【完結】私は薬売り(男)として生きていくことにしました

雫まりも

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第1章

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 ポイズンビーを撃退し、ファイヤーウルフを倒した私たちは急いでこの洞窟に戻ってきた。
 襲われている人物が小さな男の子だったと知ったウィルは私と同様に驚いていたが、その毒針に刺された腕を見て深刻な表情になった。

「これは俺には治せない……」

 ウィルは簡単な治癒魔法なら使えるが、恐らく彼にとっては未知なのであろうこのポイズンビーの毒に犯された身体は治せないという。
 だか、心配することはない。
 これを治すために先ほどポイズンビーと狩ってきたのだから。

 持っていた薬箱から、何種類かの薬草を取り出し、すり鉢ですりつぶしていく。
 そこに先ほど倒したポイズンビーの一部、毒針から滴る毒そのものを混ぜ合わせていく。

「おい。本当にそんなんで直るのか?」

 私の薬作りの様子を隣で見ていたウィルが驚いたように尋ねた。
 私は頷いて、さらにすり混ぜる。
 一般的に考えて、悪い物は悪い。毒は毒である。
 彼がそう思うのも無理はないが、毒は使い方を変えれば薬にもなるのだ。
 逆に薬も間違えれば毒になる場合もあるので気をつけなければならないのだが。

 今回の薬は炎症を引き起こしている毒を無毒化する物。
 先ほど混ぜ合わせた薬草の一つに外部から入ってきた異物を認識し、その異物を攻撃する物質を作り出すものがある。
 それに加えて、その攻撃物質の生産を促進する薬草や威力を高める薬草を組み合わせた。
 そこにポイズンビーの毒を入れれば、その毒を攻撃する物質が大量に作られるというわけだ。
 この組み合わせの薬草があればどんな毒にもその毒そのものがあれば効果を発揮するという優れものである。

 混ぜ合わている薬草が濃い緑色から小さく発光しながらだんだんと黄色に変化していく。
 これでもう薬は完成だ。
 出来上がった薬を腫れ上がった腕に塗り込んでいく。

「………っ」

 男の子が小さく身じろいだ。
 この薬は効果覿面なのだが相当に染みる物なので、意識はないが身体が反応したのだろう。
 魔法と違い、薬による治療は本人の力も必要となってくる。
 後は、この男の子の体力次第だ。
 毒のせいで熱も出ているのか苦しそうに浅く息をするがただそばで見守ることしかできない。
 せめて、と男の子の額に冷たいタオルを乗せた。

「《ヒーリング》」

 隣でずっと様子を見ていたウィルが男の子の額に手をかざしながらそう唱えた。
 すると先ほどまで辛そうな表情で寝苦しそうにしていた男の子が、すぅっと眠りについた。
 私は驚いて隣を見ると別段、特別なことをした様子のないウィルが優しそうにその子を見つめていた。

「ゆっくり休めよ。これで良くなると良いんだがな……」

 私は普段、保証するような言葉を使わない。
 もしかしたら不測の事態が起こってしまうかもしれない。
 そんな不安を抱えてしまうので自信が持てないのだ。
 最善を尽くすとか、治る可能性が高いとか。
 でも、何故か今は確信できた。

 “大丈夫。必ず良くなるよ”

 ペンを置いた手で眠る男の子の頭を優しく撫でた。



 しばらくすると薬が効いたようで腫れがだいぶ引き、男の子の顔色も心なしか良くなってきた。
 そろそろ移動しても良さそうだ。
 治療をしたとはいえ、このような何もない洞窟の中に居続けることは得策ではない。
 それに、日が落ちるまでには街へ帰らなくてはならない。
 容態が安定してきて多少の動きなら問題ないと判断したので、私たちは男の子を背負って森から出ることにした。


 男の子を背負っているのはウィルである。
 魔法を使えない私は剣術でしか応戦できないので、魔物が現れたときに背負っていて動きが鈍くならないようにだ。

「う……あれ?僕……どうしてここに?」

 ウィルの背中で揺らされていた男の子が目を覚ました。
 意識もしっかりとしている。
 もう大丈夫だ。

「ポイズンビーに襲われて森の奥で倒れてたんだ。覚えてないのか?そいつが刺されたお前のことを治療したんだ」

 ウィルがそう説明するけど、小さい男の子でしかもけが人なんだからもっと優しく言えないのかな?
 ウィルの話し方は少々威圧的で恐ろしいところがある。
 私はもう慣れたし、しかもエルザにああも何回も振られている姿を見ていたらそんなことは思わないのだが。

「ありがとう。僕、あんなにいっぱいの魔獣にあったことがなくてもう死んじゃうかと思ってたんだ」

「どうしてあんなところにいたんだ。大人たちに危険だとは言われていなかったのか?」

「……ごめんなさい。言われてたけど……でも、どうしても月の花が欲しかったんだ。弟が病気で、だけどお医者さんに診てもらうお金がないから」

 そうか、そういうことだったのか。
 この子は弟の病気を治そうと思ってここに来たのか。
 月の花はどんな病気も治す万能の治療薬になるといわれている幻の花だ。
 だが、その花は伝説や言い伝えの中に出てくる物であって現実には確認されていない。
 恐らく、薬草の街ハーブュリアではそのようなお話を小さい頃から聞かされてきていたのだろう。

「なに!ここにはあの伝説の月の花が生息しているというのか!!」

 私が男の子の優しさにしんみりしていたところ、空気を壊すようにウィルが目を輝かせて辺りを見回した。
 ちょっと反応するところはそこじゃないと思うんだけど。
 私はウィルを心なしか睨みながら首を横に振った。

「そ…そうか。……だが、心配することはない。月の花がなくともそれと同じ、いやそれ以上の治療方法がある」

「え?ほんとう?弟の病気が治るの?」

「ああ。そこのリュカがどんな病気でも治してしまえるんだ!」

 ウィルは私のことを指さし、誇らしげにそう言い切った。
 二人の期待のこもった視線に若干たじろぐ。
 まだ、どんな症状でどんな病気かも診ていないのに治せるかなんて分からない。
 でも、ウィルに私のことをそんな風に言ってもらえたことに内心嬉しく思い、本当に自分はどんな病気でも治すことができるようなそんな気がした。


 ***


 洞窟で男の子の症状を診たとき自分には治癒できないものだと判断し、熱を引かせるという治癒魔法を使ったウィルに、あの時私はとても驚いていた。
 外傷ではなく、身体の中から機能するような治癒魔法を使用できるようになるには身体の構造をある程度深く学ばなければならない。

 あれだけの攻撃魔法が使える者ならば、その道を究めているためほとんどはその分野の魔法しか使えない。
 だが、彼はそれに加えて治癒魔法も使えるということは彼がただ単に優秀であるというだけを示すのではない。
 その知識を自由に手に入れられるような環境で育ってきたということだ。
 言動から察するにお金持ちであることは確実だが、そんな人が何故エルザにそんなにも執着するのだろう。


 彼は一体何者なのだろうか?


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