【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
4 / 152
【第一章】魔王様と三人の勇者

四話 黒騎士ユタカの初仕事【後編】

しおりを挟む
 

 二十歳くらいの、美しい金髪が輝く外国の王子様みたいなイケメンが、広い石造りの通路の奥に見える。
 俺よりよっぽど勇者っぽいな。
 魔王様は殺す事を望んでいないようだから、命は奪わないでおいてやる。

 勇者二号がとうとう俺と対峙し、大きく吠える。


「貴様が魔王か!」
「俺は魔王様を護る騎士だ」


 それ以上の問答は無用とばかりに、勇者二号は剣を振る。
 ちゃんと剣を使えるとこんなに様になるのか。
 流れるように次々と刃が降り注ぐのを、ちょっと羨ましい気持ちになりながら剣で受けるが、ぶっちゃけただの高校生がいきなり異世界に来たからってロングソードなんて扱えない。
 すぐに闇の剣は衝撃で手から弾かれ、カランカランと石畳を転がる。


「ふん、油断したな!」
「これが実力っす」


 剣技で勝てるなんて最初から思ってない。
 純粋に身体能力は上がっていても、俺が持ってなかった技術をあの木はくれなかった。
 あるもので頑張らなければいけないのだ。

 俺は勇者二号へ向かって駆け出す。
 走りながら、光の剣を取り出し、地面に突き刺して簡易的な棒高跳びに使う。


「は?」


 勇者二号は間抜けな声をあげて一瞬固まった。
 突然頭上に移動すれば、視界から俺の姿が消えたように見えたはずだ。
 この勇者二号の混乱具合は、俺がいなくなっただけでなく、剣だけがそこに残った理由を考えているからだろう。

 その隙に、俺はサッカーのシュートのつもりで勇者二号の頭を蹴り上げた。
 きっと鍛えている勇者なら死にはしないだろう。


 ズドンと凄い勢いで吹き飛び、通路の柱にたたき付けられた勇者二号は、それから動かなかった。
 すぐさま駆け寄り様子を伺うが、意識がないみたいなので慌てて呼吸を確認する。
 良かった、ちゃんと生きてる。
 石の素材にめり込む速度で吹き飛んだのに首の骨が折れている感じもしないので、ファンタジー世界で本当に良かった。


 俺の勇姿を見ていてくれたかなと、魔王様に視線を向けると、スースーする目薬をさした後みたいな渋い顔をしていた。


「それは……身体強化術か? どうやってその速度で動いた」
「いえ、この世界に来たらこうなっていたので術とかは使ってないですよ」
「そうか」


 普通に棒高跳びをしてキックしただけとしか言いようがない。
 地球での動きより明らかにスムーズに動けている自覚はあるけど、そもそも一般人の俺には自分で魔法とか使えないです。
 異世界人の特典らしい身体能力の向上以外はファンタジー感が少ない。
 ゲームみたいにレベルアップで魔法とか使えたら良かったんだけど、そういうサービスはないらしい。意外と不便だ。


 魔王様はもう興味をなくしたみたいに俺を素通りし、勇者二号の所に向かう。
 そして回復魔法をかけ始めた。
 せっかく倒したのに大丈夫ですかね、起こして。そいつかなり頭に血が上ってましたよ。


「ん……」
「勇者二号、お前は私が憎いか」


 何度か瞬きをした勇者二号が魔王様の問いにハッとする。


「そうだ! 貴様のせいで僕の……僕の国は滅んだ!」


 長々しく語り始めた勇者二号は本当に見た目通り、王子様だったらしい。
 でも魔物の襲撃などで全てを失い、どうにかこうにか旅をしながら生きながらえていたと。
 最近になって神のお告げと共に不思議な力を得て、魔王城の前に飛ばされて来たということだ。
 魔王様は頷きながら話しを聞いていたが、一段落したところで勇者二号の肩に両手を置いた。


「そうだなそうだな、私のせいだな、さあ斬るがよい」
「魔王様!?」


 何を言っているんだ魔王様、めちゃくちゃ嬉しそうに微笑んでるし、そんな顔を俺より先に他の男に見せないでくださいよ!


「なんだ急に……わ、罠なのか?」


 勇者二号もなんか困ってるし。


「私を倒したいという気持ちを大切にした方がいい」
「だからなんで魔王様はそんなに倒されたいんですか!?」
「もういい加減帰りたいからだ」


 諦めた様に魔王様は話し始めた。
 俺なりに日本に当てはめて考えたら、仕事で海外出張に行って、仕事は無事に終わったが帰りの飛行機が飛ばなくなって困ってるって感じか。
 食も文化も違うと故郷が恋しくなる気持ちはわかる。
 けど、俺は魔王様と離れたくない。


「もしかして勇者二号に魔王様が倒されたら、俺は元の世界にも戻れず、魔王様にも会えなくなる?」
「知らん、勇者の役割がなくなれば戻れる可能性はあるだろう」
「この際戻れないのは別に構わないので、俺も魔界に連れて行ってください」


 魔物にでもなんにでもなるからお願いしますと土下座する。


「無理だ」


 無情な即答。


「そんなに俺が嫌いですか!」


 ガバッと頭を上げて絶叫する。
 いや、まあ、好かれてはいないと思う。俺がやってる事なんて護衛という名のストーキングくらいだ。
 家事も多少はできるけど、この魔王城での生活で魔王様のお役に立っているかは正直わからないので不安だ。

 でも、魔王様に好かれるように、これからもっと頑張ろうという段階ではまだ何も諦められない。


「そうではない、知らないのだ」
「え?」


 俺嫌われてないの?
 嬉しすぎて泣きそうなんだけど。


「私は派遣されているだけで、この世界への移動は全て神が行っている。だから私は用意された方法以外の移動手段がわからない。他の者の同行は私が決められることではないから、無理だと言った」


 じゃあ、あの木にまた会えれば頼めるのか?
 魔王様が勇者二号に倒されるまでに、どうにか……。


「あの……」


 怖ず怖ずといった様子で勇者二号が手を挙げて言葉を続ける。


「お話を聞いていると、魔王ではなく神が諸悪の根源ではありませんか?」


 その姿は城に突撃してきた時の荒々しさが抜け落ち、王子様としての育ちの良さを感じる青年になっている。

 誰が悪いとかは正直自分には関係ないので、あまり気にしていなかったが、言われてみれば神の命令が始まりなんだから神が悪いな。
 頷こうとしたら魔王様が慌てたように勇者二号に迫る。


「いやいや、実行犯は私で間違いないんだから、な? 私を倒しても魔界で生きているというのは気に食わないかもしれないが、拷問でもなんでもしてスッキリしていくがいい」


 魔王様が必死過ぎる。
 倒すからセックスさせてくれと言ったらしてくれそうだ。
 どうしても心が手に入らなかった時は考えよう。


「いえ、魔王。あなたも被害者です。僕は敵を見誤りません」


 二号じゃなくて本物の勇者だな王子様。
 ちゃんとした正義を持ってる男だ。


「僕にあなたを倒すことはできません」


 よく言った。その言葉を待っていた。心の友よ。
 頭を抱えてしゃがみ込む魔王様を横目で見つつ、俺は王子様に右手を差し出した。


「俺は異世界から呼ばれた元勇者の豊だ、よろしくな、友よ」


 少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑みながら手を握り返してくれた。


「僕はフランセーズ。よろしく、ユタカ」


 こうして魔王城には二人目の勇者が住まう事になったのだ。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される

水ノ瀬 あおい
BL
 若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。  昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。  年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。  リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。  

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...