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メレーナ村を出て一泊野営をすると、モレクの町が見えてきた。
メレーナ村で一泊するより少しでも早くに進み、モレクの町へ向かう商人が多く、レッドたちがモレクに着いた時は陽が暮れ始めていたのだが、まだモレクに入る人の列が作られていた。
メレーナ村で一泊しないで進むことを選ぶ理由に、オルグラント王国の治安が比較的に良いとされていることがある。
モンスターが襲ってくることはあるかもしれないが、その多くは冒険者が依頼で討伐したり、兵が訓練の一環で討伐したり、追い散らしたりしているし、他の国との国境沿いには関や砦が造られている。
そのため、他の国からの賊は、そう簡単に入ってこれないようになっているし、オルグラント王国において、人から奪って生活する、賊となって生きていこうとする者が少ないことも理由にあった。
元々、列を成しやすいものであったが、ここまで列が続いていることに、並んだレッドは呆れたような声を出すだけだった。
長く掛かるかと思われていたが、列は順調に進んで行き、レッドたちも日が沈んで少し暗くなったくらいには、町の中へと入ることが出来た。
「早いとこ宿見つけないと、だな。少し遅くなってるから、空いてる宿が無いかもしれん」
「それは困る! やっぱりちゃんとした所で寝たい!」
王都からモレク、ハーバランドへ向かう流れと、ハーバランドから王都へ向かう流れが当然あるため、モレクの町には、多くの宿が存在している。
肥沃な土地が広がっている地域でもあるため農地も多いが、大きい街の中間近くにある町のため、交易の地としても発展しているのだ。
だからこそ、今の時間であっても人が多く賑わっていて、レッドたちのように今から宿を探す人たちはとても大変そうだった。
以前に、王都からハーバランドへの旅は経験しているのだが、薬師となってから遠出と言うのはあまりしなくなったため、マイは野営であまり休めていなく、宿でゆっくりと休みたがっていた。
マイよりも長く冒険者を続けていたはずのタカヒロも、野営では休めなかったらしく、同意するように頷いている。
「少し外れの方を探しましょうか。それか、中央付近の高めの宿を探すか、ですけど……」
手持ちのお金を気にして、リベルテの声の最後の方は尻すぼみとなる。
そして、皆が一斉にタカヒロに目を向けた。
今回の旅の決定権を持っているのは、依頼主であるタカヒロになる。
そのため、どこに泊まるのか、そしてその費用は何処から出すのかもタカヒロの腹積もり一つで決まるわけで、レッドたちは期待するような目で、雇い主であるタカヒロに目を向けたのだ。
「え……」
期待を込められた目を向けられ、タカヒロは気圧される。
街の外れの方にある宿と言うのは安いが、あまり質の良い宿では無いことがほとんどだ。
メインの通りからはずれるため、そちらの宿を目当てに向かってくる宿泊客は多くなく、リベルテが確実に泊まるならと口にしたのは、確実に空いているからと言うだけにすぎない。
第一、質が良くない宿と言うのは、寝床が不衛生だったりして、そこに身を置きたくないと思ってしまえることが多く、また、その宿の周辺に居たりする人たちは、柄が良い人達ではないのだ。
皆に気圧されたタカヒロは、視線をさ迷わせながら自分の皮袋に手を伸ばす。
城勤めであるため、レッドたちに比べればずっと稼ぎが良いのだ。
「レッドさんたちも、少しは出してくださいよ……」
ある程度の皮算用をした後、タカヒロは大きなため息とともに向かう宿を宣言する。
「やったぁ!!」
まだ空きがあると決まったわけではないのだが、町の中央辺りにある宿は質が良く、そして値段も高い。
そのため、宿の質に惹かれつつも泊まることを断念する人もまた多いため、空いている可能性が高いのである。
