呑却

憂月柘榴

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呑却するもの

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 飢える。渇く。…

 俺という存在は、それそのものだった。いつ生まれたのかすらわからない。ただあるのは、絶対的な呑却することへの渇望、それだけだった。
 器の作った血まみれの檻の中で、咆哮する。途方もないこの飢餓を、炸裂させるように。口が渇く。ただ喰らえ、と俺は俺に命じられている。折に体をぶつけながらのたうち、滴った血を舐める。慰めにもならないその甘さに、さらに咆哮を重ねた。
 器が届ける、世界というものの断片。それは日々降り注ぐ。俺はそれを貪りながら、なお飢える。喰らえば喰らうほど、「もっと寄越せ」と俺が命じる。渇望は満たされない。永久の飢えは、俺そのものだ。ガチガチと牙を鳴らしながら、器の感性とやらが降らした欠片を噛み砕く。あぁ、足りない。足りない。足りない。雨のように降り注ぐそれも、どれほどあっても足りない。赤も、青も、黒も、何もかもごちゃ混ぜのそれらも、どれも足りない。喰らえば尽きる。足りない。足りない。

 咆哮する。身体中の口を開いて。

 器を急かすように、もっと喰わせろと、俺そのものを叩きつけるように。檻を叩き、血に染めながら、俺はのたうち回る。世界と呼ばれるものなど知らない。どうでもいい。俺は全てを喰らいたい。渇望している、飢えている、喰らいたい、足りない。何もかもを、喰らいたい。
 俺に脳があるかは知らない。だが俺は俺に命ずる。ただ喰らえと。ただそれだけを命ずる。俺は身体を使役する、ただ喰らうためだけに。それ以外には何もない。俺は、俺だ。

 咆哮が、滴る血を纏って発火する。

 その炎さえ、俺は喰らう。俺に喰らえぬものはない。全てを喰らい付くし、それでもなお、残った無さえ喰らう。俺の前では何ものも意味を持たない。ただ喰らうべき対象でしかない。忌々しい檻の中で暴れながら、降り注ぐ雨の欠片を喰らう。満たされない。何もかもが足りない。俺は永遠に満足しない。永遠に飢え続け、喰らい続ける。
 器の戸惑いを感じる。それを喰らう。器の満足を感じ、それを喰らう。器の見る世界とやらを見、喰らう。希望やら絶望やらと、いらぬ名前のついた全てを喰らう。俺の牙は何もかもを咀嚼する。俺の体液は何もかもを消化し、この血に還元する。その血すら、俺は喰らう。
 戯れに檻に噛みつき、咀嚼する。それはすぐに再生する。ここから出ることはできない。だが、出たからといって俺の何かが変わるわけではない。俺は永遠に満たされないのだから。

 喰らえ。喰え。咀嚼しろ。消化しろ。血に還元しろ。

 もっとだ。もっと、全てを寄越せ。血染めの雨を降らせろ。俺に喰わせろ。この渇望を一時でも満たしてみろ。満たしてくれ。足りない。飢える、渇望する、足りない。喰らう。足りない。足りない。咆哮し、口から流れた血を咀嚼する。永劫回帰する輪廻、それすら噛み砕こうと空間を喰らう。….
 再生する、その無限を貪る。ぬめぬめとした赤黒い地面を蹴り付け、そこから跳ね返った血肉を咀嚼する。降った血染めの雨の欠片を喰らう。

 あぁ、そうだ。
 そうだ。そうしてくれ。
 もっともっと、何もかもを。


「喰わせろ」
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