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2人の王子

古代神殿

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古代神殿は、神というのは名ばかりのもはや廃墟のような場所で辺りにはモンスターが大勢獲物を求めて徘徊していた。

そんな中で、まさにその獲物たるクローディア達が現れたことに歓喜したモンスター達が一斉にこちらへと襲いかかってくる。


「クローディア、君は王子とここを動かないで」

「分かった」



クローディアの耳元でそう呟いたルークは、1人モンスターの中へとなんの躊躇もなしに進んでいく。


「ま、魔導師殿はお一人で大丈夫なのですか!?」


そんなルークの姿に慌てふためくのは、クローディアの心の癒しであるラファエル王子。

彼自身も腰に常備していた、宝石で飾られているご大変立派な護身用とは名ばかりで実用的にはあまり向かなそうな短剣を手に持つが、恐らくモンスターを始めて見たのだろうその手は震えていた。


「ルークなら大丈夫ですよ。彼は魔法院が誇る、最強の魔導師ですから!」

「!?」



『魔封じの腕輪』によってクローディアもルークも自分から発動する魔法が封じられているだけで、攻撃する両手や手段が全て塞がれたわけではない。

モンスターへと向かえる足も自由だし、ルークのこれまでに得た膨大な知識と集めてきたであろうその大半が怪しい雰囲気を醸し出しているクローディア的に近寄りたくない魔具のコレクションは、ルークにとって何より強い武器だ。


「フフ・・・・・前に来た時より、ずいぶん増えたね。自然に集まってきたのか、それとも何かによって呼び寄せられてきたのか」


ルークが前に出てきたことで、モンスター達のターゲットが彼へと集中していく。


「いい機会だから、試させてもらおうかな。開発中の試作品♪」

「る、ルーク!試作品って、ちょっとそれ安全的には大丈夫なのっ!?」


すでに何十というモンスターが彼を囲むようにして近づき、今にも飛びかからんばかりに強烈な殺気を放っていた。

もしその試作品とやらが、万が一不発になった場合はどうするというのだろうか?


「その時はその時だよ♪さぁ・・・・雷竜の杖よ、その力をここに示せ!」

「!?」

「く、クローディアさん!!モンスター達の上空に大量の黒い雲が!!」



ルークが金色の宝玉を龍の口がくわえているようなデザインの『雷竜の杖』をローブの中から取り出し、空高くその杖を掲げると突然黒い雲が空間に生まれ、そこから無数の激しい雷が轟音とともにモンスターへと襲いかかる。

試作品って、魔法院はいつの間にこんなすごい魔道具を開発していたのか!!


「残念、はずれ。これは魔法院じゃなくて、ぼく個人の研究の試作品だよ♪」

「・・・・さようでございますか」



ニッコリ笑いながら、ナチュラルに思考を読むのいい加減やめてくれませんかね?


そんなことを考えている内に、ルークの周りにいたモンスター達はあっという間に雷に全身感電して意識を失うか、ステータス的に言えば『麻痺』状態になったまま地面に倒れて動けなくなっていた。


「うーーーーん、威力がまだちょっと弱いかな?」

「す、すごい!これが、本物の攻撃魔法なんですね!!」


モンスターに向けて直に攻撃魔法を扱う姿は初めて見たらしいラファエル王子が、頬を赤く染めて興奮しながらその光景を眺めている。


あぁ!

どうか、私の癒しの天使があのスマイル魔王に黒く染められることだけはありませんように!!

素直な分、何でも吸収してしまいそうで逆に怖い。


「それじゃ、神殿の入り口に行こうか?ただ、ここは前に来た時にぼくが何をしても開かなかったから、すぐに入れるかは分からないけれど」



何だろう?

