179 / 214
179
しおりを挟む
タカヒロは気の重いまま馬車に揺られていた。
仕事だと言われ手向かったハーバランドで、ファルケン伯に会ってアンリについて、ほとんど称賛するだけのような話を聞いた後、王都への帰り道で賊に襲われたのだ。
レッドたちの推測によると、ファルケン伯の手の者だろうと言う話で、爵位を持っている人たちの、笑いながら後ろ手で相手を蹴落とす手を動かすという姿を目の当たりにされたことになる。
話を聞いてくるだけと言う簡単な仕事だったはずなのに、いざ向かってみたら命の危険と隣り合わせの仕事で、これから報告に向かわなくてはいけないのだが、それすらも何か後ろに危険なものがあるような気がして憂鬱になっていた。
「はぁ……。城に行きたくないなぁ」
出掛けにも休みたいとゴネてみたものの、レッドには呆れられ、リベルテには駄々をこねている子どもに対するような目を向けられ、マイにたたき出されるようにして馬車に押し込まれて今に至っている。
馬車に乗った跡もウダウダとしているのは、仕事の報告をするのが気が乗らないというのもあるが、昨晩の食事の際に貴族の面倒さについて話をした際に、ポロリとレッドが口にした他愛の無い言葉が今もタカヒロを憂鬱にさせていた。
「そういや、タカヒロ。ハーバランドで人と会ってこなかったが、良かったのか?」
「誰にですか?」
家に無事に帰れたことでだいぶ気を緩めているレッドが、思い出したようにタカヒロに質問する。
主語が無いため誰のことを言っているのか分からず、タカヒロとしては何を言い出したのかと首をかしげるしかない。
「あ~、ほら。おまえが好意を寄せていた相手だよ」
「はあ?」
タカヒロの声が少し大きくなったのは仕方が無い。
レッドが口にした後、近くからタカヒロをじーっと見る目が痛いのだ。
急いで否定しなければどうなることか、想像するのも怖いものだった。
「あぁ! あの親子ですか? 子どももタカヒロさんにとても懐いていましたね」
リベルテが誰の事を指しているのか想像がついたようで誰のことかを口にし、そこでやっとタカヒロも誰のことか思い至った。
ルチウスとシェリーという母子で、豊穣祭で出した料理が人気を勝ち取り、店を持つことが出来るようになった相手である。
ただの気まぐれとも言うべき縁から料理に手を貸すことにしたタカヒロが、パンの代わりに生地を薄く焼いたものに、具材を巻いて作ることを提案し、見事、ハーバランドで人気を博すことになったのだ。
「そう言えば、ハーバランドでお店を持つことになったとか言ってましたっけ」
「忘れてたのなら、それは薄情すぎませんか? あんなにお世話しておいて」
祭りの間だけお手伝いしただけであったし、騒乱なんていう命がけの戦いもあった後なので、少し記憶の隅に置かれてしまっていた。
リベルテからもひんやりした目を向けられるが、親しい間柄かと言われるとそうでもないし、今ではマイとの関係もあるので今更深い仲になるつもりも無かった。
だから浮気しているわけでもなし、ジーッと痛い視線を回避するために否定するように回答してみたのだが、それそれで薄情だと白い目をリベルテから向けられ、タカヒロはなんだかやりきれない思い出いっぱいになる。
「クレープ食べそびれちゃったんだ!? あ~、惜しいことしたなぁ。またハーバランドに行きましょうね」
「まぁ、また金を貯めて、そのうちだな。今度はフクフクを忘れるなよ」
「忘れませんよ!!」
フクフクは外でて自由に飛び回ってきたこと気が晴れてきたらしく、またマイにも懐くようになっていて、今は休むように大人しく自分の寝床で止まっている。
マイがそんなフクフクに顔を向けて手を振ってみるが、目を閉じて休んでいるフクフクから反応が返ってくるはずがなく、マイはちょっと不満そうにする。
「マイさん……。構う時とそうではない時をちゃんと考えないと、迷惑なだけですよ。今度は、本気で嫌われてしまいますよ?」
リベルテの言葉に、それは嫌です、と食事に専念し始めるあたりがマイらしい。
「ルチウスさんたちも自分のお店を持ったわけですし、あれから少し経ってますからねぇ。変に押しかけたら迷惑になるかもしれませんよ。特に今回のような仕事だったんですから……」
「疑いたくないが、怪しいのはあの街の領主だからな。おまえと下手に交流を持ち続けてると知られたら、あの親子が危ないかもしれんな。そう考えると、会ってこなくて良かったのかもな」
タカヒロが帰り道で教われる原因と考えられている仕事があったことを口にして、会わなかったことの理由を挙げてみるが、レッドからより具体的な可能性を告げられて、タカヒロはため息をこぼすしかなくなる。
