Hearts Do Hard

久末 一純

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「駄目だ、もう最悪だ」
 開口一番、わたしは呟く。
 それが、朝に目を覚ました私の第一声だった。
 今日からまた最低の一日が始まるかと思うと、布団から出る気にもならない。
 まるで鉄か鉛で出来きてるんじゃないかと思うくらいに重く、私を床に縛り付ける。
 だというのに、無粋な目覚まし時計の電子音が早く起きろとがなり立てる。
「あー、はいはい。いま静かにさせてあげるから、もうちょっと待ってなさい」
 それでもわたしは布団のなかを芋虫のように這いずって、頭を使って黙らせる。
 これは何も知恵や知力を用いて目覚まし時計を止めたのではない。
 ただ横着にも頭突きをかまし、強制的に口を閉じさせたのだ。
「お姉ちゃん、起きたー?」
 目覚まし時計の音を聞きつけたのか、わたしの部屋の扉越しに妹のが声をかけてくる。
「うん、起きたよー」
 わたしはもぞもぞと布団から這いずり出ながらそう応える。
「そう。じゃあ開けるね」
 そう断りを入れ、しかりが部屋へと入っていくる。
「もう、お姉ちゃん。また布団ぐちゃぐちゃにして。それに髪も寝癖だらけだし、パジャマもあっちこっち絡まってるよ」
 ピッタリと閉じた遮光カーテンを勢いよく開けながら、しかりはそう切り出した。
 朝の眩しい陽光が、わたしの部屋を光で満たす。
 その光に目を灼かれながら、わたしの心は梅雨空のように曇っていく。
 ああ、また一日が始まるのか。
 そんな感慨など露知らず、しかりはテキパキと布団をなおす。
 そうして入ってくるなりのお小言一発。
 わたしの妹は行儀作法や礼儀、身だしなみといった類には、姉であろうと何であろうと厳しいのだ。
 本人曰く、行儀作法や人間の基本。
 身だしなみは女の子の基本だそうだ。
 そんな妹の辛口採点からすると、今朝のわたしはどうだろう。
 おそらくいつも通り人間としても女の子としても、ギリギリ落第点が関の山といったところか。
 それでもわたしはひと言言い返してやろうと口を開く。
 お互い、一発は一発だ。
「寝ているあいだのことなんだから、しょうがないでしょ。それに、こんなのわたしにはどうしょうもないことなんだし」
「それは分かっているけど、もう少し自分で何とかしてっていう話。さっ、着替え手伝ってあげるから、早く下に降りて朝ごはんにしよ」
 そう言うやいなやしかりはわたしの着ているパジャマを剥ぎ取り、手際よく制服に着替えさせていく。
 毎度毎回思うことだが、着せ替え人形とはこういう気持ちなのかと考えずにはいられない。
 そうして私が益体もないことに頭を巡らせているあいだに、髪までキッチリ櫛を入れられている。
 あっという間に、登校モードのわたしが完成していた。
「相変わらず見事なお手並みですなぁ」
 そう言ってわたしは妹の手間を労う。
「これくらい女の子なら当然だよ。それに、いつものことだしね」
「そうだね。それも、確かにそうだ」
 わたしの口から滲み出る曇天の空気を払拭するように、しかりがパンっと両手を打った。
「はいそこまで。準備も出来たし、早くごはんを食べにいこう」
「うん。そうだね」
 わたしはしかりの言葉に対し、たったそれだけの言葉で応えた。
 その言葉を受けたしかりは、わたしを一階にある食卓へと引っ張っていった。
 そうしてわたしは妹に連れられて、足音もたてずに階段を降りていったのだった。
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