もしや魔法や最後とかいう名がつく鍵とか、特別なものが必要なんだろうか。


だけど、それを探しに行っている時間はどこにもない。


ゲームではいくらレベル上げに時間をかけて、寄り道しまくろうとも人質は無事なままだし、ボスモンスターから早く来るように催促があるわけでもない。

今から思えば主人公が来るのをいつまでも待っててくれる敵のボス達は本当に忍耐強かったんだなと、およそ見当違いのことでうっかり感心してしまった。


だけど、現実ではいつランディ王子の首に死神の鎌が襲い来るか分からないのだ。



「・・・・・大丈夫です。その為に、ぼくがここに来たんですから」


キリッ!とそのエメラルドの瞳に力を入れると、どこから見ても美少女にしか思えないラファエル王子の可愛らしい顔が、一気に凛々しい少年の物へと変わる。

ラファエル王子はまっすぐに神殿の扉へと向かい、その錆び付いて色があちこち変化し、彫られた古代文字も劣化しすぎてあらゆる部分にヒビが入って割れかけた石の壁にそっと手を添えた。

そしてそのまま微動だにせず、静かに目を伏せる。



「ルーク、ラファエル王子は何をしてるの?」

「ここは黙って、彼に任せてみよう」

「!?」


ラファエル王子を邪魔しないよう静かにね?という言葉の代わりに、ルークがスッと自分の唇に人差し指を当ててクローディアへと伝え、その意味を理解したクローディアが両手を口に当てて塞いだまま、首を縦に振って了解の合図を送った。




「・・・・・・・・・・・」




風の音だけがわずかに響くその静かな時間がしばらく続いた後、ようやく目を開けたラファエル王子はすぐさま自分の腰につけてある短剣を抜き、自分の手のひらにその刃を走らせる。


「ら、ラファエル王子、何をっ!?」


その光景に思わず声を出して駆け寄ろうとするが、すぐに側にいたルークに腕を掴まれ首を横に振って止められた。

その紫の目が大丈夫だと言っていたが、それでも不安のまま王子を見つめる。




その後、ラファエル王子は自分が斬ったその傷跡から溢れる紅い血を、手の平を逆にして神殿の入り口の床に向かって落としていく。

血は雫となってゆっくり落ち、その床には先ほどまで気づかなかったが古代文字が書かれた石板のようなものがある一箇所にだけ埋め込まれ、ラファエル王子はその上に自らの血をまっすぐ落としていた。

そしてその手を石板に向けてかざしたまま、彼のいつもよりも力が込められ、凛とした声が辺りに響く。



「我が名は、アルカンダル王国王家の血を正しく引く、ラファエル・ルカ・ド・オーギュスト!ここに、神殿の鍵となる王家の証たる生きた血は流れた!古に交わした契約通り、我が前に道を開け!」


「・・・・・・・ッ!?」

「こ、これはっ!」


その声に応えるかのように血を浴びた石碑の古代文字が突然光り始め、神殿の扉が地ひびきのような音をさせながらゆっくりと開いていく。

そのあまりにすごい光景にしばらくポカンと見つめているだけだったが、扉が開ききったのと同時に、彼がケガをしていることを思い出してすぐにそばへと駆け寄った。


「ら、ラファエル様大丈夫ですか!?」


その真っ赤な血に濡れた手を、持っていた白いハンカチでグルグルに巻き、両手で彼の手をギュッと包み込む。

たぶんしばらくこうしていれば、いつもの自動回復機能が勝手に作動してくれるはずだ。

一応、ルークに『魔封じの腕輪』をつける際に確認したら、体質は抑えられないと言うことだった。


「・・・・・・・」

「ら、ラファエル王子?大丈夫ですか?」


先ほどから一言も発してないことに気がつき、心配になって彼の顔を覗き込んでみると、クローディアの視線に気がついたラファエル王子が顔をぱあっと明るくさせる。


「ひ、開きました!!本当に、本当に僕の血で開きました!!」


よく見ると、興奮した様子の中で少しだけ涙が浮かんでいる。


「ごめんなさい、実は少しだけ不安だったんです。父上の子だってことと王家の血を継ぐ者として、改めて正式に認めてもらえたんだって思えて」

「・・・・ラファエル王子」


そういえば以前に流れていた噂の中にはラファエル王子が、多数の貴族達と異性の関係もあったと言われているアビゲイル王妃と別の男性との子ではないのか?というものもあった。

