王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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状態を保つ魔道具を作り出した男はハヤトと名乗り、城へと赴き、魔法研究所で働くことを選んだそうである。
金銭や地位ではなく、ある程度の自由を求めての上でらしい。
王はそれを笑って認めたそうだが、余計な金を払わずに済んだことや貴族たちへの根回しが大変な役職や爵位を用意しなくて良くなったことからだろうと思われる。
ハヤトが思ってたより無欲な人間だったのか、それとも何かを考えた上でなのかはわからない。
ただ、レッドはハヤトと言う男は信用できなかった。

これからしばらくすれば、状態を保つ魔道具が王都に出回ることになる。
リベルテも欲しがっているし、レッドも良い物だと思っているが、貴族たちの後に手に出来るのは、資金力のある商会となるだろう。
人々にはすぐに手には入らないが、食物を仕入れしているのは商会なのである。
だから、商会が早くに手に入れてくれる方が人々にとって助かると言える。
より遠くの物を仕入れ、王都に運んでくることが出来るようになるのだから、これから先の食事情がとても楽しみだった。
しかし、良い事ばかりで済むとは考えていない。
『神の玩具』であるハヤトが、ある程度の自由を得たと言うことは、大人しく過ごすつもりが無いと思われるためであった。

「あれは、パタタと同じだよな……」
レッドの口から、考えていたことが思わず口に出てしまったようだった。
「パタタ、ですか?」
リベルテがまた妙なものに例えましたね、と笑う。

パタタは人々にとって、貴重な食べ物だ。
スープに入れれば嵩を増せるし、茹でるだけで腹の足しに食べられる。
パンよりも安く買える物だから、生活が苦しい者にとっては無くてはならないありがたい食べ物と言える。
だが、その管理はちゃんとしていなければならない。食べる前には状態を見極めなければいけないのだ。
パタタは放っておくと芽が出てくる。
食べられるパタタであるが、芽が出てしまうと毒に変わってしまうのだ。
ほとんど人はそうなっては食べられないと知っているのだが、それでも、冬場など外で取れる食べ物も少なくなる時期などで、その日を暮らすのもままならず、食べるものが無くて空腹に困った人が口にしてしまい、亡くなってしまったと言う話は、今でも少なくは無い。
ハヤトはお金や地位ではなく、自由を求めたことで城では好印象を持たれているそうであるが、あって話をした限りでは、レッドには軽薄そうな印象が残っている。
自由を与えたからと放置していては、この世界の普通が、彼らにとっては普通では無い。
すぐに毒となる芽を出してきそうに、レッドには思えてならないのだ。

「ですから、森に来ているのでしょう?」
不安を口にしているが、だれかを嫌うと言うことは、イラついていると言うことでもある。
その気晴らしにと受けた依頼が、キノコの採取であった。
レッドは周囲にいるモンスターを狩ることを目的としていて、今も辺りを探してキノコを採っているのはリベルテだけである。
「それは、まぁ、そうなんだが……。それとすまない。キノコはどうにも見極めがまだ自信がなくてな」
レッドはそういって頭を掻く。
レッドがモンスターに意識を向けて、キノコの採取を手伝わないのは、手伝えない理由もあったのである。
キノコの採取であるが、採取の依頼であるため報酬は決して高くは無い。むしろ安い。
その上、レッドにすれば似たようなキノコが多いため、採取を終えて報告に戻っても、ギルドで確認してもらった結果、違うのが混ざっていて足りていない、と言うことが多くある。
不達成とならないようにするためには、王都に戻ってきたのにまた森に向かわなくてはならず、ちゃんと知識を持っていないと、労力が報酬に見合わない仕事となってしまうのだ。
それだけではなく、間違ったキノコを持ち帰り、疑うことなく口にしてしまい、亡くなったと言う話しも、これまた少なくは無いのである。
よく森に入ってキノコを採っているはずの人でも、間違って毒キノコを口にしてしまった話も良く聞かれるはなしであり、レッドに限らず、キノコの見極めは難しいのである。

「まぁ、おかしなものを持ち帰られても困りますので、むしろ任せてください」
リベルテは自信あり気に、キノコを見つけては採っていく。
そのキノコが毒かどうか詳しくなるのは、一度口にしたことがあるか、間近でそのキノコで亡くなった人を見たことがあるかだ。
冒険者ギルドでも新人講習で少しだけ説明しているが、口頭で言われたことなんて永らく覚えていられるわけもない。
紙に書いて周知すると言う方法もあるが、安価な紙が出回るようになったとは言え、本となれば手書きする人手が必要となるもので、数も少ないし、そんなに安くはならないのだ。
それに、本に書かれている文字を見るだけで、間違えなくなると言い切れるものでもない。
実際にキノコを手に取って眺めても、類似した見た目で毒を持っているものも存在するのだ。
さらに言ってしまうと、そこまでキノコ採りに関わる人でなければ買おうともしないものであるし、本がまだ手軽に手に手に入らないため、文字を読み書き出来る人もそんなに多くも無いのだ。