マイは意気込んで高めの宿に向かうものの、入った二件はすでに満員で泊まることが出来ず、そこからさらに数件満員のため入れないと言うことを続け、流れ着いたのは中央であっても少し外れにある宿だった。
それでも十分に外見は綺麗にされており、頭に浮かんでくる金額にタカヒロの足は怯えて震えていた。
「いらっしゃいませ。何名でしょうか?」
この時間でも汚れのない綺麗な服を着た女性が受付におり、タカヒロたちが入るなり声を掛けて来た。
「四名でお願いします。さすがに部屋を分けたりは……」
「申し訳ございません。四名様の部屋はすでに満員で空きが無く、空いている部屋となりますと二名様のお部屋、一室だけとなっております。予備のベッドがございますので、狭くなりますが寄せていただくことで、四名様がお泊りすることは可能ですが……、どうされますか?」
滑り込みで一室空いていたが、四名で泊まるには、と言う話だった。
さすがにここにたどり着くまでに入れなかった宿ばかりだったため、ここを出ても他に空きのある宿が見つかるとは考えにくかった。
タカヒロは、どうする? とばかりに後ろに顔を向けると、ベッドがあるならベッドで寝たい! と言う欲求が前面に出ているマイが視界を遮る勢いで近づいてくる。
タカヒロはレッドたちの意見も聞いておきたいと思いなんとか視線を動かすが、レッドとリベルテもマイの意見に反論する気は全くないようだった。
タカヒロは項垂れるように、受付の女性に同意を示す。
「……それで、お願いします」
「はい。それと、お食事は……」
「はいはいはい。食べます。またピザが食べたい!!」
受付の言葉に、食い気味でマイが手をあげて主張する。
同じく、夕飯は食べたいなと思いつつも、マイの主張の仕方に恥ずかしさを覚えたレッドは、上げかけた手で顔を押さえ、リベルテは小さくため息をついた。
「ふふ。わかりました。食事はあちらの席でお願いします。先にベッドをご用意させていただきますね」
「あ~、早くメシにしたいから手伝うよ。自分たちの寝床だしな」
部屋に備え付けられているベッドより幾分か簡素なベッドを、レッドと手伝いに借りだされたタカヒロが運び入れる。
それだけで部屋は、ベッドで埋め尽くされ、寝る以外に何か出来そうなスペースは無くなった。
寝る場所を用意した面々は、意気揚々と食事席に向かう。
やっとゆっくりと食事にありつけると言うことと、モレクでの食事が楽しみで仕方が無いと言う雰囲気だった。
特にマイは、鼻歌交じりでご機嫌であった。
「ずいぶんと機嫌がよくなったな」
「だって、楽しみじゃないですか!? ピザですよ? 美味しかったですよね~。それにさっきの部屋ですけど、ああいう風に皆が寄せ合って寝る感じも、なんだか楽しそうじゃないですか? こう、修学旅行っぽくて」
「シューガク……なんだって? まぁ、それが何か分からんが、野営とそう変わらないだろ。ピザは……楽しみではあるが、マイと同類っぽく見られるのは、なんか嫌で素直に喜べないな」
「ちょっと!! それどういう意味ですか! そんなこと言うなら、レッドさんはピザ食べたらだめですからねっ!」
「はいはい、騒がない。他の方々に迷惑になりますよ。もう休んでいる方もいるかもしれませんし」
リベルテの嗜めに、はぁ~い、と小さめの声で返事をするマイであったが、相変わらずの上機嫌さは抜けないままであった。
「ピザをお願いします!!」
席に着くなり、マイがピザを注文する。迷いが一切無かった。
「それは良いんだが、折角だ。他に食ってないのがあれば、それを頼んでみるのも良さそうじゃないか?」
「悩んで、時間をかけすぎないでくださいよ~。お腹すいてるんですから」
「ピザって作るのに、時間かかるんじゃ……」
タカヒロの呟きはマイに黙殺される。
お腹がすいており、食べたいと思っている物を食べたいと言う事に、時間のかかるとか、そんなつっこみを入れてはいけないのだ。
「サラダも食べておきたいですね。どうしても、旅の間に取る野菜は少なくなりますから」
