逃げる事が出来なくなった。
僕は心の奥では、僕のロリエッタがウィリアム王太子殿下の婚約者になってしまうのが耐えられなくて、モヤモヤしていた気持ちもあって、エリザベート・ノイズへの攻撃が止められなかった。
エルザベート・ノイズは僕の攻撃に耐え切れずに、意識を手放した。彼女は間もなく気がついたけれど、聖女に不敬を働いた罪で、国王陛下から国外追放を言い渡される。
彼女を国外に追放するように国王に進言したのは、彼女を溺愛していたはずの父親、アフレイド・ノイズ魔法騎士団総団長だった。
そして次の日、供もなく1人で国境を越えようとした所で、待ち構えていた賊(ぞく)によって彼女は命を落とした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
アルベールの右手の指輪の下にある聖女レティシアの加護の印、紫の薔薇がひかる。
エリザのポケットから再び緑の光が現れて、アルベールに話かけた。
「自分がエリザに何をしたか思い出した?反省してよね。反省したなら許してあげるわ」
そう言って眠っているアルベールに手を置いた。そして、サッとエリザのポケットに戻って行った。
「ミール、何をしたの?」
「なんでもないよ。ちょっと夢を見せてあげたの。自分がエリザに何をしたか、思い出して反省してもらおうと思って」
「アルは思い出したの?」
「大丈夫。夢だと思っているから」
アルが倒れるように眠ってしまってから、まだ3分ほどしか経っていない。
「ああ!すまない。急に目眩がして」
「アル、大丈夫ですか?」
「アル・・」
僕は先ほど見た夢の中でも「アル」と呼ばれていた。あの女性はピンクの髪をしていた。ロリエッタ。ロリエッタ。ああ、彼女だったのか。不思議な夢だった。
それにしても
攻撃していた。夢の中だけれど。僕はエリザが気を失うほどの火魔法で、彼女を攻撃していた。
エリザに申し訳なくて、まともに彼女の顔が見れなかった。
その時、白いきめ細かい手が僕の両手を優しく包んだ。温かい手だった。
「アル、どうしたの?」
ヴァイオレットの綺麗な瞳が僕を見ていた。
「夢を見たんだ。夢の中で僕がエルザに火魔法で攻撃していたんだ。夢だけれど、貴方を傷つけた。ごめん!」
少し前まで『生徒会長』らしかったアルベールが、『友人のアル』になった気がした。
「アル、私は大丈夫よ。だってそれは、アルの夢の話なんでしょ?私の友人のアルが、私を攻撃するはずがないもの」
手を握ったまま、彼の黒い瞳を見てそう言ったら、抱きしめられた。
「少しだけ、少しでいいからこのままで」
アルが落ち着くまで、私はそっと彼のうしろに手をまわして、トントンと背中を優しく叩いた。
「ありがとう、エリザ。落ち着いたよ」
あまりにも真剣な瞳に見つめられて、私は思わず『ドキッ!』としてしまった。
(エリザ、貴方の為に僕を生徒会長にした、あの人の気持ちがわかるよ。貴方に会えて良かった。この気持ちに気がついて良かった。こんな気持ちになれる日がくるなんて思わなかったよ)
リアム先輩はノイズ公爵家の養子だ。彼もこの令嬢を想っている。けれど構わない。この想いは自由なんだ。
(貴方が好きです)
この心の中の告白の返事を、もらう事はないだろう。それでもいい。
夢の中での自分を反省して、これからは僕も貴方を守ろう。
学園の女生徒の憧れ。ブラウンベージュの髪で神秘的な黒い瞳を持つ生徒会長。アルベール・ロレーヌは少し幼い表情をしていた。
「エリザ、僕は貴方のファンなんだ。仲間に入れてくれてありがとう。これからもよろしく」
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