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「へぇ~。こっちの方って、こういう風になってるんですねぇ」
暢気な声を出しながらレッドたちの後をついてくるのは、タカヒロである。
「こっちの方って足を伸ばすことは無かったのか?」
「冒険者登録して、すぐ教えてもらった宿で生活始めましたからね。いやほんと、助かりました」
「まぁ、お二人がこちら側で生活すると言うのは、あまり向かなかったでしょうし……」
レッドたちが向かっているのは、王都にあって比較的治安が悪いとされている辺り。
身元が確かでは無い人たちが寄り集まって一角を占めた区域なのである。
比較的治安が悪いといっても、盗みや人殺しなどが蔓延っているわけでは無いし、道も綺麗に清掃されている。
身元が確かでは無いと言うことで、王都の中でもより貧しい人たちが多い所とも言える区域であるが、不衛生な環境のままにしてしまえば、それで体調を崩したり、病にかかったりしやすくなるわけで、自分たちをより苦しめてしまうことになるのだ。
そのため、この区域で他により顔が利く者が、ある程度に綺麗にすることを呼びかけ、自らも清掃を行っている。
他に行き場が無くて追いやられてきた人たちであるから、自分たちの居場所を守るのに必死になる。
だからこそ、規則と言うか決まりが厳しいものとなっており、タカヒロたちのような価値観や考え方が異なる人たちがこの区域で生活するのは、一見、合っていそうであるが、向かないだろうと言えた。
タカヒロたちは『神の玩具』と呼ばれる者たちの中においては、大人しいと思われる者たちである。
だから、この区域での決まりにもさほど不平を言わず従うだろうな思えるが、その持っている力ゆえに、何かをやってしまえば、すぐに他の目を惹いてしまうのだ。
マイなんかは一番危うい。
自身を守る力は弱いくせに、持っている力は人を惹き付けてしまうものである。
彼女の性格から考えれば、この区域で弱っている人を見かけたら、その力を使って治してしまうことだろう。
そうしてしまえば、人の声は止められない。噂は広まり、マイに助けを求めて、多くの人が集まってくることになるだろうし、そこまで広がれば国も動くことになる。
大人しく国に従って生きていけば、それなりの生活を送れるとは思うが、それは檻の中で暮らすと言うことであり、マイの意思はほとんど受け入れてもらえない生活になるだろう。
そして、国がマイを抱え込みに動くのは、渦中となってしまうこの区域で暮らす人にとっては良い事はない。
寄せ合って生きている人たちの生活であれば、建物を綺麗に建てる財はない。
すでにある建物を補修しながらであったり、自分たちで廃材を集めて建てたりしているのだ。
そんな所に城に勤めるような者たちが来るのだ。場合によっては区域の整理として家を壊されたり、この区域事態から追いやられてしまう可能性だって出てくる。
そうならないためには、マイたちを追い出すか、前もって国に売り出すか、最悪、マイたちを消してしまおうと動かないとも考えられなくはない。
そこまでなれば、マイと一緒に居るタカヒロが力を使ってしまう可能性が高く……。レッドたちにとって望まない話になるかもしれなかったのだ。
そんな話を聞かされて、タカヒロは嫌そうな顔になる。
「……で、なんで僕はお二人について行かないといけないんですかね?」
リベルテの家を出て自立を、と一人で動いていたのだが、昼に入った店でレッドたちにばったり会ってしまい、ここまで連れてこられたのである。
「まぁ、いいじゃないか。手を貸してくれよ」
「それはいいんですけど、そうじゃなくて、理由を……」
さすがに往来で『神の玩具』と思われるやつが居るかもしれない、などとは言えるはずも無い。
レッドは胡散臭そうに笑いながら、はぐらかすだけだった。
区域に入ってしばらくすると、人目がつき始める。
それは歓迎しているものではなく、部外者を追い出したいと言うものであったり、何か恵んで欲しいというものであったりするものであるのがわかる。
何か渡したくなるが、その一人にだけ渡して終わるものにはならない。
