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第三章
49 とある神官の野望
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神殿内の図書館は、利用者が極端に減る時間帯がある。それは、女神への礼拝がおこなわれている間。
四人の神官のうちのひとり、ハトリイメル・ルスナダは、一目散に図書館を目指していた。
大神官ビリオカルタが遠出している今日が、ルスナダの野望を果たす好機だった。
数日前から体調不良を装い続け、いよいよ今朝になって起き上がれないと不調を偽り、女神への礼拝を欠席した。
闇ルートで入手した、禁じられた魔術の込められたペンダントを着けて、神殿の敷地内を堂々と歩く。そのペンダントは簡単には作れないらしく、世界で唯一の性能を持つという。
着用者に【認識阻害】の魔術が掛かるそれは、長時間は持たないが、効果が発現している間は周囲から姿が見えづらくなる。
警備兵の横をすり抜けて、無事に目的地である図書館に辿り着く。巨大な扉をわずかに開き、自分一人が通れる分だけ開いた隙間をすり抜ける。音が立たぬよう、ゆっくりと扉を閉じて、鍵を閉めた。
荒れた呼吸を整えつつ辺りを見回すと、案の定、人影は見当たらなかった。唯一、礼拝の時間帯にも必ず居るはずの司書官長まで姿が見えないのは誤算ではあったが、薬を嗅がせて眠らせる手間が省けただけのことである。
そんな些事は、遠くに聖女の後ろ姿が見えた途端にどうでもよくなった。
聖女は女神への礼拝には参加しない。何故なら、もてる力の全てを祈りの儀に捧げるべき存在だからである。
聖女邸にこもられていては手の出しようもなかったが、当代の聖女が二度目の祈りの儀以降に図書館通いを始めたことは、神官ハトリイメル・ルスナダにとって僥倖だった。
本棚の前で佇む聖女に一歩一歩近付いていく。
聖女が今まさに、私の目の前に居る。
私の積年の悲願が、ついに成就するときが来たのだ――!
二度目の祈りの儀は滞りなく終わり、次の祈りまで二ヶ月間の猶予ができたヒナリは図書館通いを日課としていた。
(今回は丸一日寝込んだけど、前より短かったし、魔力放出に体が慣れてきたってことなのかな)
などと考えつつ、静まり返った図書館でひとり本を開く。
この世界の歴史を歴史書から学ぶ一方で、時折息抜きとしてヒナリは別ジャンルの本を楽しんでいた。
前世のように旅行動画というものは存在しないため、風景画を見たり旅行記を読んだりして、旅行動画を観たい欲を満たしていたのだった。
この日は王都の西側の領地にあるという滝の絵画を見ていた。滝と聞いて思い浮かべるほどの高低差はないものの、それでも充分な迫力がある。真っ白な滝の落ちる先、川の色も美しい。
(そういえば滝って前世では小さいのしか見たことなかったな。大きな滝ってそばに行ったら大迫力なんだろうな。見に行ってみたいな)
ページをめくると、壁一面の大きな窓に切り取られた美しい湖の景色が現れた。ページの隅の説明書きによると、この絵は湖のほとりにある宿から実際に見える風景らしい。
(綺麗だなあ。いつかこういうところに泊まってみたいな)
一冊を見終わったヒナリはソファーから立ち上がると、ずしりと重たい画集を本棚に戻しつつ、将来に思いを馳せた。
(今からお務めが終わったあとのことを考えるのは気が早すぎるけど、お務めが終わったら、聖女は自由に旅行とかってさせてもらえるのかな? 賢者に褒賞金が出るってことは、聖女も多分いくらかはお金をもらえるってことだよね。そしたら――)
「……聖女様」
不意に誰かから呼び掛けられて、ヒナリは素早く振り返った。そこには神官のうちのひとりが立っていた。中年くらいに見えるその男性は、立派なローブを着ているものの顔色はすこぶる悪い。
「こんにちは。あなたは神官の――」
「ハトリイメル・ルスナダと申します」
「ルスナダさん、何かご用で――、っ!?」
矢庭に距離を詰めてきた神官がヒナリの顔のすぐ横に勢いよく手を突いた。耳元の大きな音に、びくりと肩が跳ねる。
明らかな異常事態にヒナリが危機感を覚えて逃げ出す機会を窺っていると、神官が口の端を吊り上げて狂気じみた笑みを浮かべた。
「聖女様。賢者との儀式は楽しまれていますか?」
「――!」
その問いかけにヒナリは目を見開いた。神官は儀式の内容は知っているはずである。
(何この人、私が賢者とセックスを楽しんでるかどうか聞いてるの!?)
