王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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「暑いっ!」
マイがタカヒロに掴みかかって叫ぶ。
「僕をクーラー代わりに使わないでくれ……」
タカヒロがその過ぎた魔法の力を使って周囲を涼しくする。
おそらく風の魔法だと思うのだが、他に水か氷の魔法も使っているのかもしれない。
だが、自分は使えず、使える人は限られている世の中では、そう使えるものだと思うほか無い。

今日も冒険者の仕事を一つこなしてきて、すぐに家に帰ってきたマイが一緒に帰ってきたタカヒロの魔法で人心地ついたようにぐだ~っと床に寝そべる。
魔法で涼しくできるのだが、外で使うには目立ちすぎるとタカヒロの魔法は余程の場合以外は使わないようにとレッドたちに念を押されている。
タカヒロとしても目立つだけなら、それも嫌だが、使ってしまいたい暑さであるが、今のマイのように自分を使おうとする者が増えるだろうことを考えると、使わない不便さの方がまだましだと思っている。
「どこか涼みに行きたいねぇ……」
「そうだねぇ。クーラーとか扇風機もないから、……プールとか? そういうのもあるのかな?」
「場所によっては、水は貴重だって話してたような気がする……。ないかも」
「外出たくないねぇ」
「みんな良く動けるね」
快適に過ごすことに慣れきっていたらしいマイとタカヒロは、あまりの暑さにダレきっていた。

「ふぅ~。今日は暑いですね。お昼はさっぱりしたものがいいですよね?」
リベルテが買い物から戻ってきたらしく、パタパタとキッチンで準備を始めていく。
レッドと話し合い、二人がバテているだろうと、今日のリベルテは家に残ることにしていたのだ。
「リベルテさんありがと~」
この世界での料理はあまり得意ではないマイは、暑くて動きたくないこともあり、ご飯を作ってくれるリベルテには感謝してもしきれない。
家に居る限りでは涼しくする魔法くらいなら使ってもと、主にマイの懇願により許可が出ているので、過ごしやすさという点で見れば、タカヒロは活躍していると言え、ご飯を楽しみに待っている。
タカヒロの魔法の範囲に入っているため、リベルテも快適そうで、手際よく野菜を刻み、下ゆでが済んでいるのだろう鶏肉をスライスしていく。
器に盛り付けて、塩と水みたいなものを少しずつ掛けて和えていく。
「はい。簡単なものでごめんなさい。クックのお肉とサラダをワインビネガーで和えたものですが……。これと焼きたての柔らかいパンも買ってきましたのでどうぞ。食べ終わったら果実水出しますね」
「いただきま~す」
さっそくと自分の分を取り分けて、マイがパクついていく。
「あれ? レッドさんは?」
なくなる前にと自分の分もとりわけながら、ここにいないレッドについて確認する。
「レッドは……仕事です。ハーバランドで負けたのが悔しかったらしくて、頑張ってます。まったく、無茶しなきゃいいんですが」
まったくと文句を言っているようで、その顔は微笑んでいた。
「でもあの人の強さは……」
「ええ。わかってます。あなたたちと同じ、いえ、力は違うのですが、そういう方なんですよね? それでも、諦めたり、放っておいていい話でもないのです」
リベルテが肉とサラダ両方をフォークに刺し、一気に食べる。
タカヒロも真似して食べるが、葉物が丸まっていたらしく、ビネガーが溜まっていて酸っぱかった。
味を変えるためにパンにかぶりつく。小麦粉の甘さについ手を進める。
「ふふ。皆あなたたちのようであったならいいのに」
どうにかなってきているが、すでに『神の玩具』とことを構えてきている人たちの、やさしい願いだった。

