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「タカヒロ。最近、そっちの仕事はどうだ?」
何気ない会話のようにタカヒロに城の様子を尋ねるレッドであったが、分かるものには分かるくらいの不自然さを持っていた。
もちろん、レッドがタカヒロに聞いているのは、ギルマスから受けた依頼のためだ。
城の状況によっては危険を押してでもベルセイスに会いに行かなければいけないと言う、時間的な問題も抱えている内容ということも後押ししている。
タカヒロからの内容によっては、この後の動き方も大きく変わるため、レッドの手には自然と力が入っていた。
ギルマスがレッドに依頼した内容は、ただの城の様子見とベルセイスに会うことだ。
会ったからどうしろと言う話ではなかったが、ベルセイスをどうにかするのが本題なのだろうとは考えていた。
城の様子見と言うくらいなら、ギルマスくらいであればちゃんんとした伝手の一つも持っているはずで、わざわざレッドに見てきてもらわなくても信頼できる情報筋から聞けば良いだけなのだ。
依頼内容に黒い物を感じてしまうが、それでもレッドはベルセイスに会うつもりでいる。
内乱なんて起こされてしまったら、一番に被害を受けるのは平民たちなのだ。
決して強い力を持っているわけではなく、この国でただ日々を一生懸命に生きている人たちに出てくる影響の大きさは、決して望まれるものではない。
もしかしたら平和的に終わるのかもしれないが、力で持って起こした騒動が平和に終わるわけなど無い。
また家を、家族を、大切な人を失ったり、傷つく人が出てくる。これから先であれば、冬になる。寒い中、放り出される人が出てくるということになる。
レッドにはそれが起こるかもしれない事態を、黙って見ているなんて出来なかった。
ただ、ベルセイス相手にもし剣を振るうことになったのとしたら……。
レッドはチラッとリベルテの方を覗き見る。
レッドは無事ではすまない可能性が高いし、一緒に行動していたリベルテにも多大な迷惑がかかるかもしれない。
それでも、あの人が居るから、リベルテが生活していくことに困ることは無いだろう、とレッドは思ってタカヒロに向き直った。
「特に変わりはないですけど……。あ!」
「何かあったのか?」
何も変わりは無い、と言う言葉に安堵しようとしたのも束の間、タカヒロが何か思い出したかのように突然声をあげた。
小さなことかもしれないが、すでに動きがあるのかとレッドが警戒を強める。
「僕がゴミの焼却役をすることになったんですよ。派手にやれてちょっと楽しいですね。手当ても付くらしいですし……」
城の動きではなく、タカヒロの仕事に変化があったと嬉しそうに報告するので、レッドから肩の力が抜ける。
「それはすごいですね! たしか、かなり人気がある仕事だと聞いたことがありますよ」
リベルテがタカヒロの役就任に祝いの言葉を述べる。
その役がどんな仕事かはなんとなくわかっていたつもりであったが、改めて人気のある仕事だったことを思い出す。
派手に魔法を使え、周囲からは尊敬されるのだから、それは楽しいだろうと思える。
「手当てがつくってどれくらい? また美味しいものが食べられるかもなんだね?」
マイがタカヒロの給料について言及する。タカヒロが稼いだお金で食事しようという考えに少し呆れてしまうが、マイとタカヒロは付き合っているらしいので、それなら良いのかとぼんやりと考えていた。
「あら? でも焼却場となれば、城から遠いですよね。移動が大変そうです」
「あ~、そうなんですよねぇ。馬車は使わせてもらえてるから楽は楽なんですけど。長い時間揺られてると……」
「あ~、こっちの座席って柔らかくないもんねぇ。それに揺れるし」
「そうそう」
リベルテが焼却場の遠さについて口にすると、マイとタカヒロは二人して何かわかり合ったように頷いていた。