そんなちょっとした縁で、知っている人が、あの親子が命を落とすかもしれないなどと言われたら、気分が重くなるしかない。
自分自身が、そんな危険な所に足を入れているなんて思っても見なかったのだ。
しかし、レッドの不吉な想像はそこで止まらなかった。
「おまえにわざわざ頼んだって話が、今考えるとおかしかったって思えるな。アンリの話を聞くだけなら、魔法研究所の人間をわざわざ行かせる必要は無いだろ。兵でも文官でも向かわせれば良かったはずだ。もし、ファルケン伯の顔も見ながら話を聞く必要があるってんなら、おまえに依頼したやつ自身が行かないと意味が無いだろ?」
レッドの言葉に、タカヒロはサーッと血の気が下がっていくのを感じた。
無条件にカーマインを良い上司と思っていたが、彼も城に勤めて長い人間である。
長く魔法研究所に所属して、魔法の研究を続けてきていて、魔法研究所で上の方にいるのだ。
であれば、自身の魔法への知識や腕に肥大した自信を持っていてもおかしくはなく、スカウトされて魔法研究所に入ったタカヒロであるが、自分はまたやりすぎたのではないか、と思い至ったのだ。
タカヒロは魔法を自在に扱える『神の玩具』の力を持っていたことがあり、今は失われているが、それが下地にあって、いま使える魔法の力がまだ一般より強い力であったとしても不思議ではない。
『神の玩具』としての力を持ってきた頃に比べると、威力弱いし、いくらでも使えたりするものではないのだが、それでも他の人より十分に魔法を使えている。
それは他の人に教え始めたことで、なんとなく理解していたはずなのに、魔法について解明され尽くしていなく、他の人との差が明確になっていない状況であるからと、油断していたのかもしれなかった。
「タカヒロさん、大丈夫ですか?」
リベルテの声に、タカヒロはハッとしたように顔を上げる。
いつの間にか考えの深みに入り込んでいて、俯いたまま動いていなかったらしい。
タカヒロはあまり心配させないように、すみません、と口にして食事を再開させたが、どんどんと重くなっていく気持ちにスプーンを持つ手はなかなか動かなかった。
そして翌日、タカヒロはあまり良く眠れないままで頭がしっかりと動いていない状態で朝食を取り、城に向かうことに得体の知れない怖さを感じ、城に行きたくないと家から出るのを躊躇ったのだが、結果はすでに知っている通り、休み明けで働く気力を失ってごねてるだけだとレッドに呆れられ、子どもを見守るような目でリベルテに微笑まれ、恥ずかしいから早く行きなさいと、マイにたたき出されたのである。
だが馬車に乗っている時間も考え込んでいる時間に終わりを告げ、タカヒロは暗い表情になるのをなんとか堪えながら、仕事場である資料室に向かう。
「おはようございます」
挨拶をして入ると、カーマインが少し驚いたような顔を見せる。
その顔を見てしまうと、ファルケン伯と打ち合わせて自分を排除させようとしたのではないかとの疑念が浮かんできてしまう。
よく寝れなかったのと、城へ向かいたくなかった理由に、カーマインへの恐怖があったのだ。
「……ふむ。予想より早い戻りだったな。もう少しゆっくりとしてきても良かったんだがな。休める時に休むのも仕事だぞ?」
カーマインはもうすでに顔を資料に向けていて、どんな感情で口にしたのかはわからない。
ただ純粋にタカヒロに気を遣ってくれたように思えるし、建前として取り繕った言葉のようにも思えてしまう。
「いえ……、仕事ですからあまり遊んでくるのもどうかと考えまして。こちらがファルケン伯から伺った内容をまとめたものになります」
「そこへ置いておいてくれ」
実際にどういうことをしてきたのか、ファルケン伯が彼女をどう思っているか聞いたことだけをまとめた紙をカーマインの近くに置く。
さすがに、レッドたちの推測は記載していない。
ファルケン伯が言ったわけではないし、襲ってきた賊から確証を取れているわけでもなかったと言うこともあるが、仕事として余分なもの、余計なものは入れない方がまとめやすかったのである。
カーマインがタカヒロの置いた紙をパッと取ってササーッと目を通し、折りたたんで懐にしまう。
「ご苦労。また魔法についての研究と指導に回ってくれ。指導は明日からで良いが、研究のために資料をまとめるなどの作業は、今から進めておきたまえ」
「はい。……え~っと、今回は何についてですか?」
カーマインがペンを置いて、顔を上げる。
そしてタカヒロの方を向いて挑戦的な笑みを浮かべた。
「時についての魔法だ。状態を保持する魔道具があるが、他に出来ることが無いか調べる」
「他に……ですか?」
「そうだ。例えば……未来を知る、とかな」
やる気を見せている目であるが、カーマインの目が怖いと感じた。
アンリのことを意識しているのは間違いが無かった。