一人がもらえれば自分も、と集まってくることになるのは当然であるし、他の人たちにも何か渡さないと、最初にもらった人が他からの妬みを買うことになる。
他に行き場が無くて流れてきた人たちであれば、力を行使すること他より躊躇いが少ない。
顔役の決めたことには従がっているが、それ以外には他の区域より守られるものが無いのだ。
兵士の見回りもここまでは来ないため、盗みや殺人が蔓延ってはいないが、無いわけでも無い。
それは王都の中心であっても同じであり、この区画が他より多いと言うくらいでしかないのだが、やはり、他からすれば多いため、治安が悪いと言われているのである。
それでも、ここで生活している人たちはここから離れない。ここでしか生活できなく、そんな目にああった人が居ても、自分たち自身が生きなければならないのだから。
「……帰っていいですか?」
早くも雰囲気に飲まれているタカヒロ。
持っている力はここいら一帯など軽く吹き飛ばせるはずであるが、このタカヒロの性格はありがたくあり、冒険者としては不安になるものでもあった。
なので、ついレッドはため息をついてしまうのだが、連れてきたのはレッドであるため、離れすぎるなよ、と声をかける。
もちろん、早速と距離を詰めて近くに寄ってくるタカヒロの行動には、苦笑を漏らすしかない。
「あ~、すまない。ここに最近になって物を作れる人が来てないか? その人のところに案内してほしい。手間賃は出す」
レッドが一番近くにいた者に依頼を出す。
用件を口にすることで相手の過剰な警戒を幾分かでも緩和できるし、依頼とすることでただ物を恵むより渡す相手を制限でき、受けてくれた者だけに渡しても他から妬みを買うことを減らすことができる。
その仕事を受けたから報酬としてもらったのであり、運良く貰えたわけではない、というのが大事なのだ。
誰だって仕事をしたからお金もちになった者と、お金を拾ったからお金もちになった者では、妬まれるのは後者である。
「物を作ってるかは知らない。でも、最近来た変わり者なら知ってる」
レッドはリベルテと顔を合わせ、リベルテが頷く。
「頼む。その人のところに案内してくれ」
「じゃあ、ついてきて」
レッドたちの先を小さな身体がゆっくりと進んでいく。
こういう外部とは言わないが、この区画で生活していない人に近づいてきやすいのは、好奇心が旺盛な子どもである。
だが、この区画で子どもというと大多数は捨てられて、孤児院の手からも漏れてしまった者である。
だからこそ、リベルテが前を進む子どもに向ける視線は悲しみを帯びていた。
極稀にそういった子どもを引き取れ、保護しろと叫ぶ者が居るが、その人たち自身は孤児院に何かすることもなく、ただ言うだけである。
国から給付が出ているんだから、こちらが何かする必要は無いし、むしろそう言った子どもを保護しない孤児院の方が問題だ、と平然と口にする者も居て、先ほどの人と合わせて周囲から白い目で見られていたりする。
孤児院を知っていればそんな無知を口に出来ないし、言うだけで何もしないことに賛同を得られると思えるはずも無いのだ。
職にあぶれて生活に窮する者達は冒険者となり、そんなに多くも無い報酬である雑用の依頼を受けて働き、その日をなんとか暮らせる生活を送っている。
そんなに慎ましくなくとも普通に生活を送れている者が、何も知ろうとせず、動かないのであれば、賛同されるはずも無いし、行動しても口だけなら、それもまた称賛されるはずが無いのも当然である。
レッドたちが案内されて着いた先には、外見はぼろそうであるが、しっかりとした家があった。
最近きたという新参者が住むには上等すぎると、この区画で暮らしたことの無いレッドたちが思えるほどである。
「ここ」
「あ、ああ。ありがとう。これは報酬だ」
レッドはその子どもに銅貨を5枚ほど渡す。
銅貨5枚では安い酒場で食事をすることも出来ないが、この案内だけでそれ以上の額を渡すことは、冒険者として報酬額に苦労しながら生活する身としては出来ないし、この子どものためにもならない。
他からも過ぎると思われては、襲われやすくなってしまうのだ。
