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第2章 風紀委員編
41. わかりたい
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感情が揺さぶられる。
テトラは胸を抑えた。
今までに経験したことのない心の動きに、彼女は戸惑った。
昔、似たような気持ちを味わった気がする。
しかし、思い出せない。
テトラは、日々、無感情に生きてきた。
何をしても心が動かない。
表情も動かない。
たまに心がざわつくときがある。
しかし、それも一時的なものだ。
だからこそ、テトラは戸惑った。
――この気持ちはなんでしょう?
わからない。
テトラは目の前のアランをじーっと見た。
アランなら答えを知っているかもしれない。
「本で読みました」
アランが驚いた顔をする。
テトラは構わず続けた。
「人間には愛情があるものだと。でも私には愛がなんなのかわかりません」
ここ数年間、テトラはいろいろな書物を読み漁り、知識を深めていった。
人の気持ちについてもたくさん調べた。
感情の中に「愛情」というものがあると知った。
しかし、わからなかった。
わからなくていいと思っていた。
でも――
「そんなの俺だってわからんよ」
アランが苦笑いしながら答える。
「ではなぜ私を助けにきたのですか?」
「最初から言ってるだろ。お前が俺の妹だからだ。家族を助けたいと思うのは変なのか?」
「わかりません。私はそういう気持ちになったことがないので……」
わからない。
わからないくて良いと思っていた。
でも、いまは無性にその正体を知りたい。
「わかりません」
「わからない、わからないって……具体的に何がわからないんだ?」
わからないのは、自分の感情だ。
初めての感情に、テトラは戸惑っている。
「怖いとは感じませんでした」
「は?」
「誘拐されて襲われて殺されそうになって……それでも恐怖はありませんでした」
「……」
「でも、兄様が来てから、よくわからない気持ちになりました」
「よくわからないって、なにが?」
「わかりません。それがわからないから困惑しています」
アランが現れたとき、心が温かくなるような感じがした。
それがどういう感情なのかは、彼女にはわからなかった。
アランを見たときに、アランがサイモンと戦っているときに、アランといまこうして話しているときに、テトラの感情は揺れ動く。
人生で最も感情が動いている瞬間がいまだ。
けれど、わからなかった。
なにが自分の感情を動かしているのか、テトラには理解できなかった。
それが嫌だった。
「初めての気持ちです。今までには感じたことがなかったものです。この気持ちは、また味わえるのでしょうか?」
心がざわつくのとは違う。
この心地良い感情を、テトラはもっと味わっていたいと思った。
「兄様と一緒にいれば、この気持ちの正体がわかるのでしょうか?」
知りたいと思った。
わかりたいと思った。
「それがどんな気持ちかはわからん。でもまあ、俺はテトラと仲良くしたいよ」
テトラの感情が揺れ動く。
その感情の正体を、彼女はまだ知らない。
「……はい。わかりました」
テトラの口角が本人も気付かないうち上がっていた。
それは無表情の彼女が初めて笑った瞬間であった。
◇ ◇ ◇
「くっ……は……」
サイモンは学園の地下水道で横たわっていた。
なんとかアランから逃げることに成功したものの、その代償はあまりにも大きい。
全身が焼けただれ、呼吸をするのもやっとな状況であった。
そして意識はほとんど残っていない。
カツ、カツ、カツ。
地下水道に不釣り合いな、ヒールの音が響き渡る。
サイモンの前に、女が現れた。
「まともに命令一つ完遂できないとは。組織の末端は使い物になりませんね」
女はサイモンを見下しながらしゃべる。
しかし、サイモンの意識はなく、彼の耳には女の声は届いていない。
「しかし、良いものを見せてもらいました。アラン・フォード、やはりあなたは興味深いです」
尋常ではない魔力量と無詠唱魔法、そして規格外の成長力。
彼女は無詠唱魔法を調べてみた。
原理は理解できた。
しかし、無詠唱魔法を扱うのは不可能というのが結論だった。
魔法陣を魔法領域に詰め込むのは、圧倒的に記憶領域不足であるからだ。
アラン・フォードには何か特別なモノがある、と女は考えている。
「あなたの体を隅々まで調べたくなってきました」
女の目の奥がキラッと光る。
「そういえばなぜ彼はあの場所に来られたのでしょうか?」
ふと思い出したかのように、彼女は疑問を口にする。
「情報漏洩ですかね?」
学園には組織の人間が入り込んでいる。
そこから情報が漏れた可能性も十分に考えられる。
「まあいいでしょう。調べればすぐにわかることです」
たいして気にすることでもない、と女は割り切って考える。
問題は実験体を回収できなかったことである。
しかし、テトラがなしでも最悪問題ないと考えていた。
「代わりの実験体もいることです。ちょうど良い具合に壊れているのは幸運でしたね」
サイモンが「あ……うぅっ……」とうめき声を上げている。
「面白い資料も手に入りましたし、これがあればひとまず目標は達成できそうです」
彼女の手には分厚いファイルが握られている。
その表紙にはこう記載されている。
――ホムンクルス計画。
テトラは胸を抑えた。
今までに経験したことのない心の動きに、彼女は戸惑った。
昔、似たような気持ちを味わった気がする。
しかし、思い出せない。
テトラは、日々、無感情に生きてきた。
何をしても心が動かない。
表情も動かない。
たまに心がざわつくときがある。
しかし、それも一時的なものだ。
だからこそ、テトラは戸惑った。
――この気持ちはなんでしょう?