遺伝子検査ができないこの世界では、自分の本当の両親かどうかの真実を知るのは母親であるアビゲイルだけだが、目の前の扉が王家の者として反応した事実こそが何よりアレキサンダー王の血を継いでいる証となったのだ。


「フフ・・・・感動しているところで悪いけど、何で君は王家の血を流すことがこの扉の鍵だって分かったのかな?そこに書いてある古代文字は、全く別のことが書いてあるよね?」


ルークが入り口の床に書かれた、血に染まった石板を眺めても扉の開け方についての文章ではどこにも書かれていない。


「あ、あの、この神殿が教えてくれたんです!!」

「・・・・・どういうことか、ちゃんと話してくれる?」


どうやらラファエル王子には、幼い頃から神殿や遺跡などの歴史あるものや、古い書物などに触れると頭の中で勝手に分かる言葉や意味として『声』が流れてくるらしい。

そのおかげで、本を読むとそこに書かれている知識が一気に流れ込んでくるから、それをあとから必要な部分だけを取り出したりまとめたりと、整理するのがとても大変なんです。

と言う王子の前で、受験の際に誰もが欲しがる能力だなと今は全く関係ないのについ思ってしまった。


「そうか。同調能力・・・・古代文字がかつて使われていた、古い時代の魔導師の中には確かにそういう力を持っていた者もいたと聞いたことがあるけど、もしかしたら王家の先祖の中にその力を持つ魔導師の1人がいたのかもしれないね」


「すごい能力ですね!ラファエル王子!!」


実は、何気にゲームではサブキャラのポジションだった方達の方がチートではないだろうか?とよく思ってた。

どうせダンジョンに連れて行くなら、そういうサブキャラこそを連れて行きたかったです。


「いえ、こんなぼくでもお役に立てたならばよかったです。さ、早くランディ王子のところに行きましょう!神殿の奥の鉄格子がある部屋に子どもの後ろ姿が見えたので、彼がいるのはきっとそこだと思います!!」



すごい!!

まさかの、遠視?いや、透視能力まであるんですか!?



「そうですね!すぐに行きましょう!!」

「それなら先頭はぼくが行くよ。2人は、後からついてきて」

「うん!分かった!」

「は、はい!」



その時、少しだけ考え込んだ様子のルークだったが、そのことでクローディア達に何か言うことはなくまっすぐに中へと入っていく。



「く、クローディアさんっ!」


扉の中へと入るためにずっと握っていたクローディアの手が離れ、ハンカチをどけたそこにあるはずの傷が跡形もなくなっていることにようやく気付いたラファエル王子が驚きに声をあげた。


「あ、黙って治してすみません。ラファエル王子の能力みたいなもんで、私も少し前からちょっとした特異的な体質なんですよ」

「そ、そうなんですか」


痛みどころかかさぶたすらもない手の平を不思議そうに見つめた後、すでに神殿の中へとどんどん進んで行くルークに気がつき、クローディアとラファエル王子が慌てて中へと入っていく。

2人がちゃんとついてきているのを見届けてから、ルークは奥へと進む歩みをさらに早めた。



だが、その頭の中では先ほどの床の石板に書かれた古代文字が繰り返される。

以前訪れた際も確かに同じ場所に石板はあり、そこには古代文字が彫られていた。


そして、ルークの記憶に間違えがなければ、その時と今では彫られていることに相違点がある。



『地の神揃いし時、天の神その姿を現す。天の神は創造と破壊なり。生在るものの行く末はその神々に委ねられる』



以前に見た、石板の文章はここまで。


しかしーーーーーーー先ほどの石板には、その後に古代文字にてこう彫られていた。



『時は来た。封印は解かれ、我らの神が目覚める』

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