「ん~と、ここで暮らしてる人に会いにきたんですよね? やっぱり、僕要ります?」
ここまで来ている以上、一人で離れるのも怖いらしく、帰りたいけど一人では嫌だという葛藤が見て取れた。
ただ、レッドたちにすれば悪あがきにしか見えない。無駄な抵抗である。
早速と戸を叩こうとレッドは腕を軽く上げるが、叩くと壊れてしまいそうで、少し声を大きく呼びかけるだけに留める。上げた腕は行き場が無く持ち上げた状態のままであった。
「すみません。どなたか居られませんか?」
ただ声は大きかったらしく、周囲で生活している人に迷惑となってしまったようだった。
隙間の多い家々であれば、声はよりつつ抜けになってしまい、周囲の家から一斉にレッドに目が向いてくるのを感じる。
声を発したレッドとは、気まずさで身を縮めるしかなかった。
それを見て笑うタカヒロを、レッドは八つ当たり気味に叩く。笑っただけなのに、叩くなんて横暴ですよ、と抗議するタカヒロ。
リベルテは、ほんの少し前に日常となっていた雰囲気を感じて、懐かしく、嬉しく、笑ってしまう。
他人の家の前で賑やかな集団だった。
「家そんなに立派じゃないんで、大きな声出さなくても聞こえてますよ」
家からほっそりとした男性が姿を見せる。
その姿を見て、タカヒロの雰囲気が少し変わった。
それに気づいたレッドたちは、間違いなかったのだと理解する。
マイは茶色い髪で碧い目で、タカヒロは黒髪で黒目である。
髪の色も眼の色も違っているが、同じ国であるらしい。
どうやらこの世界に来る直前に願うことで色を変えられたそうなのだが、レッドたちにはそれがどういうことなのか、どうやって変えると言うのかはわからないものであった。
だが、ひとまず『神の玩具』には、お互いの雰囲気と言うのがわかるらしい。
だから、マイはタカヒロが同じだとわかったそうであり、そして今、目の前の男性にタカヒロが反応したのである。
相手の男性もタカヒロを見て、何か気づいた様子であった。
「まぁ、こんな家ですけど、中にどうぞ」
男性に案内され家の中に入ると、見た目はぼろいかったが、中は綺麗にされていた。
思わず辺りをしげしげと眺めてしまうレッドたち。
「いや、自分でちょいっと手直ししただけですよ」
手直しというには整っていた。
家を一軒建てて、その周囲にぼろく見えるように、わざと板を継ぎ接ぎしたと思わせる。
「それで、どのようなご用件で? ああ、ちょっとそっちの人とは別で話をしたいけど」
そう言って相手の男性はタカヒロを見る。当のタカヒロは、何故か悩んでいるようであった。
おそらく同じ『神の玩具』であるため、話をしてみたいが、面倒に巻き込まれそうなことを警戒しているのだと、タカヒロの性格からレッドたちは判断する。
ただ、そこにはもう少し別の思いがあったのかもしれない。
「君が作った魔道具について話が、な」
レッドがそう切り出すと、その男性はあ~と声を上げて、額に手を当てる。
「やっぱりやりすぎ? 不便だったから作ってみて、お金に困ったから持ち込んでみたけど、すごく食いつき良かったからなぁ。おかげで結構なお金もらえたけど……。で、どうなります?」
どこか投げやりに見えるが、下手に動けば、ここいら一帯を巻き添えにして、その被害に紛れて逃げ出すことをしそうな気配を感じさせていた。
「まず、俺たちは冒険者だ。君の作った魔道具が素晴らしい物だから、国が是非、迎え入れたいって話なんだ。俺たちは君を探して欲しいと言う依頼でここに来た。国に迎えられると言うのはそうあるものじゃない。金も人もつくからもう少し良い物を作りやすくなると思うぞ。是非、受けて欲しいところなんだが……」
一職人が国にその技能、技術を認められて招聘されると言うのは名誉なことである。
国が後ろに付くのだから、お金をもらいながら物を作ることが出来るようになるのだ。
ただ、城に仕えることになるので、王や貴族の意向に従わなくてはいけなくなる。
招聘されるほどの技術は無くとも城からの命を受けたのなら従わなくてはいけないのだが、わざわざ王や貴族がその一職人の所に足を運ぶことは無いため、これが招聘されることの大きな違いとも言える。
