公爵様、これが夢なら醒めたくありません!

菰野るり

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アンリの日常

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目覚めたとき、私はパイプベッドではなく、木製の古ぼけた硬いベッドの上にいた。

いや、寝心地はそう変わらないな…
寝具の手触りは日本の方がいいかもしれない。

少しチクチクする毛布に触れていたら、艶やかな皮膚に行き当たる!

え!

同じベッドに寝ているの!
どうしよう、倒れてからの記憶はない。

「お、記憶喪失のお姫様はお目覚めかい」
半裸の男性は勿論アンリだ。
先ほどまではくくられていた長い黒髪は、就寝時だからかほどけて顔にかかっている。

溜め息が出るほど色っぽい。高校生が見てはいけない、有害な色香に満ちている。

クラクラしながら、ベッドから立ちあがろうとして、ふらつく。

「ああ、もう。大丈夫だよ。襲ったりしないから、その気ならもうやってる」
よろける私をアンリも腰を浮かせて支える。

「大丈夫?」

心配そうに私を覗きこむアンリの空色の目に吸い込まれそうだ。下心なんかじゃなく、純粋に気遣ってくれているのが見てとれる。

「大丈夫…」

私はカラカラになった喉から言葉を搾り出す。

「ここは…どこ?私は…」

なんて使い古された台詞なのだろうと思いつつも、私は最後の一言まで呟く。

「だれ…?」
「だれ!」

アンリの言葉と重なる。

「それなんだよねー、まあ、ここは俺んち。君はいきなり倒れたから、ホラ道端にほっとけないじゃん。うちで寝かせたんだけど、うち見ての通り間借りの一部屋だからベッドも一個しかなくて一緒に寝てただけ。誓ってなんもしてない。」

悪びれもせず、少年のように屈託のない笑顔でアンリは続ける。

「で!君が誰か、僕も分かんないわけ。紋章とかさ、普通どっかにあるじゃん。だって絶対平民じゃないと思うし。でも身元が分かる何もない」

「私もわからない…の」

本当に私もそれには困っていた。

須藤あかりでないことは確かだが、あの小説の主役はユティカ・レイゼンロット。ちょっと妹に名前が似ているしピンク好きなとこも一緒で嫌だなって思いながら読んだから良く覚えているのだが、ユティカはピンク色の髪なのだ。しかし、私の視界に入る髪は艶やかなプラチナブロンドだ。

つまり、私は物語の主役じゃない。

「まあ、乗りかかった船とやらだ。記憶喪失かとぼけてるのか家出少女か分かんないけど助けるよ」

小説で読んだ以上にアンリは気が良くて優しい。

「ありがとう」

私は心からお礼を伝えた。

「ま、うちにいていいよ!」
あまりにもフランクに私はアンリの日常に居候することになったのである。
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