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第65話 不審な手紙
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「今日も多いなあ」
ホルストが持ってきた手紙の束を見てタルバンがため息をつく。
カルトメリ・ワーレンバーグ公爵と妹であるアラーナ・クリスパ伯爵令嬢との婚約が発表されて以降、クリスパ家宛ての手紙が増えた。
貴族からは交流を求める手紙。取引や投資を希望する商人、仕官先を探す騎士、働き口を問い合わせる使用人らの手紙もある。
「現金なものだな」
「先様にもいろいろ事情があるでしょうから」
「まあな」
貴族からの手紙は多忙を理由に「機会があれば…」とやんわり断りの返事を送る。
多忙は事実であり、結婚までは他領を訪れる余裕はない。
まして他の貴族を招くような場もない。
「公爵家からの給料が入れば、家も多少はきれいにしたいものだ」
「さようでございますな」
ワーレンバーグ公爵家に入る使用人4人の内、本当の使用人はパルマとデュランのみ。
残りの2人はタルバンとアラーナが使用人の格好をするだけだ。
そんな2人にもカルトメリ・ワーレンバーグ公爵は給金を出すと言ってくれた。
「あって困るものでもないだろう、違うか?」
つまりタルバンは年間2000リーグルもの収入が増えた。
家族5~6人が1年間ゆったり過ごせるくらいの金額が500リーグル。その4倍もの金額だ。
さらにアラーナにも2000リーグルが支給される。
もっとも公爵夫人としての支出はワーレンバーグ公爵家が出す。
結果として宙に浮く2000リーグルは…
【お兄様が使ってください できれば領のため】
タルバンに託された。
「金が欲しかったのは間違いないが、いざ、大金があると使い道に悩むものだな」
ホルストが「ぜいたくな悩みです」と笑った。
なお、同じように2000リーグルを支給されるパルマとデュランからも、その大半を「クリスパ領のために使ってください」と申し出があったものの、さすがにタルバンは断った。
「これまで十分な給料を上がられなかったんだ。せめて公爵家からの給料くらいは好きに使ってくれ」
「かしこまりました」
「かしこまりました」
タルバンは商人からの手紙を取り分ける。
「こちらには丁寧に返事を頼む」
ワーレンバーグ公爵家と縁続きになったとは言え、すぐに取引があるわけではない。
しかし先々を考えれば、商人らとのつながりは持っておくべきだろう。
そして騎士からの手紙をより分ける。
「こちらはオルギュールに渡してくれ」
職にあぶれている騎士の中に、早々腕利きがいるとは思えない。
それでも目ぼしい人材がいるのであれば、クリスパ領の警備として雇っても良さそうだ。
カルトメリ公爵からクリスパ領の警備体制を整えるよう任されてるオルギュール・ビルギイトに判断してもらおうと考えた。
「あとは断ってくれ」
「かしこまりました」
いずれ使用人を増やすこともあるだろうが、それのある程度投資が軌道に乗った後。
ましてアラーナの秘密を抱えたままで、安易に使用人を増やすことはできない。
「うーん…」
今日は1通の手紙が残った。
筆跡は女性からと思えたが、差出人の名前はない。
「どうなさいました?」
タルバンは無言でホルストに手紙を見せる。
「ふむ…『王都でお会いできましたら仲良くしてください』と、名前が無いのは怪しいですな」
「こうしたのが何通かあるんだよ」
タルバンは引き出しから同じような手紙を取り出す。
「こちらは名前がありますな」
「ああ、ただ、偽名だ」
「どの手紙も文面では歓迎しているようですな」
「本当に歓迎しているのであれば、無記名や偽名にはしないだろう」
「…少々お待ちください」
部屋を出ていったホルストは雑誌を手に戻ってくる。
「どうぞ」
「うん?」
タルバンはパラパラとめくって折られているページを開けた。
そこにはカルトメリ・ワーレンバーグ公爵がアラーナを選ぶまでの経緯が特集記事になっていた。
細かな部分に間違いはあるものの、大筋では当たっている。
「良く調べたものだ。これがどうした?」
「お嬢様が選ばれたと言うことは、他の令嬢が選ばれなかったと…」
「いや、それ以上は言うな!」
他の候補者に対して不敬ともなりかねないホルストの言葉を止める。
「辺境ゆえクリスパ領では問題なかろう。しかし王都では気を付けよう」
「可能であれば公爵閣下にも」
「ああ、相談しておこう」