一度、マイから読み書き出来る人を増やす取り組みを、国がしていないのかと質問されたことがあったが、リベルテがそれは難しいと教えていた。
知識は武器とも言える。
王家や貴族など国を担っている者たちからすると、部下には知識を持って欲しいが、人々にはそこまで持ってないのが望ましいのだ。
下手に知識など無い方が、国に批判を言う者が出てこないで済むからである。

知識がある方がより良い方法を見つけたりできるし、効率よく働いてくれるのでは? とタカヒロが横から言ってきたが、それが本当にそうなるかなんて、一冒険者のレッドたちにわかる内容では無い。
村や町の長に選ばれるのは知識がある人であり、考えて村や町のためになることをしていこうとしているし、各商会も採用した人たちには独自の教育をしているらしいのだ。
その教育が商会の力量差に繋がっているとも言われている。
知識があった方がより良い方法を考えられるのかもしれない。
ただ、悪事を行う者もまた、知識を持っているからこそ、悪事に動けると思える。
だからこそ、レッドたちにはマイとタカヒロが言うことの良し悪しを判断できなかったのだ。

「リベルテ! 戦うのは俺がやるけど、辺りの警戒は怠るなよ」
レッドはそう言って剣を構える。
クレイジーボアがレッドたちを威嚇していたのだ。
ボアはキノコをよく食べるらしく、キノコをいろいろ採っていくリベルテは、ボアにとって食べ物を奪っていく敵でしかない。
レッドが構えるや否や突撃してくる。レッドが剣を構えたことで相手に戦意があることを感じ取ったのだろう。
ただ、クレイジーボアは元々、人を襲ってくるモンスターであるため、キノコと合わせてレッドたちを食料と思っただけかもしれなかった。

リベルテが居る方角を頭に入れつつ、横に避けながら横なぎに剣を振るう。
当然、力が乗り切っていない剣では、皮が硬いボアに傷は与えられなかった。
木にぶつかりながら向きを変え、再度突っ込んでくるボア。レッドは軽く身を捻るだけの最小限の動きで直線上から避け、通り過ぎていくボア目掛けて上段から振り下ろす。
だがそれも、ボアに多少の傷をつけるだけで、倒すには至らない。
簡単にはいかないモンスターであることは分かっていても、思わず舌打ちしてしまう。
先ほどまでのイラツキが残っていて、気が焦ってしまっているらしい。ここと言う瞬間に合わなかったのだ。

「レッド! 右奥に太い木!」
リベルテから短く声が掛かる。
レッドがそちらの方角に走り出すと、ボアもレッドを追って向かっていく。
背中に近づいてくる圧力に冷や汗が流れる。
押し殺した叫び声を挙げながら、レッドは横に飛んだ。
気持ち長い時間に感じられた後に、すぐに鈍い音が耳に響く。
レッドは身を起こして、ボアに飛び掛る。
細い木であれば、へし折る勢いの突進であるが、太い木であれば、さすがにボアが負けるらしい。動きを止めた今が逃すわけにはいかない機会だった。
レッドの上段から体重と力が十二分に乗った一撃が、ボアの身に深く斬り込まれる。
剣を抜いて吹き上がる血をいくらか浴びながら、剣を引いてボアの心臓の辺りに力いっぱい突き刺した。
動きを止めているボアであれば、十分硬い皮を貫ける。レッドはやっと荒い息を大きく吐き出した。

「あ~、くそっ! こんな予定じゃなかったんだがなぁ」
レッドが思い描いていた戦闘はこんなに苦戦するものではなく、はるかに手間取ったことに悪態をついてしまう。
「そんな考えた通りにいけるなら、誰も苦労はしませんよ」
少し微笑みながら言うリベルテの正論が、レッドに追い討ちを掛けてくる。
「あ~、あまり言わないでくれ。余計辛い……」
「ふふ。たまには言わないと。馴れ合いだけでは危ないですから」
チームを組んだら仲良くするのは当然であるが、仲良くいるために馴れ合ってしまう冒険者のチームも度々目にする。
文句を言い合って喧嘩するよりは良いと考えてしまうが、馴れ合うと言うのは改善しようともせず、お互いに宥めあうと言うことである。

例えば、注意不足で見落としがあり、ちょっとした不都合があったとしても、不用意に責めずに慰め、励ます。これは、助け合うと言うことでは間違ってはいない。
だが、ここで自分が居るから大丈夫だとか、俺も見落としは良くあるから、なんて薄い言葉で、なぁなぁで済ませてしまうのでは、見落としをした人も、組んでいるチームの他人も何が悪かったのかわからないままとなる。
そのまま、見落とした人の代わりに、他が負担を負おうとするだけになってしまうのだ。
役割分担と言えば聞こえは良いが、助け合うと言うのであれば、誰か一人が負担を負うと言うのはお門違いなのだ。
その人がいなければ立ち行かなくるチームなんてのは問題であり、チームであっても常に一緒に動けるとは限らない。
だからこそ、失敗があったのならば、今度はどうすれば良いか、今度はどうできるか話し合うことが大事なのだ。なぁなぁで済ませて良いものでないのは、こういった理由からである。
ただ先の場合も、一方的に上から言うのでは、改善に向かわずただ不仲になっていくだけだろう。チームであって、師匠と弟子の関係では無いのだから。

