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【最終章】魔王を護る黒騎士

エピローグ -調理場-

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 俺は魔界へ招待された炎の料理人デュラムだ。
 いやあ、マジで結婚式感動したな。友人の結婚式とかよく考えたら俺初めてだもん。
 ジンには途中退場は良くないと言われていたが、泣き過ぎて迷惑になるレベルの嗚咽になってきたので、俺は進行の妨げになる前に退出した。
 想定より早く式場を出る事になり暇だ。俺は次の目的である調理場に向かうことにした。
 やっぱりみんな魔王の結婚式に注目しているのか、かなり城内はガランとしていた。魔界初の結婚式らしいから当然だよな。

 すれ違う存在がほとんどなく、広々とした空間を歩き、調理場付近に到着したらガタンと物音がした。
 俺は咄嗟に気配を殺してその方向へ近付いた。


「クッソ、やめろ! どこでも盛んなファムエール!」
「式が終わるまでまだしばらくあります。終わるまで誰も来ませんよ」
「バカ野郎、後でっ……リスドォルんとこの勇者が、一人、来るんだよ!」


 んんん?
 来客から預かった食材を置いておく倉庫の小窓を覗くと魔神イーグルが、誰かに襲われている。
 その相手はファムエールと呼ばれていた。確か天使だっけ。ユタカが言ってた気がする。
 でもなんか、イーグルは襲われている割には本気で抵抗してるって感じではないような……。
 乳首とか弄られてるけど振り払ったりもしてないし。
 嫌よ嫌よも好きのうちってやつだろうか。俺、いなくなった方がいいかな?
 行動を決めかねていると、形ばかりにもみ合っているイーグルと目が合った。


「ッ! やっぱいるじゃねーか!」


 イーグルはパシーンと良い音をさせてファムエールの頭を叩いた。


「ふふ、失礼致しました」


 ファムエールはイーグルに謝罪しながらも、横眼で俺を見て愉快そうに口を歪めている。
 なるほど、わざとだったのね。ジン、俺はプレイの道具にされてしまったよ。


「なんか、ごめんな~? 俺ちょっと時間潰してこよっか……?」
「ムカツク気遣いやめろよなァ!!」


 イーグルは床が陥没しそうなくらいドスドスと力強く大股で倉庫から出てきた。
 俺を上から下まで見回したあとに、イーグルは納得した顔をした。


「魔王城で顔だけ見た奴だな」


 そう、実は互いに認識はしていたものの、直接話すのは初めてなんだ。
 俺は孤児院の子供達に見せるような笑顔で挨拶をする。


「炎の料理人デュラムだ。ユタカや魔王から聞いてるぜ、繊細で美しい料理を出すって評判の魔神イーグル様。ここに来てすぐ料理食べさせてもらったけど、マジで見た目は芸術品だったし、味も素材を大切にしてて見事だったな~! 同じ料理人としてすっげぇ尊敬してる」


 ユタカから最初はとりあえず褒めて敬っておけと言われた。
 まあ別にお世辞でもなんでもなく本心だけど。
 褒めは本当に効果があるらしく、心なしかイーグルの耳が赤くなっている。


「う、お……ぉお、まあな! 俺サマの事はイーグルでいいぞ! なんてったって俺サマは寛大な神だからな!」


 イーグルがそう叫んだと思ったら調理場へ入って行き、何かを持って戻ってきた。
 ファムエールが俺に飲食ホールのテーブルを勧め、椅子を引いてくれる。


「ど、どうも」
「イーグル様からのお近づきの印だ、心して食すんだな」
「バッ! そんなんじゃねーよ!」


 イーグルは慌てたように否定しているが、俺の前には一人前のデザートプレートが置かれた。
 三種類の小さく揃えた種類の違う甘味が食欲をそそる。


「俺もお前の事は聞いてるぜェ。飯にはうるさいってな。だが、メルベイユはそこまで菓子が普及してないらしいじゃねーか。メルベイユでも作れそうな菓子を教えてやるからありがたく思え」
「えっ、マジで!? めっちゃ嬉しい……けど、なんでいきなり?」


