【R18】おのぼりさんが帝都の貴族屋敷で奉公することになりました【完結】

県田 星

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第2章 田舎者(善吉編)

第4話 女中と風呂に

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華族の家々が立ち並ぶ一角に黒峰《くろみね》子爵の屋敷があった。
江戸の中頃に作られた重厚な門が周囲を圧倒している。

その前に坊主姿の若い男が立った。

「ごめーん下さーい」

男が門に向かって声を上げた。

「ごーめーん、くーだーさぁーい」

男の声が届いたのか、門の向こうから「あいよー」の声が返ってきた。

門の横にある木戸が開くと初老の男が顔を出した。
背伸びをしつつ腰を伸ばして男を見た。

「どこかの書生さんかい?何ぞ用かな?」

男は背負っていた風呂敷包みを降ろして頭を下げる。

「わっしは、いえ、私は岡岳善吉おかたけ ぜんきちでございます。黒峰様の家でご奉公に上がりました」
「おお、あんたが善吉さんか」

初老の男は脇の木戸から入るように手招きする。

「わしは権蔵ごんぞうと言ってな。庭いじりや力仕事などをやっとるのよ。善吉さんが来ると聞いて、大喜びさ。まあ、よろしくな」
「よろしくお願いします!」
「ほら、付いといで」

善吉は権蔵について立派な屋敷へと向かう。ただし広々とした表口ではなく、屋敷の裏へと回った。
権蔵が裏口の戸を叩く。

「おーい、ふくさんよー」
「なんだい」

すぐに扉が開くと、善吉には30半ばに見える女が顔を出す。
黒峰子爵家で女中頭を務める福だ。

髪を手ぬぐいで包んだ上に、生成りの着物を着て、たすき掛けをしている。
手ぬぐいを取ると、額や首筋に浮かんだ汗をぬぐった。

「今日も暑いねえ」

権蔵を見ると笑顔を向けたものの、その後ろに立つ善吉には不審そうな顔を見せる。

「あら、権蔵さん、そっちは誰だい?」
「善吉さんだよ。奥様から聞いてるだろ、今日から来る奉公人だ」

権蔵は善吉の肩を叩くと、「そんじゃあなー」と言い残して去っていった。

「あーあーあー、あんたが善吉さんか。長いこと待ってたんだよー」

福が満面の笑顔になる。
しかし、すぐに顔をしかめて善吉の肩口をはたく。
ポンと音がして、大きく砂ぼこりが立った。

「やだねえ。ここまではいずり回ってきたのかい?やけに汚れてるけど…」
「あ、すまないことです」

善吉は土手を転がり落ちたことを思い出した。
慌てて着物を払おうとするが、それを福が押しとどめる。

「まあ、いいところに来たよ。風呂に入りなさいな。着ている物は洗っちゃうよ」
「風呂?」
「ちょうど奥様が入ったところでね。私らも残り湯に入ろうかって思ってたのさ」

福は善吉を湯殿まで引っ張っていく。

「さ、ここで着物を脱ぐんだ。でもって、そっちに湯船があるから」
「…はあ」

言うだけ言って福はどこかに行ってしまう。

「湯船?」

善吉が引き戸を開けると真っ白な湯気が顔を襲う。

「わっ!」

両手で湯気を払いのけると、ヒノキ張りと見られる湯殿の中に、これまたヒノキ作りと思われる湯船がある。
その湯面からは、もうもうと湯気が立ち上っていた。

「さすがは子爵様だ」

善吉は袴と着物、そしてふんどしを脱いで適当に丸める。
懐から出した手ぬぐいで股間を隠すと、少し身を縮こませながら湯殿に入った。

「これは見事なもんだなあ」

善吉の家にも湯船はある。しかしこんなに木目が整ったものではなく、湯に浸かるのもめったにない。
それどころか家が落ちぶれてからは、水浴びで済ませることの方が多かった。

「さて…」

ぼんやりと善吉が湯殿を眺めていると、背後から福の声がした。

「おや、善吉さん、どうしたんだい?」
「おわっ!」

善吉が振り向くと、一糸まとわぬ姿になった福がいた。
乳房や尻には十分な肉がついており、足の付け根には黒々とした毛が生えている。
長めの黒髪を手早く丸めると、髪留めでしっかり留める。

「シャボンを使うのは初めてだろ。洗い方を教えてあげるよ」

福は善吉の背中を押すと、これまた木で作った腰かけに座らせた。
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