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「うっし! 今日からまた稼ぐぞ」
パンとベーコンの入ったスープの朝ごはんを食べ終わったレッドが、気合を入れる。
「大きな配送依頼を受けたので、しばらくは違うものにしたいですね」
食器を片付けながら、リベルテもどんな依頼を受けようか楽しそうに思案していた。
その二人を死んだような目でタカヒロは見ていた。
「昨日一昨日とたった2日じゃ休みが足りないって……。自由にやっていいなら休みません?」
働きすぎたと、パンを千切って食べながら言ってくる。ちぎって食べるということが不満を大きく表していた。
「レッドさんたちってそんなにお金を貯めてどうするんですか? 前に貯めすぎるのも良くないって言ってませんでした?」
朝からスープのお代わりをしているマイが、そんなに働きたがる理由を尋ねる。
「ん? そんなに稼ぎまくるって気はないぞ? 金を貯めてはいるが、王国中の金の流れを止めるほどになんて貯まらないさ」
「実はですね、秋になると豊穣祭があるんですよ。収穫の豊作を祝って、次の年も豊作を願うお祭りです。美味しい食い物がたくさん屋台や出店で出るんですよ」
本格的な夏の真っ只中であるが、真っ只中ということは折り返しとも言えなくは無い。
まだまだ暑い日が続くが、確実に秋に近づいている。
今から豊穣祭の出店や屋台に並ぶ美味しいものを、いっぱい食べたいとお金の準備を始めるのだ。
「え!? そんなに美味しいもの出るんですか?」
今やっと朝ごはんを食べ終わったばかりというところであるのだが、マイが勢い良く食いついてくる。
「ええ。各領地や町、村などの名物であったり、祭り用の料理が出てきますよ。特にモデーロ侯爵領は砂糖を作ってるところですからね、甘いお菓子が出てきます。すでに噂では新しい味のマッフルが作られていると聞いてます」
「それ、どんなお菓子なんですか? 他にも甘いものいっぱいありますかね?」
「砂糖を使ったお菓子はまだまだ多いとは言えませんが、蜂蜜を使ったものもありますからね。お店によって多少の違いを持たせていますから、当日はいっぱいあると思いますよ」
「うわぁ~、楽しみですねぇ!」
きゃあきゃあと甘いもの話に華を咲かせる女性二人。
「食べた後によくまた食べ物の話できるね……」
マイより先に食べていたのに、お代わりまでしたマイの後にやっと食べ終わったタカヒロが、そんな女性二人を呆れたような目で見る。
「そういうな。甘いものってのは、まだそんなに手軽じゃなくてな。まだまだ作ってる量が市場に追いついてないんだ。その甘いもんが食べられるってなら、ああなっても仕方ないさ」
レッドも心なしかそわそわしているように見えた。
あまり食べる機会がない甘いものを食べたいのだろうことがよくわかってしまった。
「はいはい。それじゃあ、仕事探しに行きますか」
浮ついた皆をタカヒロが仕切って、ギルドへ向かう準備をさせる。
あのままではなんにも進まず、甘いお菓子談義になってしまいそうだったからだ。
「おや? なんだかんだとやる気じゃないか、タカヒロ」
先ほどまで休みたいと言っていた人間が仕切れば、こう返してくるのはよくあるもので、タカヒロはため息だけついて、無視して部屋に準備に戻った。
そんなタカヒロを3人が微笑みながら見ていた。
「ん~。配送以外ってなると、まぁ、皆でやらなくてもいいものばかりだな」
冒険者ギルドで貼り出されている依頼票を一通り眺めてきたレッドが、リベルテたちのところに戻ってくる。
今日も王都の冒険者ギルドは、依頼板の前に多くの冒険者が集まっていた。
混雑を避けるためにチームで受ける場合は、リーダーだけが依頼票を見に行くということがルールとして決められているのだ。