苦しくとも自由にやるか、小金持ちになるが命令されたとおりに働く、と言うことだ。
「それ、どこまで保障されるんで?」
「保障?」
返って来た言葉に、レッドは聞きなおしてしまう。
「城に行って無事だって保障ですよ。作り方を聞くだけ聞いて、殺されるとかありえそうじゃないですか。あとはずっと監禁されるとか」
「作り方を尋ねて答えても答えなくても命を奪う、と言うことはないと思います。その作り方を聞いてすぐ同様の物を同じ質で作れるものではありませんから。監禁と言うお話ですが……、魔道具ですから、魔法研究所に入ることになると思います。今が自由にやれていると言う話でしたら、組織に入る分、不自由になるとは言えるかと思います」
リベルテの説明にふ~んと軽い反応を返す男性。
ただ、その目はリベルテの姿を上から下へと、眺めるように動いていた。
「ん~、まぁ、そちらのお姉さんが言うなら行くだけ行ってみるかな? あ、礼儀とか言われてもわかりませんよ?」
「そこは迎えに来る人たちがなんとかしてくれるだろうさ」
「あ、俺はハヤトって言うんだけど、お姉さんのお名前は?」
軽薄な態度に変わる男に、少しイラつきを覚えるレッド。
「私はリベルテです。こちらがレッド。そしてあちらが……」
「タカヒロです」
タカヒロが名乗ると、ハヤトと名乗った男の目つきが変わった。
「へぇ~、やっぱり……。それじゃあよろしくね、人生の先輩」
あの後、レッドたちはすぐにハヤトの家を辞し、ギルマスに報告に向かった。
タカヒロとは、ハヤトの家を出た後に、報酬をいくらか渡して、そのまま別れている。
タカヒロは一人で考えたいことがあるらしく、レッドたちにはもうタカヒロを引き止める術はなかった。
もう、あの家に一緒に帰ることはなくなっているのだ。
ギルマスへの報告が終わり、家に帰ったレッドたちは、少し疲れて椅子にぼうっと座っている。
座りながらレッドは、ハーバランドにいるユーセーとハヤト。
どっちが嫌なヤツだろうかと、レ真剣に悩むのだった。
暢気な声を出しながらレッドたちの後をついてくるのは、タカヒロである。
「こっちの方って足を伸ばすことは無かったのか?」
「冒険者登録して、すぐ教えてもらった宿で生活始めましたからね。いやほんと、助かりました」
「まぁ、お二人がこちら側で生活すると言うのは、あまり向かなかったでしょうし……」
レッドたちが向かっているのは、王都にあって比較的治安が悪いとされている辺り。
身元が確かでは無い人たちが寄り集まって一角を占めた区域なのである。
比較的治安が悪いといっても、盗みや人殺しなどが蔓延っているわけでは無いし、道も綺麗に清掃されている。
身元が確かでは無いと言うことで、王都の中でもより貧しい人たちが多い所とも言える区域であるが、不衛生な環境のままにしてしまえば、それで体調を崩したり、病にかかったりしやすくなるわけで、自分たちをより苦しめてしまうことになるのだ。
そのため、この区域で他により顔が利く者が、ある程度に綺麗にすることを呼びかけ、自らも清掃を行っている。
他に行き場が無くて追いやられてきた人たちであるから、自分たちの居場所を守るのに必死になる。
だからこそ、規則と言うか決まりが厳しいものとなっており、タカヒロたちのような価値観や考え方が異なる人たちがこの区域で生活するのは、一見、合っていそうであるが、向かないだろうと言えた。
タカヒロたちは『神の玩具』と呼ばれる者たちの中においては、大人しいと思われる者たちである。
だから、この区域での決まりにもさほど不平を言わず従うだろうな思えるが、その持っている力ゆえに、何かをやってしまえば、すぐに他の目を惹いてしまうのだ。
マイなんかは一番危うい。
自身を守る力は弱いくせに、持っている力は人を惹き付けてしまうものである。
彼女の性格から考えれば、この区域で弱っている人を見かけたら、その力を使って治してしまうことだろう。
そうしてしまえば、人の声は止められない。噂は広まり、マイに助けを求めて、多くの人が集まってくることになるだろうし、そこまで広がれば国も動くことになる。
