【R18】入れ替わり農民の殿様ハーレム物語

県田 星

文字の大きさ
46 / 55
第3章 江戸へ

第44話 訳ありの側室

しおりを挟む
きゅう、これはどのようにすれば…」

この日、善久は政務に取り組んでいた。
概ね「よきにはからえ」で済んでしまうのだが、逆に言えば、善久の判断が欠かせない案件もある。

「これは、このように…」

お手伝いの名目できゅうが傍にいる。
後継者として生まれ、1年前まで藩主だった久の方が、まだまだ詳しい。

「ふーむ、そうか。ところで、久」
「はい?」
「水戸様とは何か縁があったか?」

久は天井を見上げて考え込むが、すぐに首を振る。

「水戸様とは、徳川光厳とくがわ みつとし様でございますよね」
「うむ、先日、城内で呼ばれて話をしたのだが…」
「遠目にお見かけしたことはございますが、あいさつすら交わしたこともございません」
「…そうか」
「ところで、殿」
「うむ?」
「そろそろお手を放していただきたいのですが…」
「おお!気づかなかった。いやあ、ついつい」

そんな風に答えながらも、善久は久の手を放さない。

言うまでもなく、善久はわざと久の手を握っていたのだが、見え見えの言い訳をする。
久も、それを分かっていて『まあ、このくらいなら』と手を握らせていた。

そこにドカドカと廊下を走ってくる足音がする。
久は手を引くと、善久と距離を置いた。

「殿、一大事にございます」

声は家老の岡岳権兵衛おかたけ ごんべえだったが、さすがにいきなり飛び込んでくるようなことはしない。

「構わぬ、入れ!」

善久が許しを与えたところで、ふすまが開かれて権兵衛が顔を見せる。

「一大事?何がどうした?」
「実は河内山宗秋こうちやま そうしゅう殿が参られまして…」
「ああ、そのどこが一大事なのだ?」

権兵衛はチラリと久を見て答える。

「殿と以前に約束した新たな側室の件と申しておりまして」
「何!?」

久が「お約束されたのですか?」と善久に尋ねる。
善久は大きく首を振る。

「確かに宗秋と側室の話をしたことはあるが、約束までは…」
「話はされたのですね」
「いや、まあ、……はあ」

久は無言で立ち上がると、部屋を出て行った。

「殿、いかがなされますか?」
「約束した訳ではないのだが、まあ、聞くだけ聞いてみるか」

善久と権兵衛は宗秋の待つ部屋へと向かう。

ふすまを開けると、宗秋がしっかりと頭を下げた後、満面の笑みをみせた。

「善久様、本日はご機嫌うるわしく…」
「いや、宗秋、側室の約束とは何だ?そんな約束をした気はないが」
「いやいや、銭金の負担が無ければ、新たに側室を迎えたいとおっしゃっておられましたよね」
「いやいやいや、あくまでも仮の話で…」
「いやいやいやいや、随分と乗り気でございましたよ」

権兵衛が善久を見る。
興味がなかったと言えば嘘になる。

「しかし、そんなにうまい話があるのか?」
「まあ、いろいろと訳ありはございますが」
「うーむ、その訳とは何だ?」
「はい、まずお相手の姫様ですが…」

宗秋が話しかけたところで、善久と権兵衛が視線を交わす。
2人はふすまの方を見て、小さくうなずいた。

善久は唇に人差し指をあてて、宗秋の話をとめる。
権兵衛とともに静かに立ち上がって、ふすまの前に立った。

善久と権兵衛がふすまを開くと…

「きゃあああ!」
「わあっ!」
「あらあ!」

3人の女が転がり込んできた。
正妻の美智みち、そして側室のきゅうけいだった。

「そなた達…」

善久が助け起こすと、3人は居住まいを正す。

「あ、あら、偶然通りがかったのですが」
「え、ええ、そうですの」
「本当に立ち聞きしていたなんてことは」
「見え見えの嘘を申すな!」

善久にきつく言われて、3人は目を伏せる。

「まあまあ、よいではございませぬか。お三方にも事情をお伝えできれば話は早いかと」

宗秋が助け舟を出すと、善久が顔をしかめる。

「そんなに訳ありの女子おなごなのか?」
「ええ、田橋たはし家のかず姫様にございます」

そこで善久は「ふっ」と苦笑した。

「宗秋よ、れ言を申すな。田橋たはし家とは御三卿ごさんきょうではないか。その姫ともなれば、御三家かよほどの大名家の正室がふさわしかろう。当家も大名ではあるが、その側室などには…」

そこで宗秋が手の平を向けて、善久の言葉を止める。

「ですから、訳ありなのでございます」
「うーむ」
「善久様はかず姫様について、お耳にされたことはございませぬか?」
「名くらいは聞いたことはあるが、詳しい事情までは」
「まあ、あまり表ざたにすることではございませんからな」

