【完結】私は薬売り(男)として生きていくことにしました

雫まりも

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第3章

最終話

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 ◇◇◇



 見渡す限りの真っ白な空間
 先は何処まで続いているのか分からない
 ここはどこだ?
 とりあえず歩き出そうとするもどちらへ進めば良いか見当も付かなかった
 それどころか、自分が立っているのか座っているのかすら分からない
 俺には肉体というものが存在しなかった
 そこでようやく分かった

 ああ、俺は死んだのか

 悪魔の核を破壊した
 自らの命と共に
 悪魔が完全に消滅してくれているのかは確認のしようがないが、そうなっていることを祈るのみだ
 後悔はない
 これで良かった
 こうするしかなかった

 それでも、もっと生きていられたら………

 そう思わずにはいられない
 あいつの未来が明るいものであってほしい
 そうなるように、最善の選択をしたとは思っている
 だけど、その先にある未来も、俺自らの手であいつを幸せにしてやりたかった
 幸せを共に培っていきたかった

 あいつはちゃんと笑えているだろうか

 それだけが気がかりだ

 ああ……なんだかとても眠い………
 この空間の中、もう何も考えずに身を委ねてしまいたい……

 白い光の中、ふわふわと揺蕩う
 きっと、俺という“存在”はこのまま光となって消えてしまうのだろう
 だが、苦痛はない
 それは心地の良いもののような気がした



 ―――そんな時、誰かが泣く声が聞こえた
 聞き覚えのないその声は、それでも酷く懐かしく愛おしく感じた

 泣かないでくれ
 笑って欲しいんだ

 何故だかその声を聞いて
 そんな風に強く願った



 ◇◇◇



 横たわったウィリアム様は目を閉じてはいるものの、綺麗な姿だった。
 倒れてすぐに回復魔法を掛けたから。
 だけど、その顔は青白く、血の気を失っていた。
 もう二度と目覚めはしないとでもいうように。

 ………嘘。
 嘘に決まっている。
 だって………だって、さっきまで話していたじゃないか。
 私に笑いかけてくれていたじゃないか。
 必ず全員で帰ろうと約束していたじゃないか。

 私はウィリアム様にすがりついた。
 ほら………まだ、こんなにも温かい。
 死んでしまったなんて、嘘だ。
 死んでしまったなんて………私はウィリアム様の胸に耳を付けた。
 その心臓は音を失っていた。
 いくら押しつけても、鼓動は少しも聞こえてこない。
 その音のしない胸に、私はやっとその現実を受け入れた。
 私の最も愛する人がこの世界から消えてしまったということを。


 一緒に生きようっていったのに。
 私のそばにいてくれるっていったのに。
 もっと、あなたと話したかった。
 もっと、あなたと笑いたかった。
 もっと………あなたと同じ時を過ごしたかった。


 私の瞳からは涙が溢れ、流れ落ちていく。
 止めることなど出来はしない。

 ………それに、私はあなたにたくさんのものをもらったのに、何も返せていない。
 恩返しもさせてもらっていない。
 それどころか、あなたにしてもらった告白の返事もまだちゃんと出来ていなかった。
 あなたに好きだと言ってもらったのに。
 私はあなたに返せていない。
 あなたに、私の気持ちを伝えられていなかった。


 私は動かなくなったウィリアム様の顔を見つめた。
 その瞳が開かれることはもうないのだろう。
 その口が優しい言葉を紡ぐことはもうないのだろう。
 その受け止めきれない現実に、私はもう感情を抑えることはできない。

 こんなにも……私はこんなにもあなたのことを想っているというのに、何一つ伝えられていない。


 私はあなたのことが………

「………好きです。あなたのことが、ウィリアム様のことが好きです……!もっとあなたと共に生きていたかった………死なないで……っ!」

 気づけば、そんな声が出ていた。
 ずっと何年間も出すことの出来なかった声を出していた。
 自分の口から、伝えたかった言葉を言っていた。
 だけど、それは何の意味もなさない。
 声を出せたところで、その声を届けたい人はもういないのだから。

 さらに涙が溢れる。
 声を出して泣いた。
 泣きじゃくった。
 自分の中にある想いをすべて吐き出すように。



 ………すると突然、ウィリアム様の身体が温かく優しい光に包まれた。
 輝くウィリアム様を見て、伝説にある幻の花である月の花の開花の様子を思い浮かべた。
 どんな病気も治す万能薬となり得る月の花は輝きながら開花するのだと言われている。
 そんな奇跡を願って、ウィリアム様を見守っていた。

 すると、だんだんとウィリアム様の頬には血の気がさしているように、触れる手の感覚もだんだんと温かくなっているような気がした。
 そして……


「………エリザベート?……泣くな。お前には笑っていて欲しいんだ」

 ゆっくりと瞳を開いたウィリアム様は困ったような顔で私に笑いかけた。
 そして、私へと手を伸ばし、その指で涙を拭ってくれた。
 涙は一瞬にして止まった。

 私に触れた彼の手の感覚が幻覚なんかじゃないことを証明してくれている。
 私はその奇跡に今度は嬉しくて泣き出してしまいそうだった。
 でも、涙はぐっと堪えて、その代わりに心からの笑顔を浮かべる。

「ウィリアム様、あなたのことが好きです」

 そして、ずっとあなたに伝えたかった想いを声にした。


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