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王宮への来訪者
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記憶があるため、王宮での流れはスムースに進む。公爵家の紋章が入った白金の馬車は白馬にひかれ、お姫様の帰還にふさわしい。
ハルファティカの帰還と伝えるだけで、王宮への道は自然に開く。私を出迎えたのは、青の章の攻略対象であるジュリアン王太子だ。私とは公式には従兄弟にあたる。
記憶を受け継いだわたくしは、他の関係性を知っている。従兄弟であり、異母兄であり、婚約者でもある。近親婚を繰り返した末の私とジュリアンのDNAは実の兄弟より近しいDNAを持っている。
狂っている王室だと思う、同時に現代日本で教育を受けた私は「めずらしくもない」とも知っている。有名なのはスペインのハプスブルク家、古くはエジプトの王家。近親婚を繰り返す王家は多い。
全くの異種である他国の血に心惹かれた先の公爵はスペアの王家としての立場は裏切ったといえるが、遺伝学を加味した場合は非常に正しいのだ。
ハルファティカは純潔を保つ必要が有った、聖なる力を宿す娘を産むために。それは王の子種である必要があった。王家が短命で病弱な理由はそこにあるが、王女が降嫁するにふさわしい先代の公爵は異国の浅黒い肌の嫁を貰い、王女を拒否したのだから、どうしようもない。
ただ兄妹で契りを結び、聖なる力を保持したハルファティカを流石に公式には出来ず、魔王に捧げる生贄のように祈るための人形として育てた。
駆け寄るジュリアン王太子に嫌悪を覚える。
ジュリアンとハルファティカの婚姻は血の定め。それとは別にジュリアンは王となった暁には愛する人を、たとえば男爵家のユティカを正妃にする自由すらある。
私に魔王の封印の要となる聖なる犠牲を孕ませる義務を涼しげな顔でこなしさえすれば、別に好きな女の子に恋する自由があるのだ。
ジュリアンはアンリの姿に眉を顰める。
「モルナール公よ、ご存知のはずだわ」
公爵家の証でもある空色の瞳は美しかった。アンリは王太子に綺礼をする。
「わたくし、モルナール公爵家に降嫁いたしますの。今日はジュリアンにお別れを言いに参りましたわ」
「そんなことは許さない!」
ジュリアンは高貴な血にもかかわらず、表情を露わにした。仕方ない。この血を引くものは激昂しやすい。悪役令嬢ポジションのジュリアンの妹ナタリーもそうだ。甘やかされて育ったからだけではなく、遺伝的な欠陥のひとつである。
「本来ならば、王女の降嫁は先代公爵の時になされていたはず。一代ずれていただけですわ」
「しかし!」
「それに、市井の少女に聖痕があらわれたと聞きます。モルナール公も傷を癒していただいたわ。男爵家の…」
「…ユティカだろう…知っている」
そう、私も知っている。ジュリアンはユティカと既に出会い恋に落ちている、それが故にハルファティカは脱走したのだから。
ハルファティカは理科で勉強するような遺伝子の仕組みや社会科で勉強するような過去の近親婚を繰り返した王家の滅亡なんて知らない。だから、純粋にジュリアンを愛した。
自分ではどうしようもなく、だから聖なる力を使って私を呼び寄せたのだ。
ユイカの魂とユティカの魂が癒着してしまったのは、誤算だっただろうが、今のところ何も問題は起こっていないはず…
「ユティカとは、あれ以来会っていない」
ん?婚約破棄をし、ユティカを正妃とするって私に宣言したから、ハルファティカは絶望して私を召喚したはず。勝ち誇ったようなユティカの顔はハルファティカの記憶に残っているのに…
「わたくしたちの婚約破棄はあの時、ジュリアンからなされたはず。わたくし、お返事差し上げてませんでしたから、今日はお受けしたことをお伝えしに参りました」
ジュリアンの知っているハルファティカより、きっと私は強くて戸惑っている。
「婚礼の日取りはまた、招待状を持ってお知らせいたしますわ」
「ハルファティカお姉様!」
金髪碧眼の縦ロール、駆け寄る姿はまさに悪役令嬢のナタリーが私の帰還を聞きつけて、やってきた。
ナタリーは悪い子ではないのだ。素直で当たり前にお姫様で、兄に横恋慕する平民の娘ユティカが、私の居場所を奪おうとすることが許せなかっただけ。すぐ激昂するのは血の呪いのせいで、彼女も被害者なのだ。
「ナタリー、色々ありがとう。公爵領は近いから、いつでもお茶会に来られるわ」
ジュリアンは苦手な妹が来た事で、それ以上追い縋っては来なかった。
はればれとした足取りで王宮を去る。手を取るのは、愛しきアンリ。私が名無しでも、拾い猫のミアでも、ハルファティカ姫でも、彼は優しい眼差しを変えない。
私たちは屋敷に向かう。
「さあて、次は魔王か」
「君は次から次へととんでもないね」
どうやら、口に出ていたらしい!
