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ウルクまでの長旅は、快適とは言えないが悪くはなかった。
それと言うのも、通常の旅路に比べれば、食事事情がかなり良いものになっているからだ。
「カロタはまだまだ大丈夫ですね。こちらのメーラは……、少し傷み始めているかもしれませんね。あ~、こっちのパタタは芽が出てきてしまっています。芽を取って、その周囲も切りとれば、まだ食べられそうなところがありますね。早く食べないと……」
リベルテが食材の状態を確認しながら、ナイフで刻んでいく。
タンッタンッという音がリズム良くて、どこか心地よく聞こえてくる。変わった料理であったり、特別な料理ではないのだが、レッドは料理に期待を寄せてしまう。
「ふむ……。効力が切れてしまったのか、ただの箱でしかないものが出てきてしまいましたなぁ。そこまで悪路を走ってきてはいないのですがね……。瓶や壺のように割れたりはしないので、箱として使えるとは言えますが、心許ない耐久力ですな」
ラングが、機能しなくなってただの箱となった魔道具を検分していく。
ラングの横では、レッドが機能しなくなった箱から食材を取り出して、まだ機能している箱に中身を移していた。
「これは……。リベルテ、これも使っちまえるか? これも長く持ちそうにない」
レッドが生肉をリベルテに投げ渡す。
「ちょっとっ! 危ないですね。食べ物を粗末にしないでください。……確かに早めに使ってしまったほうが良さそうですね。……ただお肉が食べたかったと言うわけでは無かったのですね」
突然、肉を投げ渡されたことにリベルテは怒りはしたが、受け取った肉の状態を確認して、レッドに笑いかける。
対象のお肉は、ササッと刻まれて鍋に投入されていった。
「野営で食べ物を粗末になんてするバカはいねぇよ、……ったく」
野営では、限りある食料から、日数を考えながら食べていくのだ。
近くに人が生活している場所でも無ければ、周囲の森や林に入ってを食べられる物を探して、採ってくるか狩ってくるしないと補充できない。
それも、探してくると言うのは本当に手に入るか不確かであり、運が悪ければ何も手に入らないこともあるのだ。
大抵は、遠すぎない距離に村や町が存在しているのだが、人が住める土地で無かったり、移住できるだけの人が居なければ、村や町は作られない。
今回であれば、ウルクからアーキ村の間に村などは無い。この間の道中は、近くで食べられる物が取れなければ、積んできた荷物から次の村や町などへの日数を考えて、消費していかなくてはいけないのだ。
レッドが言うとおり、貴重な食料を粗末にするなど、そんな余裕があるはずもない。
食べ物を粗末に出来るような生活を送れる人は、冒険者などになっているはずもないのである。
ウルクとアーキ村の間が離れすぎているため、この間にもう一つ村や町が作られても良いのであるが、今のオルグラント王国にはそのような動きは無い。
王都では、先にあった戦争で多くの兵が亡くなっているし、アクネシア側には異形のモンスターが出没するようになり、警戒にあたっている兵や依頼で出かける冒険者にも犠牲者が出始めているのだ。
それだけでは無く、ファルケン伯領のハーバランドでは、まだまだ農地に出来る土地があるし、アクネシアへの備えのために兵を増強しているらしく、移住に送れるほどの人手はないのである。
ただ、グーリンデとは同盟が結ばれたため、これから先、モデーロ候領のシュルバーンから人を送り出せるようになるかもしれないが、城から支援が無ければ、実際に村を興すのも簡単ではないだろう。
「出来ましたよ」
リベルテから声がかかり、レッドとラングは手を止めて焚き火に向かう。
焚き火の周りに、手ごろな木や岩があれば置いて座るのだ。今回で言えば、商人のラングがいるため、折りたためる椅子を持ってきていた。
