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「ああ、タカヒロ。君には今日よりゴミの焼却をやってもらう」
「はい?」
朝、いつも通りに城に来て仕事場に入ったすぐの言葉だった。
タカヒロは、はぁ、と曖昧ではあるが了承の言葉を告げる。
カーマインの突然の仕事の振りはこれまでにも多く、こういう人なんだと思うようにしている。
そして、余程難しい話でも無い限りは、すぐに返事をしないと機嫌を悪くするのだから、はっきりとした言葉にならなくとも返事をしないといけない。
第一、カーマインからの仕事の話は決定事項であり、拒否権など元から存在もしていないのだ。
カーマインが突然振ってきた仕事は、言葉通りゴミの焼却役である。
この王都では週に一度の処理日が決まっていて、王都中から集められたゴミを処理場にて、魔法で一気に燃やし尽くすようになっていて、その仕事に魔法使いが必要だった。
ゴミは誰かが処分しないと溜まっていくだけで、溜まったゴミは不衛生な環境であり、病などを広めてしまうことになってしまうのだ。
だからこそ、国を管理する者たちがその仕事を請け負っており、城に集められている魔法使いたちがその役を任される事になったと聞いている。
魔法使いが足りなかった時代は、油を撒いて火をつけて燃やしていたらしいのだが、十分に燃やしつくせるほどの火力にするために用意する油は大量であり、掛かる費用が大きいもので、またそれだけやっても燃え残りが結構残ってしまい、そこからまた処理が必要で大変であったそうだ。
そこで、国が集めて管理している魔法を使える者たちの中で特に火の魔法を扱えることを自慢していた者にやらせてみた所、油を撒いて火をつけるより、遥かに強い火でゴミを燃やし尽くしたのである。
ちゃんと燃え崩れた後に出来た灰は、畑への肥料であったり、それ以外の用途にも使われているのだが、それがこれまでよりずっと良い塩梅で、大量に出来ていたのだ。
これは城にとって予想を超える嬉しい事態であり、魔法を使える者は手当てをもらえる上に、自身の力を奮って自慢できる場にもなり、誰にとっても喜ばしいものになったのである。
ただ魔法の研究に篭ったままと言うのは、気持ちがダレてきてしまうもので、どこかで思いっきり力を奮いたいと言うのは、力を持つ者の当然の思いだ。
城からそれまでに掛かっていた雑費よりはそれなりに低くはあるが、手当てが貰えるし、力を被いっきり奮えると言うので、城に集められている魔法使いたちにはかなりの人気な役であり、ほとんどの魔法使いたちが、必死に火の魔法だけは覚えるようにしているくらいの仕事である。
魔法が使える者として城に勤めるようになったのは割と最近であるため、タカヒロにこの役が回ってくるのはもっと後のはずなのだが、豊穣祭の後と言うのもあって手当ては嬉しいし、久しぶりに思いっきり魔法を使ってみたいとも思えてきたタカヒロはやる気が満ちてくる。
魔法の研究でずっと文献を漁っては記録をつけるばかりで、魔法を使うにも城の近くで、しかも不埒な考えは起こさないようにと監視付きの中でしかやれないから、不満が溜まってきていたのも大きかった。
「今日は、場所の案内とどのようにするかを説明する。ついてきなさい」
カーマインの動きは相変わらず早く、タカヒロを待たずにすでに馬車に乗り込んでいく。
タカヒロは返事もそこそこに慌てて後を追って馬車に乗り込んだ。
馬車に乗ってから、リベルテの家から城に向かうより長い時間、揺られ続けていく。
「……遠いですね」
長く感じる揺られ続ける時間があまりにも退屈で、カーマインに声を掛けてみるタカヒロであったが、カーマインからは呆れられた目を向けられた。
「おまえは、ゴミの側で生活したいのか?」
「それは嫌です」
タカヒロはこれまでのなかで一番早く返事をする。
考えてみれば当然なことだった。王都中からゴミを集めて燃やすとは言え、その日にすべてを持ってこられるわけでもないし、それまでの間、ゴミを溜め込み続けさせては、折角処理をするようにしている意味がなくなってしまう。捨てられるようになっているのが当然なのだ。
タカヒロたちがいた世界とこの世界は違い、ゴミの多くは生ゴミや木造の製品である。
鉄など再利用出来る物は再利用しているし、生ゴミだって極力減らすような生活を送っているのが、出てくるゴミは腐る物がほとんどを占めることになり、そんな側で生活したいと思う人は居るわけがなかった。