レッドたちも配送の依頼で馬車に乗ることがあるが、馬車とはそういう物だと思っている。
しかし、タカヒロやマイの言葉からは、あまり揺れなく、そして座る場所は板張りなだけではなく、柔らかいものになっているらしいことに、興味を惹かれる。
やはり、長い時間、硬いものの上に腰掛けて揺られ続けるのは楽なものではなかったのだ。
馬車について考えが向いていたレッドであったが、リベルテが言った言葉にハッとする。
城から遠い所にタカヒロが向かうことになったと言うこと。
いくら手当が付くとは言え、タカヒロが自分からその役に志願したとは思えないし、何より人気のある仕事であるなら、城勤めになって日の浅いタカヒロが負かされるのは不自然なように思われた。
そうなると、誰かがタカヒロを城から離したい、離れる時間を作り出したかったと考えるのが正しい。
アンリの件があるため、タカヒロが狙われる可能性も無いわけではない。タカヒロ自身を襲うつもりであるなら、城から遠く、また人目も少ない場所と言うのは絶好の場所のように思える。
逆にタカヒロを城の外に逃すためのようにも思えなくも無い。
城から離れた場所に居れば、それだけ兵たちが動き出しても巻き込まれる可能性が少なくなる。
城も決して一枚岩ではないため、今回の動きがどちらの狙いなのかわからない。どちらもありえそうなのだ。
ただ、タカヒロの護衛につけば、城で何か起こった際には間に合わない。
かと言って、城を警戒してタカヒロの護衛につかなかったときに何かが起きてしまえば……。
レッドはまだタカヒロと馬車について話をしているマイに目を向ける。今楽しそうに話をしているマイが泣き崩れる光景が浮かび、そんなことはさせたくないと思う。
それにに……。今度はリベルテに目を向ける。
マイたちの話に興味深そうに加わっているリベルテとマイは、仲の良い姉妹のように見えてくる。
マイが悲しむと、リベルテもきっと同じようになるのだろうと思えると、手を打たないわけにはいかなかった。
「レッド? さっきからどうしました?」
さすがに長く近くにいる相手だけあって、レッドの様子がおかしいことに気付いているようだった。
「いや……、楽しそうだなと思ってな」
「え~? レッドさんはガツッとお肉を食べたい! とか、マッフル食べたい!! とかないんですか?」
「おまえなぁ……」
馬車の話をしていたかと思えば、いつの間にか食べ物の話になっていたらしい。
さきほど朝食を取ったばかりであり、そんな後ですぐ食事の話をするきにはなれなかった。
しかし、もしを考えていた所だったので、ふと思っていたことが口からでてきた。
「……それだったら、またシュルバーン行きたいな」
また皆でのんびりと温泉にでも浸かって、ゆっくりしたいと思えたのだ。
それにシュルバーンはマッフルの本場である。マイたちにとっても行きたい場所だと思えたし、何より最近は、ハーバランド側にしか行ってなかったのもあった。
「それは良いですね!」
「マッフルの本場!! そうだよねぇ。旅しようと思ったらお金かかるもんね」
「……それ全部、僕持ちになるの? さすがに、違うよね?」
タカヒロが手当てのつく仕事についたと言う話から、今では大きく逸れて、話が旅の費用にまで発展して、タカヒロがあまりの出費に不安そうな顔になっていく。
さすがに旅費を全て一人に負担なんてさせる気は無く、レッドはタカヒロの様子に苦笑するしかなかった。
そんな談笑を続けていたが休みと言うわけではなく、タカヒロが思い出したように城へ向かっていく。馬車を急かしすぎて、人にぶつからないことを願うばかりだ。
そしてレッドとリベルテも冒険者ギルドで仕事を受けて、森に程近い場所で待ち呆けている。
森が荒れていることを重く見た各ギルドによって、森はその出入りがさらに制限されるようになっていて、特別に許可された依頼で無い限り、森に入ることが出来なくなったのだ。