「そっちに一匹行った!」
林の中を枝を避けながら駆ける。
「わかってる! ……ふっ!」
木の陰から勢いよく飛び込んでくるアーマーケーファーに剣を振り下ろす、が名前の通り硬い甲殻に弾かれる。
「くそっ! すまない。そっちに向かった!」
「大丈夫だ。まかしとけ」
自分の場所で仕留められなかったことに、剣を握っている手に力が入り、悔しさを滲ませる。
「おっし!」
向こうの木の方で男がケーファーを仕留めていた。
背中側の甲殻は剣を弾くほどの硬さを持っているが、腹部側はそこまでではない。
脚の稼動範囲があるのだから、全てが硬いと動かせなくなるのだ。
そのため、如何に腹部側から刺すかとなるのだが、飛んでいるケーファーは動きが早く、位置取ることも難しい。
そこで複数人で追い立てるように攻撃し、下から突ける位置に待ち構えている人のところに誘導する。
通常の虫モンスターであれば手に乗るくらいのものが多いのだが、ケーファーは両手で抱えるほどの大きさであり、ケーファーからは人を襲っては来ないが、その速さで飛んでくるため、不幸にも当たってしまうと大怪我となる。角持ちであれば死んでしまうこともありえるのだ。
誘導するにしても正面から対峙することはできないため、なかなか手厳しい討伐である。
「結構やられてる木があるな……。まだ数匹はやらないとだろうねぇ」
ケーファーは樹液を餌とするのだが、木に大きく傷をつけて樹液を流させるため、腐って倒れてしまう木が出てきてしまうのだ。
フォレストディアといいケーファーといい、恵みの多い森や林は、守るのが大変である。
「さすがに全部とか言わないっすよね~」
「言うか。どんだけここに居なきゃいけないんだ? ここで暮らす気はないぞ?」
「そりゃそうだ」
「勝利の角笛」も長く同じ仲間で続けてきたチームである。
今仕留めた一匹もなかなかの手際であり、仕留められたこともあって和気藹々としている。
「レッド。君が手伝ってくれて助かるよ。一手増えるからな。手が増えればチャンスが増える。もう少し頼むよ」
「いや、こちらこそ入れてくれて助かった。本音を言うと俺のところで仕留めたかったんだがな」
レッドが依頼を見に来たとき、アーマーケーファーの討伐依頼を受けようとしているダリウスたちを見かけて、そこに加えてもらえないか頼み、今ここに来ている。
硬い甲殻を持つケーファーを斬ることができれば、あの男に届くのではないかと思ったのだ。
「アイツなら間違いなく斬っただろうな。軽々と……。あの力がうらやましいと思ってしまう。だが、届かないとは思わない」
独り言が漏れてしまうが、何より自分に言い聞かせるものでもあった。
『神の玩具』はそれぞれ何かしらの、およそ普通の人が早々に持ち得ない力を持っている。
そのため、その力を誇示したり、財や地位や名誉を奪っていったり、何かしらの混乱を引き起こしていく。
マイたちもその力を持っているが、レッドたちはこの世界でこの世界の人として生きて欲しいと、力を使わなくても生きていけるよう手を貸している。
そのはずだったのに、改めて自分が持っている剣で、だいぶ先にいる姿を見せられた。
いや、力を見せられた。明らかにあの男はその力だけで、あのように生きている。
レッドの攻撃自体はあの男は見えていなかった。だが、防がれたのだ。
もし自分にその力があればもっと活かせると、思ってしまうところがあってしまった。
それでは『神の玩具』の力を利用しようと動き、世界に混乱をもたらすやつらと同じになってしまう。
そうしないために動いているはずなのに。
目をつむって深呼吸をする。
浮かんでくるのは王都で生きている人たち、ギルドの同じ冒険者達、この世界で生きようとしている二人、そしてこれまでともに生きてきた背中を任せられる存在。
そして目を開けて、前を見る。
「準備はいいか? レッド」
ギルドで参加を頼んできたときから、レッドの雰囲気をずっと気にしていたダリウスは、今のレッドを見てニヤリとする。
「ああ。待たせてすまない」

「一匹見つけた。準備はいいか?」
ダリウスの声に、手を振って応える面々。
ダリウスが木に張り付いたケーファーに近づく。
気配に気づいたケーファーが羽根を動かしながら木から離れ、勢いよくダリウスの方へ飛んでくる。
人を襲わないケーファーであるが、相手の方を突破して逃げていく習性なのだ。
自身の硬さを知っているため、後ろから狙われるよりと学者が述べている。
実際のところは、ケーファーにしかわからないだろう。
向かってくることがわかっているため、ダリウスは横に飛んで避けることに意識を集中させている。
余裕を持ってかわしたダリウスが、鞘が抜けてしまわないようにと鞘と柄を紐を巻いている剣を叩くように振る。
当たっても致命傷には程遠いが、斬ろうとしても斬れないのはわかっているため、打撃にしているのだ。ハンマーがいいのだろうが、飛んでくるケーファーにアレを振って当てられるのは相当な筋力の持ち主だけだろう。
ガンっと鈍い音が響くがケーファーは意に介さず、そのまま飛んでいく。
「そっちに行ったぞ!」
ここで向きを少し変えたかったが、絶対ではない。
人数が多い「勝利の角笛」はカバーできるように、待ち構えている。
腹部を狙う者もいたが、倒すには至らず、少しずつ予定の場所に追いやっていく。
レッドは集中していた。
極稀にこんな気になれるときがあった。
周りがよく見え、聞こえ、動けそうな状態。
「勝利の角笛」の人たちの掛け声が聞こえる。
ケーファーが少し速度を落としてはいるが、それでも早い動きで飛んできているのがわかった。
足が動き出す。
足も腕も剣も軽かった。
「ふっ!」
気合を込めて振った剣は弾かれることなく、そのまま地面に当たる。
あまりに軽く手ごたえを感じられなかったため、空ぶったかと思って後ろを見ると、そこには頭と胴が分かれたケーファーの死体があった。
硬い甲殻を斬ったわけではなく、つなぎ目である頭と胴の間を斬ったのだ。
「仕留めた!」
「勝利の角笛」の面々に終わったことを告げる。
集まった冒険者達がケーファーを見て驚きの声を上げる。
「やったな」
ダリウスが、レッドの肩を叩く。
「ああ」
この日、頭と胴が分かれたケーファーは傷も少ないことから、学者たちによって買い取られていったらしく、レッドの分け前に上乗せがあった。

「ただいま」
「おかえりなさい。レッド」
家に戻るとリベルテが出迎えてくれた。
ジッとリベルテの顔を見て、酒瓶を手渡す。
「これは?」
渡された酒瓶を見て首をかしげる。
「稼ぎがよかったんでな。おすそ分けだ」
「ちょっと前に飲んだばかりですが、これはうれしいですね」
リベルテの好きなワインである。リベルテの顔に笑みが浮かぶ。
信じられる仲間が居る、それが力になると気づいた、レッドからの感謝であった。
「今日はゆっくり味わって飲みましょう」
リビングに戻っていくリベルテにマイたちの声が聞こえる。
レッドもリビングへと向かっていく。その顔は気づかぬうちに笑みが浮かんでいた。
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