そうなれば、貴族など権力者たちは絶対に自分たちの屋敷などからは遠い場所にしたいと考えるもので、かと言って遠すぎたらゴミを捨てることだけで一苦労になってしまうため、いくらか平民区域には近いのは仕方が無い。
ただ、ちらの世界のように腐りもせず、ずっと残り続けて処分にも困ってしまうようなものはほとんど無いと言うのは、純粋にすごいなぁ、とタカヒロは感心を覚えてしまうものだった。
分かってしまえばそれで終わってしまう話題だっただけに、またも話題は無くなってタカヒロは気まずさを覚えるような雰囲気の中、馬車で揺られ続ける。
そして、本当に長いように感じられた時間の中、馬車がやっと動きを止めた。
馬車を降りれば、広く開けた場所が目に入る。広く開けた中に大きく四角い穴が開いていてゴミがすでに捨てられているようだけれど、満杯にはほど遠そうにも見えた。
「拓けてますね~」
「おまえは、王都を燃やしたいのか?」
ただ感想を口にしただけのタカヒロであったが、その感想があまりにだったようで、カーマインからまた呆れた目が向けられていた。
カーマインから向けられる呆れられた目は、タカヒロとしてはもう要らないのだが、自身の言動が原因なだけに何も言えない。
魔法を使って強い火をつけるのだから、大きく拓けていないと燃え広がってしまう。
ゴミの近くで生活なんてしたくないと言うのもあるが、近くに建てても燃やされてしまいかねない危険があるのだ。一つ一つちゃんと意味があって、どれも考えれば当然に行き着くものばかりである。
「焼却を始める時間は決まっている。そうしないとゴミを捨て忘れて溜め込んでしまう者がいるかもしれないからな。鐘を鳴らして知らせるが、その音の後もしばらく待つ。ギリギリにならないと動かないという者も稀に存在することも考慮してだ」
カーマインの言葉にタカヒロは頷く。何となく身に覚えがあったからだ。
「そして、燃やし始める際にも近くに人が居ないことを確認する時間も持つ。またそこで鐘が鳴るので、そうしたら君の安全を確保しつつ、かつ魔法が届く距離に進み、魔法で燃やせばいい。それだけだ」
鐘の音と言うわかりやすい合図があると聞いて、タカヒロはわかりました、と大きく頷く。
やる流れがわかれば、次に頭に浮かんでくるのは、やること自体についてになる。
「あれを燃やすくらいはできるだろ?」
あそこに集められるゴミを燃やしつくせるだけの威力が出せるか不安になってくると、カーマインがタカヒロに出来るよな、とばかりの口調で言う。
丁度、考えていたことを聞かれて、タカヒロはカーマインをねめつけてしまう。
カーマインは本当に油断ならない相手だと、タカヒロはずっと思っていた。カーマインが声を掛けてきたのは偶然のように思っていたが、『神の玩具』の力を持っていたことを、そしてそれを失っていることを知っている上で誘ってきたように感じられるのだ。
今もなお、他の人たちより少し強い力を持っているっぽいことも、カーマインは知っていたようにも思えた。
何より、つい最近ではアンリのことがあったため、より下手に動けなくなっているのもあり、出来ないとも言えないタカヒロは、少し自身なさげに頷くしか出来なかった。
「鐘が鳴るぞ」
カーマインが口にして少しすると、カラーン、カラーンと高い音が響く。
タカヒロは鐘と聞いて少し違う音色を考えていたらしく、聞こえてきた音に少し拍子抜けしてしまう。あちらの世界で寺から聞こえる音を考えていたのだ。
ハッとして目を向ければカーマインから眼力の強い目を向けられており、タカヒロは押されるように心持ち緊張した足取りで進み、自身の勘に従って立ち止まる。
試したわけではないが、この距離ならいけると感じたのだ。もっとも、ゴミ捨て場にあまり近づきたくなかったと言う気持ちが無かったわけでもなかった。
タカヒロは意識して大きな火を生み出していく。
自身の力を呼び代にして、世界から力を集めていく。
自分の力だけで大きくて凄まじい力の魔法なんて、作り出せるわけが無い。そんなことが出来たら、その人にいったいどれだけ怖ろしい力が内在していると言うのだろうか。
漫画とか小説とかそういった物だったら、主人公なんかはそれくらい強さを持っていないと面白いとは思えなかったものであるが、そんな力を持っていたらただの化け物だ。
たった一人でそんな力を持っていたら、国にとって、世界にとって脅威でしかない。