その分、王都で暮らす人々に森で取れる恵みが入ってこないことに繋がってしまうのだが、他の地域から運ばれてくるものやウルクからの品を多く仕入れることで、食べ物が不足しないように動いているらしい。
待っている間、レッドは引き続き城の件について考え始める。
タカヒロ自身が狙われだしているのであれば、誰か護衛についた方が良い話になり、頼むならリベルテしか居ないのだが、説得する言葉が難しそうだった。
それに、リベルテをタカヒロの護衛にとすると、マイはどうするのかという話も出てくる。マイとて未だに狙われているかもしれないのだ。
思考の海に沈みかけていたレッドは、服を引っ張られて意識を戻す。
視線を上げると、リベルテが向こうと指を差す。
待っていたものたちが森から姿を見せてきていたのだ。
お互いに一つ頷いて、リベルテと並んで飛び出す。そして一振り。
短い鳴き声とともに数匹動かなくなったが、まだ残りがいる。一匹も逃すわけには行かない。
逃げ出した背中に向かって、レッドは短剣を投げつける。一……、二……。一本が外れる。
レッドが追加でもう一本投げようとしているうちに、短剣がモンスターに刺さった。
もちろん、リベルテが投げた物である。
レッドは肩を竦めて、リベルテに向かって軽く謝る。
レッドは、あの距離で外したことに投擲の訓練もした方が良さそうだと、言葉を漏らした。
今回の依頼は、グラトニースクワラルの討伐であった。
醜悪なモンスターが現れたことがあったが、そいつらは悪食であったらしく、あいつらも森を荒らしまわっていたようであった。
食べられる草木をどんどんと漁り、あれらが倒せる他のモンスターを次々と襲っていったため、元々森に生息していたモンスターはその数を減らしてしまった。
森が荒れていることの一端に、あのモンスターの存在もあったと言うことである。
あのモンスターのせいで数を減らしていたモンスターたちであるが、その反動なのか、醜悪なモンスターが居なくなった後、その数を一気に増やすこととなったのだ。
そこに薬草を採りつくしてしまったことで制限が掛かり、人の出入りも少なくなったことも手助けに成ってしまっていたようでもあった。
モンスターが増えたことで被害を受けた人も多くなってきているため、当然、討伐の話も舞い込んでくるのだが、森に入って討伐させてしまうと折角制限させた意味が無くなってしまう。
何より討伐なのだから、採取以上に周りを見てどうにか出来るものではないのだ。
それに大量に増えているが、スクワラルを餌とする魔物もいるので、討伐しすぎるわけにもいかない。
取った行動が他に大きな影響を及ぼしてしまいやすい、自然とともに生活していくと言うのは酷く面倒くさく、そして難しいものだ。
しかし、そうしなければ生活が苦しくなってくるのもまた、人間である。
倒したスクワラルをレッドたちは回収していく。肉は少ないが得られる所はり、何より毛皮が利用できる。無駄に捨てることなんて出来はしない。
拾って回っていると、リベルテがレッドを訝しそうに見ていた。
「レッド……。何か抱え込んでませんか? どうにも違和感が……」
「そうか? まぁ、腕が鈍ってるのはあったな。投擲の訓練もしないとだな?」
話を少し逸らすように短剣を外したことを悔やむように口にすると、リベルテは少し笑いながら乗ってくる。
「感覚を取り戻すように、軽く投げこむだけで良いのでは? 投擲が主体ではないのですから」
物を投げて戦うことを主軸と出来るほどの稼ぎは難しい。
投げることでぶつかったりした先でダメになっていくし、投げた後でそれらを回収できるとも限らないのだから、相当な出費を覚悟したものになる。それならまだ弓の方が距離も違うし、一つあたりの費用も違う。
しかし、弓の腕にそこまで覚えが無いレッドは剣の鞘をなでる。剣が一番しっくりくるのである。
回収し終えて戻ってくると、ひゅうっと少し冷えた風が吹いてくる。
まだ夏の残りで暑い日は多いが、時折冷たい風も吹くようになってきていた。