「そうだな。状態を保つことが出来る魔道具は、まだまだ手に入れるには高いからなぁ。それに、壊れやすいって噂もまだ聞こえるし」
「たいてい、スープって早いですよね? いっぱい作ってるだろうし。僕はそっちにしてみます」
結局、モレク名物と言うことでピザを二つとサラダ、そしてワーテルゾーイと言う煮込み料理を頼む。
大方の予想通り、最初に出てきたのはサラダとワーテルゾーイだった。
「このサラダにもチーズが使われてるのですね」
「お~、これ結構な量だよ。鳥だと思うんだけど大きな肉だし。あ~、シチューっぽい」
「これパンに漬けて食べたいかも」
「言いながらパンに手が伸びてるぞ、おまえさんは……」
出てきた料理を賑やかに食べるレッドたちであったが、宿に泊まっている客はレッドたちだけではない。
他の客たちの声も聞こえてくる。
その声の多くは、この町への不満や愚痴であり、マイたちも少し眉をしかめてしまう。
楽しく食事をしていたのに、聞こえてくる不満や愚痴は、その楽しさを損なわせてしまうのだ。
「……なんか、ちょっと嫌な感じ」
「前はどこも楽しげだったよな? 騒乱の後を引いてるんだろうか」
食事に手を伸ばしつつ、レッドたちはついつい、耳を他の客たち向けてしまう。
やはり、騒乱で亡くなった人の話や商売に影響が出た話など、そういった生活に影響を受けたと言う話が所々で聞こえてくる。
「……これが仕事なのかなぁ? 他の場所で話を聞いてくるって」
「仕事内容の確認してないのですか?」
王都に篭りきっていては聞こえない話を聞いてくることが仕事かも、とスプーンを咥えながら言うタカヒロに、リベルテが呆れた声を返す。
そもそも、ハーバランドが目的地なのだから、道中の町などで話を聞いてくるなんて話はリベルテたちの仕事内容には無い。
もし、それが仕事に入っていたなら、メレーナ村にだってもう少し長く居ないと話など聞けるはずが無く、すでにミスをしてしまっていることになってしまうのだ。
それに、タカヒロの就いている仕事からも関係ないとも考えられる。
タカヒロは魔法を使える人から城勤めに勧誘されたのだから、道中で聞こえてくる話を集めて精査するなんて、どう考えても人選ミスに思えるのである。
本当に必要があるのであれば、せめて文官を同行させてくるはずであった。
リベルテの呆れた声に、タカヒロは身を小さくする。
「……あとで確認しておきます」
「最初からしとけよ」
レッドのつっこみに、まぐまぐとパンを頬張りながらマイも頷いてくる。
マイはタカヒロのうっかりさ加減に文句を言いたいようだが、食事より優先する気はないらしかった。
「はい、お待ち同様」
ふつふつとチーズが熱さを表している焼きたてのピザが、ダンッとテーブルに置かれる。
それまでのことを吹き飛ばして、レッドたちの目がピザに注目する。
「やっぱり、こいつは美味そうだよな」
「王都じゃまだ、お店も無いですからねぇ。自分で作るって言うのも無理ではないだろうけど、手間だし、材料も同じに出来ないし、揃えようとすると高くつきますよねぇ……」
「それはお店の秘伝、と言うのもありますからね。なんでも同じに作れたら、お店なんて存在できなくなってしまいますよ」
ここまで伸びるものかと言うくらいチーズを伸ばしながら、それぞれがピザを掴んでいく。
「あっつっ!」
「火傷しないでくださいよ。食べ物に慌てて手を伸ばして火傷って言うのは、ちょっと……」
「さすがに子どもっぽいですよね~。あつっ!」
「ん~、こういうのって、たま~に無性に食べたくなるんだよねぇ」
暗い話があってもやはり美味しい物を食べている時と言うのは、それらを吹き飛ばす力を持っている。
先ほどまで不満を言っていたと思われる客たちも、それぞれのテーブルにピザが置かれだすと、食事に手を伸ばして、エールを口にし、楽しそうにし始める。
これだけで、王都より明るさが広まっていけそうに思えてくる。
しかし、これは不満などを一時的に隠すだけでしかない。