レッドたちはラングに礼を言って、椅子に腰掛ける。持ち運べるように作られているため、少しすわり心地が悪かった。
火にかけられている鍋が、ふつふつと温かい湯気を立ち上らせている。
「いやぁ、今日も美味しそうですな!」
ラングはリベルテにがり分けた器を笑顔で受け取る。
リベルテの料理の腕は悪くなく、確かに美味いのであるが、如何せん、野営では作れる料理は限られてしまうものである。
使える食材は制限されるし、足りないとか無いからと言って買ってくることなど出来ないのだから、熾した火に掛けるだけの鍋しか無いのである。
ラングの言葉は嬉しいが、リベルテとしては作れる種類の無さに申し訳なさを感じていた。
「この時期には本当にありがたいよな……」
山に近いシュルバーンに向かうより寒くは無いが、全く寒くないと言うわけではない。
だからこそ、温かい物と言うのが、それだけでありがたいし、美味しい物になるのだ。
「そうですねぇ……。ウルクまでとなると、持ち運べるのは塩漬けにした干し肉や堅く焼いたパン……くらいになってしまいますからね。そうして見ると、今回は贅沢な旅です。ラングさん、ありがとうございます」
「いえいえ。こちらも仕事ですし、依頼したとは言え、こうして料理も作っていただけるのですから、こちらこそ感謝しております。私だけでは、食材を積んでてもマシな料理は出来ませんのでねぇ」
行商から始め、王都から村と町を行き来することが多いラングであれば、なかなか料理をする機会など持てないものだろうし、そもそも自分で作ろうとも考えなかったのだと思われた。
料理に必要な道具や食材を積むくらいなら、運ぶ荷を増やした方が苦労に見合う利を得られると考えるのが商人なのである。
そんな利だけを考える商人であるためか、他者の苦労も考えられる商人は多くは無かったりする。
だからこそ、冒険者相手にも見下したり軽んじることなく接してくれるラングは、冒険者であるレッドたちにとって、信頼できる商人として人気があった。
「新しい魔道具はどうですか? 今回の旅の目的の一つが、あれらの確認なんですよね?」
レッドが長旅でも明るく振舞ってくれるラングに感謝しながら、食事中の話題にと話を振る。
こういった長めの旅において、寡黙になってしまうのは良いことではない。
一人であれば仕方が無いが、同行者が居るのに黙ってしまうのは、雰囲気を暗くするだけである。
辺りの警戒と言うのもあるので、五月蝿いと言うのは論外であるが、旅は体力だけでなく、気持ちも消費されていく。せめて気持ちは明るくしていかないと、気持ちが先に参ってしまいかねないのだ。
「そうですなぁ。思っていたよりは、耐久性が低いと言ったところですね。これはもう少し改良いただけることを願うばかりですよ。ウルクの港から海の物を王都に運ぼうと考えていたのですが、持ち帰れそうな数が減ってしまいました。……これは見込みが甘かったですな」
笑っていうラングであるが、魔道具で状態を保ったまま運べないだけで、干物やウルクで作られている日持ちするものや道具などを、積んで持ち帰えれば利は上げられるのはずなのだ。
ラングの話は、あわよくばの話で言っているだけであるのがわかる。
ここでも、ラングは努めて明るく言ってくれているのがわかり、好感がもてるのである。
「海の物を食べられる状態で運べれば、王都ではすごいことになるでしょうね」
リベルテは以前にウルクに行った際に食べた料理を思い出して、王都でも食べられるようになればと、思いを馳せてしまう。
「王都じゃ、干物か塩漬けされたもんくらいだからな。美味いが、前にウルクで食ったものとは違うよなぁ」
ウルクについて、レッドにはあまり良い思い出は無いのだが、美味しかった物は覚えている。
リベルテだけでなく、レッドもウルクで食べた魚の味と言う、食べ物について思い出していた。
ただ魚を焼いただけのものであったが、とにかく脂が乗っていて美味しかったのだ。