しかし、彼女は未来を見る力を持っているわけではないと、タカヒロは考えている。
以前にリベルテの家まで付いて来た時に、レッドを見て口にした言葉を、近くに居たタカヒロは耳にしていたのだ。
その言葉から考えるのであれば、おそらく、あちらの世界でこの世界に似た内容のゲームか物語があって、それを覚えているだけのように考えていた。
しかし、タカヒロがそう考えているだけで、確認が取れているわけではないし、カーマインや王国の人に言った所で、容易に信じてもらえるような話でもない。
レッドたちには話しているが、内容を信じたというより、タカヒロが言うから信じてくれた様子だったのだ。
今、タカヒロはどうするのが良いのかわからなかった。
時の魔法について研究を進めることで、未来を知ることが出来る魔法があるとわかったら、今の彼女はどうなるのか。
逆に、そんな魔法が存在しないとなってしまったら、それもまた彼女にどう影響を与えてしまうのか。
自分の行動が、自分の知っている人の運命を決めてしまうような気がしてしまい、どう動いても良い結果に繋がらない気がしてならなかった。
それもこれもレッドの不吉な言葉のせいだと、タカヒロは内心で悪態をつく。
「……そうなると、いろいろと試さないといけませんね」
「ああ。忙しくなるぞ」
また、机に向かって作業を始めるカーマイン。
資料をめくっていく音が部屋に響く。
タカヒロも資料を探し始めることにする。
少しでも動くことで、余計なことを考えないようにしたかったのだ。
だが、資料探しに専念し始めたタカヒロは、カーマインが目を向けていることに気づかなかった。
仕事だと言われ手向かったハーバランドで、ファルケン伯に会ってアンリについて、ほとんど称賛するだけのような話を聞いた後、王都への帰り道で賊に襲われたのだ。
レッドたちの推測によると、ファルケン伯の手の者だろうと言う話で、爵位を持っている人たちの、笑いながら後ろ手で相手を蹴落とす手を動かすという姿を目の当たりにされたことになる。
話を聞いてくるだけと言う簡単な仕事だったはずなのに、いざ向かってみたら命の危険と隣り合わせの仕事で、これから報告に向かわなくてはいけないのだが、それすらも何か後ろに危険なものがあるような気がして憂鬱になっていた。
「はぁ……。城に行きたくないなぁ」
出掛けにも休みたいとゴネてみたものの、レッドには呆れられ、リベルテには駄々をこねている子どもに対するような目を向けられ、マイにたたき出されるようにして馬車に押し込まれて今に至っている。
馬車に乗った跡もウダウダとしているのは、仕事の報告をするのが気が乗らないというのもあるが、昨晩の食事の際に貴族の面倒さについて話をした際に、ポロリとレッドが口にした他愛の無い言葉が今もタカヒロを憂鬱にさせていた。
「そういや、タカヒロ。ハーバランドで人と会ってこなかったが、良かったのか?」
「誰にですか?」
家に無事に帰れたことでだいぶ気を緩めているレッドが、思い出したようにタカヒロに質問する。
主語が無いため誰のことを言っているのか分からず、タカヒロとしては何を言い出したのかと首をかしげるしかない。
「あ~、ほら。おまえが好意を寄せていた相手だよ」
「はあ?」
タカヒロの声が少し大きくなったのは仕方が無い。
レッドが口にした後、近くからタカヒロをじーっと見る目が痛いのだ。
急いで否定しなければどうなることか、想像するのも怖いものだった。
「あぁ! あの親子ですか? 子どももタカヒロさんにとても懐いていましたね」
リベルテが誰の事を指しているのか想像がついたようで誰のことかを口にし、そこでやっとタカヒロも誰のことか思い至った。
ルチウスとシェリーという母子で、豊穣祭で出した料理が人気を勝ち取り、店を持つことが出来るようになった相手である。
ただの気まぐれとも言うべき縁から料理に手を貸すことにしたタカヒロが、パンの代わりに生地を薄く焼いたものに、具材を巻いて作ることを提案し、見事、ハーバランドで人気を博すことになったのだ。
「そう言えば、ハーバランドでお店を持つことになったとか言ってましたっけ」
「忘れてたのなら、それは薄情すぎませんか? あんなにお世話しておいて」
祭りの間だけお手伝いしただけであったし、騒乱なんていう命がけの戦いもあった後なので、少し記憶の隅に置かれてしまっていた。
リベルテからもひんやりした目を向けられるが、親しい間柄かと言われるとそうでもないし、今ではマイとの関係もあるので今更深い仲になるつもりも無かった。
だから浮気しているわけでもなし、ジーッと痛い視線を回避するために否定するように回答してみたのだが、それそれで薄情だと白い目をリベルテから向けられ、タカヒロはなんだかやりきれない思い出いっぱいになる。