「帰ろうぜ」
「ええ」
冷たい風はあるものの、暑くは無く寒くもなく、人が動きやすい時期となっていた。
何気ない会話のようにタカヒロに城の様子を尋ねるレッドであったが、分かるものには分かるくらいの不自然さを持っていた。
もちろん、レッドがタカヒロに聞いているのは、ギルマスから受けた依頼のためだ。
城の状況によっては危険を押してでもベルセイスに会いに行かなければいけないと言う、時間的な問題も抱えている内容ということも後押ししている。
タカヒロからの内容によっては、この後の動き方も大きく変わるため、レッドの手には自然と力が入っていた。
ギルマスがレッドに依頼した内容は、ただの城の様子見とベルセイスに会うことだ。
会ったからどうしろと言う話ではなかったが、ベルセイスをどうにかするのが本題なのだろうとは考えていた。
城の様子見と言うくらいなら、ギルマスくらいであればちゃんんとした伝手の一つも持っているはずで、わざわざレッドに見てきてもらわなくても信頼できる情報筋から聞けば良いだけなのだ。
依頼内容に黒い物を感じてしまうが、それでもレッドはベルセイスに会うつもりでいる。
内乱なんて起こされてしまったら、一番に被害を受けるのは平民たちなのだ。
決して強い力を持っているわけではなく、この国でただ日々を一生懸命に生きている人たちに出てくる影響の大きさは、決して望まれるものではない。
もしかしたら平和的に終わるのかもしれないが、力で持って起こした騒動が平和に終わるわけなど無い。
また家を、家族を、大切な人を失ったり、傷つく人が出てくる。これから先であれば、冬になる。寒い中、放り出される人が出てくるということになる。
レッドにはそれが起こるかもしれない事態を、黙って見ているなんて出来なかった。
ただ、ベルセイス相手にもし剣を振るうことになったのとしたら……。
レッドはチラッとリベルテの方を覗き見る。
レッドは無事ではすまない可能性が高いし、一緒に行動していたリベルテにも多大な迷惑がかかるかもしれない。
それでも、あの人が居るから、リベルテが生活していくことに困ることは無いだろう、とレッドは思ってタカヒロに向き直った。
「特に変わりはないですけど……。あ!」
「何かあったのか?」
何も変わりは無い、と言う言葉に安堵しようとしたのも束の間、タカヒロが何か思い出したかのように突然声をあげた。
小さなことかもしれないが、すでに動きがあるのかとレッドが警戒を強める。
「僕がゴミの焼却役をすることになったんですよ。派手にやれてちょっと楽しいですね。手当ても付くらしいですし……」
城の動きではなく、タカヒロの仕事に変化があったと嬉しそうに報告するので、レッドから肩の力が抜ける。
「それはすごいですね! たしか、かなり人気がある仕事だと聞いたことがありますよ」
リベルテがタカヒロの役就任に祝いの言葉を述べる。
その役がどんな仕事かはなんとなくわかっていたつもりであったが、改めて人気のある仕事だったことを思い出す。
派手に魔法を使え、周囲からは尊敬されるのだから、それは楽しいだろうと思える。
「手当てがつくってどれくらい? また美味しいものが食べられるかもなんだね?」
マイがタカヒロの給料について言及する。タカヒロが稼いだお金で食事しようという考えに少し呆れてしまうが、マイとタカヒロは付き合っているらしいので、それなら良いのかとぼんやりと考えていた。
「あら? でも焼却場となれば、城から遠いですよね。移動が大変そうです」
「あ~、そうなんですよねぇ。馬車は使わせてもらえてるから楽は楽なんですけど。長い時間揺られてると……」
「あ~、こっちの座席って柔らかくないもんねぇ。それに揺れるし」
「そうそう」
リベルテが焼却場の遠さについて口にすると、マイとタカヒロは二人して何かわかり合ったように頷いていた。
レッドたちも配送の依頼で馬車に乗ることがあるが、馬車とはそういう物だと思っている。
しかし、タカヒロやマイの言葉からは、あまり揺れなく、そして座る場所は板張りなだけではなく、柔らかいものになっているらしいことに、興味を惹かれる。
やはり、長い時間、硬いものの上に腰掛けて揺られ続けるのは楽なものではなかったのだ。
馬車について考えが向いていたレッドであったが、リベルテが言った言葉にハッとする。
城から遠い所にタカヒロが向かうことになったと言うこと。
いくら手当が付くとは言え、タカヒロが自分からその役に志願したとは思えないし、何より人気のある仕事であるなら、城勤めになって日の浅いタカヒロが負かされるのは不自然なように思われた。
そうなると、誰かがタカヒロを城から離したい、離れる時間を作り出したかったと考えるのが正しい。
アンリの件があるため、タカヒロが狙われる可能性も無いわけではない。タカヒロ自身を襲うつもりであるなら、城から遠く、また人目も少ない場所と言うのは絶好の場所のように思える。
逆にタカヒロを城の外に逃すためのようにも思えなくも無い。
城から離れた場所に居れば、それだけ兵たちが動き出しても巻き込まれる可能性が少なくなる。
城も決して一枚岩ではないため、今回の動きがどちらの狙いなのかわからない。どちらもありえそうなのだ。
ただ、タカヒロの護衛につけば、城で何か起こった際には間に合わない。
かと言って、城を警戒してタカヒロの護衛につかなかったときに何かが起きてしまえば……。
レッドはまだタカヒロと馬車について話をしているマイに目を向ける。今楽しそうに話をしているマイが泣き崩れる光景が浮かび、そんなことはさせたくないと思う。
それにに……。今度はリベルテに目を向ける。
マイたちの話に興味深そうに加わっているリベルテとマイは、仲の良い姉妹のように見えてくる。
マイが悲しむと、リベルテもきっと同じようになるのだろうと思えると、手を打たないわけにはいかなかった。
「レッド? さっきからどうしました?」
さすがに長く近くにいる相手だけあって、レッドの様子がおかしいことに気付いているようだった。
「いや……、楽しそうだなと思ってな」
「え~? レッドさんはガツッとお肉を食べたい! とか、マッフル食べたい!! とかないんですか?」
「おまえなぁ……」
馬車の話をしていたかと思えば、いつの間にか食べ物の話になっていたらしい。
さきほど朝食を取ったばかりであり、そんな後ですぐ食事の話をするきにはなれなかった。
しかし、もしを考えていた所だったので、ふと思っていたことが口からでてきた。
「……それだったら、またシュルバーン行きたいな」
また皆でのんびりと温泉にでも浸かって、ゆっくりしたいと思えたのだ。
それにシュルバーンはマッフルの本場である。マイたちにとっても行きたい場所だと思えたし、何より最近は、ハーバランド側にしか行ってなかったのもあった。
「それは良いですね!」
「マッフルの本場!! そうだよねぇ。旅しようと思ったらお金かかるもんね」
「……それ全部、僕持ちになるの? さすがに、違うよね?」
タカヒロが手当てのつく仕事についたと言う話から、今では大きく逸れて、話が旅の費用にまで発展して、タカヒロがあまりの出費に不安そうな顔になっていく。
さすがに旅費を全て一人に負担なんてさせる気は無く、レッドはタカヒロの様子に苦笑するしかなかった。
そんな談笑を続けていたが休みと言うわけではなく、タカヒロが思い出したように城へ向かっていく。馬車を急かしすぎて、人にぶつからないことを願うばかりだ。
そしてレッドとリベルテも冒険者ギルドで仕事を受けて、森に程近い場所で待ち呆けている。
森が荒れていることを重く見た各ギルドによって、森はその出入りがさらに制限されるようになっていて、特別に許可された依頼で無い限り、森に入ることが出来なくなったのだ。
その分、王都で暮らす人々に森で取れる恵みが入ってこないことに繋がってしまうのだが、他の地域から運ばれてくるものやウルクからの品を多く仕入れることで、食べ物が不足しないように動いているらしい。
待っている間、レッドは引き続き城の件について考え始める。
タカヒロ自身が狙われだしているのであれば、誰か護衛についた方が良い話になり、頼むならリベルテしか居ないのだが、説得する言葉が難しそうだった。
それに、リベルテをタカヒロの護衛にとすると、マイはどうするのかという話も出てくる。マイとて未だに狙われているかもしれないのだ。
思考の海に沈みかけていたレッドは、服を引っ張られて意識を戻す。
視線を上げると、リベルテが向こうと指を差す。
待っていたものたちが森から姿を見せてきていたのだ。
お互いに一つ頷いて、リベルテと並んで飛び出す。そして一振り。
短い鳴き声とともに数匹動かなくなったが、まだ残りがいる。一匹も逃すわけには行かない。
逃げ出した背中に向かって、レッドは短剣を投げつける。一……、二……。一本が外れる。
レッドが追加でもう一本投げようとしているうちに、短剣がモンスターに刺さった。
もちろん、リベルテが投げた物である。
レッドは肩を竦めて、リベルテに向かって軽く謝る。
レッドは、あの距離で外したことに投擲の訓練もした方が良さそうだと、言葉を漏らした。
今回の依頼は、グラトニースクワラルの討伐であった。
醜悪なモンスターが現れたことがあったが、そいつらは悪食であったらしく、あいつらも森を荒らしまわっていたようであった。
食べられる草木をどんどんと漁り、あれらが倒せる他のモンスターを次々と襲っていったため、元々森に生息していたモンスターはその数を減らしてしまった。
森が荒れていることの一端に、あのモンスターの存在もあったと言うことである。
あのモンスターのせいで数を減らしていたモンスターたちであるが、その反動なのか、醜悪なモンスターが居なくなった後、その数を一気に増やすこととなったのだ。
そこに薬草を採りつくしてしまったことで制限が掛かり、人の出入りも少なくなったことも手助けに成ってしまっていたようでもあった。
モンスターが増えたことで被害を受けた人も多くなってきているため、当然、討伐の話も舞い込んでくるのだが、森に入って討伐させてしまうと折角制限させた意味が無くなってしまう。
何より討伐なのだから、採取以上に周りを見てどうにか出来るものではないのだ。
それに大量に増えているが、スクワラルを餌とする魔物もいるので、討伐しすぎるわけにもいかない。
取った行動が他に大きな影響を及ぼしてしまいやすい、自然とともに生活していくと言うのは酷く面倒くさく、そして難しいものだ。
しかし、そうしなければ生活が苦しくなってくるのもまた、人間である。
倒したスクワラルをレッドたちは回収していく。肉は少ないが得られる所はり、何より毛皮が利用できる。無駄に捨てることなんて出来はしない。
拾って回っていると、リベルテがレッドを訝しそうに見ていた。
「レッド……。何か抱え込んでませんか? どうにも違和感が……」
「そうか? まぁ、腕が鈍ってるのはあったな。投擲の訓練もしないとだな?」
話を少し逸らすように短剣を外したことを悔やむように口にすると、リベルテは少し笑いながら乗ってくる。
「感覚を取り戻すように、軽く投げこむだけで良いのでは? 投擲が主体ではないのですから」
物を投げて戦うことを主軸と出来るほどの稼ぎは難しい。
投げることでぶつかったりした先でダメになっていくし、投げた後でそれらを回収できるとも限らないのだから、相当な出費を覚悟したものになる。それならまだ弓の方が距離も違うし、一つあたりの費用も違う。
しかし、弓の腕にそこまで覚えが無いレッドは剣の鞘をなでる。剣が一番しっくりくるのである。
回収し終えて戻ってくると、ひゅうっと少し冷えた風が吹いてくる。
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