王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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「やっと帰ってこれた~」
王都に帰ってきたレッドたちであるが、リベルテの家に着くなりマイが大変な長旅を終えたとばかりに声を上げる。
ハーバランドまでは確かにそれなりの日数を要する道のりであるが、一月も旅するような道程ではない。
久しぶりの長旅であったことと、道中に何者かに襲われたこと。そして、再度の襲撃を警戒しながらの移動になったために精神的に疲れていたのだ。

「まぁ、安心出来る場所に帰ってきた、ってのはわかるが、そんな旅でもなかったろうに」
苦笑するレッドを後ろに控えながらリビングに入ったマイは、入るなりビクッと体を動かす。
何事かと動いたリベルテが目にしたのは、じっとして動かず、半目を向けるフクフクの姿であった。
それを見て、あぁ、とリベルテは声を漏らしてしまう。
今回の旅にフクフクを置いていったのだ。
それなりの日数を空ける旅路であったのに、である。
「うわぁ~。フクフクごめん~」
マイがフクフクを抱きしめて謝ろうとするのだが、フクフクはサッと飛び上がり……リベルテの肩に止まった。
「フクフク?」
逃げられたこと、そして自分より、リベルテに懐いていることに、マイは涙目になっていく。
フクフクとマイの間に挟まれたような状態になっているリベルテは、少し困ったように苦笑するしかない。
リビングの入り口付近で立ち止まるマイたち二人を見て、レッドとタカヒロもリビングに入って、リベルテとマイ、そしてフクフクの姿を見、て納得の声を漏らした。

「なんで納得するの!?」
マイの抗議に呆れたようにため息をつくレッド。
タカヒロはそっと逃げるように、部屋に荷物を置いてきます、と自室へ向かってしまった。
「何でも何も、おまえ、フクフクの世話していったのか?」
「……だからフクフクに謝ってるんですよぉ」
リベルテの肩に止まるフクフクを目で追うマイ。
リベルテは立ち止まったままで居るわけにいかなく、荷物の片付けに動く。
その間もフクフクはリベルテの肩から落ちないように捕まっていた。

「出発する前だからそこまで出来なかったんだろうが、リベルテは少しでも、とごはんとか用意していってたからな。親であるおまえが何もしていってくれなかったんだ。そりゃあ、世話をしてくれたリベルテに懐くってもんだろ」
レッドはそれだけ言って、馬車に積んでいた荷物を家に運び入れる。
そこまで荷物は無いが、早く荷を空けて馬車を返しに行かなくては行けなかったのだ。
「そ、そんなぁ……。ど、どうしたらいいんですかぁ?」
リベルテに勝てるところがまったく思い浮かばず、どうやったらフクフクの信頼を取り返せるのか泣き付くのだが、片付けに入った誰も応えてはくれなかった。

「それじゃあ、馬車を返しに行ってくる」
「あ、私も行きます。今日の食べる物もありませんから。帰りに市に買出しに寄りますよ?」
「へいへい……」
レッドとリベルテはこの後の予定を決めて、準備を始める。
「あ~、そうだ。マイ。この後、フクフクと一緒に外で遊んで来い。ずっと家の中だったんだ。飛ばせてやってくれば、フクフクも少しは気が晴れるだろ」
「そうですね!! フクフク、行こ!」
マイがリベルテの肩から降りて、休んでいたフクフクを捕まえて外に飛び出していく。
「あ、おい! 一人で行くな!! あ~……、タカヒロ。すまん」
王都と言えども一切の危険が無いなどとは言えない。
力を失っているが、マイは癒しの力を持っていたのだ。
その今を知らずに過去の情報だけ得ていた者が居たとしたら、マイの身は安全とは言えはしない。
だからこそ、マイが薬師を目指した頃からずっと、タカヒロは彼女の護衛も兼ねて近くにいるようにしてきたのである。

