王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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今年は多くの人にとってありがたいことに、雪が降り積もることは無く、年の瀬を迎えていた。
「なんかあっと言う間でしたね~」
マイが自分で入れた薬草茶を飲みながら、ふぅっと息をつく。
騒乱の後は怪我をした人たちの治療に走り回り、レッドの毒の治療のために、ずっと調合を繰り返す日々を送っていたので、マイにするとあっと言う間に過ぎ去った一年に感じられたていた。

「そうか? 俺には長い時間だったよ……」
マイの言葉に、なんとも面白く無さそうに口を挟んだのはレッドであった。
体を思うように動かせいほど弱り、長いことベッドから動くことが出来ない日が続き、マイに薬を作ってもらい、やっと体を動かせるようになったと思ったら、寝たきりで弱った体が、以前のように動かせない現実を突きつけてきたのだ。
そこから、投げ出したくなってしまうほど訓練を続け、毒にやられる前までとは言わないが、リベルテの介助を借りなくても、一人で動けるようになってきたのが最近であれば、とても長い時間に感じられ、マイの感想には同意出来るものではなかった。

「本当に……。でも、ちゃんと新しい年を迎えられそうで、良かったです」
リベルテもここしばらくのことを思い出し、レッドに向ける目には、うっすらと涙が滲んでいる。
体が動かせないレッドにつきっきりで世話をして、動けるようになるまでを一番近くで見てきたリベルテにとっても、長い一年に感じられていた。
レッドが生きてくれていることだけでも嬉しくはあったけれど、もう以前のように一緒に仕事をすることも、歩くことも出来ない生活は、受け入れるには辛すぎる。
もしあのまま、レッドが寝たきりとなってしまったら、と考えたら不安で押しつぶされそうで、落ち着いて休むことも出来なかった日もあり、なおのこと、時間が過ぎるのが遅く感じられていたのだ。

王都は今、静かな夜を迎えている。
今年一年を近しい者達と振り返りながら、この一年を生きられたことをかみ締めるように、喜び合っていた。

「本当なら、新年祭をこれまでと変わらずに、迎えられていた人たちが居たのですよね」
リベルテが窓の外を見ながら、悲しそうな声で呟く。
キストが、『神の玩具』たちが騒乱を起こさなければ、失われなかった命は多い。
レッドもマイも、リベルテの言葉に何も言えなくて、同じようにただ、窓の外に目を向ける。
「また次の年も、皆でこうして迎えたいな」
「私もそう思います! あ、でも……、タカヒロ君がいないね」
沈んだ空気に耐えられず、レッドが口を開くと、マイが明るく返そうとして、すぐに沈んでしまった。
マイの視線の先の席は、一つだけ空いていた。
タカヒロは城勤めとなったことで、新年祭を城で迎えることとなったのだ。
新参であり、位も低いため、ここ最近は新年祭の準備の雑用に追われているらしく、今朝も城に行きたくない、と嘆きながら馬車に揺られて城へ向かっていたくらいだ。

「あっちは、こっちみたいに出店とかを出すような祝い方じゃないからな。いろいろと、決まりごとや作法があって、面倒で堅苦しいだけだろうな」
「城の方も、あの騒乱に関与していた人や巻き込まれた方が居たそうですからね。手が足りなくなった分、タカヒロさんがこき使われるのでしょう。……帰ってきたら、ゆっくりさせてあげないといけませんね」
少しずつ人が動き始め、なるべく声を落として準備に取り掛かる人たちが窓から見えてくる。
静かな時間の終わりを告げ、新しい年を迎える教会の鐘が、ゆっくりと鳴り響いた。

「うう……。なんで城に勤めるようになって、あれこれと資料を眺める日々を送ることになって、さらにこんな雑用に駆りだされなきゃならないんだ……」
タカヒロは城の中を動き回っていた。
タカヒロだけでなく、城の文官たちが、あちらこちらと動き回って指示を出しては、物を運んだり動かしたりしていく。
新年の儀を迎えるための準備で、大忙しとなっていたのだ。
先の騒乱で宰相に仕えていた人たちにも連座で処罰された人たちがおり、城の文官などの数が減ってしまったことが原因となっている。
以前の宰相が高齢のため引退されたにも関わらず、他に宰相を勤められそうな人選が出来ていなく、早急に今の国を立て直すために動ける人をと、連れ出されている。
その老宰相とともに引退した人たちも駆りだされたことで、今くらいで済んでいるらしい。
この方たちも居なければ、タカヒロたちはもっと大変なことになっていたかもしれないのだが、今でも忙しいため、感謝する余裕などどこにもなかった。

玉座の間の準備は終わったらしく、今度は、広間で行われる新年の宴の準備にタカヒロは連れ出されていた。
魔法使いとして魔法の研究をしていれば良いのだと考えていたが、こういった催しは他と変わらずに参加しなくてはいけないらしく、カーマインの無慈悲な命令によって、タカヒロは生贄のごとく、こうして準備に借り出されてしまっていたのだ。
「え~っと、机はこれで全部……と。後は飾りか。料理とか食べられるのかな?」
城で出される食事なのだから、きっと良いものなんだろうと考えて突っ立っていると、すぐ近くを文官たちが駆け去っていく。
「うわっ! ……そうだった。ここに立ってたら邪魔だよね。……あ~、これ残業代とかでるのか?」
黙って作業するには辛すぎて、愚痴を言いながら作業に戻る。
周りもタカヒロの愚痴に文句は言わない。
彼らもここまで忙しいとは思っていなかったようで、ここまで忙しいなら手当てくらいは欲しい、と口には出さずとも願って止まない状況だからであった。