大人しく国に従って生きていけば、それなりの生活を送れるとは思うが、それは檻の中で暮らすと言うことであり、マイの意思はほとんど受け入れてもらえない生活になるだろう。
そして、国がマイを抱え込みに動くのは、渦中となってしまうこの区域で暮らす人にとっては良い事はない。
寄せ合って生きている人たちの生活であれば、建物を綺麗に建てる財はない。
すでにある建物を補修しながらであったり、自分たちで廃材を集めて建てたりしているのだ。
そんな所に城に勤めるような者たちが来るのだ。場合によっては区域の整理として家を壊されたり、この区域事態から追いやられてしまう可能性だって出てくる。
そうならないためには、マイたちを追い出すか、前もって国に売り出すか、最悪、マイたちを消してしまおうと動かないとも考えられなくはない。
そこまでなれば、マイと一緒に居るタカヒロが力を使ってしまう可能性が高く……。レッドたちにとって望まない話になるかもしれなかったのだ。
そんな話を聞かされて、タカヒロは嫌そうな顔になる。
「……で、なんで僕はお二人について行かないといけないんですかね?」
リベルテの家を出て自立を、と一人で動いていたのだが、昼に入った店でレッドたちにばったり会ってしまい、ここまで連れてこられたのである。
「まぁ、いいじゃないか。手を貸してくれよ」
「それはいいんですけど、そうじゃなくて、理由を……」
さすがに往来で『神の玩具』と思われるやつが居るかもしれない、などとは言えるはずも無い。
レッドは胡散臭そうに笑いながら、はぐらかすだけだった。
区域に入ってしばらくすると、人目がつき始める。
それは歓迎しているものではなく、部外者を追い出したいと言うものであったり、何か恵んで欲しいというものであったりするものであるのがわかる。
何か渡したくなるが、その一人にだけ渡して終わるものにはならない。
一人がもらえれば自分も、と集まってくることになるのは当然であるし、他の人たちにも何か渡さないと、最初にもらった人が他からの妬みを買うことになる。
他に行き場が無くて流れてきた人たちであれば、力を行使すること他より躊躇いが少ない。
顔役の決めたことには従がっているが、それ以外には他の区域より守られるものが無いのだ。
兵士の見回りもここまでは来ないため、盗みや殺人が蔓延ってはいないが、無いわけでも無い。
それは王都の中心であっても同じであり、この区画が他より多いと言うくらいでしかないのだが、やはり、他からすれば多いため、治安が悪いと言われているのである。
それでも、ここで生活している人たちはここから離れない。ここでしか生活できなく、そんな目にああった人が居ても、自分たち自身が生きなければならないのだから。
「……帰っていいですか?」
早くも雰囲気に飲まれているタカヒロ。
持っている力はここいら一帯など軽く吹き飛ばせるはずであるが、このタカヒロの性格はありがたくあり、冒険者としては不安になるものでもあった。
なので、ついレッドはため息をついてしまうのだが、連れてきたのはレッドであるため、離れすぎるなよ、と声をかける。
もちろん、早速と距離を詰めて近くに寄ってくるタカヒロの行動には、苦笑を漏らすしかない。
「あ~、すまない。ここに最近になって物を作れる人が来てないか? その人のところに案内してほしい。手間賃は出す」
レッドが一番近くにいた者に依頼を出す。
用件を口にすることで相手の過剰な警戒を幾分かでも緩和できるし、依頼とすることでただ物を恵むより渡す相手を制限でき、受けてくれた者だけに渡しても他から妬みを買うことを減らすことができる。
その仕事を受けたから報酬としてもらったのであり、運良く貰えたわけではない、というのが大事なのだ。
誰だって仕事をしたからお金もちになった者と、お金を拾ったからお金もちになった者では、妬まれるのは後者である。
「物を作ってるかは知らない。でも、最近来た変わり者なら知ってる」
レッドはリベルテと顔を合わせ、リベルテが頷く。
「頼む。その人のところに案内してくれ」
「じゃあ、ついてきて」
レッドたちの先を小さな身体がゆっくりと進んでいく。
こういう外部とは言わないが、この区画で生活していない人に近づいてきやすいのは、好奇心が旺盛な子どもである。