ウルクに向かった人は必ず食べて驚くと言われているが、海が近くになければ食べられない脂の乗りであり、食べて驚くのも当然なものであった。
「本当にそう出来れば、王都の食事にかなりの変化が出ますなぁ。国はそれも考えているからこそ、この魔道具に目をつけ、力を入れて作らせているのでしょうね。そう思うと、これを考えた方は凄い方です。この他にも、と期待してしまいますな」
今まで出来ないとして諦めていたことが出来るようになったり、変わらないと思っていたことが変われば、当然そこに利を得る機会が生まれてくる。
商人として願うことでもあるし、他の場所から食べ物を持ち運べるようになるというのは、食べられる物が増えると言うことであり、王都で暮らす者としても、願わずにいられない事だった。
しかし、レッドたちとしてもラングと同じ思いを持ってはいるのだが、その魔道具を作った者を知っているだけに、なんとも微妙な反応しかできなかった。
ハヤトは悪い人間では無いのかもしれないが、少ししか話をしていない中で、軽薄さが見え、信頼できる人間とは思えなかったのだ。
タカヒロやマイのように近くで、どんな人間であるのか見ていないと言うことはあるのだが、ハヤトは近くで一緒に生活したいとも、観察してみようとも考えたくない、と言うのがレッドの抱いている印象である。
初めてハヤトと会った時、ハヤトは身元が確かでない者たちが集まる区画にいた。
そんな場所に身を置きながら、ハヤトはその場所で作り出せるとは考えにくい魔道具を作り出していたのだ。
間違いなく『神の玩具』の力で作ったとしか考えられない。
どうやって作り出したのか、その力を分かっていないが、簡単に力を使って作り出した最初の物が、人の暮らしに役に立つと言うのは、どうしても裏を疑ってしまい、不安を覚えてしまうのだ。
そう、王都を支配する思惑でもあるのではないか、と。
例えば、便利な物を作り出せるだろうハヤトの力に、王国が依存するようになってしまったら、どうなってしまうだろうか。
便利な物を手に入れた時と言うのは、人はその道具に感動し、もうそれを手放すことは出来なくなるものである。
そうなれば、道具を作り出せるハヤトに何かあったり、気を損ねてしまえば、もう作り出してもらえない、などと言うことが考えられる。
人々の手に便利で手放せない物が手に入らなくなってしまえば、その原因を作り出すきっかけとなった者に害意が向けられてしまうだろう。それが城であったならどうなるか……。
『神の玩具』の怖さは、直接的な力だけでは無く、考えすぎかもしれないけれど、間接的なものもあるのかもしれないと、レッドは思わずにはいられなかった。
それからしばらくして、レッドたちは問題なくウルクに到着した。
着いたレッドたちは、早速とウルクで魚料理を食べに向かう。
この時期は寒さのため、魚も脂が乗っていると料理を売り込んでいた店に入ったのだが、言葉通り、とても美味しい魚であった。
ラングもこれはと魚を買い付けることを考え、状態を保つ魔道具に積めるだけ買い込んでいた。
しかし、半分は道中の食事となり、なんとか残った分は城や貴族、大商会へと運ばれることになるのである。
持ち帰れた中に自分の分が残らなかったラングは、大層気落ちしたそうだが、持ち込めた分の利益は大きかったようで、得た利益から魔法研究所に寄付したらしい。
魔道具の改善と早い実用化を願うもので、手に入れてまた買い付けに行くつもりなのだった。
ラングの依頼から戻ってきたレッドとリベルテは、ウルクまでの長旅であったのに、道中の食事事情の良さに加え、戻りの道でも美味い魚食べられた事で、良い仕事だったと良い笑顔でギルドに報告していた。
その結果、ギルマスをはじめ多くの冒険者から、しばらくの間、恨まれてしまうこととなる。
食べ物と言うのは、争いの種になるものであり、美味しい物であったならなおさら、口に出来なかった人たちから、恨みを買ってしまう物なのである。