このルールが定められる前は、依頼板の前に今以上に冒険者が集まり、依頼を手に取ったものも受付まで出てくるのに難渋し、後から来た者たちが依頼板が見えなくて探しようが無く、結果として一日で捌ける依頼が少なくなってしまっていたのだ。
この後、列に並ぶようにさせたこともあったが、冒険者一人ひとりが自分の番で、依頼板の前で長い時間吟味するため、少し遅い時間からギルドに来た者達は並んでも自分の番が来る前にギルドの終業時間になったなんていう笑えない話になってしまった。
このため、一時期、陽も昇らないうちからギルドの前に並んだ者達もいたくらいであった。
そのため、さらに依頼板の前に集まる人を減らすために、依頼票は系統ごとに貼りだす位置を変え、さらにチームなど複数人で動く人たちは、リーダーだけ依頼板を見に行くようになったのである。
独りで動く冒険者もいるため、そこまで混雑が改善されないのではと思われているが、独りで動くものというのは、こなせる依頼というのがだいたい決まっていくため、ながいこと依頼板の前を占領することが無いのである。
「ちなみに何に目をつけてきたのですか?」
「当初はなぁ……討伐あればと思ってたんだが。朝の話で農家の手伝いにしようかと」
「そうですか。私もそちらで問題ありませんよ?」
お互いに長くパートナーを務めてきた者である。お互いの考えはだいたい分かっており、もめることも少なく、すんなりと予定を決めていく。
「いいんですか? 討伐のってそう多くでてこないし、報酬も結構いい方だから、やりたがるものなんじゃ?」
「討伐はそれなりに危険だからな。ちゃんと準備できて、腕もある程度あるやつじゃなきゃ損することも多い。まぁ、何かを倒してきたってのは華があるから人気あるのは間違いないんだが……」
タカヒロの手っ取り早く稼ぐなら稼ぎが大きいほうがいいんじゃないかという質問に、ちょっと言葉を濁しながら、畑の手伝いの依頼を受けてこようとする。
「なんかあるんですか?」
タカヒロが目を細めて、レッドを見る。
するとレッドはマイの方をじっと見てくるので、マイが周囲を見てから自分を指差して確認する。
「な、なんですか?」
「いやな……。この時期の討伐に多いのは虫なんだよ。虫のモンスターが活発に動く季節なんでな。下手なヤツだとこううじゃうじゃと……」
「止めよう。タカヒロ君、討伐の依頼は止めよう」
ガシッとタカヒロの腕を取って懇願する。
もともと仕事せずに休みたかった男である。いくら討伐の依頼は報酬がよく稼ぎがいいとは言え、祭りはまだ先であり、そのために頑張るという気もなかった。
それに討伐の依頼をやりたいとも言ってはいなかったのだ。
自分にすがられてもとレッドに助けを求めるが、レッドはすでに畑仕事の依頼手続きに行ってしまっていた。
「それではそちらも何か受けてくださいね。あ、一人で行動はしないようにしてくださいね」
リベルテがタカヒロに一つ注意をして、レッドの後を追って去ってしまう。
「えぇぇぇぇぇ……」
たしかにレッドたちのチームに所属しているわけではなかったが、一緒に仕事をすることも多かったため、ここにきて別々に動けと言われるとは思っていなかった。
「帰っちゃだめかなぁ……」
ギルドに放置されたようなこの状況は、マイが落ち着くまでこのままだった。
レッドたちと一緒に仕事をこなしてくることで他の冒険者達から覚えてもらっていた二人は、周りから温かく見守られ続けていた。
暑い日差しが照りつける中、麦わらで編まれた帽子をかぶりながら、レッドが肥料を持って撒いて周り、リベルテが間引いたり、葉を食い散らかす虫を掴んで箱に入れていく。
わざわざ虫を箱に集めていくのは、買い手がいるからだ。
卵を仕入れるためにスティッフクックを飼っている人たちがいるように、空を飛べる鳥のモンスターを飼いならし、離れた場所へ文を届けるなど伝書に使っている人たちがいるのだ。
