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第1章
閑話1 魔法道具屋の独り言(1)
しおりを挟むガラガラガシャーン
物が崩れ何かが割れる音がした。
しまった、またやってしもうた。
作業部屋の机の上には所狭しと物が置かれ山になっており、その山がふとしたことで崩れるのは日常茶飯事だ。
わしはどうにも昔から整理整頓は苦手でのう。
せっかく手に入れた魔法道具を損傷してしまったことも1度や2度ではない。
作業の手を止め、雪崩の起こったところまで行くと、どうやら今回はマグカップが割れただけのようだった。
ふう、このカップは使い勝手が良かったんじゃが仕方がない。
魔法道具が壊れなかっただけましかの。
まあ、本当に壊れたら困る貴重な魔法道具は間違っても雪崩に合わないように作業部屋じゃなく、店の方に出しとるんだがの。
わしの店は盗難対策は強力だから店に出しとく方が安全じゃからな。
……じゃが、今日のことを考えるとそれも安全とはいえんかもしれんの。
客に、いや、作製者に危うく壊されるところじゃったからのお。
わしは今日の昼間のことがあってから作業部屋の中になんとか安全な場所を作りだしその中にある貴重な魔法道具を入れていた。
そしてこの部屋で唯一の安全地帯であるその戸棚の中から魔法道具を一つ取り出した。
平べったい箱の上には0から9までの数字と4つの記号が書かれた出っ張りがある。
そこを押すと押した数字と記号が箱の1番上にあるマス目に映し出される。
わしはまた商会に依頼して作成した帳簿を取り出し、その魔法道具を使った。
やはり、何回やってもぴったりじゃ。
この魔法道具はデンタクというらしい。
計算士でなくもと誰でも数字を入れるだけで難しい計算もできる魔法道具じゃという。
わしは難しい計算は出来んからこうやって商会に依頼して帳簿を出してもらっとった。
じゃが、計算士は人数が少なく結果が戻ってくるのは何ヶ月もあとということが当たり前じゃ。
わしの店よりも大きいような店は不便を要しとることじゃろう。
売り上げや資本金の変化なんかはすぐにでもわかった方が良いに決まっとる。
それが分かってれば得られた利益もあることじゃろう。
じゃから、もしこの魔法道具が本当に間違いなく計算できるものだとしたら、商業界に革命が起きるに違いない。
それに蔑ろにされつつある魔法道具も脚光を浴びるようになるじゃろう。
わしはその一片を担うことになるのかのう。
そう考えると逸る気持ちを抑えられん。
しかし、こんな魔法道具をぽんとわしに渡してくるなんて奴は何を考えとるのじゃろうか。
魔法道具界では名が知られている程度のわしに頼むよりもむしろ自分で売り込んだ方がよっぽ良いと思うがの。
じゃが、わしは余計なことは詮索しない主義じゃ。
この店がここまで生き残ってこれたのも、そのおかげといっても過言ではないからの。
じゃが、気になるのお。
わしは柄にもなくその男がこの店に来たことを思い出し始めていた。
***
あれは3日前、普段と同じように店番は盗難防止の魔法道具に任せて作業部屋で魔法道具をいじっとる時じゃった。
その店番の魔法道具が客の来店を告げ、カランコロンと音を立てて扉が開いた。
「ごめんください。誰かいるよね?」
店の中には店内にもカウンターにも人がいないのを見た客が声をかけてきた。
全く、せっかちな奴じゃのう。
年寄りをそんなに急がせるもんじゃないぞ。
そう思いつつも、一切急ぐ気はないんじゃがの。
「なんじゃ?わしに何用じゃ?」
ゆったりと歩いてカウンターに出てきたわしはいらっしゃいの挨拶もなしにそう尋ねる。
わしの店は珍しい魔法道具ばかりを集めており、そんな店に来るのは変わり者ばかりじゃ。
大概、わしも変わり者といわれているようだが、そんな奴らにはこれくらいの接客がちょうど良いじゃろう。
わしの店の商品もろくに見ずに声をかけるのだから、こいつはわし自身に用があるんじゃろう。
普通の魔法道具屋と違ってわしの店にはわし自身を目当てで尋ねてくる奴らも多い。
今回の人物は全身を黒いコートで隠し、顔の右半分を仮面で覆った見るからに怪しい若い男だった。
「あー、うん。ちょっと見てもらいたい魔法道具があってね。これなんだけどさ」
その男もわしの態度に特に不満を抱くことなく、淡々と用件を伝えた。
どうやらこいつも魔法道具界の常識を分かっとるようじゃ。
見た目とは裏腹に意外にもその男は気さくに話してきた。
この業界にいて長いわしじゃが、経験的にこういう見るからに怪しい奴は珍しい魔法道具を持ってくることが多い。
その男が持っていた袋から取り出した魔法道具に期待を抱いた。
「俺が作った魔法道具でね、難しい計算が数字を打ち込むだけで誰でも簡単にできちゃうって物なんだ。画期的でしょ?」
カウンターの上に両手に収まるくらいの大きさの平べったい箱を置きながらさらりとそういってのけた。
その言葉にわしは耳を疑う。
そんな物が本当にあるのなら画期的所の話ではない。
「な……なんじゃと?そんな物聞いたこともない。魔法道具の名はなんというんじゃ?」
「名前か、そういえば考えてなかったな。うーん、この魔法道具の活力源は電気魔法だから、電気魔法式卓上計算機で“デンタク”っていうのはどうだい?」
どうと言われてもそれを考えるのはお前の役割だろうとわしは奴に呆れるとともに疑惑の視線を送った。
今までの奴の言動で信用に足る判断が出来る要素は一つもない。
じゃが、逆にこういういけ好かないような奴が驚くような物を持ってくることもあるのがこの業界じゃ。
ひとまずはこれが本物かどうかの鑑定をせにゃならんな。
わしゃ鑑定技術には相当の自信があるからのお。
「あ、その目は全然信じてないね。まあ、俺も自分みたいな奴が持ってきた道具なんて偽物だと思うだろうけどね。じゃあさ、その魔法道具は預けるから好きに使ってみたり、鑑定してみてよ。壊さないんだったら分解してみても良いし。また3日後にここに来るからそれをどうするかはまたその時で良いからさ」
その男はわしが返事をする前に一方的に提案してきた。
わしの店に来る者は変わり者が多いがこいつはその中でも群を抜いて変わっとる。
自分で分かっとるならもっと人に信用されるように振る舞わんか。
「ああ、分かった。お前さんのことはちっとも信じられんが、魔法道具は嘘をつかん。正体を暴ききってやるわい」
この男の提案は悪くない。
わしが望んでいたことと同じで鑑定も3日もあれば事足りる。
そう考えて返事をしたのに、何故かその男は少し面食らったような表情をし、そして笑い出した。
「くっ……ははっ!おじいさん、面白い人だね。良く変わってるって言われない?うん、じゃあ3日後にここに来るときのことを楽しみにしてるよ」
「変わってるなどと、お前さんだけには言われとうないわい!」
わしの反論を聞くと再び笑い出したその男は、そのままひらひらと手を振って店を去っていった。
まったく、最近の若いもんのことはとうてい理解できんわい。
じゃが、魔法道具の鑑定を初めてわしは別の意味でもその若者の事が理解できんことになるのじゃった。
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