15 / 103
第1章
15
しおりを挟む「ところでさ、君ってすごい無口だよね。しゃべったの聞いたことないかも」
唐突にキースが私に話を振ってきた。
少し湿っぽくなった雰囲気を和ませようとしたのかも知れないが、その話題は困る。
私には話しかけてこないで!
今、私とエルザの間にキースが座っている形になっているのでエルザに助けを求めることもできない。
でも、確かにキースに対しては1度も|私の口(・・・)、つまりエルザの腹話術で話していない。
話す必要が無かったこともあるのだが、それよりも、あまり近くにいたり、長く一緒にいたりする人に使うとボロが出てしまうかも知れないことも考慮している。
だから、何回も話す予定のある人には極力使わないようにしている。
「キース、騙されるな。こいつは無口なんかじゃないぞ。エルザに恥ずかしくなるような変なことばかり言うやつだぞ」
私の返答を待つキースにウィルが応える。
毎回、偶然というもののウィルには助けられてるよね。
ありがたいです。
あ……そういえば、ウィルだけには何回も使っていたっけ。
必要最低限の会話や返答だけ、私が口が聞けないと気づかれないようにするために始めた腹話術だったが、彼に対してはあまり気にせずに使っていた。
まっすぐ過ぎるウィルは周りが見えていないみたいだったし、全く気づく気配もなかったから大丈夫な気がしていた。
現に、何も問題なかったし。
でも、その話ってちょっと待って。
もしかしてエルザが私の口から言ってたことのこと?
決闘の時でさえ冷めていたキースに聞かれたら恥ずかしすぎる。
「ふーん、そうなんだ。で、変なことってどんなこと?」
キースがどうでもいいことに興味を持ち出した。
話が逸れたのはいいけど……
え?あれ言うの?
「エルザのこと、俺のか…可愛いこ…子猫ちゃんとかなんだとか」
ウィルが若干口に出すのを躊躇ったおかげで余計に恥ずかしく思える。
言ったウィルも少し赤くなっているように見える。
そんなになるなら言わないで。
「へー。全然想像できないな。君、そんなこと言うタイプなんだ。ていうか、君達付き合ってるとかそういう関係?てっきり兄弟かただの旅仲間だと思ってたよ」
はい、そうです。
付き合ってもなく、兄弟のように過ごしてきました。
とはいえず、肯定も否定も出来ずにいるとエルザが語り始めた。
「そうよ。私達は恋人同士なの。リュカは私に毎晩熱い言葉をくれるわ。今日も花のように可愛いねとか、君のハートでイチコロだよとか」
言ってないから!!
しかも毎晩って何!?
それに、セリフのセンスが全然感じられないんだけど、エルザそれ言われて本当に嬉しいの?
ウィルからの視線が痛いくらいに突き刺さってる気がする。
羞恥にいたたまれず、俯いているとキースがふっと笑った。
「えー。そのくらいのレベルなの?俺なら彼女のためにもっと甘い言葉をあげるけどね」
そう言うとキースはさっと立ち上がり……
「ああ、マイプリンセス。なんて綺麗なんだ。君の瞳はまるで魔石のよう。俺を惹きつけて離さない。そんな君にどんな宝よりも大きな魅力を感じてしまったらもっと君のことを深く、奥まで知りたくなってしまう。君に口づけしてもいいかい?…………くらいは言うけどね」
と、自然な動きで相手を抱き寄せ、顔と顔がもうくっつくのではないかというくらい近づけて囁いた。
こんな状況でこんな風に言われたらどんな女の子もときめくに違いない。
うん、大変勉強になりました。
私はその技を使うことはないけど。
でも………
それを私にやらなくていいから!!
キースはあの甘い言葉をエルザではなく私を相手に囁いたのだった。
私はキースを押しのいて即座に距離を取る。
彼を睨み付けると、楽しそうに悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
0
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる