グッバイ、親愛なる愚か者。

鳴尾

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この間、病院へ行ったら先生に言われた。また病気が悪化してる、できればすぐにでも入院してきちんと治療したほうがいい、そうじゃなきゃ、この冬を越すのは難しいだろうって。
結局これだ。二年弱も必死で誤魔化し続けて君にも散々迷惑をかけて、その結果がこれ。
見ないふりをしていた死神は、いつの間にか俺のすぐ後ろで笑ってた。
たとえば今年の冬を病院で過ごしたとして、そのあと俺はどうなる?体が良くなって学校へ戻ったって、憐れみや心配で溢れた特別扱いの日々が待ってるだけだ。君から病弱の肩書きを奪ってね。それに入院したからって俺の体は完治するわけじゃない。病院に行ってもやることはただの延命活動。その悪あがきみたいな延命活動のために、俺はこれまで必死になって縋り付いていた地位を全部失うんだ。
そう考えた瞬間、全部がどうでもよくなった。今まで必死に死神から逃げていたのが馬鹿らしくなった。どうせ全部失ってしまうのなら、この命もなくしてしまおう。冬を越すのが難しいなら、苦しむ前に連れていってもらおう。どうせあっち側のほうが友だちは多い。俺は長く生きすぎた。もう十分だよ。
一度そう考えたら意思はどんどん大きくなってあっという間に強くて固い決意になった。
もし君に見つかったらどんな行動をするか少し気になったけど、結局君は仮病以外で俺に関わろうとはしなかったからいつもみたいに見て見ぬふりをするかなって思った。だって君は、そういうやつだろ?
それからはどうやってって、そればっかり考えるようになった。医務室の先生はもしかしたら俺の心情を察していたかもしれないけど、何も言ってはこなかった。先生はずっと俺のやりたいようにさせてくれた。
どうせなら最後に君の役に立とうと思ったのはこの頃だ。どうせ俺はいなくなるんだし、これからも生きていく君の名誉の回復に俺の命を使おうと思った。だからみんなに手紙を書いた。君は俺に利用されていただけの心優しい少年だって。けど、あの手紙に意味なんてなかったのかもしれないね。だって君も俺と同じことをしようとしていたもの。

俺が君宛ての手紙を見たのはたった一度。訃報に添えられた、苗字の違うおばあさまからの手紙。
君が複雑な家庭の出だっていうのはなんとなく察してた。他の部屋は二日に一通とか、下手すりゃ毎日誰かから手紙が来ていたのに、君に当てられた手紙が部屋に届いたことなんて二年でその一度きり。たまに電報は届いていたけど、明らかに君の家族からじゃなかった。
君がそのたった一度の手紙を読んだ直後に言った頼みは、あまりに目的が分かりやすかった。君は鍵を貸して欲しいとしか言わなかったけど、何をしたいかはよく分かった。だって君はなんだか吹っ切れたような顔をしていて、それは少し前の俺によく似ていたから。

君を止める気は微塵もなかった。だって君は俺の恩人だし。君がそれで楽になれるなら、やればいいと思った。俺も同じことをしようとしているし。そんな君を利用しようと思ったのは、君に頼まれた次の朝。つまりさっきだ。
君が飛び降りたらきっと騒ぎになるから、その間は何をしても気づかれないだろ?結果的に最後まで君を利用することになってしまったから、そのことは申し訳ないと思っている。ごめんね。けど君だって俺を利用したんだからおあいこだ。
もしもあの世が存在して、もしもそこで君に再会できたなら、今度はもう少しまともな付き合いができたらいいな。
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