「クレープ食べそびれちゃったんだ!? あ~、惜しいことしたなぁ。またハーバランドに行きましょうね」
「まぁ、また金を貯めて、そのうちだな。今度はフクフクを忘れるなよ」
「忘れませんよ!!」
フクフクは外でて自由に飛び回ってきたこと気が晴れてきたらしく、またマイにも懐くようになっていて、今は休むように大人しく自分の寝床で止まっている。
マイがそんなフクフクに顔を向けて手を振ってみるが、目を閉じて休んでいるフクフクから反応が返ってくるはずがなく、マイはちょっと不満そうにする。
「マイさん……。構う時とそうではない時をちゃんと考えないと、迷惑なだけですよ。今度は、本気で嫌われてしまいますよ?」
リベルテの言葉に、それは嫌です、と食事に専念し始めるあたりがマイらしい。
「ルチウスさんたちも自分のお店を持ったわけですし、あれから少し経ってますからねぇ。変に押しかけたら迷惑になるかもしれませんよ。特に今回のような仕事だったんですから……」
「疑いたくないが、怪しいのはあの街の領主だからな。おまえと下手に交流を持ち続けてると知られたら、あの親子が危ないかもしれんな。そう考えると、会ってこなくて良かったのかもな」
タカヒロが帰り道で教われる原因と考えられている仕事があったことを口にして、会わなかったことの理由を挙げてみるが、レッドからより具体的な可能性を告げられて、タカヒロはため息をこぼすしかなくなる。
そんなちょっとした縁で、知っている人が、あの親子が命を落とすかもしれないなどと言われたら、気分が重くなるしかない。
自分自身が、そんな危険な所に足を入れているなんて思っても見なかったのだ。
しかし、レッドの不吉な想像はそこで止まらなかった。
「おまえにわざわざ頼んだって話が、今考えるとおかしかったって思えるな。アンリの話を聞くだけなら、魔法研究所の人間をわざわざ行かせる必要は無いだろ。兵でも文官でも向かわせれば良かったはずだ。もし、ファルケン伯の顔も見ながら話を聞く必要があるってんなら、おまえに依頼したやつ自身が行かないと意味が無いだろ?」
レッドの言葉に、タカヒロはサーッと血の気が下がっていくのを感じた。
無条件にカーマインを良い上司と思っていたが、彼も城に勤めて長い人間である。
長く魔法研究所に所属して、魔法の研究を続けてきていて、魔法研究所で上の方にいるのだ。
であれば、自身の魔法への知識や腕に肥大した自信を持っていてもおかしくはなく、スカウトされて魔法研究所に入ったタカヒロであるが、自分はまたやりすぎたのではないか、と思い至ったのだ。
タカヒロは魔法を自在に扱える『神の玩具』の力を持っていたことがあり、今は失われているが、それが下地にあって、いま使える魔法の力がまだ一般より強い力であったとしても不思議ではない。
『神の玩具』としての力を持ってきた頃に比べると、威力弱いし、いくらでも使えたりするものではないのだが、それでも他の人より十分に魔法を使えている。
それは他の人に教え始めたことで、なんとなく理解していたはずなのに、魔法について解明され尽くしていなく、他の人との差が明確になっていない状況であるからと、油断していたのかもしれなかった。
「タカヒロさん、大丈夫ですか?」
リベルテの声に、タカヒロはハッとしたように顔を上げる。
いつの間にか考えの深みに入り込んでいて、俯いたまま動いていなかったらしい。
タカヒロはあまり心配させないように、すみません、と口にして食事を再開させたが、どんどんと重くなっていく気持ちにスプーンを持つ手はなかなか動かなかった。
そして翌日、タカヒロはあまり良く眠れないままで頭がしっかりと動いていない状態で朝食を取り、城に向かうことに得体の知れない怖さを感じ、城に行きたくないと家から出るのを躊躇ったのだが、結果はすでに知っている通り、休み明けで働く気力を失ってごねてるだけだとレッドに呆れられ、子どもを見守るような目でリベルテに微笑まれ、恥ずかしいから早く行きなさいと、マイにたたき出されたのである。
だが馬車に乗っている時間も考え込んでいる時間に終わりを告げ、タカヒロは暗い表情になるのをなんとか堪えながら、仕事場である資料室に向かう。
「おはようございます」
挨拶をして入ると、カーマインが少し驚いたような顔を見せる。
その顔を見てしまうと、ファルケン伯と打ち合わせて自分を排除させようとしたのではないかとの疑念が浮かんできてしまう。
よく寝れなかったのと、城へ向かいたくなかった理由に、カーマインへの恐怖があったのだ。
「……ふむ。予想より早い戻りだったな。もう少しゆっくりとしてきても良かったんだがな。休める時に休むのも仕事だぞ?」