鼻息の荒い神官の呼気が頬に届く。あまりの気色悪さにヒナリは思い切り顔を背けた。
質問を無視していると、男がヒナリを見下ろし鼻で笑った。
「四人を相手にできるなら、私ひとりが増えようが構わないでしょう?」
さも当然だと言わんばかりの口調でそう言い放った神官がおもむろに体を起こし、顎に手を添えて聖女の全身を品定めするようにねめつけてくる。ヒナリの頭の先から爪先までを眺め渡した不躾な視線は、胸で止まった。
「そのようないかにも男好きのする体、たった四人で独占するなぞもったいない」
薄ら笑いを浮かべた顔に、赤みが差していく。
「四人のうちのどの賢者が聖女様の純潔を奪ったのです? 女慣れしているベルトラン殿とご推察致しますが如何でしょう。処女を喪失された際は、聖女様の御身であっても血は流れたのでしょうか?」
呼吸が荒くなっていき、次第に肩で息をし始める。
興奮しきった早口は止まらない。
「一度の儀式で聖女様は何回絶頂されるのでしょうか? まさか一回ではありませんよね。もし一度の儀式につき一回しか達せられないのであればさぞやご不満でしょう。浄化を終えた直後の今はお暇でしょうから、いかがです? 気分転換に他の男を味見してみるというのは。若造とは違った大人の手管を見せて差し上げますよ? 『また抱いて欲しい』と願わずにはいられぬほどに、何度でも聖女様を高みに導いて差し上げましょう」
(何をふざけたことを……!)
ヒナリは自分を軽んじられた物言いよりも、賢者を侮辱されたことに腹が立った。賢者は仕来たりに従って聖女を抱いているのであり、欲を満たすためだけに聖女を手込めにするのとはわけが違う。
怒りに奥歯を嚙み締めたヒナリは一度深呼吸すると、眼前で目をぎらつかせる神官に、蔑みの眼差しをぶつけた。
「賢者の皆様は、祈りを捧げるための魔力を私に授けてくださいます。あなたは? 神官様は、祈りを捧げるための何を私にもたらしてくれると言うのですか?」
「知った風な口を聞く……!」
冷笑を浮かべていた顔が、たちまち怒りの形相に変わる。
「余所の世界から来た分際で! 我々神官より上に立ったつもりか!」
「確かに私は別の世界よりこの世界に参りましたが、この世界を救うために何をすべきかは理解しています」
「貴様の仕事は男に股を開くだけだろう! このあばずれがァッ――ぐああっ!」
耳をつんざくガラスの音。
次の瞬間、神官の体は数メートル先に吹き飛んでいた。
「貴様ァ……!」
気付けばヒナリのすぐ横でアルトゥールが拳を震わせていた。怒りを漲らせた表情で、倒れ込んだ神官を睨み付けている。
いつも朗らかな笑みを湛えているアルトゥールの憤怒の形相にヒナリは震え上がった。元王国騎士団長が激昂する瞬間を見たのはこれが初めてだった。
アルトゥールが鋭い声を図書館中に響き渡らせる。
「聖女ヒナリ様を侮辱するなぞ誰であろうと断じて許さぬ! 地に伏せ聖女ヒナリ様に詫びよ!」
耳が痺れるほどの叫びの反響が収まらないうちに、神官がよろよろと起き上がった。
「若造が……何を偉そうに!」
血の滲む口を拭い、床に手を突き足をふらつかせながら立ち上がる。
「初めて儀式について聞かされたときから納得行かなかったのだ! 私とて、聖女様のお側に在るために生涯を捧げてきた! 貴様ら賢者はただ賢者に生まれたというだけで良い思いをしやがって! 聖女様を抱けるだと!? 神聖なる御身を汚すことの叶う者がこの世に居ていいはずがない! それが女神ポリアンテス様に許されるのならば! 神官たる私にもその機会を分け与えてくれても良いではないか!」