それと言うのも、通常の旅路に比べれば、食事事情がかなり良いものになっているからだ。
「カロタはまだまだ大丈夫ですね。こちらのメーラは……、少し傷み始めているかもしれませんね。あ~、こっちのパタタは芽が出てきてしまっています。芽を取って、その周囲も切りとれば、まだ食べられそうなところがありますね。早く食べないと……」
リベルテが食材の状態を確認しながら、ナイフで刻んでいく。
タンッタンッという音がリズム良くて、どこか心地よく聞こえてくる。変わった料理であったり、特別な料理ではないのだが、レッドは料理に期待を寄せてしまう。
「ふむ……。効力が切れてしまったのか、ただの箱でしかないものが出てきてしまいましたなぁ。そこまで悪路を走ってきてはいないのですがね……。瓶や壺のように割れたりはしないので、箱として使えるとは言えますが、心許ない耐久力ですな」
ラングが、機能しなくなってただの箱となった魔道具を検分していく。
ラングの横では、レッドが機能しなくなった箱から食材を取り出して、まだ機能している箱に中身を移していた。
「これは……。リベルテ、これも使っちまえるか? これも長く持ちそうにない」
レッドが生肉をリベルテに投げ渡す。
「ちょっとっ! 危ないですね。食べ物を粗末にしないでください。……確かに早めに使ってしまったほうが良さそうですね。……ただお肉が食べたかったと言うわけでは無かったのですね」
突然、肉を投げ渡されたことにリベルテは怒りはしたが、受け取った肉の状態を確認して、レッドに笑いかける。
対象のお肉は、ササッと刻まれて鍋に投入されていった。
「野営で食べ物を粗末になんてするバカはいねぇよ、……ったく」
野営では、限りある食料から、日数を考えながら食べていくのだ。
近くに人が生活している場所でも無ければ、周囲の森や林に入ってを食べられる物を探して、採ってくるか狩ってくるしないと補充できない。
それも、探してくると言うのは本当に手に入るか不確かであり、運が悪ければ何も手に入らないこともあるのだ。
大抵は、遠すぎない距離に村や町が存在しているのだが、人が住める土地で無かったり、移住できるだけの人が居なければ、村や町は作られない。
今回であれば、ウルクからアーキ村の間に村などは無い。この間の道中は、近くで食べられる物が取れなければ、積んできた荷物から次の村や町などへの日数を考えて、消費していかなくてはいけないのだ。
レッドが言うとおり、貴重な食料を粗末にするなど、そんな余裕があるはずもない。
食べ物を粗末に出来るような生活を送れる人は、冒険者などになっているはずもないのである。
ウルクとアーキ村の間が離れすぎているため、この間にもう一つ村や町が作られても良いのであるが、今のオルグラント王国にはそのような動きは無い。
王都では、先にあった戦争で多くの兵が亡くなっているし、アクネシア側には異形のモンスターが出没するようになり、警戒にあたっている兵や依頼で出かける冒険者にも犠牲者が出始めているのだ。
それだけでは無く、ファルケン伯領のハーバランドでは、まだまだ農地に出来る土地があるし、アクネシアへの備えのために兵を増強しているらしく、移住に送れるほどの人手はないのである。
ただ、グーリンデとは同盟が結ばれたため、これから先、モデーロ候領のシュルバーンから人を送り出せるようになるかもしれないが、城から支援が無ければ、実際に村を興すのも簡単ではないだろう。
「出来ましたよ」
リベルテから声がかかり、レッドとラングは手を止めて焚き火に向かう。
焚き火の周りに、手ごろな木や岩があれば置いて座るのだ。今回で言えば、商人のラングがいるため、折りたためる椅子を持ってきていた。
レッドたちはラングに礼を言って、椅子に腰掛ける。持ち運べるように作られているため、少しすわり心地が悪かった。
火にかけられている鍋が、ふつふつと温かい湯気を立ち上らせている。