タルバンはカルトメリ公爵に送る手紙を書き始めた。
ホルストが持ってきた手紙の束を見てタルバンがため息をつく。
カルトメリ・ワーレンバーグ公爵と妹であるアラーナ・クリスパ伯爵令嬢との婚約が発表されて以降、クリスパ家宛ての手紙が増えた。
貴族からは交流を求める手紙。取引や投資を希望する商人、仕官先を探す騎士、働き口を問い合わせる使用人らの手紙もある。
「現金なものだな」
「先様にもいろいろ事情があるでしょうから」
「まあな」
貴族からの手紙は多忙を理由に「機会があれば…」とやんわり断りの返事を送る。
多忙は事実であり、結婚までは他領を訪れる余裕はない。
まして他の貴族を招くような場もない。
「公爵家からの給料が入れば、家も多少はきれいにしたいものだ」
「さようでございますな」
ワーレンバーグ公爵家に入る使用人4人の内、本当の使用人はパルマとデュランのみ。
残りの2人はタルバンとアラーナが使用人の格好をするだけだ。
そんな2人にもカルトメリ・ワーレンバーグ公爵は給金を出すと言ってくれた。
「あって困るものでもないだろう、違うか?」
つまりタルバンは年間2000リーグルもの収入が増えた。
家族5~6人が1年間ゆったり過ごせるくらいの金額が500リーグル。その4倍もの金額だ。
さらにアラーナにも2000リーグルが支給される。
もっとも公爵夫人としての支出はワーレンバーグ公爵家が出す。
結果として宙に浮く2000リーグルは…
【お兄様が使ってください できれば領のため】
タルバンに託された。
「金が欲しかったのは間違いないが、いざ、大金があると使い道に悩むものだな」
ホルストが「ぜいたくな悩みです」と笑った。
なお、同じように2000リーグルを支給されるパルマとデュランからも、その大半を「クリスパ領のために使ってください」と申し出があったものの、さすがにタルバンは断った。
「これまで十分な給料を上がられなかったんだ。せめて公爵家からの給料くらいは好きに使ってくれ」
「かしこまりました」
「かしこまりました」
タルバンは商人からの手紙を取り分ける。
「こちらには丁寧に返事を頼む」
ワーレンバーグ公爵家と縁続きになったとは言え、すぐに取引があるわけではない。
しかし先々を考えれば、商人らとのつながりは持っておくべきだろう。
そして騎士からの手紙をより分ける。
「こちらはオルギュールに渡してくれ」
職にあぶれている騎士の中に、早々腕利きがいるとは思えない。
それでも目ぼしい人材がいるのであれば、クリスパ領の警備として雇っても良さそうだ。
カルトメリ公爵からクリスパ領の警備体制を整えるよう任されてるオルギュール・ビルギイトに判断してもらおうと考えた。
「あとは断ってくれ」
「かしこまりました」
いずれ使用人を増やすこともあるだろうが、それのある程度投資が軌道に乗った後。
ましてアラーナの秘密を抱えたままで、安易に使用人を増やすことはできない。
「うーん…」
今日は1通の手紙が残った。
筆跡は女性からと思えたが、差出人の名前はない。
「どうなさいました?」
タルバンは無言でホルストに手紙を見せる。
「ふむ…『王都でお会いできましたら仲良くしてください』と、名前が無いのは怪しいですな」
「こうしたのが何通かあるんだよ」
タルバンは引き出しから同じような手紙を取り出す。
「こちらは名前がありますな」
「ああ、ただ、偽名だ」
「どの手紙も文面では歓迎しているようですな」
「本当に歓迎しているのであれば、無記名や偽名にはしないだろう」
「…少々お待ちください」
部屋を出ていったホルストは雑誌を手に戻ってくる。
「どうぞ」
「うん?」
タルバンはパラパラとめくって折られているページを開けた。
そこにはカルトメリ・ワーレンバーグ公爵がアラーナを選ぶまでの経緯が特集記事になっていた。
細かな部分に間違いはあるものの、大筋では当たっている。
「良く調べたものだ。これがどうした?」
「お嬢様が選ばれたと言うことは、他の令嬢が選ばれなかったと…」
「いや、それ以上は言うな!」
他の候補者に対して不敬ともなりかねないホルストの言葉を止める。
「辺境ゆえクリスパ領では問題なかろう。しかし王都では気を付けよう」
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タルバンはカルトメリ公爵に送る手紙を書き始めた。
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