 親切過ぎて逆に怖くなる。その疑問にはファムエールが答えてくれた。


「基本、人間以外のほとんどの種族は料理をしない。基本的に食事を必要としないからな。イーグル様はそんな中でも料理を趣味として見出された。しかし、当然ながら周りに料理を心から楽しむ存在がいないのだ。貴様がようやく出会えた仲間ということで、イーグル様は事前に友好の証を……」
「ファムエール!? テメェ、黙れ!! 勝手に喋んじゃねぇ!!」


 イーグルは顔を真っ赤にしながらファムエールの首を絞めているが、ファムエールは涼しい顔をしている。
 簡単に言えばお友達になりたいって事だよな?
 イイ奴過ぎるだろ。俺も何かお返ししないとな。
 それはともかくとして、今の俺は目の前のデザートが食べたいのだ。


「一旦俺に食べる時間をくれ、いただきます」


 小さいカップに濃厚な舌触りの、キッシュの甘い版のようなものが入っていた。
 甘い卵の味は初めてだったが、なめらかでとても美味い。子供が喜びそうな味だ。

 更にその横には、丸く薄く手のひらサイズに粉を焼いた生地に、クリームが挟まれたものがあった。
 これはクリームでもジャムでも何でも応用が利くし、フルーツや木の実が混ざっていて美味い。
 子供が自分で組み合わせて好きな味を作って楽しめるのが良さそうだ。

 最後はユタカから聞いたことのあるアイスってやつ。
 実際食べた事はないが、冷気に晒しながら液体を混ぜて空気を含ませると、凍っても柔らかいらしい。
 初めて口に入れたそれは、クリームで作られたものはさっぱりさと濃厚さがクセになる。
 果汁で作られたものはシャリシャリとしていて、少し酒が入っているのか口に広がる香りが良い。

 ゆっくり丁寧に味わっていたつもりだが、あっという間に無くなってしまった。


「美味かった!」


 俺は一つ一つ気付いた点を言葉にし、感動を伝える。


「フン、まあ、俺サマにかかればこんなもんよ。一度に大量に作りやすいってのもポイントだぜ?」


 イーグルは満足げにそう言いながらレシピをまとめた片手で納まる小さな冊子を渡してくれた。
 世界毎に対応した食材アレンジまで書かれていて至れり尽くせりかよ。
 なんかもう既に感動で泣きそう。


「やっぱ孤児院の事知ってんだ。そこまで気を使ってくれてホント助かる……スッゲー嬉しい、ありがとな……」


 涙声で感謝を伝えると、イーグルは顔をしかめて焦っている。


「……そ、そういうの、別にいらねーし……」
「うん、ごめんな……俺のレシピで良ければ提供する。それで借りは無しってことで」
「おっ! テメェの腕、見せてもらおうじゃねーか」


 イーグルのその言葉に、ファムエールは俺を調理場に案内し、使い方を説明してくれた。


「下ごしらえなど、雑用は私がやってやる。人間ごときに使われるのは癪だが、イーグル様を待たせる方が赦されないからな。式が終わればまた直ぐに来客が集まり出す。急げ」
「なんかごめん。でもありがと、助かるわ」
「イーグル様の喜ぶ顔を引き出した褒美だ」


 俺には高圧的だけど、めちゃくちゃイーグルの事が好きってのは伝わってきた。微笑ましいね。


「オイ、デュラム! 邪魔しねーから作ってるトコ、後ろで見ててもいいか」


 説明が終わったのを察したイーグルが調理場に入り、そう聞いてきた。


「オッケー、好きに見ててくれ! でも俺、家庭料理だから、イーグルみたいな金取れそうな感じのもん作れねーよ?」
「バーカ、それは逆だ。食べる機会が滅多にねぇ、金で買えない価値があるってことだろ」
「え……天才?」


 俺がそう言うと、イーグルはワッハッハと高らかに笑いながら俺の背中をバシバシ叩いた。
 衝撃に呼吸が止まるかと思ったが、俺も楽しくなってきて一緒に笑った。


 こうして俺に、新しく魔神の友達ができたのだ。

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