「いやぁ、今日も美味しそうですな!」
ラングはリベルテにがり分けた器を笑顔で受け取る。
リベルテの料理の腕は悪くなく、確かに美味いのであるが、如何せん、野営では作れる料理は限られてしまうものである。
使える食材は制限されるし、足りないとか無いからと言って買ってくることなど出来ないのだから、熾した火に掛けるだけの鍋しか無いのである。
ラングの言葉は嬉しいが、リベルテとしては作れる種類の無さに申し訳なさを感じていた。
「この時期には本当にありがたいよな……」
山に近いシュルバーンに向かうより寒くは無いが、全く寒くないと言うわけではない。
だからこそ、温かい物と言うのが、それだけでありがたいし、美味しい物になるのだ。
「そうですねぇ……。ウルクまでとなると、持ち運べるのは塩漬けにした干し肉や堅く焼いたパン……くらいになってしまいますからね。そうして見ると、今回は贅沢な旅です。ラングさん、ありがとうございます」
「いえいえ。こちらも仕事ですし、依頼したとは言え、こうして料理も作っていただけるのですから、こちらこそ感謝しております。私だけでは、食材を積んでてもマシな料理は出来ませんのでねぇ」
行商から始め、王都から村と町を行き来することが多いラングであれば、なかなか料理をする機会など持てないものだろうし、そもそも自分で作ろうとも考えなかったのだと思われた。
料理に必要な道具や食材を積むくらいなら、運ぶ荷を増やした方が苦労に見合う利を得られると考えるのが商人なのである。
そんな利だけを考える商人であるためか、他者の苦労も考えられる商人は多くは無かったりする。
だからこそ、冒険者相手にも見下したり軽んじることなく接してくれるラングは、冒険者であるレッドたちにとって、信頼できる商人として人気があった。
「新しい魔道具はどうですか? 今回の旅の目的の一つが、あれらの確認なんですよね?」
レッドが長旅でも明るく振舞ってくれるラングに感謝しながら、食事中の話題にと話を振る。
こういった長めの旅において、寡黙になってしまうのは良いことではない。
一人であれば仕方が無いが、同行者が居るのに黙ってしまうのは、雰囲気を暗くするだけである。
辺りの警戒と言うのもあるので、五月蝿いと言うのは論外であるが、旅は体力だけでなく、気持ちも消費されていく。せめて気持ちは明るくしていかないと、気持ちが先に参ってしまいかねないのだ。
「そうですなぁ。思っていたよりは、耐久性が低いと言ったところですね。これはもう少し改良いただけることを願うばかりですよ。ウルクの港から海の物を王都に運ぼうと考えていたのですが、持ち帰れそうな数が減ってしまいました。……これは見込みが甘かったですな」
笑っていうラングであるが、魔道具で状態を保ったまま運べないだけで、干物やウルクで作られている日持ちするものや道具などを、積んで持ち帰えれば利は上げられるのはずなのだ。
ラングの話は、あわよくばの話で言っているだけであるのがわかる。
ここでも、ラングは努めて明るく言ってくれているのがわかり、好感がもてるのである。
「海の物を食べられる状態で運べれば、王都ではすごいことになるでしょうね」
リベルテは以前にウルクに行った際に食べた料理を思い出して、王都でも食べられるようになればと、思いを馳せてしまう。
「王都じゃ、干物か塩漬けされたもんくらいだからな。美味いが、前にウルクで食ったものとは違うよなぁ」
ウルクについて、レッドにはあまり良い思い出は無いのだが、美味しかった物は覚えている。
リベルテだけでなく、レッドもウルクで食べた魚の味と言う、食べ物について思い出していた。
ただ魚を焼いただけのものであったが、とにかく脂が乗っていて美味しかったのだ。
ウルクに向かった人は必ず食べて驚くと言われているが、海が近くになければ食べられない脂の乗りであり、食べて驚くのも当然なものであった。
