王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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モレクで一夜を明かしたレッドたちは、ハーバランドへ向かうために陽が昇ったくらいで宿を出て、レッドは道先でグイッと背伸びをして、町の様子に気付いたその動きを止めた。
昨日は陽が落ちてから町に入ったため、町の様子にはっきりと気付かなかったが、明るい朝となれば見える景色がはっきりとしていたのだ。

「人が多いですね……」
マイが少し眠そうなぽけぽけした感じの声を出す。
昨晩はベッドは別々だが揃って寝ると言う事で、寝る間際になっていろいろとくだらない話から愚痴、レッドとタカヒロはついていけなくなったが、恋話まで続けてられていたため、マイとリベルテは眠そうにしていた。
「人が多いのは、アクネシアから逃げてきた人たちを受け入れたからだろうが……」
レッドは言葉を止めて周囲を見回す。
大勢の人が、朝から仕事仲間や近所の人と賑やかに話をしている姿が目に入ってくる。
一見してごく普通の光景のはずなのに、どこか違和感を覚えてしまう景色だった。

「あ~、昨日の食事の所で聞こえてた話ですかねぇ?」
タカヒロが思い出したことを口にする。
レッドは改めて周囲に目を向けて、グループが出来ていることに気がついた。
より正確に言うと、輪に入れないように疎外している動きと、輪に入りたいが疎外されて入れない、という動きである。
「元アクネシアの人たちとオルグラントの人たち、ですね」
「なんか、感じ悪くないですか?」
マイが周囲に文句を言いそうなほど機嫌が悪くなる。
リベルテは慌ててマイの口を塞ぎ、少し静かにしましょうね、と押し聞かせ、マイは要約状況を理解したのか、コクコクと頷いていた。
レッドたちは周囲の視線から逃げるように馬車に乗り込み、ハーバランドへの道を進みだした。

「あんな町中で、変なこと言うな。こっちが危なくなる」
「うぅ……。ごめんなさい。……でも、ああやって排除してるのを見るって、気分悪くないですか?」
町を少し離れたのを確認してから、レッドがマイを軽く叱りつける。
しかし、マイはレッドに叱られて若干涙目になりながらも、それでも自分の意見は曲げない。
良くも悪くもマイはまっすぐな性格であるのだ。

「人が何事もなく手を取り合うと言うのは、難しいものなんですよ。マイさん」
リベルテが宥めるように言うが、そんな言葉では納得出来ていないのがよくわかるほど、マイの目は変わらない。
「例えばだ。新しく町とか……村を作るってなったら、すごく大変なことは、わかるか?」
さすがに想像はしやすいのか、マイがコクンと一つ頷く。
「土地を切り開いて畑を作って、それとともに住む場所を作って、守るために柵だとかも作らないとならないな。そういう時にオルグラントだけじゃなくアクネシアのやつらも一緒だったら、ともに同じ苦労をすることなるから、手を取り合えるだろう?」
何も無い所で争っても得られるものは何もない。
そして、お互いに住む場所であったり、日々の糧が得られ無い状態であれば、それらを手に入れられるように協力しあうことが出来るはずなのだ。

「だけどな、すでに村が出来てる所に、他の国のやつらが大勢でやってくるんだ。そこを作った人たちと同じように生活をさせられるか? 何も苦労をしてないやつらが、苦労して作ったものを、当たり前のように持っていったり、扱っったりするんだ」
マイは頷いてしまいそうになって、でも頷きたくないようで、うーと唸りだす。
「受け入れる場所がそれだけ広い懐を持ってなければ、もっと無理だよな? それに……、どうしてもアクネシアの人たちには、迷惑と言うか問題を引き起こした国の人間だって言う印象が拭えない。対帝国の時にアクネシアによって連合軍は崩れている。この時点で、アクネシアによって多くの兵が亡くなったと言えるんだ。それだけじゃなく、アクネシアに居たやつが呼んだモンスターによって、襲われた人たちも大勢居るからな。それより前でも、オルグラントの足を引っ張るってので、村を焼かれたり、殺された人たちもいたんだ。キストのせいで滅んで、こっちに命からがら逃げてきたことはわかっても、受け入れ切れない心が存在してしまうんだ」
もう遠い昔の話ではなく、アクネシアとは長く争い続けてきていたから、それで被害を受けたことがある人は多い。
マイは実際に経験していたわけではないし、ただレッドやリベルテが口にしたことがあるくらいの話を覚えては居なかった。
だから、もう一度、昔から争い続けていることを聞かされて、それに思い当たって項垂れる。
御者をしているタカヒロも自分に影響が無かったためか忘れていたようで、小さくなっていた。
タカヒロたちも、自分たちが居た元の世界で、そんな昔の話を今にも続いてしまう話を知ってはいたのだ。
だからこそ、そこに思い至らなかったことが恥ずかしく思えていた。