「レッドに言える機会ってそうありませんからね」
「……いや、お前に言える機会の方がもっとないだろうが……。っ?! リベルテ!」
「はい!」
不意にレッドが辺りを警戒して剣を構える。
リベルテも、レッドに続いて籠を落ちないように背負いなおして、短剣を構えた。
何かが近くを動いている気配を感じたのだ。それも複数。

「この狙ってくる感じは……、リスティヒヴォルフか」
「ボアの前で悠長にしすぎたでしょうか? それとも、元々このボアを狙っていたのでしょうか?」
このリスティヒヴォルフであるが、冒険者や兵にとって嫌いなモンスターである。
グリズリーほど強くは無いし、バジャーほど脅威とは言わないのだが、襲ってくる機会が嫌らしいのだ。
そのほとんどが、直前に別のモンスターと戦った後であったり、野営の準備をしている時であったりと、疲れたところや気を抜いた隙を狙ってくるのだ。
「3匹……ですか? いえ、まだ離れた位置にもう少しいると考えた方がいいでしょうね」
「だな。この場所は良くない。森を抜けるぞ」
ヴォルフは動きが早く、身軽なのだ。
レッドたちがいる森の中では、ヴォルフに分があった。

「でも、抜けても危険ですよね……。むしろ森の中の方が木を障害物として使えるので、ここで戦った方がマシなのでは?」
「それもあるが……。だがまぁ、無理は禁物ってもんだろっ!」
ボアから離れるように二人が動き出す。
ヴォルフが木陰から身を乗り出して襲い掛かってくるが、気配を掴んでいたリベルテは慌てることなく、短剣で薙ぎ、ヴォルフの前足に傷を負わせる。短い悲鳴のような鳴き声が上がる。
それに続くように、今度は2匹同時に襲ってきた。
一匹に傷を負わせたとは言え、動けなくなったわけではない。
近くにいるその一匹への警戒も必要であり、リベルテは不用意に切りかかれない。小さく躱すのが精一杯だった。

もう一匹は、レッドが割り込んで蹴飛ばしていた。
剣を振るより足を出す方が早かったのと、無理にヴォルフたちを狩る必要が無いのも理由にあった。レッドが倒したボアの分は損であるが、置いてきたボアを食いに戻ってくれれば、無事に帰れるのだ。
今後、もしかしたら別の人が襲われるかもしれないが、ここで無理してもレッドたちに良いことは無い。怪我を負えばその分、王都のために働けないし、最悪死んでしまったらそこまでだ。
王都のためにと考えるレッドであるが、この程度で身を投げ出す考えは無く、その線引きは出来ている。全てを救いたいのは願いであるが、現実的ではないのだ。

ヴォルフたちはボア狙いだったようで、レッドたちにいくらかの手傷を負わされると、森へと引き返していった。レッドたちが簡単には倒せない相手と理解したのもあったのだろう。
「あ~、無駄に疲れた……」
この無駄というのは稼ぎにならなかったという意味であり、リベルテは、お疲れ様とだけ声をかける。
「一応、ギルドに報告だけはしないとだな」
ヴォルフ数匹に襲われたと言うことを共有しておかないと、ギルドから他の人たちに周知されない。そうなっては、何も知らない人が無警戒で森に行ってしまうかもしれないのだ。
腕の立つ者たちは、アクネシア寄りの林に出払っている。
以前にリベルテとマイが襲われた、異形のモンスターを相手にするためである。
あれから、少数ではあるが何度かそのモンスターと戦っているそうで、報酬は他のモンスターより高いが死骸の買取は無く、腕に覚えがある者でなければ損をする、との話となって覚えのある人たちが向かってしまったのだ。
損しなかったとなれば腕自慢になるし、そのモンスターに返り討ちにあった人も少なくないのもまた、腕自慢の要因となってしまっている。

「世の中、良いもんにならないもんだな……」
疲れた時には考えは極端になったり、悲観的なものになりやすいもので、レッドはボアに手こずった上に、倒したボアはヴォルフに持っていかれたことに落ち込んでいた。
だが、キノコ採取の報告で、リベルテがトラッフルと言う滅多に見つからないとされる珍しいキノコを採っていて、報酬の上乗せがかなりの額となったのである。
通常のキノコ採取の報酬よりお金を稼げたことで、二人は酒場で上機嫌に酒を飲む。
「今日は良い日だな!」
終わり良ければ良い日だと言うレッドに、リベルテも苦笑しつつワインを飲み続けるのだった。
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