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第一章
第1話 彼との関係
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この話の主な登場人物
カトリーヌ 主人公(わたし)
フランツ 護衛
オーギュスタン(オーギュ) 許嫁
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
わたしはカトリーヌ。
エルザス国、フォルチェ鉄壁王の長女。
きょうは朝も早くから婚約者のオーギュスタンとデートだった。
彼はデュナン候の跡取り。
両家の婚姻は親が決めた。
わたしは事後承諾しただけ。
「ねえ、オーギュ、わたしと居て楽しい?」
そう言ってポットから紅茶注いで渡す。
そこは東屋。
敷地内に作られた壁のない屋根があるだけの小屋風の建物。そこのテーブルに向かい合わせに座っている。
受け取った彼はカップを見つめながら答える。
「ああ」
──うそだ。
わたしは見抜く。
その気のない返事。
彼はわたしと居て、ちっとも楽しそうではない。
でも。
「そう、よかった」
わたしは無理にそう言った。
そう言うしかない。
彼の嘘に乗るしかなかった。
オーギュスタンは、わたしが暗い顔をしていることに気がつき、取りなすような言葉を並べる。
「すまない、もっと麓の街中とかに出掛けた方が良かったかも知れないが、あまり人混みで君と過ごしたくなくて」
そう言って端正な顔を正面に向ける。
その視線の先には湖が広がっている。
彼はそこから目を離さない。
そしてわたしを見ない。
彼の切りそろえたブロンドがきらきらと陽光にきらめき、その青い瞳をまっすぐに向けてはいるが、それがわたしの方を向くことは希だった。
わかっている。
彼は、本当はデートでここに居るのではない。
視察だ。
将来、わたしと一緒になり、この地を治めるその準備だ。
何しろここはまだ我が家の領土というか敷地内。
その領地内の視察をデートと称してわたしを連れて歩いているだけだった。
だからわたしは、そのついでであり、ただの添え物だった。
一人で見回るのも退屈だから、仕方なしに連れて歩いている。
そう言ったついでがわたしだ。
「こんどは街中のカフェにでも行きましょ、おいしいタルトを出すカフェが評判なんですって。わたし、そこに行ってみたい」
精一杯の作り笑顔でそうおねだりする。
「うん、いつかそこに行こう」
その返事を聞くのは何度目だろうか。
たぶん、彼はそんなことも忘れている。
というか記憶に留めても居ない。
ただ、わたしが無邪気に行ってみたい場所があるとはしゃいでいるだけで、それに適当に相づちを打っているのだ。
「わたし、楽しみにしてるいからね。きっとよ」
それを言うのも何度目だろうか。
それには答えず、オーギュスタンは飲み干したカップをテーブルに置いた。
「もう帰ろう。風が冷たくなってきた、あまり冷えると体に悪い」
「ええ」
確約した返事をもらえないわたしは、茶器セットをバスケットにしまう。
オーギュスタンはさっさと歩き出して馬車へと向かい、わたしはその後をバスケットを手にして追いかける。
彼はわたしをエスコートしない。
足場の悪い草原だというのに荷物も持たず、そして手も取ってくれない。
そして自分一人で馬車に乗ってしまった。
「カトリーヌお嬢さま、大丈夫ですか」
護衛のフランツがバスケットを受け取り、そして手を取ってくれた。
彼は子供の頃からわたしの面倒を見てくれている。だけど、そのせいか、そろそろ二〇代半ばになろうかという年齢だけど、まだ結婚していなかった。
「ありがとう、フランツ」
「オーギュスタン殿はお嬢様を無視して馬車に乗り込んでしまいました。あれで本当に婚約者なんでしょうか」
「彼ね、いつもああだから。もう慣れたわ」
不服そうなフランツに向けてほほえみ、「もういきましょ」と促す。
納得しかねる彼は御者席の横に座るとゆるっと馬が動き出した。
これがわたしのデート。
でも実態はただ彼の仕事あとを、黙ってついて行くだけだった。
