王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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陽が昇り、まだ賑やかさの続く外を眺め、レッドたちは深刻そうに向き合っていた。
「あれは……どういうことなんだ?」
黙っていても始まらなく、分かっていることから確認していくしかない。
「え~と、アンリさんが宰相さんの養女となったんですよね? びっくりですよね」
「……驚きましたけど、そんなに簡単に言って終われる話ではありませんよ」
マイの気楽そうな言葉に、リベルテが額に手を当てつつ嗜める。
「普通、平民が貴族の養女となることはありません。それは貴族としての体面に瑕疵をつけることに他なりません。あったとしても、何かしらの事情で捨てざるを得なかったけれど、状況が変わって引き取れるようになった、と言うような場合でしょうか? それであっても対面的に良い話ではありませんし、養女という話ではありませんね」
「え~と、結局どういうことなんですか?」
「タカヒロ、ファルケン伯が王とこの手の話をしていたとか、聞いたことは無いか?」
マイの言葉を無視して、この中で唯一、城勤めであるタカヒロに訪ねてみるるが、タカヒロは首を横に振る。

「僕は下っ端ですからねぇ。王様にお目通りするようなことは、ほとんどありませんよ。前に城に来てましたから、そこで何かしらの話があったのかもしれませんね」
「ファルケン伯しかないだろうが、それにしても、年齢がな……。あ~、ファルケン伯の娘じゃなくて親族ってところか?」
「え? アンリさんてファルケン伯爵の親族だったんですか?」
タカヒロを含め、皆がマイにじとっとした目を向ける。
「え? え?」
本当にわかっていないようで、タカヒロがため息を漏らす。
「あの人、僕が向こうで知ってる人だって言ったよね?」
「うん、そうだね。あれ? あっちでも良い所の人だった?」
処置なしとタカヒロは首を振って、レッドたちの方に向き直る。放置することにしたらしい。
「それだけ功績を重く見たのでしょうか?」
「未来が分かるなら、今の国にとっては何よりも欲しい力かもしれないな。帝国の行動からすべて何も分からなくて、後手に回った結果があの騒乱だからな。かなり国の力を落としてたって、言えるだろうな」
長年の敵であったグーリンデとは国交が開かれるようになったが、帝国との一戦で多くの兵を失い、そこからさらにアクネシアからのモンスターによって疲弊させられ、先の騒乱で王都で被害を受けたのだ。
これから先に対応していくためには、未来が分かると言う力が本当であれば、飛びつきたいのはよくわかるものである。

「文官だとかそんなので城に勤めるってならともかく、貴族として城に居るんじゃ変わってくるな」
「彼女も貴族となって何をしたいのでしょうか? いくら国から要望があったとしても、いきなり身分の違う家の養女になるのは、相当な苦労が伴いますよ?」
「そんなに大変なんですか?」
リベルテが思いつく限りと、指を折りながら挙げていく。
「貴族と言う体面を重視する身分になりますから、礼儀作法は徹底されますし、国に使える貴族と言うことで、この国について知っていなければならないことが多くあります。他の貴族の方々への面通しもありますし、貴族はよくお茶会と言うのを開くそうですが、気楽にお茶を飲む催しではないらしいですし……」
マイがあまりの堅苦しさと大変さに、げんなりとした表情になる。
側で聞かされていたタカヒロは、下っ端でよかったと胸を撫で下ろしていた。

「自身の先もわかっていたなら、最初から準備とかしてたかもな」
「貴族になるために、ファルケン伯に寄っていた、と言う線はありそうですね」
先を見据えた行動をする、と言うのは実行できれば素晴らしいものであるが、それが何のためかによって、だいぶ意味が違ってしまう。
就きたい職を目指して努力したと言うことであれば、その努力は称賛されるべきものとなるが、誰かに復讐するために努力したと言うことであれば、それ称賛されるものにはならないだろう。
ただ先が分かるだけで、権力など何も持たないままであれば、直接的な被害も無く、警戒する必要もなかったかもしれないが、宰相の養女となれば権力や権威と言う物が付属することになる。
そうなってしまえば、未来が分かる分、奮える力が広がることになり、警戒せざるを得なくなる。

そして、これまでの『神の玩具』のあり様からすれば、考えられる所は……。
そっとタカヒロが手を上げると、皆がタカヒロに注目する。
「たぶんですけど……。彼女の目的と言うか、やりたいことってわかると思います」
「彼女は一体、何をしたいと願っているのですか!?」
「あいつが何をやろうとしているか、わかるのか!?
先が分かるとする者が何を見、目指して動いているかがわかる、と言うのはその力を持つ者と同じ力を持っている、と言えるほどである。
もうこれでは、誰がどこまで先がわかるのかが、わからなくなりそうなほどに。

