悪役令嬢エリザベート物語

kirara

文字の大きさ
60 / 82
エリザベート嬢はあきらめない

久しぶりの女子寮で

しおりを挟む
 瘴気の浄化を終えたロリエッタは、久しぶりに学園の女子寮の部屋に戻ってきた。

 聖女になってからは1度も、この部屋には戻っていなかった。

「この部屋ってこんなに狭かったのね」

 そう呟(つぶや)いて、彼女は生活魔法を使った。すると、部屋の中は清掃の直後のように綺麗になった。

(これでいいわ。これなら何時(いつ)彼がいつ来ても大丈夫ね)

 今日はこれから王都学園の生徒会長、アルベール・ロレーヌがこの部屋を訪ねて来る事になっていた。

「ロリエッタ・トリエールさん、お客様がお見えです」

 この女子寮を管理している恰幅のいい女性の案内で、時間通りにアルベールがやってきた。

 アルベールが部屋に招き入れられるのを確認して、その女性は立ち去って行った。

「アル、お久しぶり」

 彼を前にしたロリエッタは余裕の笑みを浮かべた。

「お久しぶりです、ロリエッタ。貴方の活躍は耳にしていますよ」

 そう言って彼女に穏やかな笑みを浮かべたアルベールは、彼女の右手をとり軽く膝を折った。そして勧められたソファーに腰を下ろした。

 ロリエッタは魔法でお菓子をお皿に乗せ、テーブルに置いた。

「今朝、お城のシェフにお願いして焼いてもらったのよ。アルに食べてもらおうと思って。飲み物は紅茶でいい?」

「ええ、紅茶をお願いします」

 紅茶ポットとカップが食器棚から現れて、お湯を注ぎ、カップに自動的に紅茶が注がれる。

「魔法の腕も上がったでしょ?」

 ロリエッタはニッコリ笑ってアルベールを見た。

「今日はどうしたの?アル。貴方から私を訪ねてくれるのは初めてよ」

 それは本当だった。今年の新入生の入学式に、全校生徒の前で、光属性の聖女として紹介してくれた時から彼は変わった。

 彼女に微笑みかけ、時間が許す限り行動を共にするようになった。

 けれど、自分からロリエッタに何かを言ってくる事は一度もなかった。

 そのアルベールから、今日、寮に戻って来るのなら、訪ねてもいいかと連絡があったのだ。

 ロリエッタはピンクブロンドの髪をふわふわさせて、マリンブルーの瞳をキラキラさせながらアルベールにたずねた。

「ロリエッタ嬢。僕からお伝えしたい事があるのです」

「伝えたいこと?」

 ロリエッタはアルベールを見た。

「きっと驚かれると思いますよ」

 なんだろう?まさかこの状況で愛の告白とか?まって、どうしよう。心の準備が出来てないわ。1人で焦りながらロリエッタは身構えた。

「ロリエッタ嬢。僕は貴方の魅了魔法にはかかっていません」

「え?」

 何?彼は今なんて言ったの?

「僕は最初から貴方に魅了されていないと言っているんですよ。ロリエッタ嬢」

「!・・まさか!」

「そう、その、まさかです」

 ロリエッタの顔から血の気が引いていく。
 この部屋にはアルベールと自分の2人だけ。今から何を言われるのだろう?

「アミルダ王国のレティシア様が、貴方の事を心配されています」

「レティシア様が?」

「貴方の側にいつもいる、あの、怪しげな男。彼が闇魔法の使い手である事を、貴方はご存知ですよね?

 彼らがアミルダ王国や近隣諸国に発生している瘴気を呼びだしている事も・・」

 ロリエッタは驚いてアルベールを見た。

「そんな輩(やから)と貴方が一緒にいる事を、レティシア様は心配しておられます」

「この国に発生してくる瘴気は、誰が呼び寄せたものでもなく、どこかに出来た異世界に繋がる空間の綻(ほころ)びから、発生してくるらしいです」

「空間のほころび?」

「レティシア様はそう言われていました。光魔法で発生してくる瘴気を浄化して、空間の綻びを修復する事ができるそうです」

「ええ、それは知っているわ。私はその瘴気を全て浄化するつもりよ。必要なら空間の綻びも修復するわ」

 そう。それが聖女ロリエッタのやるべき事だもの。まさか、アル様に言われるとは思わなかったけど。

「良かった。貴方はあの男に毒されている訳ではないのですね。この国に発生した瘴気を浄化しに行く時は、いつでもお供致しますよ。そのために僕は貴方のお側にいたんです。ロリエッタ嬢。

 魅了魔法なんか使わなくてもいいんですよ。聖女としての自覚を持って、やるべき事をやれば、国民は必ず貴方に微笑みかけます」

 ああ、誰かにそう言って欲しかったのかも知れない。魅了魔法なんて使わなくていいと。

「アル、いえ、アル様。ありがとう」

「ロリエッタ嬢は、この国のどこかに瘴気が発生したら、すぐに気がつきますか?」

「いえ、分からないわ」

「そうですか。では、魔法騎士団のベルトン隊長に連絡を取りましょう。彼なら瘴気の発生をすぐに把握できるはずです。

 瘴気が発生したらすぐに駆けつけられるように、これからは魔法騎士団と行動を共にする事になりますが、宜しいですか?勿論。私も一緒に行動します」

 アルベールは真剣な表情をしていた。

 ロリエッタはアルベールが魅了魔法にかかっていないのに、自分を気遣ってくれる事に驚いていた。久しぶりに感じる爽やかな気分だった。

 アルベールと魔法騎士団第二部隊の隊長ベルトンは、独自の魔法で連絡を取り合えるようにしていた。

 ベルトンは、アルベールからの連絡を受けてすぐにロリエッタの部屋に現れた。

 そして、3人できちんと話し合った結果、ベルトンが率いる魔法騎士団第二部隊と、王都学園の生徒会長のアルベールが、ロリエッタの瘴気の浄化に同行することが決まったのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。

彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」 お嬢様はご不満の様です。 海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。 名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。 使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。 王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。 乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ? ※5/4完結しました。 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい

藤原遊
ファンタジー
悪役令嬢×婚約者の策略ラブコメディ! 「アイリス・ルクレール、その波乱の乙女ゲーム人生――」 社交界の華として名を馳せた公爵令嬢アイリスは、気がつくと自分が“乙女ゲーム”の悪役令嬢に転生していることに気づく。しかし破滅フラグなんて大した問題ではない。なぜなら――彼女には全力で溺愛してくれる最強の味方、「お父様」がいるのだから! 婚約者である王太子レオナードとともに、盗賊団の陰謀や宮廷の策略を華麗に乗り越える一方で、かつて傲慢だと思われた行動が実は周囲を守るためだったことが明らかに……?その冷静さと知恵に、王太子も惹かれていき、次第にアイリスを「婚約者以上の存在」として意識し始める。 しかし、アイリスにはまだ知らない事実が。前世で推しだった“お父様”が、実は娘の危機に備えて影で私兵を動かしていた――なんて話、聞いていませんけど!? さらに、無邪気な辺境伯の従兄弟や王宮の騎士たちが彼女に振り回される日々が続く中、悪役令嬢としての名を返上し、「新たな人生」を掴むための物語が進んでいく。 「悪役令嬢の未来は破滅しかない」そんな言葉を真っ向から覆す、策略と愛の物語。痛快で心温まる新しい悪役令嬢ストーリーをお楽しみください。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

処理中です...