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第一章
第17話 求婚
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この話の主な登場人物
カトリーヌ 主人公(わたし)
フランツ 護衛
ヒルダ 家庭教師
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
フランツはわたしを抱き抱えたまま廊下を歩いて行く。
「お、降ろしてちょうだい」
「いいえ、このままお部屋まで向かいます」
まだこの辺りの廊下は人が少ない。
だけど中央部分に近づくにつれて作業しているメイドが増えてゆく。
そして抱き抱えられているわたしとフランツを見て、何事かという視線を向ける。
初め、また体調を悪くしたのかと心配な表情になる。
その後、「降ろして」と抗議するわたし、そして、「お嬢さま、わがまま言わない」と窘めるフランツ。そして背後でニヤニヤしてるヒルダ。
そんな様子を見て、「ははぁーん」と納得した表情になる。
そんな光景を邸宅で働く人々に見られている。
でも、本心を言うと、嫌ではなかった。
むしろもっとこのまま抱かれて歩いていたいと思っていた。
だけど照れくささ、そして少しだけばつが悪いので、降ろしてと抗議することで無理矢理という体裁を繕っている。
ちょっとずるいなって自分でも思ってた。
だけどフランツにはそれがお見通しなようで、何を言っても、「はいはい」と取り合わない。そして背後を見るとヒルダが口に手を当ててにししと笑っている。
何もかもバレていた。
そして部屋に戻り、ベッドに寝かしつけてくれる。
気がつくとヒルダが居ない。
なのにドアが閉じられている。
だから部屋にはフランツと二人っきり。
わたしは離れようとするフランツをしっかりと抱いて引き留めている。
「お嬢さま、これでは。手をお離しください」
「いや」
「誰かに見られたら」
「廊下をだっこして歩いたくせに」
「それは体力がないお嬢さまを運ぶために」
「お仕事だから、仕方なくああやって運んだっていうの?」
「そう言うわけでは」
「じゃあこのまま」
「お嬢さま」
「それも嫌」
「何がです?」
「“お嬢さま”ってやめて」
「ではカトリーヌさま」
「“さま”も嫌」
「ではなんてお呼びすれば」
「カトリーヌ。ただのカトリーヌと呼んで」
「カトリーヌ」
「フランツ」
わたしたちは名前を呼び合った。
それと同時にわたしは涙を流す。
そして思わず言ってしまった。
「ごめんなさい」
フランツはただ黙って聞いている。
そしてひたいを優しく撫でてくれた。
「ごめんなさい、フランツ。ごめんねぇ」
わたしは涙があふれて止まらなかった。
「何がごめんねなんだい?」
「婚約を勝手に承諾してごめんなさい。あなたに一言も相談もなしに決めてしまって、わたし、ずっと、それが」
しゃくり上げるようにして泣きながらそれを言った。
フランツはその間、ずっと撫でてくれる。
そして、「お母さまの墓所から離れたくなかったのでしょ」と言ってくれた。
彼は分かっていたのだ。
結婚を承諾しないと、わたしは家を離れなければならなくなる。
場合によっては遠い遠い土地、または異国の貴族の元へ嫁ぐことになるかも知れなかった。
そうしたら母の墓参りに訪れるのは人生で数えるほど。もしかしたら一生できないかも知れない。
だから望まない結婚を承諾したのだ。
自分の心を押し殺して。
「お母さまを一人にしたくなくて。ひとりぼっちで、ずっとここに残すこと、それが嫌で。でも結婚して家を継いだら離れなくてすむ。そして貴方とも一緒にここに居られる。だからそれが一番いい方法だと」
「分かっていましたよ」
「ごめんなさい、ほんとうに、ごめんなさい。一人で勝手に決めてしまってごめんなさい。でもわたし、わたし、貴方、フランツと離れたくない。他の人と結婚なんて嫌、絶対に嫌。だから、だから、わたしをここから連れ出して、お願い」
そしてわんわんと泣いた。
押し殺していたこと、我慢していたこと、そして怖かったこと。
その全部、すべてがいっぺんにあふれ出て、わたしは涙が止まらなかった。
「カトリーヌ、わたしと一緒にこの家を離れよう。危険の及ばない、どこか遠くへ」
「うん」
「だけど安心して。絶対に、ここに戻ってくる。必ず。しかもこっそりとではなく、堂々とここの主として戻ってこよう」
「うん」
「そしてもう一つ言いたいことがある」
「なに、ですの」
わたしはすんすんと鼻をすすりながら、そう訪ねる。
そうしたら彼はわたしの目を真っ直ぐに見て、こう言った。
「カトリーヌ、わたしの妻になってくれ」
不意打ちだった。
わたしはその言葉に衝撃を受けた。
身体の表皮がふつふつと沸き立ち、心の奥底がかーっと熱くなる。
待ち望んでいた言葉に身体が打ち震える。
「は、はい」
嬉しさのあまり、その短い返事をするのがやっとだった。
そして泣いた。
こんどは嬉しくて。
やっと聞きたい言葉を聞いた喜びで、嬉しくて、嬉しくて、涙が止まらなかった。
だけどそれは心地よい涙だった。
そしてわたしとフランツはキスをした。
そのキスは永遠の誓い。