「あら、嫌いになった?」
「飽きなくて大好きだ」
アンリと私は飽きずに馬車でキスに明け暮れた。
ハルファティカの帰還と伝えるだけで、王宮への道は自然に開く。私を出迎えたのは、青の章の攻略対象であるジュリアン王太子だ。私とは公式には従兄弟にあたる。
記憶を受け継いだわたくしは、他の関係性を知っている。従兄弟であり、異母兄であり、婚約者でもある。近親婚を繰り返した末の私とジュリアンのDNAは実の兄弟より近しいDNAを持っている。
狂っている王室だと思う、同時に現代日本で教育を受けた私は「めずらしくもない」とも知っている。有名なのはスペインのハプスブルク家、古くはエジプトの王家。近親婚を繰り返す王家は多い。
全くの異種である他国の血に心惹かれた先の公爵はスペアの王家としての立場は裏切ったといえるが、遺伝学を加味した場合は非常に正しいのだ。
ハルファティカは純潔を保つ必要が有った、聖なる力を宿す娘を産むために。それは王の子種である必要があった。王家が短命で病弱な理由はそこにあるが、王女が降嫁するにふさわしい先代の公爵は異国の浅黒い肌の嫁を貰い、王女を拒否したのだから、どうしようもない。
ただ兄妹で契りを結び、聖なる力を保持したハルファティカを流石に公式には出来ず、魔王に捧げる生贄のように祈るための人形として育てた。
駆け寄るジュリアン王太子に嫌悪を覚える。
ジュリアンとハルファティカの婚姻は血の定め。それとは別にジュリアンは王となった暁には愛する人を、たとえば男爵家のユティカを正妃にする自由すらある。
私に魔王の封印の要となる聖なる犠牲を孕ませる義務を涼しげな顔でこなしさえすれば、別に好きな女の子に恋する自由があるのだ。
ジュリアンはアンリの姿に眉を顰める。
「モルナール公よ、ご存知のはずだわ」
公爵家の証でもある空色の瞳は美しかった。アンリは王太子に綺礼をする。
「わたくし、モルナール公爵家に降嫁いたしますの。今日はジュリアンにお別れを言いに参りましたわ」
「そんなことは許さない!」
ジュリアンは高貴な血にもかかわらず、表情を露わにした。仕方ない。この血を引くものは激昂しやすい。悪役令嬢ポジションのジュリアンの妹ナタリーもそうだ。甘やかされて育ったからだけではなく、遺伝的な欠陥のひとつである。
「本来ならば、王女の降嫁は先代公爵の時になされていたはず。一代ずれていただけですわ」
「しかし!」
「それに、市井の少女に聖痕があらわれたと聞きます。モルナール公も傷を癒していただいたわ。男爵家の…」
「…ユティカだろう…知っている」
そう、私も知っている。ジュリアンはユティカと既に出会い恋に落ちている、それが故にハルファティカは脱走したのだから。
ハルファティカは理科で勉強するような遺伝子の仕組みや社会科で勉強するような過去の近親婚を繰り返した王家の滅亡なんて知らない。だから、純粋にジュリアンを愛した。
自分ではどうしようもなく、だから聖なる力を使って私を呼び寄せたのだ。
ユイカの魂とユティカの魂が癒着してしまったのは、誤算だっただろうが、今のところ何も問題は起こっていないはず…
「ユティカとは、あれ以来会っていない」
ん?婚約破棄をし、ユティカを正妃とするって私に宣言したから、ハルファティカは絶望して私を召喚したはず。勝ち誇ったようなユティカの顔はハルファティカの記憶に残っているのに…
「わたくしたちの婚約破棄はあの時、ジュリアンからなされたはず。わたくし、お返事差し上げてませんでしたから、今日はお受けしたことをお伝えしに参りました」
ジュリアンの知っているハルファティカより、きっと私は強くて戸惑っている。
「婚礼の日取りはまた、招待状を持ってお知らせいたしますわ」
「ハルファティカお姉様!」
金髪碧眼の縦ロール、駆け寄る姿はまさに悪役令嬢のナタリーが私の帰還を聞きつけて、やってきた。
ナタリーは悪い子ではないのだ。素直で当たり前にお姫様で、兄に横恋慕する平民の娘ユティカが、私の居場所を奪おうとすることが許せなかっただけ。すぐ激昂するのは血の呪いのせいで、彼女も被害者なのだ。
「ナタリー、色々ありがとう。公爵領は近いから、いつでもお茶会に来られるわ」
ジュリアンは苦手な妹が来た事で、それ以上追い縋っては来なかった。
はればれとした足取りで王宮を去る。手を取るのは、愛しきアンリ。私が名無しでも、拾い猫のミアでも、ハルファティカ姫でも、彼は優しい眼差しを変えない。
私たちは屋敷に向かう。
「さあて、次は魔王か」
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