いつまでも隠し続けたり、ずっと忘れ続けられるものではなく、それもまた、世の中である。
メレーナ村で一泊するより少しでも早くに進み、モレクの町へ向かう商人が多く、レッドたちがモレクに着いた時は陽が暮れ始めていたのだが、まだモレクに入る人の列が作られていた。
メレーナ村で一泊しないで進むことを選ぶ理由に、オルグラント王国の治安が比較的に良いとされていることがある。
モンスターが襲ってくることはあるかもしれないが、その多くは冒険者が依頼で討伐したり、兵が訓練の一環で討伐したり、追い散らしたりしているし、他の国との国境沿いには関や砦が造られている。
そのため、他の国からの賊は、そう簡単に入ってこれないようになっているし、オルグラント王国において、人から奪って生活する、賊となって生きていこうとする者が少ないことも理由にあった。
元々、列を成しやすいものであったが、ここまで列が続いていることに、並んだレッドは呆れたような声を出すだけだった。
長く掛かるかと思われていたが、列は順調に進んで行き、レッドたちも日が沈んで少し暗くなったくらいには、町の中へと入ることが出来た。
「早いとこ宿見つけないと、だな。少し遅くなってるから、空いてる宿が無いかもしれん」
「それは困る! やっぱりちゃんとした所で寝たい!」
王都からモレク、ハーバランドへ向かう流れと、ハーバランドから王都へ向かう流れが当然あるため、モレクの町には、多くの宿が存在している。
肥沃な土地が広がっている地域でもあるため農地も多いが、大きい街の中間近くにある町のため、交易の地としても発展しているのだ。
だからこそ、今の時間であっても人が多く賑わっていて、レッドたちのように今から宿を探す人たちはとても大変そうだった。
以前に、王都からハーバランドへの旅は経験しているのだが、薬師となってから遠出と言うのはあまりしなくなったため、マイは野営であまり休めていなく、宿でゆっくりと休みたがっていた。
マイよりも長く冒険者を続けていたはずのタカヒロも、野営では休めなかったらしく、同意するように頷いている。
「少し外れの方を探しましょうか。それか、中央付近の高めの宿を探すか、ですけど……」
手持ちのお金を気にして、リベルテの声の最後の方は尻すぼみとなる。
そして、皆が一斉にタカヒロに目を向けた。
今回の旅の決定権を持っているのは、依頼主であるタカヒロになる。
そのため、どこに泊まるのか、そしてその費用は何処から出すのかもタカヒロの腹積もり一つで決まるわけで、レッドたちは期待するような目で、雇い主であるタカヒロに目を向けたのだ。
「え……」
期待を込められた目を向けられ、タカヒロは気圧される。
街の外れの方にある宿と言うのは安いが、あまり質の良い宿では無いことがほとんどだ。
メインの通りからはずれるため、そちらの宿を目当てに向かってくる宿泊客は多くなく、リベルテが確実に泊まるならと口にしたのは、確実に空いているからと言うだけにすぎない。
第一、質が良くない宿と言うのは、寝床が不衛生だったりして、そこに身を置きたくないと思ってしまえることが多く、また、その宿の周辺に居たりする人たちは、柄が良い人達ではないのだ。
皆に気圧されたタカヒロは、視線をさ迷わせながら自分の皮袋に手を伸ばす。
城勤めであるため、レッドたちに比べればずっと稼ぎが良いのだ。
「レッドさんたちも、少しは出してくださいよ……」
ある程度の皮算用をした後、タカヒロは大きなため息とともに向かう宿を宣言する。
「やったぁ!!」
まだ空きがあると決まったわけではないのだが、町の中央辺りにある宿は質が良く、そして値段も高い。
そのため、宿の質に惹かれつつも泊まることを断念する人もまた多いため、空いている可能性が高いのである。
マイは意気込んで高めの宿に向かうものの、入った二件はすでに満員で泊まることが出来ず、そこからさらに数件満員のため入れないと言うことを続け、流れ着いたのは中央であっても少し外れにある宿だった。
