61 / 102
第三章
61 聖女の異変
しおりを挟む
革張りの立派な診察台に座らされたヒナリは、魔力測定の準備が整うのを待っていた。
ふと、どこからかひそひそ声が聞こえてきた。辺りを見回すと、わずかに開かれた扉の隙間から大勢の人が覗き込んできていることに気付いた。
(うわ……すごい人が集まってきちゃってる。クレイグに教えた方がいいのかな)
などと迷っているうちに、人垣のさらに向こう側から『どいてくださーい』と叫ぶ声が聞こえてきた。
ひとりまたひとりと覗き見してくる人が減っていき、扉が大きく開かれる。
「お待たせしましたー!」
そこには白衣姿の少年が立っていた。その手には、王室の宝物庫にあっても違和感がなさそうな上等な小箱を持っている。
クレイグが少年を手で指し示す。
「こちらはヒューゴ・スタレネル、魔力測定器の管理責任者です。本日の測定は彼が担当します」
「聖女ヒナリ様! お会いできて光栄です! 本日は私が魔力測定を担当させていただきます! どうぞよろしくお願い致します!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
元気いっぱいな少年に釣られてヒナリも張り切って挨拶すると、満面の笑みを返された。
ヒナリに頭を下げたヒューゴは小箱を一旦机の上に置くと、また人々が覗こうとしてきているドアを勢いよく閉じた。
ヒナリの視線の先で、クレイグと助手のモニークが作業をしている。
「こちらとこちらと……この順番で行きます。量は四分の一で」
「はい」
クレイグに指示されたモニークが、慣れた手付きで薬を準備していく。
何かをクレイグに言われる度に、顔を上げてクレイグの目をじっと見つめる。その眼差しには明らかな熱がこもっているように見える。その熱さは、ヒナリを見据えてきたときとは異質なものな気がした。
(気のせいではない、かな)
ふたりから目を逸らして、小さく首を振る。
(なに私、嫉妬しちゃってるんだろう。聖女らしく寛容さを持たないと。こんなもやもやを抱えてちゃダメだよ)
そう自分に言い聞かせても、胸の内に湧いた負の感情は消えてくれなかったのだった。
魔力測定器管理責任者ヒューゴ・スタレネルがヒナリの前に立ち、小さな魔道具を差し出してくる。どことなく、大きめの洗濯ばさみを彷彿とさせる見た目をしている。
「こちらが今回ヒナリ様に使用させていただく魔力測定器です」
少年が差し出してきた魔道具は、想像していたものよりずっと小さかった。
「測定器って、随分と小さいんですね」
「そうなんです。昔はもっと大きくて精度も低かったのですが、クレイグ様の弟君であらせられる魔道具師グレッグ・カスティル様が、小型化と性能向上に成功し……」
「ヒューゴ。余計なおしゃべりはおやめなさい」
「はいっ」
クレイグにたしなめられたヒューゴはいたずらに失敗した風な苦笑を浮かべると、ひそひそ声でヒナリに話し掛けてきた。
「(ヒナリ様は、クレイグ様とグレッグ様の仲がお悪いことはご存じですか?)」
「(ええ。グレッグ様を邸宅にお招きした際、私の目の前で喧嘩してましたよ)」
「ぶふっ」
噴き出したヒューゴが慌てて口を押さえる。するとクレイグが顔だけを振り向かせてヒューゴを鋭く睨み付けた。
「ヒューゴ。さっさと準備なさい」
「はいっ! ではヒナリ様、右手をお出しいただけますか」
「あ、はい」
ヒナリが言われた通りに右手を差し出すと、魔道具で人差し指を挟まれた。洗濯ばさみ風の見た目に反して、ただ隙間に指を差し込んだだけという感触がする。
「痛くはありませんか?」
「はい、大丈夫です」
そう言って手元を見下ろすと、測定器の数値が変化していた。それを目にしたヒューゴがクレイグに振り返る。
「クレイグ様。数値が既に増加しておりますがこちらがヒナリ様の魔力ですか?」
「ええ。それを踏まえて試験をおこなっていきます」
