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6章
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突然広間に現れ跪くクウガ族の少年。
「無礼であるぞ!」
立ち上がった宰相が少年に向けて聞いたこともないような怒気を含んだ声音で叱りつける。
ゼイゼイと息の整わない少年の表情を見て宰相の顔色が変わる。
「出たのか」
声も出せず跪く少年は激しく頷く。
*
小さい飛幻魔獣で知らせに来た少年は場所を告げた後、その場に倒れこんだ。
1番早く飛べる飛幻魔獣で振り落とされずに最速でここへ向かってきたため、体力と精神力が尽き果てただけで、心配はいらないと宰相は言った。
「出たとは魔獣のことか……?」
「はい。そうでございます」
クウガ族数人に運ばれていく少年を目で見送った後、宰相のほうに向きなおると再度跪いていた。
「それで……」
魔獣が出た場所に黒の王が向かえば自然と瘴気が消え幻魔獣に戻るはず。
「俺はそこに向かえばいいのか?」
前にゲルゼルもどきと戦った時の事を思い出す。
なんとか世界の裂け目に落とすことはできたが、死の淵をさまよったあの日々を思い出すと身震いがした。
「いえ、それは久遠様のご意思しだいでございます」
絶対に行かなくてはいけないのだと覚悟を決めようとしていたのに、宰相の言葉は意外だった。
「俺が行かないと言ったら?」
「幻魔獣隊が処理します」
--------処理とは
椅子に深く腰掛け眼下の宰相を見据える。
処理とは殺すと言うことだろう。
そして戦う幻魔獣の中には傷つき死ぬ場合もあると聞いた。
なのに俺に行けとは言わない宰相の顔を見つめ、俺は覚悟を決めた。
--------俺は自分が黒の王なのか証明したい
「魔獣が出た場所は」
「先ほどの伝令が乗ってきた飛幻魔獣が案内します」
「わかった。すぐに向かおう」
黒の皮でできた上下に分かれた衣服。
内側にはいつもの柔らかな布がぴったりとはりついていて着心地がいい。
着てみると皮なのに全く体の動きを阻害しない不思議なもの。
その上に金糸銀糸を刺繍した黒の外套を羽織らされる。
「急なことで簡素なものしかご用意できず申し訳ありません」
着替えを手伝ってくれた年老いたクウガ族の女。
--------これが簡素?
もう何度も驚いたことだが何回でも驚いてしまう。
リウアンの村では金糸銀糸は族長にしか許されない物で、衣類に使うことなどなく族長の証である額飾りにのみ使われているものだったのに。
外套の裾から半分ほどまでを、炎の揺らめきのように金糸と銀糸が駆けあがってくるような美しい黒い外套を簡素だと言う年老いた女が今まで来ていた衣類を持って出ていくのと同時に、入れ替わるように永遠と千早が飛び込んでくる。
「おぇ!めーのよ」
大きな黒い瞳を潤ませて俺の外套にすがる永遠。
その手は震えていて、俺がまた大けがをして死んでしまうと恐れているのがわかる。
「永遠、俺の愛しき番」
外套に縋り付く華奢な体を抱き上げ、頬に口づける。
「魔獣を見に行くだけだ。俺が黒の王なら幻魔獣に戻るし、そうじゃない場合は幻魔獣達ががんばって倒してくれる。だからいい子でお留守番しててくれ」
「やーの!!!」
永遠が俺の首に抱き着きグリグリと顔をこすりつけてくる。
「すぐ帰ってくる」
「やーの!あるぜも、いっちょいく!」
幻魔獣隊がいるとはいえ危ないかもしれない。
そんな場所にアルゼを連れて行きたくはなかったが。
「ほら 着替えだってさ」
千早が年老いたクウガ族の女から受け取った篭の中には、俺の衣装と対になったような金糸銀糸が織り込まれた真っ白な外套があった。
「永遠が留守番嫌いなの知ってるだろ?」
留守番という言葉は置いていくと言うこと。
初めての留守番の時、俺の後をついてきて崖から落ちた。
それ以降、留守番という言葉に敏感になり決してついてこず、ちゃんと家で待ってた。
そして交易の女に攫われた--------
--------どうして俺は一瞬でもアルゼを置いていこうだなんて思ったんだろう。