世界そのものがどうしようもないほど強い敵に襲われているなら歓迎されるかもしれないが、普段においてそんな力を持つ人が自分たちの近くに居るなんて、ほとんどの人は望まないし、いなくなることを願うだろう。
いつその力が自分たちに向くかわからないし、その強さがある限り、その近くに居る人たちはその人の機嫌を損ねないように怯えて暮らすしか無くなってしまうのだ。
それは、あちらの世界であろうとこちらの世界であろうと変わらないことだった。
タカヒロが生み出していく火は、どんどんと大きくなっていく。大きくて眩しいものになっていく。
これくらいだろうと、これまた感覚で感じ取ったタカヒロは、四角いゴミ捨て場に向かって落とす。
それがゴミ捨て場に落ちると、ブワッと火が立ち昇った。
遠目ではあったが、タカヒロたちがこの王都に来てから何度か見たことがある光景だった。
が、その時に見た火よりも強い気がして、タカヒロは少しだけ後ずさる。
ゴミを燃やしている炎であるが、その火が綺麗なものに見えた。
ふと周囲に目を向けると、タカヒロたち以上に離れた場所で火に祈りを捧げている人たちの姿が見えた。
王都の中でもこの火を見ていた人の中には、同じように祈っている人が居るかもしれない、とふと思った。
タカヒロが燃やしたからなんて言うことは無い。ずっと変わらず、この火を見ていた人たちは感謝の祈りを捧げていたのではないかと思い、タカヒロも何となく祈りを捧げるようにしてしまう。
それほどに綺麗に立ち上る鮮やかな炎が、神秘的に見えたのだ。
祈りを捧げていたが、いつまでもここにいるわけにはいかないと意識を戻したタカヒロがカーマインの方に向くと、カーマインは険しい表情で城を見ていた。
「カーマインさん?」
タカヒロが呼びかけると、カーマインはハッと気が付いたようにタカヒロに向き直る。
「問題は内容だな。これからしばらくおまえに担当してもらう。週に一回だけしか無いのだ。仕事に問題は無いだろう?」
「はい。やります」
実際に大変な作業ではなかったし、久々に奮った魔法は綺麗で感謝もされ、手当も貰えるのだからずっとやりたくなるほどであった。
だから、やる気を見せて答えたのだが、なんとなくカーマインはタカヒロが城から離れる時間を作りたいだけなのではないかと、思えてしまった。
「はい?」
朝、いつも通りに城に来て仕事場に入ったすぐの言葉だった。
タカヒロは、はぁ、と曖昧ではあるが了承の言葉を告げる。
カーマインの突然の仕事の振りはこれまでにも多く、こういう人なんだと思うようにしている。
そして、余程難しい話でも無い限りは、すぐに返事をしないと機嫌を悪くするのだから、はっきりとした言葉にならなくとも返事をしないといけない。
第一、カーマインからの仕事の話は決定事項であり、拒否権など元から存在もしていないのだ。
カーマインが突然振ってきた仕事は、言葉通りゴミの焼却役である。
この王都では週に一度の処理日が決まっていて、王都中から集められたゴミを処理場にて、魔法で一気に燃やし尽くすようになっていて、その仕事に魔法使いが必要だった。
ゴミは誰かが処分しないと溜まっていくだけで、溜まったゴミは不衛生な環境であり、病などを広めてしまうことになってしまうのだ。
だからこそ、国を管理する者たちがその仕事を請け負っており、城に集められている魔法使いたちがその役を任される事になったと聞いている。
魔法使いが足りなかった時代は、油を撒いて火をつけて燃やしていたらしいのだが、十分に燃やしつくせるほどの火力にするために用意する油は大量であり、掛かる費用が大きいもので、またそれだけやっても燃え残りが結構残ってしまい、そこからまた処理が必要で大変であったそうだ。
そこで、国が集めて管理している魔法を使える者たちの中で特に火の魔法を扱えることを自慢していた者にやらせてみた所、油を撒いて火をつけるより、遥かに強い火でゴミを燃やし尽くしたのである。
ちゃんと燃え崩れた後に出来た灰は、畑への肥料であったり、それ以外の用途にも使われているのだが、それがこれまでよりずっと良い塩梅で、大量に出来ていたのだ。
これは城にとって予想を超える嬉しい事態であり、魔法を使える者は手当てをもらえる上に、自身の力を奮って自慢できる場にもなり、誰にとっても喜ばしいものになったのである。
ただ魔法の研究に篭ったままと言うのは、気持ちがダレてきてしまうもので、どこかで思いっきり力を奮いたいと言うのは、力を持つ者の当然の思いだ。