それでも十分に外見は綺麗にされており、頭に浮かんでくる金額にタカヒロの足は怯えて震えていた。
「いらっしゃいませ。何名でしょうか?」
この時間でも汚れのない綺麗な服を着た女性が受付におり、タカヒロたちが入るなり声を掛けて来た。
「四名でお願いします。さすがに部屋を分けたりは……」
「申し訳ございません。四名様の部屋はすでに満員で空きが無く、空いている部屋となりますと二名様のお部屋、一室だけとなっております。予備のベッドがございますので、狭くなりますが寄せていただくことで、四名様がお泊りすることは可能ですが……、どうされますか?」
滑り込みで一室空いていたが、四名で泊まるには、と言う話だった。
さすがにここにたどり着くまでに入れなかった宿ばかりだったため、ここを出ても他に空きのある宿が見つかるとは考えにくかった。
タカヒロは、どうする? とばかりに後ろに顔を向けると、ベッドがあるならベッドで寝たい! と言う欲求が前面に出ているマイが視界を遮る勢いで近づいてくる。
タカヒロはレッドたちの意見も聞いておきたいと思いなんとか視線を動かすが、レッドとリベルテもマイの意見に反論する気は全くないようだった。
タカヒロは項垂れるように、受付の女性に同意を示す。
「……それで、お願いします」
「はい。それと、お食事は……」
「はいはいはい。食べます。またピザが食べたい!!」
受付の言葉に、食い気味でマイが手をあげて主張する。
同じく、夕飯は食べたいなと思いつつも、マイの主張の仕方に恥ずかしさを覚えたレッドは、上げかけた手で顔を押さえ、リベルテは小さくため息をついた。
「ふふ。わかりました。食事はあちらの席でお願いします。先にベッドをご用意させていただきますね」
「あ~、早くメシにしたいから手伝うよ。自分たちの寝床だしな」
部屋に備え付けられているベッドより幾分か簡素なベッドを、レッドと手伝いに借りだされたタカヒロが運び入れる。
それだけで部屋は、ベッドで埋め尽くされ、寝る以外に何か出来そうなスペースは無くなった。
寝る場所を用意した面々は、意気揚々と食事席に向かう。
やっとゆっくりと食事にありつけると言うことと、モレクでの食事が楽しみで仕方が無いと言う雰囲気だった。
特にマイは、鼻歌交じりでご機嫌であった。
「ずいぶんと機嫌がよくなったな」
「だって、楽しみじゃないですか!? ピザですよ? 美味しかったですよね~。それにさっきの部屋ですけど、ああいう風に皆が寄せ合って寝る感じも、なんだか楽しそうじゃないですか? こう、修学旅行っぽくて」
「シューガク……なんだって? まぁ、それが何か分からんが、野営とそう変わらないだろ。ピザは……楽しみではあるが、マイと同類っぽく見られるのは、なんか嫌で素直に喜べないな」
「ちょっと!! それどういう意味ですか! そんなこと言うなら、レッドさんはピザ食べたらだめですからねっ!」
「はいはい、騒がない。他の方々に迷惑になりますよ。もう休んでいる方もいるかもしれませんし」
リベルテの嗜めに、はぁ~い、と小さめの声で返事をするマイであったが、相変わらずの上機嫌さは抜けないままであった。
「ピザをお願いします!!」
席に着くなり、マイがピザを注文する。迷いが一切無かった。
「それは良いんだが、折角だ。他に食ってないのがあれば、それを頼んでみるのも良さそうじゃないか?」
「悩んで、時間をかけすぎないでくださいよ~。お腹すいてるんですから」
「ピザって作るのに、時間かかるんじゃ……」
タカヒロの呟きはマイに黙殺される。
お腹がすいており、食べたいと思っている物を食べたいと言う事に、時間のかかるとか、そんなつっこみを入れてはいけないのだ。
「サラダも食べておきたいですね。どうしても、旅の間に取る野菜は少なくなりますから」
「そうだな。状態を保つことが出来る魔道具は、まだまだ手に入れるには高いからなぁ。それに、壊れやすいって噂もまだ聞こえるし」