ただこの鳥のモンスターも手なずけるのが大変で、十分な餌をあげないと言う事をきいてくれなかったり、するどい嘴や足の爪でもって襲い掛かってくる。
モンスターによって好むものに差異があるため、このような虫さえも買い手が付いている。
一つの畑で肥料を撒き終わったレッドが、肥料の入った桶を地面に置き、汗を拭う。
「ふぅ~。やっぱり大変だな。これを生業にしてる人たちには頭あがらんわ」
「んん~っ。はぁ。そうですねぇ。体動かすのは好きですけど、同じ姿勢で動いていくとなると、体が痛いですね」
リベルテの方も一つの畑は終わったのだろう。しゃがみながら作業を続けていたため、大きく伸びをする。
「でも、ここ一面がいっぱい実を付けると思うと楽しみになりますね」
「そうだなぁ。お? 向こうで爺さんが手を振ってるな。一旦、休憩にしよう」
畑の持ち主である家の方で依頼人のおじいさんが手を振っているのを見つけて、レッドがリベルテを促しておじいさんの方に向かう。
「ありがとねぇ。だが暑いからな。休みながらやらんと倒れちまうからなぁ」
「はい。どうぞ」
おじいさんが手招きするほうにいくと、おばあさんが冷えた水を注いだコップを手渡してくれる。
礼を言って一口飲むが思いのほか乾いていたらしく、ゴクゴクと一気に飲み干していく。
「ぷっはぁ! 美味い。生き返るな」
「もう一杯いりますか?」
「すみません。お願いします」
あまりの飲みっぷりにおばあさんがお代わりを注いでくれ、今度はゆっくりと飲んでいく。
「今年はどうですか?」
「去年と変わらんな。今年もいい出来だよ。こうして手伝ってくれる人もきたしな」
「去年はどうしたんです?」
「息子達が手伝ってくれたんだが、どうもな。地味な仕事は嫌らしい。ゆっくり一日掛けて一つの畑やったら帰っちまった。おかげでばあさんにも迷惑かけたなぁ」
「いえいえ。あの子達にも困ったもんだわ」
休憩の雑談にと今年の畑の具合を聞いてみたら、去年が大変だったと聞き、依頼があったならなぁと思ってしまう二人。
手伝いたいと思う気持ちはあるが、二人とて生活しなきゃならない。
無償で手伝うには世知辛かった。
「ここ最近、危ない話もあったでしょう。それもあって自分たちも戦える力があったほうがいいと言ってねぇ。それなら兵士になりなさいと言ったんだけど、兵士の訓練は辛いって。まったくなさけない……」
「それで、どうされたんですか?」
「冒険者になるって言って出て行ったっきりだよ。まぁ、すぐに音をあげて帰ってくると思うけどね」
職にあぶれた人たちの受け皿であるはずの冒険者という職が人気になるはずはないのだが、やはり討伐の依頼をこなした冒険者達を見たり、話を聞いたりして憧れる者も少なくは無い。
冒険者を続けているのは、他に就きたい、就ける職がないからであったりするのだが、外から見ているだけではわからないのだ。
冒険者になって、そんな華やかな生活をしているのは極わずかであることにショックを受け、その冒険者を辞めて前の仕事に戻っていく人もまた少なくない。
だが、冒険者という仕事はちゃんと分かって受けていかないと危ない仕事も結構ある。
討伐を筆頭に、配送の仕事も道中でモンスターに襲われたり、もしかしたら賊に襲われてしまうことだってありえるのだ。
だから、そんな危険があるということを言わないわけにはいかなかった。
「冒険者は危険な依頼も存在します。息子さんたちが無茶をしないとも限りませんから、ギルマスに伝えておきましょうか?」
「少し前は冒険者が襲われるってこともあったからな」
この老夫婦も冒険者のことを正しく知っていたわけではない。農家一筋で生きてきて、人手が足りないときに依頼して、その依頼を受けた冒険者を見かけるくらいだ。