そこには主体的なわたしは存在していない。
それが自分の未来をも暗示しているかのようだった。
カトリーヌ 主人公(わたし)
フランツ 護衛
オーギュスタン(オーギュ) 許嫁
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
わたしはカトリーヌ。
エルザス国、フォルチェ鉄壁王の長女。
きょうは朝も早くから婚約者のオーギュスタンとデートだった。
彼はデュナン候の跡取り。
両家の婚姻は親が決めた。
わたしは事後承諾しただけ。
「ねえ、オーギュ、わたしと居て楽しい?」
そう言ってポットから紅茶注いで渡す。
そこは東屋。
敷地内に作られた壁のない屋根があるだけの小屋風の建物。そこのテーブルに向かい合わせに座っている。
受け取った彼はカップを見つめながら答える。
「ああ」
──うそだ。
わたしは見抜く。
その気のない返事。
彼はわたしと居て、ちっとも楽しそうではない。
でも。
「そう、よかった」
わたしは無理にそう言った。
そう言うしかない。
彼の嘘に乗るしかなかった。
オーギュスタンは、わたしが暗い顔をしていることに気がつき、取りなすような言葉を並べる。
「すまない、もっと麓の街中とかに出掛けた方が良かったかも知れないが、あまり人混みで君と過ごしたくなくて」
そう言って端正な顔を正面に向ける。
その視線の先には湖が広がっている。
彼はそこから目を離さない。
そしてわたしを見ない。
彼の切りそろえたブロンドがきらきらと陽光にきらめき、その青い瞳をまっすぐに向けてはいるが、それがわたしの方を向くことは希だった。
わかっている。
彼は、本当はデートでここに居るのではない。
視察だ。
将来、わたしと一緒になり、この地を治めるその準備だ。
何しろここはまだ我が家の領土というか敷地内。
その領地内の視察をデートと称してわたしを連れて歩いているだけだった。
だからわたしは、そのついでであり、ただの添え物だった。
一人で見回るのも退屈だから、仕方なしに連れて歩いている。
そう言ったついでがわたしだ。
「こんどは街中のカフェにでも行きましょ、おいしいタルトを出すカフェが評判なんですって。わたし、そこに行ってみたい」
精一杯の作り笑顔でそうおねだりする。
「うん、いつかそこに行こう」
その返事を聞くのは何度目だろうか。
たぶん、彼はそんなことも忘れている。
というか記憶に留めても居ない。
ただ、わたしが無邪気に行ってみたい場所があるとはしゃいでいるだけで、それに適当に相づちを打っているのだ。
「わたし、楽しみにしてるいからね。きっとよ」
それを言うのも何度目だろうか。
それには答えず、オーギュスタンは飲み干したカップをテーブルに置いた。
「もう帰ろう。風が冷たくなってきた、あまり冷えると体に悪い」
「ええ」
確約した返事をもらえないわたしは、茶器セットをバスケットにしまう。
オーギュスタンはさっさと歩き出して馬車へと向かい、わたしはその後をバスケットを手にして追いかける。
彼はわたしをエスコートしない。
足場の悪い草原だというのに荷物も持たず、そして手も取ってくれない。
そして自分一人で馬車に乗ってしまった。
「カトリーヌお嬢さま、大丈夫ですか」
護衛のフランツがバスケットを受け取り、そして手を取ってくれた。
彼は子供の頃からわたしの面倒を見てくれている。だけど、そのせいか、そろそろ二〇代半ばになろうかという年齢だけど、まだ結婚していなかった。
「ありがとう、フランツ」
「オーギュスタン殿はお嬢様を無視して馬車に乗り込んでしまいました。あれで本当に婚約者なんでしょうか」
「彼ね、いつもああだから。もう慣れたわ」
不服そうなフランツに向けてほほえみ、「もういきましょ」と促す。
納得しかねる彼は御者席の横に座るとゆるっと馬が動き出した。
これがわたしのデート。
でも実態はただ彼の仕事あとを、黙ってついて行くだけだった。
そこには主体的なわたしは存在していない。
それが自分の未来をも暗示しているかのようだった。
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