「たいてい、スープって早いですよね? いっぱい作ってるだろうし。僕はそっちにしてみます」
結局、モレク名物と言うことでピザを二つとサラダ、そしてワーテルゾーイと言う煮込み料理を頼む。
大方の予想通り、最初に出てきたのはサラダとワーテルゾーイだった。
「このサラダにもチーズが使われてるのですね」
「お~、これ結構な量だよ。鳥だと思うんだけど大きな肉だし。あ~、シチューっぽい」
「これパンに漬けて食べたいかも」
「言いながらパンに手が伸びてるぞ、おまえさんは……」
出てきた料理を賑やかに食べるレッドたちであったが、宿に泊まっている客はレッドたちだけではない。
他の客たちの声も聞こえてくる。
その声の多くは、この町への不満や愚痴であり、マイたちも少し眉をしかめてしまう。
楽しく食事をしていたのに、聞こえてくる不満や愚痴は、その楽しさを損なわせてしまうのだ。
「……なんか、ちょっと嫌な感じ」
「前はどこも楽しげだったよな? 騒乱の後を引いてるんだろうか」
食事に手を伸ばしつつ、レッドたちはついつい、耳を他の客たち向けてしまう。
やはり、騒乱で亡くなった人の話や商売に影響が出た話など、そういった生活に影響を受けたと言う話が所々で聞こえてくる。
「……これが仕事なのかなぁ? 他の場所で話を聞いてくるって」
「仕事内容の確認してないのですか?」
王都に篭りきっていては聞こえない話を聞いてくることが仕事かも、とスプーンを咥えながら言うタカヒロに、リベルテが呆れた声を返す。
そもそも、ハーバランドが目的地なのだから、道中の町などで話を聞いてくるなんて話はリベルテたちの仕事内容には無い。
もし、それが仕事に入っていたなら、メレーナ村にだってもう少し長く居ないと話など聞けるはずが無く、すでにミスをしてしまっていることになってしまうのだ。
それに、タカヒロの就いている仕事からも関係ないとも考えられる。
タカヒロは魔法を使える人から城勤めに勧誘されたのだから、道中で聞こえてくる話を集めて精査するなんて、どう考えても人選ミスに思えるのである。
本当に必要があるのであれば、せめて文官を同行させてくるはずであった。
リベルテの呆れた声に、タカヒロは身を小さくする。
「……あとで確認しておきます」
「最初からしとけよ」
レッドのつっこみに、まぐまぐとパンを頬張りながらマイも頷いてくる。
マイはタカヒロのうっかりさ加減に文句を言いたいようだが、食事より優先する気はないらしかった。
「はい、お待ち同様」
ふつふつとチーズが熱さを表している焼きたてのピザが、ダンッとテーブルに置かれる。
それまでのことを吹き飛ばして、レッドたちの目がピザに注目する。
「やっぱり、こいつは美味そうだよな」
「王都じゃまだ、お店も無いですからねぇ。自分で作るって言うのも無理ではないだろうけど、手間だし、材料も同じに出来ないし、揃えようとすると高くつきますよねぇ……」
「それはお店の秘伝、と言うのもありますからね。なんでも同じに作れたら、お店なんて存在できなくなってしまいますよ」
ここまで伸びるものかと言うくらいチーズを伸ばしながら、それぞれがピザを掴んでいく。
「あっつっ!」
「火傷しないでくださいよ。食べ物に慌てて手を伸ばして火傷って言うのは、ちょっと……」
「さすがに子どもっぽいですよね~。あつっ!」
「ん~、こういうのって、たま~に無性に食べたくなるんだよねぇ」
暗い話があってもやはり美味しい物を食べている時と言うのは、それらを吹き飛ばす力を持っている。
先ほどまで不満を言っていたと思われる客たちも、それぞれのテーブルにピザが置かれだすと、食事に手を伸ばして、エールを口にし、楽しそうにし始める。
これだけで、王都より明るさが広まっていけそうに思えてくる。
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