自分たちの依頼を受けてきた冒険者しか見なければ、畑の手伝いとか当たり障りの無いところと考えてしまうだろう。
畑の手伝いをしてくれる人たちが命の危険がある仕事をしていると思えないものだ。
レッドたちに言われて、初めてそのことを知ったようで、顔色を悪くさせていた。
「だが、それでもそれを選んだのはあいつらだ。仕方なかろうよ」
おじいさんが覚悟を決めたような諦めた表情ではっきりと言う。
「ですが、この人たちが声をかけてくれるって……」
「あいつらのことで手を煩わせてどうする! そりゃあ死んで欲しくなどないが、怪我の一つでもしてこないとあいつらは、自分たちが甘かったことなど気づかんだろう。噂でパッと出の冒険者が女性を侍らせているなんて聞いてからだからな」
その言葉で顔を見合わせるレッドとリベルテ。
「その話って、ハーバランドのですか?」
「西の方に行って来たという商人の話だったからなぁ。どこかまでは知らんが、知ってるのか?」
「ああ、つい最近会って来た。あれの話って結構広がってるのか」
「話題にはなりやすいでしょう。いきなり現れてとても強く、女性が4人もくっついてるなんて。王都にもそういうチームいたじゃないですか。あの人たちも話題ではありましたよ?」
「あぁ……。だが、あれはあっちと逆じゃないか?」
王都にも女性が多いチームがある。男性1人に女性4人。ハーバランドで会ったユーセーたちと同じ構成であるが、こっちは女性の方が強い。
男性……、いや、その青年は強く頼れる男になろうと頑張っているのだが、そんな青年が微笑ましいのか、可愛いのか、支えたいのか、まぁ世話を焼く。
青年を応援し、邪魔を排除し、稽古もつけ……、よく腐ったり、逃げたりしないもんだとレッドは思っている。
冷やかした者達もいなかったではないが、その女性達にボコボコにされて以来、そのようなことをするものたちは居なくなっている。
その青年が頼れる男になる日は遠そうである。
「あの二組は会わせたら危険かもな?」
「そうですか? 意外と女性は強かなものですよ」
片目を瞑って微笑むリベルテに、なんともいえなくなるレッド。
レッドもリベルテと戦闘訓練をしているが、勝率はよろしくない。
「まぁ、じいさん。一応ギルマスには新人の冒険者に目を配るようには言っておくよ。それじゃ次の畑行って来るよ」
逃げるようにサーッと走っていくレッド。
おばあさんがその後姿にお辞儀をする。
ああ、変わらないな……とリベルテは思い、レッドの後を追って走り出す。
暑い日差しの中、気持ちの良い風が吹いていた。
パンとベーコンの入ったスープの朝ごはんを食べ終わったレッドが、気合を入れる。
「大きな配送依頼を受けたので、しばらくは違うものにしたいですね」
食器を片付けながら、リベルテもどんな依頼を受けようか楽しそうに思案していた。
その二人を死んだような目でタカヒロは見ていた。
「昨日一昨日とたった2日じゃ休みが足りないって……。自由にやっていいなら休みません?」
働きすぎたと、パンを千切って食べながら言ってくる。ちぎって食べるということが不満を大きく表していた。
「レッドさんたちってそんなにお金を貯めてどうするんですか? 前に貯めすぎるのも良くないって言ってませんでした?」
朝からスープのお代わりをしているマイが、そんなに働きたがる理由を尋ねる。
「ん? そんなに稼ぎまくるって気はないぞ? 金を貯めてはいるが、王国中の金の流れを止めるほどになんて貯まらないさ」
「実はですね、秋になると豊穣祭があるんですよ。収穫の豊作を祝って、次の年も豊作を願うお祭りです。美味しい食い物がたくさん屋台や出店で出るんですよ」
本格的な夏の真っ只中であるが、真っ只中ということは折り返しとも言えなくは無い。
まだまだ暑い日が続くが、確実に秋に近づいている。
