公爵様、これが夢なら醒めたくありません!

菰野るり

文字の大きさ
1 / 44

さよなら現実、おかえり甘美なる夢

しおりを挟む
須藤あかりは、とりたてて目立った特徴の無い少女だった。成績が悪いわけではないが、秀才とはいえない。

いじめられてはいないが、友人と談笑する姿を見かけることは珍しい。無口で地味な高校2年生。

須藤さん?そういえば、クラスにいたよね。部活も委員会もわからないけど。下の名前なんだっけ?

夏休み前だというのに、数ヶ月過ごしたクラスメイトの認識はそんな程度。須藤あかりは、誰にも気を留められない孤独をかかえた少女だった。

やぼったい膝下丈のプリーツスカートから伸びる足取りは重い。あかりは出来るだけ学校で過ごしていたかった。

少なくとも平和だからだ。

図書委員のあかりは、休み時間も放課後も図書室で過ごすことが多い。司書さんの本の修復やビニール張りの手伝いをする。週に3回来る司書の紅柳さんは美人で、色んなオススメを教えてくれる憧れの人だ。月曜日、水曜日、金曜日の委員会活動はほんのり嬉しいひとときだ。

しかし、どんなに遅く残りたくとも学校は18時半には閉門してしまい、どんなにトボトボ歩いても19時には家に着いてしまう。

徒歩で通える距離の公立高校にしなさい。

それが高校進学の条件だった。この高校は県下では頭が良い高校の部類に入るが、塾や家庭教師もなく合格し、良くも悪くもない成績を維持できているのだから、あかりは決して馬鹿ではないし、努力家ですらある。しかし、父親も継母もそんな事に興味はない。どうだっていいと思われている。

褒められたことなんて、ない。

別にあんな人たち、どうだっていいけれど。それでも間近に「愛されている妹」を見るのは苦痛だった。

帰りたくないし、なんならこのまま死んじゃいたい。

それでもあかりの足が向かう先は家しかなく、重い家の扉を開くとカランコロンとドア鈴が鳴った。

リビングからは灯りと談笑が漏れ聞こえる。
1人は高い声が妹、母親の違う妹ユイカの声。
ドア鈴が鳴ろうと出迎える人も、声をかけてくれる家族もいない。

いやだなあ。

お腹はすいているけど、リビングに行くのは嫌だ。
このまま部屋に帰ろう。

あかりは逃げるように二階に向かう。

二階の半分物置になっている冷たい部屋があかりの唯一の居場所だ。机やクローゼットはない。狭いパイプベッドがガラクタの隙間に置かれているだけ。

ふわふわのぬいぐるみやクッションに彩られた妹の部屋の柔らかいダブルベッドとは全然違う。

明確な格差。

それは物心ついたときから、ずっと受けてきた扱いだった。冬は毛布が一枚。夏も同じ。寒くて眠れない日は制服のコートを着たまま、毛布をかぶる。

どうせ、リビングにいったところで私の分の食事はない。小中学の時は給食で飢えを凌いだし、今は母方、本当のお母さんのお父さんが内緒でくれたお年玉やお小遣いで何とか食べ物を買っている。しかし有限だ。

今夜はこのまま寝よう。

お風呂は彼らが寝静まるのを待って、こっそり浴びている。まずは目を閉じて、耳を塞ぎ、静かに時が過ぎるのを待つのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした

佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。 その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。 長女ソフィア。 美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。 そして──もう一人。 妹、レーネ・アルヴィス。 社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。 姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。 だが彼女は知っている。 貴族社会では、 誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。 王立学園に入学したレーネは、 礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。 やがて── 軽んじていた者たちは気づく。 「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。 これは、 静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。

酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、 夜会当日── 婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、 迎えに来ることはなかった。 そして王宮で彼女が目にしたのは、 婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。 領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、 感情に流されることもなく、 淡々と婚約破棄の算段を立て始める。 目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、 頭の中で、今後の算段を考えていると 別の修羅場が始まって──!? その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、 エヴァンジェリンの評価と人生は、 思いもよらぬ方向へ転がり始める── 2月11日 第一章完結 2月15日 第二章スタート予定

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

侯爵令嬢の四十日間 ――均衡が国を変えるまで

ふわふわ
恋愛
婚約を解かれた侯爵令嬢。 けれど彼女は、泣きもしなければ争いもしなかった。 王都から距離を置いたその日から、国の流れはわずかに変わり始める。 事故が増え、交易は滞り、民の不安は静かに積もる。 崩壊ではない。 革命でもない。 ただ――“均衡”が失われただけ。 一方、北の地で彼女は何も奪わず、何も誇らず、ただ整える。 望まぬ中心。 求めぬ王冠。 それでも四十日後、国は気づく。 中心とは座る場所ではなく、 支える位置なのだと。 これは、復讐の物語ではない。 叫ばぬざまあ。 静かに国を変えた、侯爵令嬢の四十日間の記録。 ---

処理中です...