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3章⭐︎新しい家族から学ぶ帝王学編⭐︎

食の大賢者について

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-side リアム-



 仮想戦闘装置で作られた、仮想空間の中に入ると体が急に重くなるのを感じた。
 ……?なんだこの感じは。体が思うように動かない。重石をつけているような感じだ。



「……どうした?リアム。早く武器を持て。」
「は、はい。」


 ヘンリーはすごいやる気だから、仕方ないけど戦うしかないか。


『そうはいっても、どーせ勝てないんだし、メンタル折れない程度にほどほどにな。』
『ZZZZZZZZZZZ……。』


 ルーカスとシルバーは眠そうだ。というか、シルバーは寝ているな。


「分かってる。うーん。武器はせっかくだしノアから貰ったナイフを使うか。」


 この前貰ったノアからの広範囲斬撃ナイフは結構便利なものだった。
 森で軽く素振りをした感じだと今の俺でも、10メートルくらいは斬撃を飛ばせる。
 ヘンリーが相手の場合、斬撃を飛ばせない剣だと腕の長さ的にも射程で負けてしまうので、近接戦を諦め、魔法を使った遠距離戦に頼らざるを得なくなる。


 ただ、遠くから魔法しか撃ってこない人というのは、行動が読まれやすいからな。
 従魔たちの力を使えれば別だけど、
 1対1となると、圧倒的に火力とエイム力がなければ、魔法攻撃は通じないだろう。


 つまり、持ち武器が剣だけだったら、この時点でこの試合に勝つことは不可能ということになるから、ナイフをくれたノアには感謝しないとな。


「さて、両者位置についたことを確認。
 試合はどちらかが、戦闘不能になるまで行うとする。」


 仮想空間での戦闘不能というのは、魔法の身代わりが壊れるまでのことであるらしい。


「審判はレオンが行う。それでは、開始!」


 戦闘態勢をとる。といっても、レオンに稽古をつけてもらった時くらいしか対人戦はしたことがなかった。
 だから、なにをしていいかわからず、警戒するだけだ。


「どうした?リアム。遠慮せずにかかってきなさい。あと、手を抜くのはなしだ。ちゃんとやんないと、感謝祭での飯は抜きだぞ。」
『な……なに?頑張れリアム。全力であいつをぶっ倒せ!』
『ZZZZZ……?むにゃ!?ま、まあ、リアムなら大丈夫だろうて。期待してるからのう。』


 いや、手のひら返しはっや。急に応援のやる気出しやがって。
 シルバーに関しては飯の話聞いて、今起きただろ。なーにが、リアムなら大丈夫だ、期待してるからのう…だ。
 そもそも相手は俺が勝てる相手でもないのに、適当すぎるだろ。


「はあ。やるしかない……か。」


 手始めに俺は斬撃をヘンリーに向かって放つ。どうせ、かわされるのは分かっているけど初見殺しワンチャンにかけつつ、
 牽制目的と、敵の精神と行動に圧力をかけるのが目的だ。


 ザッ……。


 ん……?あれ?


「どうした?リアム。届いてない斬撃を放ってきても意味ないだろう。」


 今出た斬撃は5メートル。
 おかしい。昨日まで10メートルの斬撃で間違いなく届くはずだったはずなのに。


「リアム?戦場において絶対はないぞ。考えるのは後にしな。」
「う、うん。」


 それはそれとして、どうしようか。
 とりあえず、斬撃は5メートルほどまで近づかないといけないらしい。
 反撃の可能性を考えると、5メートルまで近づくのはリスキーだけど、
 圧倒的にステータス差のある相手に1対1で勝つ方法なんて、射程外から斬撃を飛ばして初見殺しをするか、
 魔法をうまく使いながら死角から攻撃するか、後ろを取って攻撃するかの3択だから仕方がない。


 そう思い、ヘンリーに向かってファイアーボールを放ち、煙で周りが見えなくなったところで後ろに回り込み斬撃を放つ。


「ふん。仮想空間での初戦闘にしてはなかなかいい動きだな。だが……。」


 次の瞬間、目の前のヘンリーがブレたかと思うと、気づいたら魔法体の首は刎ねられ、壊れていた。


「は……?」
「そこまで。勝者ヘンリー!」
「……ってうわ。はあ。子供相手に容赦なさすぎでしょ。
 死角から攻撃してたのに、完全に見破って手加減なしの本気のカウンターとか。」
「す、すまん。期待以上の動きと思考力だったもので、つい加減を間違えてしまった。」


 いや、最後の動き目で追えなかったんだけど。あれで、“つい”ってレベルなのか。


「まあまあ。いい試合だったぜ。リアムの動きも最初に比べたら大分ましになっている。
 だが、今日は少し調子が悪かったか?」
「うーん。そうでもないよ?
 ただ……。少し1人にさせてくれない?
 考えたいことがあるんだ。」
「……?分かった。本当は総評を今すぐしたいところだが、後でもいいや。
 だが、迎えの時間までには必ず戻ってこいよ。」
「はーい。」




 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢




 俺は一旦2人と別れ、確かめたい事があったので外に向かった。
 領主の館の庭…というのには少し広すぎるが、そこの一角で斬撃ナイフで素振りをする。


 ザアアアアア……。


 すると、この前のように10メートルほど飛んだ。


「おお!やっぱりだ。なんでだろう?」
『ああ?それはお前、仮想空間ではスキルが使えなくなってるんだったら当然だろ?』


 いつの間にか、後からついてきていたルーカスが言う。


「どういう事?」
『お前の持つ[食の大賢者]のスキルには、単純に料理のレシピが思いつくだけじゃねえって事だよ。
 視覚、聴覚、嗅覚、身体能力を体の負担にならない限界まで常時引き上げる効果もあるんだぜ。』


 なるほど、たしかに思い返せばさっきの戦い、

 ①匂いが効きにくい。
 (料理の香りを嗅ぐのに必要)

 ②動体視力も悪い。
 (調理中食材の変化に対応するために必要)

 ③耳も悪くなっている。
 (調理中食材の変化に対応するのに必要)

 ④体も重い。
 (鍋を振るのに必要。料理は意外と力仕事。)

 という状態だったのかもしれない。


 それに加えて、斬撃も半分になっていたんだ。初めて仮想空間で戦ったから、仕方がないが、事前の想定とは完全に異なった状態で戦わされていたわけだ。


『まあ、事前の想定通り動けていたとしていてもヘンリーには勝てないだろうけどな。』
「う……。」
『ふんっ。主人殿が弱くても、我らが守るから問題あるまい。』


 おおー。シルバーその発言はイケメンすぎ。
 しかし、そうか……これが今まで俺が強かった理由か。[食の大賢者]は[絶対領域食堂]に比べてかなり地味なスキルだと思っていたが、破格のスキルだったわけね。


 しっかし……。


「はー。それ以前には早くそのことについて教えてくれたら良かったのに!」
『教えたら、転生前までのお前だと目立つからとかいう理由で、受け取らなかっただろ。』
「そうだけど。」
『だから、わざわざ[賢者]の上位スキルをノート様が作ったんだからよ。
 むしろもっと、感謝するべきだぜ。』
「は?………はあああ?」



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