今から豊穣祭の出店や屋台に並ぶ美味しいものを、いっぱい食べたいとお金の準備を始めるのだ。
「え!? そんなに美味しいもの出るんですか?」
今やっと朝ごはんを食べ終わったばかりというところであるのだが、マイが勢い良く食いついてくる。
「ええ。各領地や町、村などの名物であったり、祭り用の料理が出てきますよ。特にモデーロ侯爵領は砂糖を作ってるところですからね、甘いお菓子が出てきます。すでに噂では新しい味のマッフルが作られていると聞いてます」
「それ、どんなお菓子なんですか? 他にも甘いものいっぱいありますかね?」
「砂糖を使ったお菓子はまだまだ多いとは言えませんが、蜂蜜を使ったものもありますからね。お店によって多少の違いを持たせていますから、当日はいっぱいあると思いますよ」
「うわぁ~、楽しみですねぇ!」
きゃあきゃあと甘いもの話に華を咲かせる女性二人。
「食べた後によくまた食べ物の話できるね……」
マイより先に食べていたのに、お代わりまでしたマイの後にやっと食べ終わったタカヒロが、そんな女性二人を呆れたような目で見る。
「そういうな。甘いものってのは、まだそんなに手軽じゃなくてな。まだまだ作ってる量が市場に追いついてないんだ。その甘いもんが食べられるってなら、ああなっても仕方ないさ」
レッドも心なしかそわそわしているように見えた。
あまり食べる機会がない甘いものを食べたいのだろうことがよくわかってしまった。
「はいはい。それじゃあ、仕事探しに行きますか」
浮ついた皆をタカヒロが仕切って、ギルドへ向かう準備をさせる。
あのままではなんにも進まず、甘いお菓子談義になってしまいそうだったからだ。
「おや? なんだかんだとやる気じゃないか、タカヒロ」
先ほどまで休みたいと言っていた人間が仕切れば、こう返してくるのはよくあるもので、タカヒロはため息だけついて、無視して部屋に準備に戻った。
そんなタカヒロを3人が微笑みながら見ていた。
「ん~。配送以外ってなると、まぁ、皆でやらなくてもいいものばかりだな」
冒険者ギルドで貼り出されている依頼票を一通り眺めてきたレッドが、リベルテたちのところに戻ってくる。
今日も王都の冒険者ギルドは、依頼板の前に多くの冒険者が集まっていた。
混雑を避けるためにチームで受ける場合は、リーダーだけが依頼票を見に行くということがルールとして決められているのだ。
このルールが定められる前は、依頼板の前に今以上に冒険者が集まり、依頼を手に取ったものも受付まで出てくるのに難渋し、後から来た者たちが依頼板が見えなくて探しようが無く、結果として一日で捌ける依頼が少なくなってしまっていたのだ。
この後、列に並ぶようにさせたこともあったが、冒険者一人ひとりが自分の番で、依頼板の前で長い時間吟味するため、少し遅い時間からギルドに来た者達は並んでも自分の番が来る前にギルドの終業時間になったなんていう笑えない話になってしまった。
このため、一時期、陽も昇らないうちからギルドの前に並んだ者達もいたくらいであった。
そのため、さらに依頼板の前に集まる人を減らすために、依頼票は系統ごとに貼りだす位置を変え、さらにチームなど複数人で動く人たちは、リーダーだけ依頼板を見に行くようになったのである。
独りで動く冒険者もいるため、そこまで混雑が改善されないのではと思われているが、独りで動くものというのは、こなせる依頼というのがだいたい決まっていくため、ながいこと依頼板の前を占領することが無いのである。
「ちなみに何に目をつけてきたのですか?」
「当初はなぁ……討伐あればと思ってたんだが。朝の話で農家の手伝いにしようかと」
「そうですか。私もそちらで問題ありませんよ?」
お互いに長くパートナーを務めてきた者である。お互いの考えはだいたい分かっており、もめることも少なく、すんなりと予定を決めていく。
