〜祇園あやかし花嫁語り〜

菰野るり

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第二章 藤の散る庭で

告白

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約束通り、巽橋には塔子を待つ紅丸の姿があった。

猫っ毛で少し癖のついた茶色の髪。今日もオーバーサイズのパーカーでラフな格好をして欄干に腰掛けている。近づこうとすると、通りがかりの女性二人組に声をかけられているのが見えた。大人っぽくて綺麗なお姉さんたちだ。塔子は中学の制服のままの自分が急にみすぼらしく感じた。貧相な体型も重たい髪も野暮ったいし、紅丸に釣り合わない。

近寄れずにいる私に気付いた紅丸は、こちらへ近づいてきた。
「声をかけてくれたらええのに」
「誰かと話してるみたいだったから…」
「道を聞かれただけやで」

女性たちの目的が道案内でないことは、奥手な塔子でも分かった。

(紅丸さんて、すごくニブいんだろうか。それとも作戦なのかな)

狐に騙されてからというもの、塔子は懐疑的になっている。紅丸に心惹かれているのは事実だが、なんだか信じられないという気持ちは拭い去れなかった。

今日は2人で鴨川を渡り繁華街へ向かう。
「俺な、今日はちょっと付き合って欲しい場所があるんよな」
そう言って向かったのは百貨店であった。大学生みたいなラフな格好なのに、紅丸は躊躇なく宝石店に向かう。塔子は緊張しながらあとをついていく。

「もう目星つけてあんねん」

ソファに案内された紅丸と塔子の前に、白い手袋をつけた店員が持ってきたのはアシンメトリーなデザインで様々なピンクの石がグラデーションのように配置されたペンダントだった。

「可愛い」

塔子から思わず言葉が飛び出す。

「せやろ?枝垂れ桜のイメージなんやて。昨日帰りに通った時見つけて絶対塔子ちゃんに似合うと思ってん」

塔子はこんな素敵で華やかなアクセサリーが自分に似合うと思わなかった。制服姿の中学生には不釣り合いなお店だ。

「つけてみ」

値段も書いていないけれど、きっと宝石だから高いに違いないし、塔子は躊躇した。紅丸は無造作にとって塔子につけようとする。うなじで苦戦しているようだ。店員が紅丸と交代し留め具をはめた。

「やっぱ似合うやん。持ってかえりや」
紅丸は塔子の耳元で囁くと、フード付きトレーナーのポケットから帯付きの札を数束出して店員に渡した。

「塔子ちゃん、つけてくやろ?箱はいるけ?」
「え、こんな高いもの貰えないです」
慌てて断るが、紅丸は為に介さない。「買うたのにいらんゆわれたら行き場ないやん」と素直に受け取ることを促される。しかし、そのまま付けてゆく勇気はなく、箱に入れラッピングしてもらうことにした。袋は断り、学生鞄にしまう。なんだか緊張してしまう。

「塔子ちゃんも気に入ってくれて良かったわ」
紅丸は上機嫌のようだった。対して塔子は素直に受け取っていいのかまだ腑に落ちない気持ちだった。なんともいえず座りが悪い。

塔子と紅丸はテイクアウトしたフラペチーノを片手に鴨川のほとりに腰掛けた。今日も公演の時間が迫っている。

「今日はこんな高価なものいただいてしまって、ありがとうございました」
塔子は畏まって頭を下げる。
「俺が勝手に買うたのにお礼なんかいらんで。こちらこそ受け取ってくれてありがとう。そのまま婚約指輪まで受け取ってくれたら楽なんやけど」

西陽が差し込み、紅丸の栗色の眼差しはキラキラと琥珀のような色に輝いて綺麗だった。なんだか塔子は悲しかった。

「なんで私なんですか」

突然の質問に紅丸は戸惑っているようだ。

「紅丸さんて、格好よくて女の人にモテそうだし、こんな冴えない私なんかじゃなくても花嫁になりたい人いっぱいいそうじゃないですか。私が大きくなるの待たなくても、すぐ…」
「別に誰でもいいわけやないで」
塔子の言葉を遮る紅丸の眼差しは真剣だった。

「最近は興味本位やったし、天狗の里の為に娶って子作りするつもりしかなかった。けど、塔子ちゃんに会うて可愛いなと思って、今は塔子ちゃんしかおらんって思っとる」

紅丸の真剣な告白を受けながらも塔子の中の疑問は拭えなかった。

(こんなかっこいい人が何で私に良くしてくれるんだろう)

塔子がぼーっと聞き流している告白の最後に、紅丸は付け加えた。

「俺と付き合ってくれへん?」

塔子はその言葉に突然現実に引き戻された。

「なんで私なんですか」

再び塔子は問うた。いつか愛想を尽かされるなら、今失望された方がいい。紅丸みたいな人が私に良くしてくれる理由がない。

「塔子ちゃんが好きやから」

その真っ直ぐな言葉は頑なな塔子に響いた。

「塔子ちゃんは、俺のこと嫌い?」
「嫌いじゃないです、むしろ…」

紅丸は心配そうに塔子を覗きこむ。

「むしろ、好きです」

塔子は紅丸を悲しませなくなかった。好きか嫌いかの二択なら、優しくてカッコよくて、自分を好きだと言ってくれる紅丸は好きだった。

紅丸は塔子の返事に微笑む。

「あんな出逢いで怯えさせたと思うけど、塔子ちゃんのこと大事にするしな。俺のこと彼氏にしてくれたら嬉しい」

紅丸の穏やかな声に、塔子は頷くだけだった。








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