殴られて腫れ上がった顔をおぞましい笑みの形に歪ませて、爛々とした目でヒナリを凝視する。
「ああ聖女様、私の腕の中でその清らかな声で啼き、貴女の胎内に私の子種を注がせてくださ……――ぐあっ!」
神官が再び元の倒れていた位置に吹き飛んでいく。アルトゥールがもう一度殴り付けたのだった。
一度だけ呻き声を漏らした神官は、はたと動かなくなった。
アルトゥールが神官の懐を探り、取り出した鍵を割れた窓の外に投げ付ける。
しばらくすると、聖騎士団と司書官長たちが駆け寄ってきた。
ヒナリの前に、聖騎士たちが一斉に膝を突く。
大勢の面々を代表して、団長の女性騎士が凛とした声を響かせた。
「危険な目に遭わせてしまい申し訳ございません聖女ヒナリ様! 我々聖騎士団は、平素は聖女邸の周辺のみを警戒しており神殿の敷地内にて常に聖女様に付き従う習慣はなく……警備態勢を見直します」
悔しげにそう言い切ると、深々と頭を下げた。
その後聞かされた説明によると、今日たまたま寝坊した書記官長が、管理棟に図書館の鍵がひとつもないことに気付き、急いで図書館へと駆け付けたところ扉が開かなかったという。異常事態にすぐさま警備兵を呼びに行った際、多くの兵が『図書館に向かう聖女ヒナリ様の姿を見た』と証言したらしい。
『聖女様が何者かに図書館に閉じ込められている』と警備兵から神殿騎士に伝達、神殿騎士が直ちに聖女邸へと馬を走らせその旨を聖騎士に告げたところ、偶然その場に居合わせたアルトゥールが誰よりも早く図書館へと馬で駆け付け、窓ガラスを割って建物内に侵入したということだった。
突然の危機が去り、ヒナリはその場にへたり込みそうになった。すぐさまアルトゥールが腰を支えてくれる。
ヒナリは呆然としたままアルトゥールの馬に乗せられて、邸宅へと連れ戻されたのだった。
聖女邸では、まるで降臨後に初めて邸宅に案内されたときのように、召し使い全員がヒナリの帰りを待っていた。
ヒナリが馬から下ろされるより先に、賢者たちが駆け寄ってきた。
四人の神官のうちのひとり、ハトリイメル・ルスナダは、一目散に図書館を目指していた。
大神官ビリオカルタが遠出している今日が、ルスナダの野望を果たす好機だった。
数日前から体調不良を装い続け、いよいよ今朝になって起き上がれないと不調を偽り、女神への礼拝を欠席した。
闇ルートで入手した、禁じられた魔術の込められたペンダントを着けて、神殿の敷地内を堂々と歩く。そのペンダントは簡単には作れないらしく、世界で唯一の性能を持つという。
着用者に【認識阻害】の魔術が掛かるそれは、長時間は持たないが、効果が発現している間は周囲から姿が見えづらくなる。
警備兵の横をすり抜けて、無事に目的地である図書館に辿り着く。巨大な扉をわずかに開き、自分一人が通れる分だけ開いた隙間をすり抜ける。音が立たぬよう、ゆっくりと扉を閉じて、鍵を閉めた。
荒れた呼吸を整えつつ辺りを見回すと、案の定、人影は見当たらなかった。唯一、礼拝の時間帯にも必ず居るはずの司書官長まで姿が見えないのは誤算ではあったが、薬を嗅がせて眠らせる手間が省けただけのことである。
そんな些事は、遠くに聖女の後ろ姿が見えた途端にどうでもよくなった。
聖女は女神への礼拝には参加しない。何故なら、もてる力の全てを祈りの儀に捧げるべき存在だからである。
聖女邸にこもられていては手の出しようもなかったが、当代の聖女が二度目の祈りの儀以降に図書館通いを始めたことは、神官ハトリイメル・ルスナダにとって僥倖だった。
本棚の前で佇む聖女に一歩一歩近付いていく。
聖女が今まさに、私の目の前に居る。
私の積年の悲願が、ついに成就するときが来たのだ――!