「本当にそう出来れば、王都の食事にかなりの変化が出ますなぁ。国はそれも考えているからこそ、この魔道具に目をつけ、力を入れて作らせているのでしょうね。そう思うと、これを考えた方は凄い方です。この他にも、と期待してしまいますな」
今まで出来ないとして諦めていたことが出来るようになったり、変わらないと思っていたことが変われば、当然そこに利を得る機会が生まれてくる。
商人として願うことでもあるし、他の場所から食べ物を持ち運べるようになるというのは、食べられる物が増えると言うことであり、王都で暮らす者としても、願わずにいられない事だった。
しかし、レッドたちとしてもラングと同じ思いを持ってはいるのだが、その魔道具を作った者を知っているだけに、なんとも微妙な反応しかできなかった。
ハヤトは悪い人間では無いのかもしれないが、少ししか話をしていない中で、軽薄さが見え、信頼できる人間とは思えなかったのだ。
タカヒロやマイのように近くで、どんな人間であるのか見ていないと言うことはあるのだが、ハヤトは近くで一緒に生活したいとも、観察してみようとも考えたくない、と言うのがレッドの抱いている印象である。
初めてハヤトと会った時、ハヤトは身元が確かでない者たちが集まる区画にいた。
そんな場所に身を置きながら、ハヤトはその場所で作り出せるとは考えにくい魔道具を作り出していたのだ。
間違いなく『神の玩具』の力で作ったとしか考えられない。
どうやって作り出したのか、その力を分かっていないが、簡単に力を使って作り出した最初の物が、人の暮らしに役に立つと言うのは、どうしても裏を疑ってしまい、不安を覚えてしまうのだ。
そう、王都を支配する思惑でもあるのではないか、と。
例えば、便利な物を作り出せるだろうハヤトの力に、王国が依存するようになってしまったら、どうなってしまうだろうか。
便利な物を手に入れた時と言うのは、人はその道具に感動し、もうそれを手放すことは出来なくなるものである。
そうなれば、道具を作り出せるハヤトに何かあったり、気を損ねてしまえば、もう作り出してもらえない、などと言うことが考えられる。
人々の手に便利で手放せない物が手に入らなくなってしまえば、その原因を作り出すきっかけとなった者に害意が向けられてしまうだろう。それが城であったならどうなるか……。
『神の玩具』の怖さは、直接的な力だけでは無く、考えすぎかもしれないけれど、間接的なものもあるのかもしれないと、レッドは思わずにはいられなかった。
それからしばらくして、レッドたちは問題なくウルクに到着した。
着いたレッドたちは、早速とウルクで魚料理を食べに向かう。
この時期は寒さのため、魚も脂が乗っていると料理を売り込んでいた店に入ったのだが、言葉通り、とても美味しい魚であった。
ラングもこれはと魚を買い付けることを考え、状態を保つ魔道具に積めるだけ買い込んでいた。
しかし、半分は道中の食事となり、なんとか残った分は城や貴族、大商会へと運ばれることになるのである。
持ち帰れた中に自分の分が残らなかったラングは、大層気落ちしたそうだが、持ち込めた分の利益は大きかったようで、得た利益から魔法研究所に寄付したらしい。
魔道具の改善と早い実用化を願うもので、手に入れてまた買い付けに行くつもりなのだった。
ラングの依頼から戻ってきたレッドとリベルテは、ウルクまでの長旅であったのに、道中の食事事情の良さに加え、戻りの道でも美味い魚食べられた事で、良い仕事だったと良い笑顔でギルドに報告していた。
その結果、ギルマスをはじめ多くの冒険者から、しばらくの間、恨まれてしまうこととなる。
食べ物と言うのは、争いの種になるものであり、美味しい物であったならなおさら、口に出来なかった人たちから、恨みを買ってしまう物なのである。
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