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第一章
24 知らなかった悦び(☆)
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賢者ダリオが、ゆるゆると腰を揺らしてヒナリの弱点を的確に攻め立ててくる。
「……っ!」
この上ない心地よさにヒナリがびくびくと震え上がっていると、賢者ダリオが甘える風な声でヒナリの耳をくすぐった。
「ね、教えて? 気持ちいい?」
「っ……、はい、気持ちいい、です……」
「ここ、突かれるの、好き?」
「好き、です……」
「もっと、欲しい?」
「もっと、欲しいです……!」
その言葉が本気であると訴えるべく、必死で賢者ダリオの腰に手を回して引き寄せる。
ぴったりと合わせた肌を自ら擦り付けておねだりすれば、一番欲しいところをとんとんと優しく小突いてくれた。
聖女ヒナリの素直さに、ダリオは興奮を覚えずにはいられなかった。
衝動に任せて攻め立てたくなる気持ちをぐっとこらえて、最もオーラが飛び出す一点を己が切っ先で捏ね回す。
(本当は、全部見えてるんだよね)
ハート型をしたオーラは、今や部屋中に飛び散っていた。聖女ヒナリに抱き付いて顔を伏せてみせたところでシーツの上にすらハートがばらまかれていて、いかに心地よさを感じてくれているかがはっきりと伝わってくる。
なんと愛らしいことか――。
(でもこのことを正直に話したら嫌がるだろうから、内緒にしておこう)
ダリオの腰を必死に引き寄せていた聖女ヒナリの手が、はたとシーツの上に落ちた。
「あ、ふああ、あ、はあああ……!」
熱い体内を一度貪る度に、とろけきった声が放たれる。
ダリオは体を起こすと、聖女ヒナリを悦ばせる動きに没頭した。
このまま絶頂に向けて駆け上っていきたかったというのに――ふと苦い過去が脳裏をよぎってしまった。
(こんなに心地よい行為だったっけ、これ)
心が沈み掛けた瞬間。
温かな手のひらが、ダリオの頬に添えられた。
「あなたは……」
「ん?」
「あなたは、この儀式を、気持ちいいって思ってくれてますか?」
「……! もちろん」
聖女ヒナリの手をぎゅっと握り締めて、心の底からの笑みを浮かべてみせる。
「こんなに素敵なものだったんだね。教えてくれてありがとう、ヒナリ」
「はい」
紫色の瞳が温かな光を湛える。
「ヒナリ。僕のことも、名前で呼んで欲しい」
「はい、ダリオ」
温かな声が、心に染み込んでいく。
「うん、いいね。君のその清らかな声で名を呼ばれるのは」
今更ながらに名前で呼び合い、繋げた体がさらに強く結び付いた気がした。
ヒナリの手が頬から離れていき、再びダリオの腰に回される。
「ねえ、ダリオ」
「うん」
「これからたくさん知っていってくださいね。私たちのするこの行為は、悦びに溢れているものだって」
「……!」
その瞬間、ダリオは制御できないほどの情欲に心と体を支配された。
この子をもっと乱れさせたい――生まれて初めて抱く衝動に、理性が失われていく。
「ヒナリ……! もっともっと、気持ちよくなって……!」
「あ! はうっ! ダリオっ、ダリオっ……! 気持ちいっ……!」
腰を叩き付けてヒナリの体内を貪れば、高らかな啼き声が歓喜を伝えてくる。
その後自分がどうしたかはほとんど憶えていない。
ヒナリの奥深くに魔力を注ぐその瞬間までの記憶を失くすほどに、そしてヒナリの気を失わせてしまうほどに、ダリオはただただ途方もない悦びを得られる行為に没頭したのだった。
◇◇◆◇◇
ソファーでヒナリと並んで座るダリオを、不機嫌な顔をしたクレイグが向かい側から睨み付ける。
「ほら、貴方だってそうなるではありませんか。昨日まではあからさまにヒナリから距離をとっていたくせに」