カーマインはもうすでに顔を資料に向けていて、どんな感情で口にしたのかはわからない。
ただ純粋にタカヒロに気を遣ってくれたように思えるし、建前として取り繕った言葉のようにも思えてしまう。
「いえ……、仕事ですからあまり遊んでくるのもどうかと考えまして。こちらがファルケン伯から伺った内容をまとめたものになります」
「そこへ置いておいてくれ」
実際にどういうことをしてきたのか、ファルケン伯が彼女をどう思っているか聞いたことだけをまとめた紙をカーマインの近くに置く。
さすがに、レッドたちの推測は記載していない。
ファルケン伯が言ったわけではないし、襲ってきた賊から確証を取れているわけでもなかったと言うこともあるが、仕事として余分なもの、余計なものは入れない方がまとめやすかったのである。
カーマインがタカヒロの置いた紙をパッと取ってササーッと目を通し、折りたたんで懐にしまう。
「ご苦労。また魔法についての研究と指導に回ってくれ。指導は明日からで良いが、研究のために資料をまとめるなどの作業は、今から進めておきたまえ」
「はい。……え~っと、今回は何についてですか?」
カーマインがペンを置いて、顔を上げる。
そしてタカヒロの方を向いて挑戦的な笑みを浮かべた。
「時についての魔法だ。状態を保持する魔道具があるが、他に出来ることが無いか調べる」
「他に……ですか?」
「そうだ。例えば……未来を知る、とかな」
やる気を見せている目であるが、カーマインの目が怖いと感じた。
アンリのことを意識しているのは間違いが無かった。
しかし、彼女は未来を見る力を持っているわけではないと、タカヒロは考えている。
以前にリベルテの家まで付いて来た時に、レッドを見て口にした言葉を、近くに居たタカヒロは耳にしていたのだ。
その言葉から考えるのであれば、おそらく、あちらの世界でこの世界に似た内容のゲームか物語があって、それを覚えているだけのように考えていた。
しかし、タカヒロがそう考えているだけで、確認が取れているわけではないし、カーマインや王国の人に言った所で、容易に信じてもらえるような話でもない。
レッドたちには話しているが、内容を信じたというより、タカヒロが言うから信じてくれた様子だったのだ。
今、タカヒロはどうするのが良いのかわからなかった。
時の魔法について研究を進めることで、未来を知ることが出来る魔法があるとわかったら、今の彼女はどうなるのか。
逆に、そんな魔法が存在しないとなってしまったら、それもまた彼女にどう影響を与えてしまうのか。
自分の行動が、自分の知っている人の運命を決めてしまうような気がしてしまい、どう動いても良い結果に繋がらない気がしてならなかった。
それもこれもレッドの不吉な言葉のせいだと、タカヒロは内心で悪態をつく。
「……そうなると、いろいろと試さないといけませんね」
「ああ。忙しくなるぞ」
また、机に向かって作業を始めるカーマイン。
資料をめくっていく音が部屋に響く。
タカヒロも資料を探し始めることにする。
少しでも動くことで、余計なことを考えないようにしたかったのだ。
だが、資料探しに専念し始めたタカヒロは、カーマインが目を向けていることに気づかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす
蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。
追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。
しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。
港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。
イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。
犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。
被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。
追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。
この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。
・世界観・設定の管理補助
・プロット段階の壁打ち
・作者による執筆後の校正
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる