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いざ、翠の森へ
過去の自分を知る者
しおりを挟むあんなにも黒い魔女への憎しみと怒りに覆われていた私の心は、2人の神の出現によりあっという間にドロドロしたものが溶かされてしまった。
氷と炎の化身の後ろ姿にどこまでも安心して、勝手に涙が溢れてしまう。
もうこれで大丈夫だと、誰に言われなくとも自然と心がほっとして全身から力が抜けた。
だが知らぬ間に相当力が入っていたようで、抜けた途端震えていた足は地面に座り込んでしまう。
『信じられない。まさか、ボルケーノ様の封印が解かれたなんてっ!!』
そしてその二対の神を前にして、恍惚とした表情でいる黒い魔女。
『歴代の黒い魔女の中でも、最強と言われたあの人が封じたのに!!』
『そうだな、あの女にはしてやられた』
『しかもただの人間が解くなんて!』
「!!??」
黒い魔女の視線は、最後に私へと向かう。
『きさまの相手は私だ、黒い魔女』
スッと、その視線を遮るようにしてイヴァーナ様が私の前に立つ。
イヴァーナ様の感情に共感した私ですらあんなにも激しい憎悪に支配されたというのに、イヴァーナ様自身はとても静かな様子だった。
だがその分、まっすぐで強い瞳が射抜く。
『お前があいつの影だと言うなら、その周りの空間ごと私が凍らせて壊してやろう!!』
『いや、その周りの空間を切り取ってから我が炎で燃やし尽くしてもいいぞ?』
『・・・・・ざ~んね~ん。影ごときであなた方に敵うとは到底思えないし、今日はおとなしく身を引きますよ』
言葉と共にくるくるっと回転しながら、黒い魔女がその身をひるがえして空中に浮かぶ。
『逃げるのか!』
『ボク、好物は最後まで取っておく主義なんです~~』
そして空間が歪み、ケラケラと最後まで不気味な笑みを浮かべた黒い魔女の体は空に溶け込むようにして消えた。
『またすぐキミに会いに行くよ。あと、王子様にはぼくからステキなプレゼントをしておいたんだ』
『!!??』
最後の言葉は、私の頭の中で響く。
黒い魔女が消えるとともに辺りの天候も回復し、再びクローディアは太陽の光に包まれた。
『大丈夫か?主よ』
『・・・・・私は大丈夫です!それよりも、すぐにアルフレド様とジークフリート様のところに行かなきゃ!!2人が危ないっ!!』
あの黒い魔女が言う『プレゼント』なら、それは絶対に良くないものに決まってる!
『分かった、すぐに2人の元へ連れて行こう。イヴァーナ、お主はどうする?』
『私は一度クローディアの中に戻ろう。必要ならばすぐに名を呼べ』
『あ、ありがとうございますっ!!』
『すまない、私の過去を見せたばっかりに黒い魔女がお前のことを気に入ってしまった』
黒い魔女のあの目は、完全に彼女を次の獲物として認識してしまった。
『いいえ。なにも知らない方が、ずっと怖かったです』
何者か分からないままでは、油断してる間にあっけなく殺されてしまったかもしれない。
『黒い魔女はみな、狙った獲物は死ぬまで追い続ける執念深さが凄まじい。お前も、十分に気をつけろ』
「分かりました!でも私、執念深さならだれにも負けないです!」
『・・・・・フッ、そうだな』
そう言って笑顔を見せる彼女にイヴァーナも柔らかく微笑むと、空気に溶け込むようにして消えていく。
『よし、では行くぞ主よ!!』
「うん!!」
ボルケーノの炎に包まれて、私達はアルフレド様とジークフリート様のところへと急ぐ。
実はこっそりと2人の跡を追わせたマーズを通じて、まだ無事なことは分かっていたがそれでも不安は湧いてきた。
お願いだから、何事も起こりませんようにーーーーーーーー!!
そして、時間は少し前に遡る。
アルフレド王子とバーチ、ジークフリートと銀の騎士はそれぞれが激しい剣のぶつかり合いとなっていた。
「なるほど、あの頃よりはお強くなられた」
「うるさい!!あんな子どもの頃と一緒にするな!!」
アルフレドに剣を教えたのは、目の前のこの男。
子どもの頃は目をつむったままのバーチにすら、かすり傷1つ負わせられなかった。
「ですが、剣が大ぶりで脇が甘いのと次の動きが分かりやすいのは・・・・変わらないですね」
ガキンっ!!!
「くっ・・・ッ!!」
一気にバーチに距離を詰められ、体格が違いすぎて力では到底勝てないこの男の剣に押し負けそうにる。
だが、距離が近いからこそ気づくこともあった。
バーチの目には光がない。
目を合わせているのに、目が合わない。
こうして対峙しているのは間違いなく彼本人なのに、なぜこんなにも胸がざわつくのか。
「相手と剣を合わせている時に余所見をするとは、ずいぶん余裕がおありのようだ」
「・・・・・がはっ!!」
バーチに剣を思い切り自分の剣に押しやり、アルベルトの身体が後ろの木へと激しくぶつかる。
「アルフレド王子っ!!」
「・・・・・いいのか?よそ見をして」
「!!??」
ガキンッ!!!
「ふむ、言い返しだ」
この銀の騎士は、とても強い。
今までジークフリートが戦ってきた強者の中でもトップクラスだろう。
今はまだ小手先の力試しのような感じだが、この男が本気を出せばほんの少しの隙を決して見逃さず一気に潰しにかかってくるに違いない。
「・・・・・お前と俺は、以前に戦ったことがあるのか?」
そして、剣を合わせる中で感じる違和感。
俺はこの剣を、どこかで知っている。
「なるほど。ほんの少しの癖でそれを感じるとは、さすがだ。英雄と呼ばれただけのことはある」
「お前は・・・・誰だ?」
鉄仮面で全て覆われている為に顔は見えない。声も聞き覚えがない響きだ。
「知りたければ俺を倒せ。弱い今のお前に教える名などない!」
銀の騎士の剣のスピードが加速し、一気にジークフリートへとたたみかける。
「くっ!!俺が、弱いだとっ?!」
「正確には、あの頃よりも弱くなった」
「何・・・・ッ?!」
ズバンッ!!!
銀の騎士の剣が大きく横になぎ払われ、ジークフリートの身体が後ろへと吹っ飛ぶ。
「あの頃の、戦場に自らその身を置き、目に入る全てのものをただひたすらに斬り殺していたお前は、今よりもはるかに強く美しかった」
「な・・・・何を言って」
「その頃のお前との戦いは抜き身の刃そのものと対峙しているようで、一振り一振りの攻撃の鋭さと重みにこの身が震えたよ」
「・・・・・悪いが、あのころの俺には二度と戻らない」
あの頃の俺は全てに絶望し、戦場に身をおいて常に死と背中合わせでいることで生きていることを感じていた。
血を見ない日はなく、真っ赤な世界で本能のあるがまま獣のように生きていたあの頃。
自分のことも含めて守るものなど何もないからこそ、死を怖がらずに向かっていけていた。
だが国を守る騎士となり、守るものができた今の俺にはあの頃のような無謀な戦い方はできない。
そしてーーーーーーー。
『誰かを守る為になら、自分が死んでも構わない。そんなお前を守る為に、クローディアは何度だって死んでまたここへ来る。そんなお前には、何1つ守れやしない』
『ジーク、フリート様が・・・・・嫌だ!嫌だ!!死なないでっ!!』
俺はもう二度と、彼女をあんな目には合わせない。
「そうだ、お前は守るものができて弱くなった。俺がもう一度戦いたいのは、今の弱いお前ではなくあの頃のお前だ」
銀の騎士が俺に向かって、まっすぐに剣を向ける。
「・・・なんと言われようとも、お前の望みなど叶える気はない。今の俺が俺自身だ!」
ジークフリートも炎の剣をしっかりと持ち直し、銀の騎士へと向けて構えた。
「!?」
そして、その肩口には空からフワリと舞い降りて来た炎の鳥が静かに乗る。
「マーズ・・・・彼女か」
そうだ、俺はもう1人じゃない。
あの頃の俺にはーーーー決して戻らない!!
「ほぉ、いい顔をするじゃないか。ならば俺にその強さを見せてみろ!」
「あぁ、言われなくとも見せてやるさっ!」
次の瞬間、お互い同時に地を蹴ると先ほどとは比べものにならないスピードと力強さで激しい剣の打ち合いか始まった。
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