「モレクがあぁでは、ハーバランドも問題を抱えていそうですね」
「こればかりはな……。上が言ったからってどうにかなる話では無いからな。危ないかもな」
「でも、どうにか出来ないんですか?」
レッドとリベルテはモレクとハーバランドの将来に不安を寄せ合っていく。
その不穏さに我慢できなくて、タカヒロは縋るように口を挟む。
「……おまえたちの世界はどうだったんだ? 自分たちの国でも、町でもいい。そこに別の国の人が大勢入ってくることに、問題はなかったのか?」
タカヒロはじっと考えるようにしばし黙った後、口を開いた。

「……問題はなかったわけじゃないと思います。でも、他の国の人を受け入れたりはしていました。問題はあるかもしれないけど、ちゃんとやっていけるはずなんです」
「それは受け入れてから、どれくらい経っているんですか?」
「え? 僕がこっちに来た時はまだ……。本格的にはこれからって話でしたけど」
タカヒロの言葉に話にならないとため息をつき、軽く頭を振る二人。
「問題になるのは、そこから先になるだろうよ。モレクやハーバランドとおそらく同じだ」
どういうことかと、タカヒロはちらりとレッドたちに顔を向けるのだが、御者をしているため、すぐさま前に顔を戻した。

「受け入れてすぐに何かってことは、あまりないはずなんだ。最初にするのは、自分たちがそこで生活して行けるように大人しくしているはずだからな」
「自分たちの住む所、稼ぐ所、後は食べ物ですとか、そういうところですね。そして、それらが落ち着いてきたら、次は何をすると思いますか?」
リベルテは静かにこちらを見ていたマイに質問する。
聞くことにだけ集中していたのか、突然答えるように振られて、え? え? とマイは困惑していた。
ややあって、少し落ち着いたマイは結局、わからない、とつぶやいた。
若干、考えることを放棄したようにも思え、リベルテは苦笑するしかなかった。

「マイさんたちと同じ、似たようなことをし始めるものですよ」
「同じ?」
リベルテははっきりと頷く。
「自分たちの以前の生活を持ってこようとするのです。以前の生活が便利だったのであれば、今の生活は不便ですからね。同じ物を作り出そうとします。自分たちの国に居た頃では普通にあった物ですから、作り出すことに何の疑問も感じなかったり、作り出すことに問題が起きることなんて考えもしないでしょうね。
でも、違う国に住むのです。その国の決まりだとかが当然ありますし、先ほどのレッドの話のように、別の人が作り上げてきた中に入るのですから、何かにつけて疎外されているように感じてしまいやすいこともあるでしょうね」
「そうなったら、新しく入ってきた人たちは不満が溜まるよな? 同じように扱って欲しいと思うのは当然だし、不満が解消されずに溜まり続けていけば、暴動を起こしてもおかしくはない。元々住んでた人たちも同じだ。突然やって来たやつらを、苦労して作り上げた自分たちと同じように扱うなんて、面白くないと思うだろう。これまで何もしてない人たちが、その利益を当たり前のように取っていくんだからな。これはそうだな……。自分たちの国が、相手に侵略されたって考えるのが簡単だろうな」
レッドの言葉に、マイが反論する。
でも、その声は最初の頃より張りが無くなっていた。

「侵略なんてされてないじゃないですか……。ここに住んで欲しいって、受け入れたわけですし」
「住んで欲しいとしていたとしても、変えて欲しいなんて思ってはいないものですよ? 例えば、使ってもいいよと言ったからって、壊しても構わない、だなんて思わないものですよね」
「一人や二人とか、少ない数ならそう気にならないだろうが、それが大勢となれば、力を持っている。その力をどこまで認めて、どこまで認めないか。人はそういうもんで考えてしまうものなんだろうな」
レッドが遠くなったモレクの町の方に目を向ける。
モレクでオルグラントの人たちとアクネシアの人々がぶつかりだすまでに、どこまで折り合いがつけられるのか。
大きな火種にならないことを願うしかなかった。

「それじゃあ、もう別々に分かれるしか、ないんじゃないですか?」
マイはお互いにぶつかってしまうなら、ぶつからないように分かれてしまえば良いと、名案を思いついたとばかりに、嬉々として言い出したが、リベルテによって前のめりになった体を押さえられた。
「それでは、その人たちの国を作る様なものです。それはありえません」
アクネシアの人たちを集めて、その人たちだけの村や町を作ってしまえば、そこを治めるのはアクネシアの人たちだ。
オルグラント国の領土なのに、アクネシアの人たちによる統治を認めてしまうことになり、そうなったらもう、そこにオルグラントの意思は入らなくなってしまう。
それこそ、反乱。下手をすれば、また新たに作られてアクネシアと戦争、と言うことにつながってしまうかもしれないのだ。

「簡単じゃないね……」
「えぇ。だから、人はぶつかりあうことがあります。けれど、手を取り合うこともまた、人は出来るものなんですよ」
ハーバランドへ向けて、馬車はゆっくりと進んでいく。
遠くに見える雲は少し黒さを持っており、一雨来そうに見えていた。
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