城からそれまでに掛かっていた雑費よりはそれなりに低くはあるが、手当てが貰えるし、力を被いっきり奮えると言うので、城に集められている魔法使いたちにはかなりの人気な役であり、ほとんどの魔法使いたちが、必死に火の魔法だけは覚えるようにしているくらいの仕事である。
魔法が使える者として城に勤めるようになったのは割と最近であるため、タカヒロにこの役が回ってくるのはもっと後のはずなのだが、豊穣祭の後と言うのもあって手当ては嬉しいし、久しぶりに思いっきり魔法を使ってみたいとも思えてきたタカヒロはやる気が満ちてくる。
魔法の研究でずっと文献を漁っては記録をつけるばかりで、魔法を使うにも城の近くで、しかも不埒な考えは起こさないようにと監視付きの中でしかやれないから、不満が溜まってきていたのも大きかった。
「今日は、場所の案内とどのようにするかを説明する。ついてきなさい」
カーマインの動きは相変わらず早く、タカヒロを待たずにすでに馬車に乗り込んでいく。
タカヒロは返事もそこそこに慌てて後を追って馬車に乗り込んだ。
馬車に乗ってから、リベルテの家から城に向かうより長い時間、揺られ続けていく。
「……遠いですね」
長く感じる揺られ続ける時間があまりにも退屈で、カーマインに声を掛けてみるタカヒロであったが、カーマインからは呆れられた目を向けられた。
「おまえは、ゴミの側で生活したいのか?」
「それは嫌です」
タカヒロはこれまでのなかで一番早く返事をする。
考えてみれば当然なことだった。王都中からゴミを集めて燃やすとは言え、その日にすべてを持ってこられるわけでもないし、それまでの間、ゴミを溜め込み続けさせては、折角処理をするようにしている意味がなくなってしまう。捨てられるようになっているのが当然なのだ。
タカヒロたちがいた世界とこの世界は違い、ゴミの多くは生ゴミや木造の製品である。
鉄など再利用出来る物は再利用しているし、生ゴミだって極力減らすような生活を送っているのが、出てくるゴミは腐る物がほとんどを占めることになり、そんな側で生活したいと思う人は居るわけがなかった。
そうなれば、貴族など権力者たちは絶対に自分たちの屋敷などからは遠い場所にしたいと考えるもので、かと言って遠すぎたらゴミを捨てることだけで一苦労になってしまうため、いくらか平民区域には近いのは仕方が無い。
ただ、ちらの世界のように腐りもせず、ずっと残り続けて処分にも困ってしまうようなものはほとんど無いと言うのは、純粋にすごいなぁ、とタカヒロは感心を覚えてしまうものだった。
分かってしまえばそれで終わってしまう話題だっただけに、またも話題は無くなってタカヒロは気まずさを覚えるような雰囲気の中、馬車で揺られ続ける。
そして、本当に長いように感じられた時間の中、馬車がやっと動きを止めた。
馬車を降りれば、広く開けた場所が目に入る。広く開けた中に大きく四角い穴が開いていてゴミがすでに捨てられているようだけれど、満杯にはほど遠そうにも見えた。
「拓けてますね~」
「おまえは、王都を燃やしたいのか?」
ただ感想を口にしただけのタカヒロであったが、その感想があまりにだったようで、カーマインからまた呆れた目が向けられていた。
カーマインから向けられる呆れられた目は、タカヒロとしてはもう要らないのだが、自身の言動が原因なだけに何も言えない。
魔法を使って強い火をつけるのだから、大きく拓けていないと燃え広がってしまう。
ゴミの近くで生活なんてしたくないと言うのもあるが、近くに建てても燃やされてしまいかねない危険があるのだ。一つ一つちゃんと意味があって、どれも考えれば当然に行き着くものばかりである。
「焼却を始める時間は決まっている。そうしないとゴミを捨て忘れて溜め込んでしまう者がいるかもしれないからな。鐘を鳴らして知らせるが、その音の後もしばらく待つ。ギリギリにならないと動かないという者も稀に存在することも考慮してだ」
カーマインの言葉にタカヒロは頷く。何となく身に覚えがあったからだ。
「そして、燃やし始める際にも近くに人が居ないことを確認する時間も持つ。またそこで鐘が鳴るので、そうしたら君の安全を確保しつつ、かつ魔法が届く距離に進み、魔法で燃やせばいい。それだけだ」
鐘の音と言うわかりやすい合図があると聞いて、タカヒロはわかりました、と大きく頷く。
やる流れがわかれば、次に頭に浮かんでくるのは、やること自体についてになる。
「あれを燃やすくらいはできるだろ?」
