この両手を伸ばした先に

angel

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伯爵邸にいたはずのボクはいつの間にかこのボロボロの山小屋にいた。

鬼の形相の伯爵夫人もカーティスの姿もなく安心した半面、あの後どうなったのかを考えるとゾッとした。
ボクは寝ていたベッドを降りようと粗末な毛布をはずし足を床に下ろす。床は石でできており冷たかった。
靴は…?と探すと足元に毛むくじゃらの何かがいてビックリする。
その生き物がボクの靴を隠すかのように足元に抱え込んでいて、めんどくさそうにこっちを見た。

「ボクの…くつ、かえして」 そういうとワンッ!と大声で鳴いた。

毛布を握りしめベッドの上に戻ると薄暗かった部屋の扉が開き、ドアから光が差し込む。

「起きたのか?」 そういう人影はクマかと思うほど大きくて、顔はたくさんの白いひげに覆われていた。

もう一度ワンッと鳴く毛むくじゃらの頭を、よしよしといいながら撫ぜるその人が怖くて怖くてベッドの隅に逃げ毛布を頭まで被った。
そんなボクを気にもとめずその人は続ける。

「腹減ってないか?たいしたもんはないがスープとパンがある、置いとくから食べてくれ。一人で食べれるか?」

そういわれても誰かもわからないどこかもわからないこんな状態で食欲なんかなかった。

「わしはシグリッドだ、君の…フェルの前にいた場所で世話してたのがワシの妹だ。怪しいもんじゃない」

ボクの心を読んだんだろうか?毛布をかぶり続けるボク

「この犬はパウルだ。わしと同じおじぃちゃんだが利口な犬だ。仲良くしてやってくれ」

クゥンクゥンと聞こえる。
どうして…なんでボクはこんなところに?聞きたかったけど恐ろしかった。
優しい言葉だとわかっているのに、いつまたこの人も豹変して襲い掛かってくるかわからない。


あの頃のボクは……これ以上壊されまいと心に鎧を纏いすべてを拒絶していた。


ベッドで眠っては起きてボソボソした粗末なパンを食べ薄いスープを飲む。足元にはいつも見張るかのようにパウルがいた。
トイレに行こうと部屋を出る。誰もいないシグリッドは出かけているようだ。
トイレまでついてきたパウルを伴い部屋の中を散策する。といってもボクが眠っているベッドのある部屋とキッチンらしき部屋しかない。
夜シグリッドはどこで眠っているんだろうと疑問が沸く。

外に出ると寒い風が吹き体が震える。家の横には何かを作るのであろう工作道具が置いてある小屋とヤギがいる小屋と水くみ場があった。外にまでついてきたパウルがクシャミをして家に入ろうというふうな顔をした。
それを無視して家から離れる。山の上のこの小屋から少しでも離れたかった。誰もいない場所に行きたかった。人が怖かった。
伯爵邸で着ていた洋服はここでは寒すぎた。上着なんて持ってない。

寒いよ…ここはなんて寒い場所なんだろう。どれだけ遠くに来ちゃったんだろう?帰りたい……
ジェイと遊んだ、、母と暮らしたあの懐かしい塔に帰りたかった。

歩き疲れてボクは大きな木の根元でうずくまった。寒くて寒くて手が凍えそうだった。息を吹きかけるがスグに冷えてしまう。小屋に戻ろうか…?森の中、あたりを見回すが自分が来た方向がわからなくなってしまっていた。
ウック……涙がこみあげる。なんて寒いんだろう体も心も凍えてこのまま死んでしまうんだと思った。




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