だが、この区画で子どもというと大多数は捨てられて、孤児院の手からも漏れてしまった者である。
だからこそ、リベルテが前を進む子どもに向ける視線は悲しみを帯びていた。
極稀にそういった子どもを引き取れ、保護しろと叫ぶ者が居るが、その人たち自身は孤児院に何かすることもなく、ただ言うだけである。
国から給付が出ているんだから、こちらが何かする必要は無いし、むしろそう言った子どもを保護しない孤児院の方が問題だ、と平然と口にする者も居て、先ほどの人と合わせて周囲から白い目で見られていたりする。
孤児院を知っていればそんな無知を口に出来ないし、言うだけで何もしないことに賛同を得られると思えるはずも無いのだ。
職にあぶれて生活に窮する者達は冒険者となり、そんなに多くも無い報酬である雑用の依頼を受けて働き、その日をなんとか暮らせる生活を送っている。
そんなに慎ましくなくとも普通に生活を送れている者が、何も知ろうとせず、動かないのであれば、賛同されるはずも無いし、行動しても口だけなら、それもまた称賛されるはずが無いのも当然である。
レッドたちが案内されて着いた先には、外見はぼろそうであるが、しっかりとした家があった。
最近きたという新参者が住むには上等すぎると、この区画で暮らしたことの無いレッドたちが思えるほどである。
「ここ」
「あ、ああ。ありがとう。これは報酬だ」
レッドはその子どもに銅貨を5枚ほど渡す。
銅貨5枚では安い酒場で食事をすることも出来ないが、この案内だけでそれ以上の額を渡すことは、冒険者として報酬額に苦労しながら生活する身としては出来ないし、この子どものためにもならない。
他からも過ぎると思われては、襲われやすくなってしまうのだ。
「ん~と、ここで暮らしてる人に会いにきたんですよね? やっぱり、僕要ります?」
ここまで来ている以上、一人で離れるのも怖いらしく、帰りたいけど一人では嫌だという葛藤が見て取れた。
ただ、レッドたちにすれば悪あがきにしか見えない。無駄な抵抗である。
早速と戸を叩こうとレッドは腕を軽く上げるが、叩くと壊れてしまいそうで、少し声を大きく呼びかけるだけに留める。上げた腕は行き場が無く持ち上げた状態のままであった。
「すみません。どなたか居られませんか?」
ただ声は大きかったらしく、周囲で生活している人に迷惑となってしまったようだった。
隙間の多い家々であれば、声はよりつつ抜けになってしまい、周囲の家から一斉にレッドに目が向いてくるのを感じる。
声を発したレッドとは、気まずさで身を縮めるしかなかった。
それを見て笑うタカヒロを、レッドは八つ当たり気味に叩く。笑っただけなのに、叩くなんて横暴ですよ、と抗議するタカヒロ。
リベルテは、ほんの少し前に日常となっていた雰囲気を感じて、懐かしく、嬉しく、笑ってしまう。
他人の家の前で賑やかな集団だった。
「家そんなに立派じゃないんで、大きな声出さなくても聞こえてますよ」
家からほっそりとした男性が姿を見せる。
その姿を見て、タカヒロの雰囲気が少し変わった。
それに気づいたレッドたちは、間違いなかったのだと理解する。
マイは茶色い髪で碧い目で、タカヒロは黒髪で黒目である。
髪の色も眼の色も違っているが、同じ国であるらしい。
どうやらこの世界に来る直前に願うことで色を変えられたそうなのだが、レッドたちにはそれがどういうことなのか、どうやって変えると言うのかはわからないものであった。
だが、ひとまず『神の玩具』には、お互いの雰囲気と言うのがわかるらしい。
だから、マイはタカヒロが同じだとわかったそうであり、そして今、目の前の男性にタカヒロが反応したのである。
相手の男性もタカヒロを見て、何か気づいた様子であった。
「まぁ、こんな家ですけど、中にどうぞ」
男性に案内され家の中に入ると、見た目はぼろいかったが、中は綺麗にされていた。
思わず辺りをしげしげと眺めてしまうレッドたち。
「いや、自分でちょいっと手直ししただけですよ」
手直しというには整っていた。
家を一軒建てて、その周囲にぼろく見えるように、わざと板を継ぎ接ぎしたと思わせる。