心安まると同時に、身体の中から燃え上がるようなキスをした。
カトリーヌ 主人公(わたし)
フランツ 護衛
ヒルダ 家庭教師
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
フランツはわたしを抱き抱えたまま廊下を歩いて行く。
「お、降ろしてちょうだい」
「いいえ、このままお部屋まで向かいます」
まだこの辺りの廊下は人が少ない。
だけど中央部分に近づくにつれて作業しているメイドが増えてゆく。
そして抱き抱えられているわたしとフランツを見て、何事かという視線を向ける。
初め、また体調を悪くしたのかと心配な表情になる。
その後、「降ろして」と抗議するわたし、そして、「お嬢さま、わがまま言わない」と窘めるフランツ。そして背後でニヤニヤしてるヒルダ。
そんな様子を見て、「ははぁーん」と納得した表情になる。
そんな光景を邸宅で働く人々に見られている。
でも、本心を言うと、嫌ではなかった。
むしろもっとこのまま抱かれて歩いていたいと思っていた。
だけど照れくささ、そして少しだけばつが悪いので、降ろしてと抗議することで無理矢理という体裁を繕っている。
ちょっとずるいなって自分でも思ってた。
だけどフランツにはそれがお見通しなようで、何を言っても、「はいはい」と取り合わない。そして背後を見るとヒルダが口に手を当ててにししと笑っている。
何もかもバレていた。
そして部屋に戻り、ベッドに寝かしつけてくれる。
気がつくとヒルダが居ない。
なのにドアが閉じられている。
だから部屋にはフランツと二人っきり。
わたしは離れようとするフランツをしっかりと抱いて引き留めている。
「お嬢さま、これでは。手をお離しください」
「いや」
「誰かに見られたら」
「廊下をだっこして歩いたくせに」
「それは体力がないお嬢さまを運ぶために」
「お仕事だから、仕方なくああやって運んだっていうの?」
「そう言うわけでは」
「じゃあこのまま」
「お嬢さま」
「それも嫌」
「何がです?」
「“お嬢さま”ってやめて」
「ではカトリーヌさま」
「“さま”も嫌」
「ではなんてお呼びすれば」
「カトリーヌ。ただのカトリーヌと呼んで」
「カトリーヌ」
「フランツ」
わたしたちは名前を呼び合った。
それと同時にわたしは涙を流す。
そして思わず言ってしまった。
「ごめんなさい」
フランツはただ黙って聞いている。
そしてひたいを優しく撫でてくれた。
「ごめんなさい、フランツ。ごめんねぇ」
わたしは涙があふれて止まらなかった。
「何がごめんねなんだい?」
「婚約を勝手に承諾してごめんなさい。あなたに一言も相談もなしに決めてしまって、わたし、ずっと、それが」
しゃくり上げるようにして泣きながらそれを言った。
フランツはその間、ずっと撫でてくれる。
そして、「お母さまの墓所から離れたくなかったのでしょ」と言ってくれた。
彼は分かっていたのだ。
結婚を承諾しないと、わたしは家を離れなければならなくなる。
場合によっては遠い遠い土地、または異国の貴族の元へ嫁ぐことになるかも知れなかった。
そうしたら母の墓参りに訪れるのは人生で数えるほど。もしかしたら一生できないかも知れない。
だから望まない結婚を承諾したのだ。
自分の心を押し殺して。
「お母さまを一人にしたくなくて。ひとりぼっちで、ずっとここに残すこと、それが嫌で。でも結婚して家を継いだら離れなくてすむ。そして貴方とも一緒にここに居られる。だからそれが一番いい方法だと」
「分かっていましたよ」
「ごめんなさい、ほんとうに、ごめんなさい。一人で勝手に決めてしまってごめんなさい。でもわたし、わたし、貴方、フランツと離れたくない。他の人と結婚なんて嫌、絶対に嫌。だから、だから、わたしをここから連れ出して、お願い」
そしてわんわんと泣いた。
押し殺していたこと、我慢していたこと、そして怖かったこと。
その全部、すべてがいっぺんにあふれ出て、わたしは涙が止まらなかった。
「カトリーヌ、わたしと一緒にこの家を離れよう。危険の及ばない、どこか遠くへ」
「うん」
「だけど安心して。絶対に、ここに戻ってくる。必ず。しかもこっそりとではなく、堂々とここの主として戻ってこよう」
「うん」
「そしてもう一つ言いたいことがある」
「なに、ですの」
わたしはすんすんと鼻をすすりながら、そう訪ねる。
そうしたら彼はわたしの目を真っ直ぐに見て、こう言った。
「カトリーヌ、わたしの妻になってくれ」
不意打ちだった。
わたしはその言葉に衝撃を受けた。
身体の表皮がふつふつと沸き立ち、心の奥底がかーっと熱くなる。
待ち望んでいた言葉に身体が打ち震える。
「は、はい」
嬉しさのあまり、その短い返事をするのがやっとだった。
そして泣いた。
こんどは嬉しくて。
やっと聞きたい言葉を聞いた喜びで、嬉しくて、嬉しくて、涙が止まらなかった。
だけどそれは心地よい涙だった。
そしてわたしとフランツはキスをした。
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心安まると同時に、身体の中から燃え上がるようなキスをした。
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