「そうだな。すまなかった、行こう一緒に」
「無礼であるぞ!」
立ち上がった宰相が少年に向けて聞いたこともないような怒気を含んだ声音で叱りつける。
ゼイゼイと息の整わない少年の表情を見て宰相の顔色が変わる。
「出たのか」
声も出せず跪く少年は激しく頷く。
*
小さい飛幻魔獣で知らせに来た少年は場所を告げた後、その場に倒れこんだ。
1番早く飛べる飛幻魔獣で振り落とされずに最速でここへ向かってきたため、体力と精神力が尽き果てただけで、心配はいらないと宰相は言った。
「出たとは魔獣のことか……?」
「はい。そうでございます」
クウガ族数人に運ばれていく少年を目で見送った後、宰相のほうに向きなおると再度跪いていた。
「それで……」
魔獣が出た場所に黒の王が向かえば自然と瘴気が消え幻魔獣に戻るはず。
「俺はそこに向かえばいいのか?」
前にゲルゼルもどきと戦った時の事を思い出す。
なんとか世界の裂け目に落とすことはできたが、死の淵をさまよったあの日々を思い出すと身震いがした。
「いえ、それは久遠様のご意思しだいでございます」
絶対に行かなくてはいけないのだと覚悟を決めようとしていたのに、宰相の言葉は意外だった。
「俺が行かないと言ったら?」
「幻魔獣隊が処理します」
--------処理とは
椅子に深く腰掛け眼下の宰相を見据える。
処理とは殺すと言うことだろう。
そして戦う幻魔獣の中には傷つき死ぬ場合もあると聞いた。
なのに俺に行けとは言わない宰相の顔を見つめ、俺は覚悟を決めた。
--------俺は自分が黒の王なのか証明したい
「魔獣が出た場所は」
「先ほどの伝令が乗ってきた飛幻魔獣が案内します」
「わかった。すぐに向かおう」
黒の皮でできた上下に分かれた衣服。
内側にはいつもの柔らかな布がぴったりとはりついていて着心地がいい。
着てみると皮なのに全く体の動きを阻害しない不思議なもの。
その上に金糸銀糸を刺繍した黒の外套を羽織らされる。
「急なことで簡素なものしかご用意できず申し訳ありません」
着替えを手伝ってくれた年老いたクウガ族の女。
--------これが簡素?
もう何度も驚いたことだが何回でも驚いてしまう。
リウアンの村では金糸銀糸は族長にしか許されない物で、衣類に使うことなどなく族長の証である額飾りにのみ使われているものだったのに。
外套の裾から半分ほどまでを、炎の揺らめきのように金糸と銀糸が駆けあがってくるような美しい黒い外套を簡素だと言う年老いた女が今まで来ていた衣類を持って出ていくのと同時に、入れ替わるように永遠と千早が飛び込んでくる。
「おぇ!めーのよ」
大きな黒い瞳を潤ませて俺の外套にすがる永遠。
その手は震えていて、俺がまた大けがをして死んでしまうと恐れているのがわかる。
「永遠、俺の愛しき番」
外套に縋り付く華奢な体を抱き上げ、頬に口づける。
「魔獣を見に行くだけだ。俺が黒の王なら幻魔獣に戻るし、そうじゃない場合は幻魔獣達ががんばって倒してくれる。だからいい子でお留守番しててくれ」
「やーの!!!」
永遠が俺の首に抱き着きグリグリと顔をこすりつけてくる。
「すぐ帰ってくる」
「やーの!あるぜも、いっちょいく!」
幻魔獣隊がいるとはいえ危ないかもしれない。
そんな場所にアルゼを連れて行きたくはなかったが。
「ほら 着替えだってさ」
千早が年老いたクウガ族の女から受け取った篭の中には、俺の衣装と対になったような金糸銀糸が織り込まれた真っ白な外套があった。
「永遠が留守番嫌いなの知ってるだろ?」
留守番という言葉は置いていくと言うこと。
初めての留守番の時、俺の後をついてきて崖から落ちた。
それ以降、留守番という言葉に敏感になり決してついてこず、ちゃんと家で待ってた。
そして交易の女に攫われた--------
--------どうして俺は一瞬でもアルゼを置いていこうだなんて思ったんだろう。
「そうだな。すまなかった、行こう一緒に」
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