そこから宗秋が和の事情を語り始めた。

「善久様のおっしゃる通り、当初、和姫様は水戸藩に嫁いだのでございます」

和が水戸藩に嫁いだのは10歳の時。
しかも相手は6つだった。

「まあ、嫁いだといっても、一緒に暮らす遊び相手のようなものでございましょう」
「そうだな」

しかし3年後、相手は病弱だったこともあり、亡くなってしまった。

美智が「まあ」と声に出す。
久も恵も驚いた顔をしている。

「結局、和姫様は田橋家に戻られました」
「ふむ」
「そんな和姫様に二度目の縁談が持ち込まれました」

今度の相手は加賀の前田家。

「うん?」

水戸、そして加賀と来て、善久は城内のことを思い出す。
しかしここで口を挟むことはしない。

「十六になった和姫様が嫁がれることになったのですが…」

何と、婚姻のわずか1カ月前に相手が流行はやり病で亡くなってしまったとのこと。

女達から「ええっ」と声が上がる。
善久も権兵衛も話に聞き入っていた。

「そこで田橋家でも考えました。家来の中から身体しんたい頑健がんけんな者を選び出し、和姫様の婿にしようと…」
「つまり大名家では見つからなかったんだな?」

宗秋は言葉でなく苦笑で答える。
婚姻が2度も破綻したとなると、迎える方も抵抗があるだろう。

「ふむ、すると3度目も?」

宗秋は大きくうなずいた。

武辺者ぶへんものの婿ですので、刀槍とうそうは言うに及ばず、弓術や馬術にも堪能だったのですが…」

和姫が18歳となり、式を1週間後に控えた日、相手は馬から落ちて打ち所が悪く亡くなってしまったと語った。

「3度目も、か」
「はい、さすがに和姫様も気落ちされ出家するとまで申されたのですが、何とか引き留めてございます」
「それで側室でもよいから、となった訳か」
「ええ、ようやく5年たって和姫様も落ち着かれましたので、この宗秋に『誰ぞおらぬか』と」

善久は納得した。

おそらく嫁ぐにあたって、相当の支度金を用意しているのだろう。
裕福でない黒峰藩にとっては、願ってもない話といえる。

「しかしなあ」

それでも難しい顔をしている善久のたもとを誰かが引っ張る。

「殿」

美智だった。

「うん?」

善久が見ると、美智は涙を流している。
いや、久も恵も同様だった。

「お迎えいたしましょう」

意外な発言が美智から聞かれた。

「よいのか?」

久も恵もうなずいた。

「3度も相手が亡くなられるなんて、とてもお可哀そうです。ここは善久様がお救いしないと」

美智の言葉に、またも久と恵がうなずく。

「わらわは…その、あれでしたけど、善久様に受け入れていただいたことで助けられました」
「うむ」
「それに久様も恵様にもお仲間になっていただけましたし」
「まあ、そうだな」
「善久様に何かあっても、“けがなし”のわらわ達がお守りいたしますわ!」
「ふふっ、そうか」

宗秋が「善久様、“けがなし”とは?」と尋ねるが、善久は笑顔でかわす。

「まあ、それでは…」

そう言いかけた宗秋を善久は留める。

「ただし、気になることがある」
「何でございましょう?」
「水戸様や加賀様はどう考えておいでか?」

善久は先日の対面を思い出す。
あれは自分を見定めたのだろうと思う。

「一度は正室に迎えようとした和姫様を側室にするのは、不快に思われておいでではないか?」

宗秋は「いいえ」と大きく手を振った。

「むしろ反対でございますよ」
「反対、とな?」
「縁があった和姫様がいつまでも独り身なのは、水戸様も加賀様も案じておられまして、『こうなったら側室でも構わぬ』と」
「ふーむ、そうか。それなら、よかろう」

ようやく善久も了承する。

「では、お任せください」

来た時以上のほくほく顔で宗秋は帰っていった。
おそらく各家から、それなりに謝礼を受け取る手はずになっているのだろうと善久は考える。
だが、それを口にしないのも、体裁のひとつと思った。

一旦決まってしまえば話は早い。

と言うよりも、儀礼だしきたりだと日を費やしているうちに、善久に何かあったらそれこそ大変、と田橋家の方が急がせた。

結果、宗秋が帰ってから10日後に和姫が黒峰藩に輿入こしいれすることに決まった。
そして過去の経緯もあり、道具一式が整っている田橋家の支度は早い。

一方、迎え入れる黒峰藩では家臣らが準備に走り回っていた。
同時に黒峰藩邸に届けられたのが、祝いの品である。

親しい大名家は元より、これまで何の交流もなかった大名家や幕臣からも祝いの金品が届く。さらに御三家や御三卿、そして将軍家からも。

「お礼の品が大変でございます」

そう言う権兵衛の顔は笑っている。
善久が理由を尋ねると。

「実は長年の借財が一掃できましてな」
「まあ、よいことだな」

そして輿入れの日となった。
--------------------------------------------------
もちろん田橋たはし家は架空の家です。
本当の御三卿は、田安家、一橋家、清水家です。

次回の更新予定は2月16日です。
もちろん善久と和姫のムニャムニャです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

夫婦交錯

山田森湖
恋愛
同じマンションの隣の部屋の同い年の夫婦。思いの交錯、運命かそれとも・・・・。 少しアダルトなラブコメ

処理中です...