公爵様、これが夢なら醒めたくありません!

菰野るり

文字の大きさ
26 / 44

王宮への来訪者

しおりを挟む
記憶があるため、王宮での流れはスムースに進む。公爵家の紋章が入った白金の馬車は白馬にひかれ、お姫様の帰還にふさわしい。

ハルファティカの帰還と伝えるだけで、王宮への道は自然に開く。私を出迎えたのは、青の章の攻略対象であるジュリアン王太子だ。私とは公式には従兄弟にあたる。

記憶を受け継いだわたくしは、他の関係性を知っている。従兄弟であり、異母兄であり、婚約者でもある。近親婚を繰り返した末の私とジュリアンのDNAは実の兄弟より近しいDNAを持っている。

狂っている王室だと思う、同時に現代日本で教育を受けた私は「めずらしくもない」とも知っている。有名なのはスペインのハプスブルク家、古くはエジプトの王家。近親婚を繰り返す王家は多い。

全くの異種である他国の血に心惹かれた先の公爵はスペアの王家としての立場は裏切ったといえるが、遺伝学を加味した場合は非常に正しいのだ。

ハルファティカは純潔を保つ必要が有った、聖なる力を宿す娘を産むために。それは王の子種である必要があった。王家が短命で病弱な理由はそこにあるが、王女が降嫁するにふさわしい先代の公爵は異国の浅黒い肌の嫁を貰い、王女を拒否したのだから、どうしようもない。

ただ兄妹で契りを結び、聖なる力を保持したハルファティカを流石に公式には出来ず、魔王に捧げる生贄のように祈るための人形として育てた。

駆け寄るジュリアン王太子に嫌悪を覚える。

ジュリアンとハルファティカの婚姻は血の定め。それとは別にジュリアンは王となった暁には愛する人を、たとえば男爵家のユティカを正妃にする自由すらある。

私に魔王の封印の要となる聖なる犠牲を孕ませる義務を涼しげな顔でこなしさえすれば、別に好きな女の子に恋する自由があるのだ。

ジュリアンはアンリの姿に眉を顰める。

「モルナール公よ、ご存知のはずだわ」

公爵家の証でもある空色の瞳は美しかった。アンリは王太子に綺礼をする。

「わたくし、モルナール公爵家に降嫁いたしますの。今日はジュリアンにお別れを言いに参りましたわ」
「そんなことは許さない!」

ジュリアンは高貴な血にもかかわらず、表情を露わにした。仕方ない。この血を引くものは激昂しやすい。悪役令嬢ポジションのジュリアンの妹ナタリーもそうだ。甘やかされて育ったからだけではなく、遺伝的な欠陥のひとつである。

「本来ならば、王女の降嫁は先代公爵の時になされていたはず。一代ずれていただけですわ」
「しかし!」
「それに、市井の少女に聖痕があらわれたと聞きます。モルナール公も傷を癒していただいたわ。男爵家の…」
「…ユティカだろう…知っている」

そう、私も知っている。ジュリアンはユティカと既に出会い恋に落ちている、それが故にハルファティカは脱走したのだから。

ハルファティカは理科で勉強するような遺伝子の仕組みや社会科で勉強するような過去の近親婚を繰り返した王家の滅亡なんて知らない。だから、純粋にジュリアンを愛した。

自分ではどうしようもなく、だから聖なる力を使って私を呼び寄せたのだ。

ユイカの魂とユティカの魂が癒着してしまったのは、誤算だっただろうが、今のところ何も問題は起こっていないはず…

「ユティカとは、あれ以来会っていない」

ん?婚約破棄をし、ユティカを正妃とするって私に宣言したから、ハルファティカは絶望して私を召喚したはず。勝ち誇ったようなユティカの顔はハルファティカの記憶に残っているのに…

「わたくしたちの婚約破棄はあの時、ジュリアンからなされたはず。わたくし、お返事差し上げてませんでしたから、今日はお受けしたことをお伝えしに参りました」

ジュリアンの知っているハルファティカより、きっと私は強くて戸惑っている。

「婚礼の日取りはまた、招待状を持ってお知らせいたしますわ」

「ハルファティカお姉様!」

金髪碧眼の縦ロール、駆け寄る姿はまさに悪役令嬢のナタリーが私の帰還を聞きつけて、やってきた。
ナタリーは悪い子ではないのだ。素直で当たり前にお姫様で、兄に横恋慕する平民の娘ユティカが、私の居場所を奪おうとすることが許せなかっただけ。すぐ激昂するのは血の呪いのせいで、彼女も被害者なのだ。

「ナタリー、色々ありがとう。公爵領は近いから、いつでもお茶会に来られるわ」

ジュリアンは苦手な妹が来た事で、それ以上追い縋っては来なかった。

はればれとした足取りで王宮を去る。手を取るのは、愛しきアンリ。私が名無しでも、拾い猫のミアでも、ハルファティカ姫でも、彼は優しい眼差しを変えない。

私たちは屋敷に向かう。

「さあて、次は魔王か」
「君は次から次へととんでもないね」

どうやら、口に出ていたらしい!

「あら、嫌いになった?」
「飽きなくて大好きだ」

アンリと私は飽きずに馬車でキスに明け暮れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした

佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。 その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。 長女ソフィア。 美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。 そして──もう一人。 妹、レーネ・アルヴィス。 社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。 姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。 だが彼女は知っている。 貴族社会では、 誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。 王立学園に入学したレーネは、 礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。 やがて── 軽んじていた者たちは気づく。 「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。 これは、 静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。

酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、 夜会当日── 婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、 迎えに来ることはなかった。 そして王宮で彼女が目にしたのは、 婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。 領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、 感情に流されることもなく、 淡々と婚約破棄の算段を立て始める。 目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、 頭の中で、今後の算段を考えていると 別の修羅場が始まって──!? その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、 エヴァンジェリンの評価と人生は、 思いもよらぬ方向へ転がり始める── 2月11日 第一章完結 2月15日 第二章スタート予定

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

侯爵令嬢の四十日間 ――均衡が国を変えるまで

ふわふわ
恋愛
婚約を解かれた侯爵令嬢。 けれど彼女は、泣きもしなければ争いもしなかった。 王都から距離を置いたその日から、国の流れはわずかに変わり始める。 事故が増え、交易は滞り、民の不安は静かに積もる。 崩壊ではない。 革命でもない。 ただ――“均衡”が失われただけ。 一方、北の地で彼女は何も奪わず、何も誇らず、ただ整える。 望まぬ中心。 求めぬ王冠。 それでも四十日後、国は気づく。 中心とは座る場所ではなく、 支える位置なのだと。 これは、復讐の物語ではない。 叫ばぬざまあ。 静かに国を変えた、侯爵令嬢の四十日間の記録。 ---

処理中です...