「いいんですか? 討伐のってそう多くでてこないし、報酬も結構いい方だから、やりたがるものなんじゃ?」
「討伐はそれなりに危険だからな。ちゃんと準備できて、腕もある程度あるやつじゃなきゃ損することも多い。まぁ、何かを倒してきたってのは華があるから人気あるのは間違いないんだが……」
タカヒロの手っ取り早く稼ぐなら稼ぎが大きいほうがいいんじゃないかという質問に、ちょっと言葉を濁しながら、畑の手伝いの依頼を受けてこようとする。
「なんかあるんですか?」
タカヒロが目を細めて、レッドを見る。
するとレッドはマイの方をじっと見てくるので、マイが周囲を見てから自分を指差して確認する。
「な、なんですか?」
「いやな……。この時期の討伐に多いのは虫なんだよ。虫のモンスターが活発に動く季節なんでな。下手なヤツだとこううじゃうじゃと……」
「止めよう。タカヒロ君、討伐の依頼は止めよう」
ガシッとタカヒロの腕を取って懇願する。
もともと仕事せずに休みたかった男である。いくら討伐の依頼は報酬がよく稼ぎがいいとは言え、祭りはまだ先であり、そのために頑張るという気もなかった。
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自分にすがられてもとレッドに助けを求めるが、レッドはすでに畑仕事の依頼手続きに行ってしまっていた。
「それではそちらも何か受けてくださいね。あ、一人で行動はしないようにしてくださいね」
リベルテがタカヒロに一つ注意をして、レッドの後を追って去ってしまう。
「えぇぇぇぇぇ……」
たしかにレッドたちのチームに所属しているわけではなかったが、一緒に仕事をすることも多かったため、ここにきて別々に動けと言われるとは思っていなかった。
「帰っちゃだめかなぁ……」
ギルドに放置されたようなこの状況は、マイが落ち着くまでこのままだった。
レッドたちと一緒に仕事をこなしてくることで他の冒険者達から覚えてもらっていた二人は、周りから温かく見守られ続けていた。
暑い日差しが照りつける中、麦わらで編まれた帽子をかぶりながら、レッドが肥料を持って撒いて周り、リベルテが間引いたり、葉を食い散らかす虫を掴んで箱に入れていく。
わざわざ虫を箱に集めていくのは、買い手がいるからだ。
卵を仕入れるためにスティッフクックを飼っている人たちがいるように、空を飛べる鳥のモンスターを飼いならし、離れた場所へ文を届けるなど伝書に使っている人たちがいるのだ。
ただこの鳥のモンスターも手なずけるのが大変で、十分な餌をあげないと言う事をきいてくれなかったり、するどい嘴や足の爪でもって襲い掛かってくる。
モンスターによって好むものに差異があるため、このような虫さえも買い手が付いている。
一つの畑で肥料を撒き終わったレッドが、肥料の入った桶を地面に置き、汗を拭う。
「ふぅ~。やっぱり大変だな。これを生業にしてる人たちには頭あがらんわ」
「んん~っ。はぁ。そうですねぇ。体動かすのは好きですけど、同じ姿勢で動いていくとなると、体が痛いですね」
リベルテの方も一つの畑は終わったのだろう。しゃがみながら作業を続けていたため、大きく伸びをする。
「でも、ここ一面がいっぱい実を付けると思うと楽しみになりますね」
「そうだなぁ。お? 向こうで爺さんが手を振ってるな。一旦、休憩にしよう」
畑の持ち主である家の方で依頼人のおじいさんが手を振っているのを見つけて、レッドがリベルテを促しておじいさんの方に向かう。
「ありがとねぇ。だが暑いからな。休みながらやらんと倒れちまうからなぁ」
「はい。どうぞ」
おじいさんが手招きするほうにいくと、おばあさんが冷えた水を注いだコップを手渡してくれる。
礼を言って一口飲むが思いのほか乾いていたらしく、ゴクゴクと一気に飲み干していく。
