【R18】兄と2人で公爵様に嫁いでみました【完結】

県田 星

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第140話 子爵令嬢の訪問

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「少々、お伺いしたいのですが…」

貴族の持ちものと思われる立派な馬車を前に、護衛らしき騎士が顔を出したホルストに尋ねる。

「この辺りにクリスパ伯爵邸があると聞いておりまして…」

ホルストは「ああ」とうなずく。

「この家がそうですよ」
「へっ!」

間の抜けた声をあげた騎士は一歩退いて家を見直した。
庶民からすれば大きな家だが、伯爵が所有する貴族の邸宅には見えない。

『まあ、いつものことだけどね』

ホルストは口元を隠しつつ苦笑した。

「これは大変失礼しました。私、ブローブ子爵家に仕えるフルマイン・ニュズと申します」

礼節をわきまえた挨拶を受けて、ホルストの顔が貴族の使用人らしく引き締まる。

「さようでございますか。私はクリスパ伯爵家の執事でホルスト・ラッペルと申します」

改めて騎士が頭を下げた。

「先ぶれもなく訪問しまして、まことに申し訳ありません」
「ああ、気になさらずに」

ホルストは笑顔を見せる。

「よろしければ、ご用件をお伺いしても?」
「実は当家のレビグラス・ブローブお嬢様が…」

騎士がチラリと馬車を見る。
扇子で口元を隠しながら、窓から様子を伺う貴族令嬢が見える。

「こちらのタルバン・クリスパ伯爵様にお会いしたいと申しまして…」
「ほう」

素知らぬ顔を保ちつつ、ホルストの背中に冷や汗が流れた。

言うまでもなく、タルバンはアラーナに扮して王都のワーレンバーグ公爵家に滞在している。
そんな事情を知っているのはごくごく一部。

クリスパ領の領民や近隣の領主らに対しては、タルバンは領内各地を見回りつつ、ひんぱんに王都を訪れるため留守がちだと話している。

カルトメリ以外の貴族らに対しては、タルバンはクリスパ領で執務に励んでいることになっている。

「申し訳ありません」

ホルストは深く頭を下げる。

「タルバン様は新たな事業に取り組んでおり、それら領内の見回りに出ておりまして…」
「さようでございますか。お帰りはいつ頃になりますか?」
「さて、いつになるか……。いろいろと事業を抱えておりますので、予定が流動的でございます」
「では、どの辺りにいるのかも?」
「いやいや、全く見当がつきませんので…」

ホルストは言葉を濁すが、辺境のクリスパ領まで令嬢を伴った騎士は容易に納得しない。

「伯爵様の日程や旅程を把握されていないのですか?」
「臨機応変に動かれるのがタルバン様のやり方でして…」
「うーむ」

騎士は馬車に戻って令嬢と言葉を交わすと、急ぎ足で戻ってくる。

「タルバン様について、お嬢様がお話をお伺いしたいとおっしゃっておられます」
「ほう」
「ご都合はいかがでしょうか?」
「まあ、お話くらいであれば…」

ホルストが同意すると、再び騎士が馬車へと戻る。
馬車の扉が開いて盛装した貴族令嬢が姿を現した。

『アラーナ様とは違う雰囲気だが…』

クリスパ領ではめったに見かけない美女だ。

『タルバン様に?まさかねえ…』

こうした予感は得てして悪いものこそ当たるもの。
ホルストの「まさか」も外れていなかった。
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