【R18】おのぼりさんが帝都の貴族屋敷で奉公することになりました【完結】

県田 星

文字の大きさ
22 / 50
第8章 旦那様(千寿編)

第21話 腰の痛み

しおりを挟む
この日、垂水伸太郎《たるみ しんたろう》子爵は自室で書き物をしていた。
とある出版社から、酒についての随筆を頼まれていたからだ。

「そりゃ無理だ」
「気ままに書いてくれれば良いから」
「うーむ」

茶会で旧知の人から依頼されただけに無下に断ることもできず、渋々引き受けた。
そろばんを弾いたり、商いの駆け引きをするのは得意な伸太郎ながら、「気まま」であっても書き物となると、なかなか筆が進まなかった。

「ふぅ」

万年筆を転がすと、椅子から立ち上がって背伸びをする。

子爵邸は思いのほか静かだった。

妻の綾香夫人は在宅のようだが、何かと騒々しい息子の伸佑は外出している。
庭で作業をすることの多い源太郎も別の仕事をしているのか、窓から見渡せる場にはいなかった。

伸太郎は呼び鈴のひもを引く。

すぐに扉の向こうでスリッパの足音がしたかと思うと、ノックをする音が聞こえた。

「どうぞー」
「失礼いたします」

部屋に入ってきたのは千寿だった。
伸太郎は首の筋を左右に伸ばしながら頼む。

「すまんが、お茶を、そうだな…ほうじ茶を入れてくれ。それと何か菓子を」
「かしこまりました」

千寿が一礼して出て行った。

しばらく後に扉の向こうから「お待たせしました」と千寿の声がかかる。
伸太郎が「うむ」と応えると、千寿が扉を開けて入ってきた。

「おお!かりんとうか!」
「はい」

千寿は綾香夫人のおつかいで昨日買いに行ったことを説明した。

中国から伝わった唐菓子とうがしを元に、江戸時代以前からあったかりんとう。明治に入って甘い蜜を絡めたものが考え出されると、瞬く間に広まり各地で作られるようになっていた。

「そうか」

伸太郎はかりんとうをひとつつまんで口に放り込む。

「うむ、甘い!」

伸太郎はおいしそうにうなずくも「しかし…」と続ける。

「ちょっと多いな」

茶わんや急須と共にかりんとうが皿に山盛りとなっている。
伸太郎は5、6本を皿に残すと、残りは半紙に包んで千寿に渡した。

「手が空いたら食べると良いだろう」
「ありがとうございます」

千寿はうれしそうにたもとに入れると頭を下げた。

「そう言えば千寿…」
「はい?」

部屋を出て行こうとした千寿に伸太郎が声をかける。
何かの用事と思った千寿は背筋を伸ばしたものの、伸太郎は「あんまが…」と言いかける。

「綾香に聞いたが、千寿はあんまが得意なのか?」
「え、あ…、は、はい」

あの日以降、綾香夫人に頼まれて千寿はあんまを務めている。もちろん道具を使った“あんま”だ。

「どうも背中や腰の調子が悪くてな」
「はあ」

しかし千寿が伸太郎の様子を見たところ、単なるあんまと思っていることが分かって安心した。

「少し見てみましょうか?」
「うむ、頼めるか?」

伸太郎は椅子を回して、千寿に背中を向ける。
千寿は伸太郎の肩を揉んだ。

「確かに硬くなっていますね」
「あはは、慣れないことはするものじゃないな」

伸太郎が笑うと、千寿も微笑む。
いくらか肩を揉んだ千寿だったが、「よろしければ」と伸太郎に語り掛ける。

「お洋服を脱いでベッドにうつ伏せになっていただけますか?」
「あ、ああ、ズボンもか?」
「はい、腰が肝心ですので」
「ふーむ」

伸太郎はネルシャツとスボンを脱ぐと、下着のシャツとふんどし姿でベッドにうつ伏せになる。
腰が伸びたことで「うーん」とうなり声が出た。

「まず、軽く手を置いていきますね」
「ああ」

千寿の10本の指がきめ細かく動いて、伸太郎の首筋から背中、そして腰まで撫でていく。
わずかに触れただけの感覚に伸太郎は頼りなく思ったが、千寿が「それでは本格的に」と言ったことで、もうしばらく任せることにした。

「おっ!」

10本の指が軽めに皮膚を刺激しつつ、場所によっては指を立てて押してくる。
押しのひとつひとつが伸太郎のコリを解消していくように感じた。

「うーん」
「おほう」
「むむむっ」

ひと押しするごとに伸太郎の口からうめき声があがり、大きく息が吐かれる。
千寿の両手が首から腰まで3往復したところで、千寿は両手を放した。

「旦那様、いかがですか?」

ベッドから身を起こした伸太郎は大きく両手を回す。

「これは…凄いなぁ」

さらにベッドから降りて何度も腰をひねった。

「こんなに体が軽く感じたのは何年振りか」

伸太郎は千寿を睨む。

「千寿!」
「はいっ!」

何を言われるかと戸惑った千寿ながら、次の伸太郎の言葉で吹き出してしまう。

「もっと早うに言ってくれんと困るぞ」

2人して大笑いした。

ひとしきり笑い終えたところで、伸太郎が少し悩まし気な顔を見せる。

「ところでな千寿…」
「はい」
「あー、そのなぁ。いや、何と言って良いか…」
「何でしょうか?」
「うーむ、つまりだ。その…だな…」

言い淀む伸太郎だったが、千寿にも伸太郎の言いたいことは分からない。

「そのあんまでだな…。いや、その、男を…だな」

伸太郎の口から「男」の言葉が出たことで、千寿にはピンとくるものがあった。

「もう3年、いいえ4年かしら、旦那様とあれがなくって」

先日の綾香夫人の言葉も思いだした。

「旦那様、奥様との…ことでしょうか?」
「う、いや、その、うーん、まあ、いやあ…」

当てられても言い淀んでいた伸太郎だったが、やがて「そうだ」と認める。

「3年ほど前だったか。夜の時に綾香と、あー、まあ、そうなった時にだな…」
「はあ」

話の進みが遅かったものの、千寿の聞いたところでは次の通り。

3年ほど前に綾香夫人と交わろうとして腰が痛くなった。
その時は腰を休めて交わることなく過ごした。
その後に交わろうとすると腰が気になってしまう。
やがて肉棒が反応しなくなった。

「千寿のあんまで何とかならんものだろうか」
「…はあ」

「ほぼ毎日でも、ご褒美を求めてくるお坊ちゃまに、半分か半分でも元気を分けていただくのはいかがでしょうか?」などとよけいなことは言わないのも奉公人の心がけ。

「効果があるかは分かりませんが…」

千寿が口を開くと、伸太郎の顔が明るくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...