「それで、どのようなご用件で? ああ、ちょっとそっちの人とは別で話をしたいけど」
そう言って相手の男性はタカヒロを見る。当のタカヒロは、何故か悩んでいるようであった。
おそらく同じ『神の玩具』であるため、話をしてみたいが、面倒に巻き込まれそうなことを警戒しているのだと、タカヒロの性格からレッドたちは判断する。
ただ、そこにはもう少し別の思いがあったのかもしれない。
「君が作った魔道具について話が、な」
レッドがそう切り出すと、その男性はあ~と声を上げて、額に手を当てる。
「やっぱりやりすぎ? 不便だったから作ってみて、お金に困ったから持ち込んでみたけど、すごく食いつき良かったからなぁ。おかげで結構なお金もらえたけど……。で、どうなります?」
どこか投げやりに見えるが、下手に動けば、ここいら一帯を巻き添えにして、その被害に紛れて逃げ出すことをしそうな気配を感じさせていた。
「まず、俺たちは冒険者だ。君の作った魔道具が素晴らしい物だから、国が是非、迎え入れたいって話なんだ。俺たちは君を探して欲しいと言う依頼でここに来た。国に迎えられると言うのはそうあるものじゃない。金も人もつくからもう少し良い物を作りやすくなると思うぞ。是非、受けて欲しいところなんだが……」
一職人が国にその技能、技術を認められて招聘されると言うのは名誉なことである。
国が後ろに付くのだから、お金をもらいながら物を作ることが出来るようになるのだ。
ただ、城に仕えることになるので、王や貴族の意向に従わなくてはいけなくなる。
招聘されるほどの技術は無くとも城からの命を受けたのなら従わなくてはいけないのだが、わざわざ王や貴族がその一職人の所に足を運ぶことは無いため、これが招聘されることの大きな違いとも言える。
苦しくとも自由にやるか、小金持ちになるが命令されたとおりに働く、と言うことだ。
「それ、どこまで保障されるんで?」
「保障?」
返って来た言葉に、レッドは聞きなおしてしまう。
「城に行って無事だって保障ですよ。作り方を聞くだけ聞いて、殺されるとかありえそうじゃないですか。あとはずっと監禁されるとか」
「作り方を尋ねて答えても答えなくても命を奪う、と言うことはないと思います。その作り方を聞いてすぐ同様の物を同じ質で作れるものではありませんから。監禁と言うお話ですが……、魔道具ですから、魔法研究所に入ることになると思います。今が自由にやれていると言う話でしたら、組織に入る分、不自由になるとは言えるかと思います」
リベルテの説明にふ~んと軽い反応を返す男性。
ただ、その目はリベルテの姿を上から下へと、眺めるように動いていた。
「ん~、まぁ、そちらのお姉さんが言うなら行くだけ行ってみるかな? あ、礼儀とか言われてもわかりませんよ?」
「そこは迎えに来る人たちがなんとかしてくれるだろうさ」
「あ、俺はハヤトって言うんだけど、お姉さんのお名前は?」
軽薄な態度に変わる男に、少しイラつきを覚えるレッド。
「私はリベルテです。こちらがレッド。そしてあちらが……」
「タカヒロです」
タカヒロが名乗ると、ハヤトと名乗った男の目つきが変わった。
「へぇ~、やっぱり……。それじゃあよろしくね、人生の先輩」
あの後、レッドたちはすぐにハヤトの家を辞し、ギルマスに報告に向かった。
タカヒロとは、ハヤトの家を出た後に、報酬をいくらか渡して、そのまま別れている。
タカヒロは一人で考えたいことがあるらしく、レッドたちにはもうタカヒロを引き止める術はなかった。
もう、あの家に一緒に帰ることはなくなっているのだ。
ギルマスへの報告が終わり、家に帰ったレッドたちは、少し疲れて椅子にぼうっと座っている。
座りながらレッドは、ハーバランドにいるユーセーとハヤト。
どっちが嫌なヤツだろうかと、レ真剣に悩むのだった。
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ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
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