あそこに集められるゴミを燃やしつくせるだけの威力が出せるか不安になってくると、カーマインがタカヒロに出来るよな、とばかりの口調で言う。
丁度、考えていたことを聞かれて、タカヒロはカーマインをねめつけてしまう。
カーマインは本当に油断ならない相手だと、タカヒロはずっと思っていた。カーマインが声を掛けてきたのは偶然のように思っていたが、『神の玩具』の力を持っていたことを、そしてそれを失っていることを知っている上で誘ってきたように感じられるのだ。
今もなお、他の人たちより少し強い力を持っているっぽいことも、カーマインは知っていたようにも思えた。
何より、つい最近ではアンリのことがあったため、より下手に動けなくなっているのもあり、出来ないとも言えないタカヒロは、少し自身なさげに頷くしか出来なかった。
「鐘が鳴るぞ」
カーマインが口にして少しすると、カラーン、カラーンと高い音が響く。
タカヒロは鐘と聞いて少し違う音色を考えていたらしく、聞こえてきた音に少し拍子抜けしてしまう。あちらの世界で寺から聞こえる音を考えていたのだ。
ハッとして目を向ければカーマインから眼力の強い目を向けられており、タカヒロは押されるように心持ち緊張した足取りで進み、自身の勘に従って立ち止まる。
試したわけではないが、この距離ならいけると感じたのだ。もっとも、ゴミ捨て場にあまり近づきたくなかったと言う気持ちが無かったわけでもなかった。
タカヒロは意識して大きな火を生み出していく。
自身の力を呼び代にして、世界から力を集めていく。
自分の力だけで大きくて凄まじい力の魔法なんて、作り出せるわけが無い。そんなことが出来たら、その人にいったいどれだけ怖ろしい力が内在していると言うのだろうか。
漫画とか小説とかそういった物だったら、主人公なんかはそれくらい強さを持っていないと面白いとは思えなかったものであるが、そんな力を持っていたらただの化け物だ。
たった一人でそんな力を持っていたら、国にとって、世界にとって脅威でしかない。
世界そのものがどうしようもないほど強い敵に襲われているなら歓迎されるかもしれないが、普段においてそんな力を持つ人が自分たちの近くに居るなんて、ほとんどの人は望まないし、いなくなることを願うだろう。
いつその力が自分たちに向くかわからないし、その強さがある限り、その近くに居る人たちはその人の機嫌を損ねないように怯えて暮らすしか無くなってしまうのだ。
それは、あちらの世界であろうとこちらの世界であろうと変わらないことだった。
タカヒロが生み出していく火は、どんどんと大きくなっていく。大きくて眩しいものになっていく。
これくらいだろうと、これまた感覚で感じ取ったタカヒロは、四角いゴミ捨て場に向かって落とす。
それがゴミ捨て場に落ちると、ブワッと火が立ち昇った。
遠目ではあったが、タカヒロたちがこの王都に来てから何度か見たことがある光景だった。
が、その時に見た火よりも強い気がして、タカヒロは少しだけ後ずさる。
ゴミを燃やしている炎であるが、その火が綺麗なものに見えた。
ふと周囲に目を向けると、タカヒロたち以上に離れた場所で火に祈りを捧げている人たちの姿が見えた。
王都の中でもこの火を見ていた人の中には、同じように祈っている人が居るかもしれない、とふと思った。
タカヒロが燃やしたからなんて言うことは無い。ずっと変わらず、この火を見ていた人たちは感謝の祈りを捧げていたのではないかと思い、タカヒロも何となく祈りを捧げるようにしてしまう。
それほどに綺麗に立ち上る鮮やかな炎が、神秘的に見えたのだ。
祈りを捧げていたが、いつまでもここにいるわけにはいかないと意識を戻したタカヒロがカーマインの方に向くと、カーマインは険しい表情で城を見ていた。
「カーマインさん?」
タカヒロが呼びかけると、カーマインはハッと気が付いたようにタカヒロに向き直る。
「問題は内容だな。これからしばらくおまえに担当してもらう。週に一回だけしか無いのだ。仕事に問題は無いだろう?」
「はい。やります」
実際に大変な作業ではなかったし、久々に奮った魔法は綺麗で感謝もされ、手当も貰えるのだからずっとやりたくなるほどであった。
だから、やる気を見せて答えたのだが、なんとなくカーマインはタカヒロが城から離れる時間を作りたいだけなのではないかと、思えてしまった。
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