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第4章 棋士の立場
第54話 カラスが番勝負を観戦したら(その1)
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「負けました」
モニターでは叡王戦五番勝負の第5局のインターネット中継を映している。
叡王位を含めて全てのタイトルを保持していた辻井八冠が投了した。
「ありがとうございました」
一瞬の後、挑戦者である佐藤巧七段も頭を下げた。
佐藤にとって初のタイトル獲得だ。
「すごーい!」
馬場の家でネット中継を見ていた鈴香が思わず拍手する。
馬場は拍手こそしなかったが、隣で見ていてモニターから目が離せなかった。
そんな馬場と鈴香の間で、カラスのクロもモニターを見つめていた。
「辻井八冠が負けたかー」
「あ、もしかして辻井先生、引退しちゃうの?」
「いやいや、ひとつタイトルを取られたくらいで引退はしないよ」
「そうだよね!」
「でも、大きなニュースにはなるだろうなあ」
「そう…だよねえ」
辻井の大ファンである鈴香にとって、タイトル戦での敗北は残念そうに見えた。
辻井八冠、いや辻井七冠となったが、タイトル戦における番勝負での初めての敗北だ。
「まあ、さすがに辻井先生でも勝ちっぱなしって訳には行かないしなあ」
「うーん、でもね。辻井先生から最初にタイトルを取るのは、私だって思ってたんだけど」
「ああ……そうか、それは…すごいなあ、うん」
孫娘の壮大な夢物語を聞いて、馬場は反応に困った。
「でね。『鈴香先生って将棋が強いんですね。僕のお嫁さんに…』とか」
「ああ、うん、そうか、そうか」
一方、佐藤の側からすると、3度目のタイトル挑戦で初めての獲得だ。
最初にタイトル挑戦となった竜王戦は0勝4敗で、次に挑戦した棋王戦では0勝3敗1持将棋で敗北。
しかも、相手はどちらも辻井だ。
いや、番勝負だけでなく、一般棋戦やタイトル戦の予選などでも、佐藤は辻井に負けっぱなしだった。
つまり、この五番勝負で棋士として辻井に初勝利を、さらに番勝負でも初勝利を得たことになる。
「佐藤先生はうれしいよね」
「そうだろうな」
鈴香はそばにいるクロに話しかけた。
「クロ、どうだった?」
「クワッ」
クロが日本将棋協会の棋士との七番勝負で次に対局するのが、この佐藤七段、いや佐藤叡王だ。
その意味もあって、馬場は叡王戦の五番勝負を最初からクロに見せていた。
「タイトルホルダーってことなら、高村先生も王座を持ってたけどなあ」
「あ、そうだね」
以前に対局した高村天地八段も、かつて王座のタイトルを持っていたことがある。
ただし、最近ではタイトルからは遠ざかっており、現役のタイトルホルダーと対局するのは初めてだ。
「もっとも、現役のタイトルホルダーが辻井先生しかいなかったんだけどなあ」
「あはは、そうだね」
「クワア」
鈴香の笑い声に合わせて、クロが羽ばたいた。
「で、クロ、どうだった?」
「カア」
鈴香の質問が分かっているのかいないのか、クロは何度も羽ばたく。
「そもそも、クロって次の相手が佐藤先生と分かっているのかなあ」
馬場は「うーん」と腕組みした。
モニターでは叡王戦五番勝負の第5局のインターネット中継を映している。
叡王位を含めて全てのタイトルを保持していた辻井八冠が投了した。
「ありがとうございました」
一瞬の後、挑戦者である佐藤巧七段も頭を下げた。
佐藤にとって初のタイトル獲得だ。
「すごーい!」
馬場の家でネット中継を見ていた鈴香が思わず拍手する。
馬場は拍手こそしなかったが、隣で見ていてモニターから目が離せなかった。
そんな馬場と鈴香の間で、カラスのクロもモニターを見つめていた。
「辻井八冠が負けたかー」
「あ、もしかして辻井先生、引退しちゃうの?」
「いやいや、ひとつタイトルを取られたくらいで引退はしないよ」
「そうだよね!」
「でも、大きなニュースにはなるだろうなあ」
「そう…だよねえ」
辻井の大ファンである鈴香にとって、タイトル戦での敗北は残念そうに見えた。
辻井八冠、いや辻井七冠となったが、タイトル戦における番勝負での初めての敗北だ。
「まあ、さすがに辻井先生でも勝ちっぱなしって訳には行かないしなあ」
「うーん、でもね。辻井先生から最初にタイトルを取るのは、私だって思ってたんだけど」
「ああ……そうか、それは…すごいなあ、うん」
孫娘の壮大な夢物語を聞いて、馬場は反応に困った。
「でね。『鈴香先生って将棋が強いんですね。僕のお嫁さんに…』とか」
「ああ、うん、そうか、そうか」
一方、佐藤の側からすると、3度目のタイトル挑戦で初めての獲得だ。
最初にタイトル挑戦となった竜王戦は0勝4敗で、次に挑戦した棋王戦では0勝3敗1持将棋で敗北。
しかも、相手はどちらも辻井だ。
いや、番勝負だけでなく、一般棋戦やタイトル戦の予選などでも、佐藤は辻井に負けっぱなしだった。
つまり、この五番勝負で棋士として辻井に初勝利を、さらに番勝負でも初勝利を得たことになる。
「佐藤先生はうれしいよね」
「そうだろうな」
鈴香はそばにいるクロに話しかけた。
「クロ、どうだった?」
「クワッ」
クロが日本将棋協会の棋士との七番勝負で次に対局するのが、この佐藤七段、いや佐藤叡王だ。
その意味もあって、馬場は叡王戦の五番勝負を最初からクロに見せていた。
「タイトルホルダーってことなら、高村先生も王座を持ってたけどなあ」
「あ、そうだね」
以前に対局した高村天地八段も、かつて王座のタイトルを持っていたことがある。
ただし、最近ではタイトルからは遠ざかっており、現役のタイトルホルダーと対局するのは初めてだ。
「もっとも、現役のタイトルホルダーが辻井先生しかいなかったんだけどなあ」
「あはは、そうだね」
「クワア」
鈴香の笑い声に合わせて、クロが羽ばたいた。
「で、クロ、どうだった?」
「カア」
鈴香の質問が分かっているのかいないのか、クロは何度も羽ばたく。
「そもそも、クロって次の相手が佐藤先生と分かっているのかなあ」
馬場は「うーん」と腕組みした。
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