「ぷっはぁ! 美味い。生き返るな」
「もう一杯いりますか?」
「すみません。お願いします」
あまりの飲みっぷりにおばあさんがお代わりを注いでくれ、今度はゆっくりと飲んでいく。
「今年はどうですか?」
「去年と変わらんな。今年もいい出来だよ。こうして手伝ってくれる人もきたしな」
「去年はどうしたんです?」
「息子達が手伝ってくれたんだが、どうもな。地味な仕事は嫌らしい。ゆっくり一日掛けて一つの畑やったら帰っちまった。おかげでばあさんにも迷惑かけたなぁ」
「いえいえ。あの子達にも困ったもんだわ」
休憩の雑談にと今年の畑の具合を聞いてみたら、去年が大変だったと聞き、依頼があったならなぁと思ってしまう二人。
手伝いたいと思う気持ちはあるが、二人とて生活しなきゃならない。
無償で手伝うには世知辛かった。
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「それで、どうされたんですか?」
「冒険者になるって言って出て行ったっきりだよ。まぁ、すぐに音をあげて帰ってくると思うけどね」
職にあぶれた人たちの受け皿であるはずの冒険者という職が人気になるはずはないのだが、やはり討伐の依頼をこなした冒険者達を見たり、話を聞いたりして憧れる者も少なくは無い。
冒険者を続けているのは、他に就きたい、就ける職がないからであったりするのだが、外から見ているだけではわからないのだ。
冒険者になって、そんな華やかな生活をしているのは極わずかであることにショックを受け、その冒険者を辞めて前の仕事に戻っていく人もまた少なくない。
だが、冒険者という仕事はちゃんと分かって受けていかないと危ない仕事も結構ある。
討伐を筆頭に、配送の仕事も道中でモンスターに襲われたり、もしかしたら賊に襲われてしまうことだってありえるのだ。
だから、そんな危険があるということを言わないわけにはいかなかった。
「冒険者は危険な依頼も存在します。息子さんたちが無茶をしないとも限りませんから、ギルマスに伝えておきましょうか?」
「少し前は冒険者が襲われるってこともあったからな」
この老夫婦も冒険者のことを正しく知っていたわけではない。農家一筋で生きてきて、人手が足りないときに依頼して、その依頼を受けた冒険者を見かけるくらいだ。
自分たちの依頼を受けてきた冒険者しか見なければ、畑の手伝いとか当たり障りの無いところと考えてしまうだろう。
畑の手伝いをしてくれる人たちが命の危険がある仕事をしていると思えないものだ。
レッドたちに言われて、初めてそのことを知ったようで、顔色を悪くさせていた。
「だが、それでもそれを選んだのはあいつらだ。仕方なかろうよ」
おじいさんが覚悟を決めたような諦めた表情ではっきりと言う。
「ですが、この人たちが声をかけてくれるって……」
「あいつらのことで手を煩わせてどうする! そりゃあ死んで欲しくなどないが、怪我の一つでもしてこないとあいつらは、自分たちが甘かったことなど気づかんだろう。噂でパッと出の冒険者が女性を侍らせているなんて聞いてからだからな」
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「あの二組は会わせたら危険かもな?」
「そうですか? 意外と女性は強かなものですよ」
片目を瞑って微笑むリベルテに、なんともいえなくなるレッド。
レッドもリベルテと戦闘訓練をしているが、勝率はよろしくない。
「まぁ、じいさん。一応ギルマスには新人の冒険者に目を配るようには言っておくよ。それじゃ次の畑行って来るよ」
逃げるようにサーッと走っていくレッド。
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