準備が終わり、別室で文官たちを含め、タカヒロは力尽きていた。
「あ~、疲れた……。なんとか間に合った。後は料理人たちが大変な状況になるのか。って僕らは相伴に預かれるの?」
チラッと周りに目を向けるが、誰も頷いてはくれない。逆に、虚ろな目を向けられるだけだった。
「……ですよね~。あの場所で食べたり飲んだりするのって、貴族だけだよね……」
そこにドアが開き、料理と酒が運ばれてくる。
「お疲れ様でした。あちらと同じとまではいきませんが、皆さんの分です」
料理とお酒が運ばれてきて、倒れていた人たちが元気良く起き上がる。
「ほらほら、そこどけ。それはそっちのテーブルに置け」
「あ~、酒はこっちにしようぜ」
「おい! 一人で飲むなよ」
「あまり騒ぐと、兵士が来ますよ」
動き回ってお腹も空いているし、近くで宴が催されるのだから、こちらも飲まないとやってられない。
タカヒロも持ち込まれたお酒と料理に飛びついていく。
皆が群がる中か、城にも教会の鐘の音が聞こえてきた。

鐘の音が数度鳴り響き、人々が歓声を上げて夜道に出てくる。
新年を祝う祭りが始まったのだ。
「それじゃ行くか」
レッドがゆっくりと、壁に手をつかずに外へと出る。
歩けるまでに回復したことはわかっていても、リベルテはレッドの後ろをついていくように歩く。
後ろからなら、何か遭ったときにすぐ気づいて動けるためだ。
「おい。そんな心配するくらいなら、後ろじゃなくて隣にきてくれよ」
レッドにまっすぐと顔を向けながら言われ、リベルテは少し逡巡した後、ゆっくりとレッドの側に寄る。
「ちょっと~。私も居るんですけど! ……まぁ、いいんですけどね。今日は相手が居ないので、お願いしますねっ!」
リベルテの反対側のレッドの腕を取る。
左右から女性に抱きつかれている状態で、端から見れば羨ましそうに見える……状態でもなかった。
二人がレッドを支えるように気遣っているからである。
「おい……。俺が動き辛い……っていうか、介護状態じゃねぇかっ!」
「間違っては……無いですよね?」
「必要だよね?」
レッドが倒れないようにと、二人掛りで支えるように手を引かれる状態に、レッドは二人の手を振り払おうとするも、二人を払えるほどの力はまだ戻っていなく、逆に押さえ込まれる始末だった。

「……はぁ、もういいわ。ちょっと飲み物と食い物買ったら、城に向かうか。王の宣言とか、お言葉があるらしいからな」
「新しい宰相の任命でしょうか? さすがに引退された方をこのままずっと継続していただくわけにもいかないでしょうからね。あれ以上を望むのも、あの方々には酷でしょうし」
「結構なご年齢なんですよね? 引退されたのにまた引っ張り出して酷使させるって、酷すぎませんか?」
「……そう言うな。城も十分に人が居る状態じゃないんだろ」

レッドたちが城の方面に向かった頃には、すでに多くの人が集まっていて、ここからでは王が出てきたとしても、顔すら分かりそうになかった。
「何言ってるのかも、よく聞こえないな……」
「なんとか近くに向かってみますか?」
「タカヒロ君が見えたりしないかな?」
「さすがに、タカヒロが顔見せすることはないだろうよ。将来はわからんがな」
人々の賑やかな喧騒に声が聞こえないので、なるべく近くに顔を寄せて話しつつ、人混みの中をなんとか押しのけるよう歩いていく。
ただ人の集まりは多く、押しのけ切れなく、諦めて人混みを避けるようにして、城の近くへと進む。

城に近づくと、すでに話が始まっていたおり、どういう話だったのかもうわからないが、周囲の声を聞く限り、どうやら新たな宰相や騎士団長たちがお披露目されていたらしい。
「間に合わなかったか?」
「名前などは後々でもわかりますが、顔を見れる機会はなかなか無いので、残念ですね」
顔を見たから何かあるわけではないのだが、こういう機会でもないと顔を拝見出来ることなど無い。
それに突発的に何かあった場合に、相手の顔がわかっているのとわかっていないのでは、大きく動きが変わってしまう。
レッドたちはそれを残念がっていた。
「あれ? レッドさんたち、ここまで来てたんですか?」
この人混みの中を帰る気になれず、かと言って、この人混みの中に入る気も無いタカヒロは城前の広場の端っこに居たらしい。
人混みを押しのけてようとして押し切れず、避けるようにしてきた結果、タカヒロが陣取っていた場所近くにレッドたちはきていたらしかった。

「おまえ……こんなところに居たのか? 城に居なくていいのか?」
「僕の仕事はもう終わりましたよ。ただ、あれを見て帰るに帰れなかっただけです」
タカヒロが指を向けた先には、王や新たな宰相たちの顔を見ようと押しかけてきた人たちが未収していた。
つい先ほど、レッドたちも押しのけきれず、負けてきた相手である。
タカヒロの言いたいことがわかり、レッドたちも肩を竦めるしかなかった。

すでに新しい宰相と騎士団長のお披露目が終わろうとしていたため、もう終わりだとレッドたちが考えていると、また一人、紹介されて姿を見せた。
その姿を見て、レッドとタカヒロが「はあっ!?」と声を揃える。
老宰相の養女として、アンリが紹介されたためであった。
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