レッドが階段を降りてきたタカヒロに目を向けて謝ると、タカヒロはひとつ息を吐いてマイの後を追って外に飛び出していく。
「誰も居なくなりますから、戸締りをしっかりしないとですね」
「忙しないな……。さて、あっちもしばらく戻ってこないから、ゆっくり行こうぜ」
レッドがスッと手を差し出すと、リベルテはまじまじとその手を見た後、ふわっと笑ってその手を取る。
騒乱で多くの人が傷つき、亡くなった人も多い。
そんな被害を受けた中だからこそ、深まるものもある。
決して騒乱を美化することも擁護することも出来ないが、危機に接することで仲を深めるのも人である。
王や重臣の結婚や婚姻は国の危機を乗り越えるための結びつきであるが、上の者が率先して結婚などを行っていけば、後押しを受けるように冬を越えて落ち着いた春に結婚する人が多くなるのである。
その流れがあってなのか、ゆっくりとではあるが、レッドたちの雰囲気も変化を見せていた。

商会に馬車を返却した後、レッドとリベルテはゆっくりと市を見て回る。
安く良い物を探しているのもあるが、早く家に帰ってしまうのがもったいないと感じていることも理由にあった。
だからこそ、珍しくあれこれと見回るリベルテに不平をこぼすことなく、レッドも一緒に見慣れているはずの王都の市を見回っている。
「お。あそこのグルケとラディッシュは色艶が良さそうじゃないか?」
「良く見つけましたね。さっそく買いましょう」
季節は夏に向かっており、これからの時期の野菜が並びだしていた。
「また畑の依頼を受けにいかないとだな」
「あれを好んで受ける冒険者は珍しいままだそうですよ?」

雑用である仕事の依頼を受ける冒険者であるが、簡単なもの、稼ぎが良いもの、討伐など人に誇ることが出来るものが好まれる。
王都内で済む配送であったり、場所がわかっている採取依頼であったり、勝てると自信のある討伐依頼などは、貼り出されると早めに無くなっていくものだ。
だからこそ、肉体労働のわりに稼ぎが多くは無い畑仕事であったり、事前の準備と任務の最中が大変な護衛依頼などは、受けたがる冒険者が少ないのである。
「自分たちの腹を満たすものになるんだ、やりたくないって投げ出せるもんじゃないだろ?」
レッドは当然だと言い切る。
変わらず王都の人たちのことを考えるレッドを、リベルテは改めて好ましく思う。
そして無茶をする分、自分が側に居ないと、と自分が側に居る理由を用意する。
リベルテとて今の少しずつ代わって言っている雰囲気を理解していて、それは好ましく、嬉しくと思う一方で、このまま側に居られるのか不安を感じつつもあった。

「どうした?」
少しだけ思いに耽ってしまっていたらしく、立ち止まっていたことに声をかけられる。
「いえ。野菜だけでは物足りないですから、肉も買っていきましょう」
「カツッと食いたい所だな。あ~、先にギルドで終わらせた手続きしてくればよかったな」
「そうですねぇ。タカヒロさんもそのつもりだったのでしょうけど、マイさんが出かけてしまいましたから」
小さく笑うリベルテに、レッドは軽く頭を叩いて息を吐く。
「余計なこと言ったか~」
「フクフクが家に閉じ篭ったままだったのは間違いありませんから。フクフクにとっても、マイさんにとっても良いことだと思いますよ?」
そう言ってリベルテからレッドの腕を取る。
リベルテからの突然の動きに、レッドは少しだけ腕に力を入れてしまったが、ゆっくりとその力を抜いていく。

「結構な量を買っておいた方が良いかもしれませんね」
「……またちゃんと稼いでくるよ」
冬をベッドで過ごすことになり、その看病についてくれたリベルテも冒険者の仕事をほとんどこなせなかった。
以前からの蓄えと、マイとタカヒロの援助があったから問題なく過ごすことが出来たのだ。
だいぶ体を戻してきたレッドは空いている腕で力こぶを作ってやる気を示すが、リベルテにやんわりと釘を刺される。
「無茶しそうなので、一人で受けないでくださいね。そこまで困った状態ではありませんから。……ほら、行きますよ」
レッドがまた何か言おうとするのを察して、リベルテは掴んだ腕を引っ張るようにして歩き出す。
久々のゆったりとした時間を少しでも惜しむように、レッドたちは市の中を進んでいく。
二つの影は楽しそうに伸びていった。
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