二度目の祈りの儀は滞りなく終わり、次の祈りまで二ヶ月間の猶予ができたヒナリは図書館通いを日課としていた。
(今回は丸一日寝込んだけど、前より短かったし、魔力放出に体が慣れてきたってことなのかな)
などと考えつつ、静まり返った図書館でひとり本を開く。
この世界の歴史を歴史書から学ぶ一方で、時折息抜きとしてヒナリは別ジャンルの本を楽しんでいた。
前世のように旅行動画というものは存在しないため、風景画を見たり旅行記を読んだりして、旅行動画を観たい欲を満たしていたのだった。
この日は王都の西側の領地にあるという滝の絵画を見ていた。滝と聞いて思い浮かべるほどの高低差はないものの、それでも充分な迫力がある。真っ白な滝の落ちる先、川の色も美しい。
(そういえば滝って前世では小さいのしか見たことなかったな。大きな滝ってそばに行ったら大迫力なんだろうな。見に行ってみたいな)
ページをめくると、壁一面の大きな窓に切り取られた美しい湖の景色が現れた。ページの隅の説明書きによると、この絵は湖のほとりにある宿から実際に見える風景らしい。
(綺麗だなあ。いつかこういうところに泊まってみたいな)
一冊を見終わったヒナリはソファーから立ち上がると、ずしりと重たい画集を本棚に戻しつつ、将来に思いを馳せた。
(今からお務めが終わったあとのことを考えるのは気が早すぎるけど、お務めが終わったら、聖女は自由に旅行とかってさせてもらえるのかな? 賢者に褒賞金が出るってことは、聖女も多分いくらかはお金をもらえるってことだよね。そしたら――)
「……聖女様」
不意に誰かから呼び掛けられて、ヒナリは素早く振り返った。そこには神官のうちのひとりが立っていた。中年くらいに見えるその男性は、立派なローブを着ているものの顔色はすこぶる悪い。
「こんにちは。あなたは神官の――」
「ハトリイメル・ルスナダと申します」
「ルスナダさん、何かご用で――、っ!?」
矢庭に距離を詰めてきた神官がヒナリの顔のすぐ横に勢いよく手を突いた。耳元の大きな音に、びくりと肩が跳ねる。
明らかな異常事態にヒナリが危機感を覚えて逃げ出す機会を窺っていると、神官が口の端を吊り上げて狂気じみた笑みを浮かべた。
「聖女様。賢者との儀式は楽しまれていますか?」
「――!」
その問いかけにヒナリは目を見開いた。神官は儀式の内容は知っているはずである。
(何この人、私が賢者とセックスを楽しんでるかどうか聞いてるの!?)
鼻息の荒い神官の呼気が頬に届く。あまりの気色悪さにヒナリは思い切り顔を背けた。
質問を無視していると、男がヒナリを見下ろし鼻で笑った。
「四人を相手にできるなら、私ひとりが増えようが構わないでしょう?」
さも当然だと言わんばかりの口調でそう言い放った神官がおもむろに体を起こし、顎に手を添えて聖女の全身を品定めするようにねめつけてくる。ヒナリの頭の先から爪先までを眺め渡した不躾な視線は、胸で止まった。
「そのようないかにも男好きのする体、たった四人で独占するなぞもったいない」
薄ら笑いを浮かべた顔に、赤みが差していく。
「四人のうちのどの賢者が聖女様の純潔を奪ったのです? 女慣れしているベルトラン殿とご推察致しますが如何でしょう。処女を喪失された際は、聖女様の御身であっても血は流れたのでしょうか?」
呼吸が荒くなっていき、次第に肩で息をし始める。
興奮しきった早口は止まらない。
「一度の儀式で聖女様は何回絶頂されるのでしょうか? まさか一回ではありませんよね。もし一度の儀式につき一回しか達せられないのであればさぞやご不満でしょう。浄化を終えた直後の今はお暇でしょうから、いかがです? 気分転換に他の男を味見してみるというのは。若造とは違った大人の手管を見せて差し上げますよ? 『また抱いて欲しい』と願わずにはいられぬほどに、何度でも聖女様を高みに導いて差し上げましょう」
(何をふざけたことを……!)