レッドたちの勢いに押されながらも、たぶんですよ、と強調した上でタカヒロは自身の考えを述べる。
「一番は王子と結婚すること、かなと。他は、新しい宰相か、騎士団長だとか、そういった人たちの相手になることだと」
「あ~、なんか、ちょっとわかるかも!」
今まで良く分かっていなかったマイがわかる、と口にする。
逆に、レッドたちは意味が分からなく、固まるしかなかった。

「あ~……、どういうことだ?」
「……玉の輿を目指している、と言うことでしょうか?」
かろうじて、リベルテが思い当たりそうな言葉を口にすれば、タカヒロたちが頷き、リベルテは頭を抱えた。
「いや、待ってくれ。今の王子は、まだ子どもだったはずだぞ? いくらなんでも結婚を、だなんて無理な話だ。お前たちと同じくらいの年齢だったよな?」
「まぁ……。なら、新しい宰相か騎士団長ですかね? あのお二人も、若いですよね?」
レッドはわからなくて、リベルテの方を見る。
「私も新しく任命された方々の情報を持ってませんよ。ずっと家に居たのですから」
じろっと目を向け返されて、レッドはサッと目をそらす。
自分のかけた迷惑を棚に上げてしまったことに、後悔していた。

「私たちは顔見れなかったからな~。タカヒロ君が若そうだったって言うなら、そうなんじゃないかな? そうなると、かなり格好良い男性なんだよね? 見たかったかも~。あ、そう言えば、今の王様もそんなに年じゃないよね? レッドさんより、少し上くらいですよね?」
「……それでも30代の後半に入ってる」
「それくらいなら、あり、かな?」
自分の話ではないのに、共感するように相手を吟味し始めるマイに、レッドとリベルテは完全に置いてきぼりだった。
「その……、マイさん? 新しい宰相や騎士団長の方、それと王のお相手となりたいと動いていたとして、それからどうするのですか?」
「どうするって?」
きょとんとして言葉を繰り返す。
「いえ……、例えば、騎士団をまとめる長となった方の妻となって、どうしたいのかな、と。そう言った立場の妻となれば、相応にやらなければならないことや負わなければいけないことなど、出てきてしまいますから」

「えぇーー!? そんなに面倒なものなんですか? なんか良い所の奥さんとして、ゆったりとして煌びやかな生活を送れたりしないんですか?」
「むしろ、何故そんな考えに? それだけの地位に居る方であれば、それを支えるためにやらなければいけないことは多いものですよ」
リベルテが呆れたように答えると、マイは不平こそ口にするものの、そうだよね、とゆっくりと背もたれに寄りかかった。
「やっぱり、そんな甘い話じゃないよね。物語って良い所で終わって、その後についてなんて、一切無いからねぇ」
「実際にあったら、あの後ってこうドロドロした話が進むか、これまでの雰囲気が無くなって、仕事を送る地味でつまらない日々ばかりになりそうだよ。やっぱり、そんなもんでしょ」
マイは、その先が煌びやかな物では無さそうだと分かっていると口にする。
分かっていて、何故先ほどは違うことを言っていたのか、リベルテにはわからなくなる。
ふと視線をずらせば、マイの言葉に、タカヒロも共感していた。
どうしてかはわからないが、マイとタカヒロたちは、わかっていながら、有り得ない願望を口にしていた様子であった。

「……なぁ、それって誰かの妻となる所までは考えるが、その後は何も考えていない、てことで良いのか?」
レッドが恐る恐る訪ねると、これまたマイが頷き、タカヒロがたぶん、と答えた。
「最悪じゃねぇか……」
「地位が高い人のお相手になろうとしてますからね。実際にそうなった場合、その方がどうなるか……。外で苦労して内でも、ですからね」
「かと言って、この話こそ、外から口を挟める話じゃないよなぁ……」
ある意味、人を悪し様に言うことなのだ。
例え真実だとしても外部からの声では、聞こえないか、かえって反発を招くだけになってしまう。
結局、レッドたちに出来るのは、アンリについて情報は集めるだけと言うことになる。

騒ぎ続けた人たちが、そろそろ休みに入いるようで、騒がしくも賑やかな声が、少しずつその音を小さくしていく。
新たな年を祝い、騒いでいる人たちを、羨ましそうに眺めるくらいしか、今のレッドたちには出来なかった。
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