わからない。
テトラは目の前のアランをじーっと見た。
アランなら答えを知っているかもしれない。
「本で読みました」
アランが驚いた顔をする。
テトラは構わず続けた。
「人間には愛情があるものだと。でも私には愛がなんなのかわかりません」
ここ数年間、テトラはいろいろな書物を読み漁り、知識を深めていった。
人の気持ちについてもたくさん調べた。
感情の中に「愛情」というものがあると知った。
しかし、わからなかった。
わからなくていいと思っていた。
でも――
「そんなの俺だってわからんよ」
アランが苦笑いしながら答える。
「ではなぜ私を助けにきたのですか?」
「最初から言ってるだろ。お前が俺の妹だからだ。家族を助けたいと思うのは変なのか?」
「わかりません。私はそういう気持ちになったことがないので……」
わからない。
わからないくて良いと思っていた。
でも、いまは無性にその正体を知りたい。
「わかりません」
「わからない、わからないって……具体的に何がわからないんだ?」
わからないのは、自分の感情だ。
初めての感情に、テトラは戸惑っている。
「怖いとは感じませんでした」
「は?」
「誘拐されて襲われて殺されそうになって……それでも恐怖はありませんでした」
「……」
「でも、兄様が来てから、よくわからない気持ちになりました」
「よくわからないって、なにが?」
「わかりません。それがわからないから困惑しています」
アランが現れたとき、心が温かくなるような感じがした。
それがどういう感情なのかは、彼女にはわからなかった。
アランを見たときに、アランがサイモンと戦っているときに、アランといまこうして話しているときに、テトラの感情は揺れ動く。
人生で最も感情が動いている瞬間がいまだ。
けれど、わからなかった。
なにが自分の感情を動かしているのか、テトラには理解できなかった。
それが嫌だった。
「初めての気持ちです。今までには感じたことがなかったものです。この気持ちは、また味わえるのでしょうか?」
心がざわつくのとは違う。
この心地良い感情を、テトラはもっと味わっていたいと思った。
「兄様と一緒にいれば、この気持ちの正体がわかるのでしょうか?」
知りたいと思った。
わかりたいと思った。
「それがどんな気持ちかはわからん。でもまあ、俺はテトラと仲良くしたいよ」
テトラの感情が揺れ動く。
その感情の正体を、彼女はまだ知らない。
「……はい。わかりました」
テトラの口角が本人も気付かないうち上がっていた。
それは無表情の彼女が初めて笑った瞬間であった。
◇ ◇ ◇
「くっ……は……」
サイモンは学園の地下水道で横たわっていた。
なんとかアランから逃げることに成功したものの、その代償はあまりにも大きい。
全身が焼けただれ、呼吸をするのもやっとな状況であった。
そして意識はほとんど残っていない。
カツ、カツ、カツ。
地下水道に不釣り合いな、ヒールの音が響き渡る。
サイモンの前に、女が現れた。
「まともに命令一つ完遂できないとは。組織の末端は使い物になりませんね」
女はサイモンを見下しながらしゃべる。
しかし、サイモンの意識はなく、彼の耳には女の声は届いていない。
「しかし、良いものを見せてもらいました。アラン・フォード、やはりあなたは興味深いです」
尋常ではない魔力量と無詠唱魔法、そして規格外の成長力。
彼女は無詠唱魔法を調べてみた。
原理は理解できた。
しかし、無詠唱魔法を扱うのは不可能というのが結論だった。
魔法陣を魔法領域に詰め込むのは、圧倒的に記憶領域不足であるからだ。
アラン・フォードには何か特別なモノがある、と女は考えている。
「あなたの体を隅々まで調べたくなってきました」
女の目の奥がキラッと光る。
「そういえばなぜ彼はあの場所に来られたのでしょうか?」
ふと思い出したかのように、彼女は疑問を口にする。
「情報漏洩ですかね?」
学園には組織の人間が入り込んでいる。
そこから情報が漏れた可能性も十分に考えられる。
「まあいいでしょう。調べればすぐにわかることです」
たいして気にすることでもない、と女は割り切って考える。
問題は実験体を回収できなかったことである。
しかし、テトラがなしでも最悪問題ないと考えていた。
「代わりの実験体もいることです。ちょうど良い具合に壊れているのは幸運でしたね」
サイモンが「あ……うぅっ……」とうめき声を上げている。
「面白い資料も手に入りましたし、これがあればひとまず目標は達成できそうです」
彼女の手には分厚いファイルが握られている。
その表紙にはこう記載されている。
――ホムンクルス計画。
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