ヒナリは自分を軽んじられた物言いよりも、賢者を侮辱されたことに腹が立った。賢者は仕来たりに従って聖女を抱いているのであり、欲を満たすためだけに聖女を手込めにするのとはわけが違う。
怒りに奥歯を嚙み締めたヒナリは一度深呼吸すると、眼前で目をぎらつかせる神官に、蔑みの眼差しをぶつけた。
「賢者の皆様は、祈りを捧げるための魔力を私に授けてくださいます。あなたは? 神官様は、祈りを捧げるための何を私にもたらしてくれると言うのですか?」
「知った風な口を聞く……!」
冷笑を浮かべていた顔が、たちまち怒りの形相に変わる。
「余所の世界から来た分際で! 我々神官より上に立ったつもりか!」
「確かに私は別の世界よりこの世界に参りましたが、この世界を救うために何をすべきかは理解しています」
「貴様の仕事は男に股を開くだけだろう! このあばずれがァッ――ぐああっ!」
耳をつんざくガラスの音。
次の瞬間、神官の体は数メートル先に吹き飛んでいた。
「貴様ァ……!」
気付けばヒナリのすぐ横でアルトゥールが拳を震わせていた。怒りを漲らせた表情で、倒れ込んだ神官を睨み付けている。
いつも朗らかな笑みを湛えているアルトゥールの憤怒の形相にヒナリは震え上がった。元王国騎士団長が激昂する瞬間を見たのはこれが初めてだった。
アルトゥールが鋭い声を図書館中に響き渡らせる。
「聖女ヒナリ様を侮辱するなぞ誰であろうと断じて許さぬ! 地に伏せ聖女ヒナリ様に詫びよ!」
耳が痺れるほどの叫びの反響が収まらないうちに、神官がよろよろと起き上がった。
「若造が……何を偉そうに!」
血の滲む口を拭い、床に手を突き足をふらつかせながら立ち上がる。
「初めて儀式について聞かされたときから納得行かなかったのだ! 私とて、聖女様のお側に在るために生涯を捧げてきた! 貴様ら賢者はただ賢者に生まれたというだけで良い思いをしやがって! 聖女様を抱けるだと!? 神聖なる御身を汚すことの叶う者がこの世に居ていいはずがない! それが女神ポリアンテス様に許されるのならば! 神官たる私にもその機会を分け与えてくれても良いではないか!」
殴られて腫れ上がった顔をおぞましい笑みの形に歪ませて、爛々とした目でヒナリを凝視する。
「ああ聖女様、私の腕の中でその清らかな声で啼き、貴女の胎内に私の子種を注がせてくださ……――ぐあっ!」
神官が再び元の倒れていた位置に吹き飛んでいく。アルトゥールがもう一度殴り付けたのだった。
一度だけ呻き声を漏らした神官は、はたと動かなくなった。
アルトゥールが神官の懐を探り、取り出した鍵を割れた窓の外に投げ付ける。
しばらくすると、聖騎士団と司書官長たちが駆け寄ってきた。
ヒナリの前に、聖騎士たちが一斉に膝を突く。
大勢の面々を代表して、団長の女性騎士が凛とした声を響かせた。
「危険な目に遭わせてしまい申し訳ございません聖女ヒナリ様! 我々聖騎士団は、平素は聖女邸の周辺のみを警戒しており神殿の敷地内にて常に聖女様に付き従う習慣はなく……警備態勢を見直します」
悔しげにそう言い切ると、深々と頭を下げた。
その後聞かされた説明によると、今日たまたま寝坊した書記官長が、管理棟に図書館の鍵がひとつもないことに気付き、急いで図書館へと駆け付けたところ扉が開かなかったという。異常事態にすぐさま警備兵を呼びに行った際、多くの兵が『図書館に向かう聖女ヒナリ様の姿を見た』と証言したらしい。
『聖女様が何者かに図書館に閉じ込められている』と警備兵から神殿騎士に伝達、神殿騎士が直ちに聖女邸へと馬を走らせその旨を聖騎士に告げたところ、偶然その場に居合わせたアルトゥールが誰よりも早く図書館へと馬で駆け付け、窓ガラスを割って建物内に侵入したということだった。
突然の危機が去り、ヒナリはその場にへたり込みそうになった。すぐさまアルトゥールが腰を支えてくれる。
ヒナリは呆然としたままアルトゥールの馬に乗せられて、邸宅へと連れ戻されたのだった。
聖女邸では、まるで降臨後に初めて邸宅に案内されたときのように、召し使い全員がヒナリの帰りを待っていた。
ヒナリが馬から下ろされるより先に、賢者たちが駆け寄ってきた。
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