ダリオとの儀式を終えた次の日、朝食後にヒナリが居間で茶を飲みながらくつろいでいると、後からやって来たダリオが昨日のクレイグ以上にぴったりとヒナリの横に座って腰に手を回してきたのだった。
まるで自分のものだと宣言するかのような振るまいに、ヒナリは気恥ずかしくなってうつむいた。
ダリオがヒナリの腰を抱く手に力を込めつつ、クレイグに返事を投げ返す。
「昨日までは君たちに遠慮していたから。だいたい、ヒナリと一夜を共にして、心を奪われずにいられる男がこの世に存在すると思う?」
「居るはずがなかろう」
一人掛けの方のソファーに座るアルトゥールが即答した。
たった今聞かされたダリオの発言に、ヒナリはどきどきして硬直した。
(ダリオってこういうことも言うんだ……)
意外な一面に驚いていると、至近距離から呼び掛けられた。
「ヒナリ」
その声に返事するより先に、ダリオの指先がヒナリの顎をすくう。強引に振り向かせられた途端に赤い瞳と目が合った。魔眼の美しい輝きについ見とれてしまう。
ヒナリを見据える目が、ふと熱を帯びる。
「……次の儀式、今から楽しみにしてる。次もたくさん愛してあげるから」
「っ……!」
色気を孕んだ声に、たちまち昨晩の儀式を思い出してしまって腹の奥が疼く。今思い出しても体が熱を帯びるくらい、ダリオとの儀式は夢のように心地よかった。
「お、お手柔らかにお願いします……」
童顔から繰り出される甘い言葉の破壊力が凄まじい。顎は固定されてしまっているので視線だけをおずおずと逸らしていく。
すると、ベルトランが笑顔で肩をすくめた。
「なーんか僕の十八番が奪われた感じがするねえ」
「なるほど、そのように愛を囁けばいいのか……」
目を丸くしたアルトゥールが感心したように何度も頷いた。
途端にヒナリの顎から指先を外したダリオが、アルトゥールに鋭い視線を送る。
「君はいたずらに欲望をぶつけるばかりでなく、もっとヒナリを悦ばせることに注力すべきだ」
「うむ、面目ない」
アルトゥールが頭に手をやり、気まずげな表情を浮かべる。
反省の色を見せるその様子を不憫に思ったヒナリは反射的に叫んだ。
「アルトゥール! そんなことない!」
アルトゥールとの儀式の際、挿入後は激しかったもののそこに至るまでの手と口とで啼かされたひとときに一切の不満はなかった。
「あなたのしてくれた前戯はとても気持ち良かっ……」
ほとんど明言してしまったところで賢者四人に凝視されていることに気付き、しおしおと項垂れる。
「……。……なんでもないです……。うう……」
両手で顔を覆い隠す。
(なんてこと言っちゃったんだろう私……!)
ヒナリが手の中で頬を燃え上がらせていると、アルトゥールの弾んだ声が聞こえてきた。
「そうか、私の指と舌とで貴女に愛撫を施した際、貴女は乱れに乱れてくれていたな。あの時の貴女は実になまめかしかった」
「ほう? その手管、今後の参考のために詳しくお聞かせ願いましょうか」
とクレイグが興味津々と尋ねたところでヒナリは素早く顔を上げた。
「わあああ!? ダメダメ! 話しちゃダメー!」
「はっはっはっ、照れるヒナリは本当に愛らしいな。クレイグ、後ほど詳しくお聞かせしようではないか」
「ええ、期待してますよ」
「ホントにダメだってばー!」
いくら頼み込んでも笑い声であしらわれてしまう。涙目になったヒナリは再び両手を顔に押し当てると深く項垂れた。
賢者四人との儀式が終わり、いよいよ世界を浄化する役目を果たすときを迎える。
(こんなに浮ついた気持ちで大丈夫かなあ。しっかりしなくちゃだよね)
ヒナリはしきりにまばたきをして恥じらいの涙を抑え込むと、両手をぎゅっと頬に押し付けて、気を引き締め直したのだった。
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