「分かりました」
クレイグが目の前に立ち、その斜め後ろに助手のモニークが控える。
ヒューゴはヒナリの前に丸椅子を用意して腰掛け、手元にバインダーとペンを構えた。
クレイグが説明を始める。
「ではヒナリ。これから数種類の試験薬をお飲みいただき、貴女の体内に流れる魔力濃度を測定していきます」
「はい」
「これらの薬は魔力が含まれている以外に何の効果もありませんのでご心配なく」
「わかりました」
「まず始めに通常の試験薬、次に私がこの研究所内で調合したものを二種類、続いて私が邸宅内で調合したものを二種類、合計五杯の薬をお飲みいただきます。まずは通常のものを」
指先で摘まめるサイズの器を手渡される。そこには透明な液体が入っていた。クレイグを見上げて小首を傾げる。
「これ、一気に飲んじゃっていいの?」
「はい。極端な結果を招かぬよう、一般的な量より大幅に減らしてあります」
「そうなんだ。それじゃ、いただきます」
試験薬はとろみの付いた水のようだった。少しだけ甘みが感じられる。
「わ……!」
測定器を見たヒューゴが目を輝かせる。
「こんなに魔力が増幅するんですね! 聖女様のお体ってすごい……!」
と言ってさらさらと数値を記録していく。
じっと測定器を見るヒューゴに釣られてヒナリもそこに視線を落とす。時間が経つごとに数値が減っていき、数分と経たずに元の値に戻った。
ヒューゴが結果を書き込んだ紙を眺めて何度も頷く。
「なるほどなるほど……これは実に興味深い。特に一段階目の数値の跳ね上がり方が常人とは比べ物にならない……!」
その言葉を聞いて、この少年も研究員であることに改めて気付かされる。こんなにも若いのに研究所の一員として大勢の大人と共に研究に励んでいるなんてすごいなとヒナリは思ったのだった。
二杯目、三杯目と試していく。その度に新たな発見があるらしく、ヒューゴが声を弾ませる。
「すごい、すごい……! また予想値を上回ってる……! 賢者様の持つ魔力の聖女様への影響ってこんなにも強いのか……!」
感激しているヒューゴの横で、クレイグが冷静な目でヒナリを見下ろしてきた。
「ヒナリ。お体に異変を感じたりはしていませんか?」
「うん。なにもないよ。元気元気」
にっこりと微笑んでみせれば、クレイグもまた顔を綻ばせる。直後、
「!?」
クレイグを見たヒューゴとモニークが小さく身じろぎして目を見開いた。
「クレイグ様が笑ってる……!?」
ヒューゴがぽかんと口を開ける。
クレイグは、ふたりの視線に気付くやいなや口元に拳をやり咳払いした。
「くだらないことを言っていないで、次に行きますよ」
測定は順調に進み、次が最後の試験となった。
「こちらは私が邸宅内で、魔力が伝わりやすいと思しき調剤器具を使用して調合したものです。予想では、こちらが最も体内魔力濃度が上がるはずです」
「はい。では、飲みます」
それまでと同じように、試験薬をひと息で煽った直後――。
ヒナリは気を失った。
「ヒナリ! ヒナリ!」
ヒナリが五種類目の試験薬を口にした途端、突如として診察台に倒れ込んだ。クレイグがいくら呼び掛けても目を開かない。
ヒューゴが悲痛な叫び声を上げる。
「クレイグ様! 数値が測定限界に達しています!」
「測定を中止します。……ヒナリ、ヒナリ!」
頬をさすり、幾度も呼び掛ける。
この状態は急性魔力中毒とみられるが、失神するほどの深刻な事態に陥った人を見るのはクレイグも初めてだった。それどころか恐らく前例がないはずである。
魔法薬を飲んで中毒症状が現れた者には、ただちに中和剤を飲ませなければならない。
繰り返し名を呼びつつ頬を叩いていると、ようやく『うう……』と反応があった。
「ヒナリ、起き上がれますか」
「ん……」
目は閉じたままで微かに頷き、腕を持ち上げようとする動きを見せる。しかし体に力が入らない様子だった。
体を抱き締めるように支えて、強引に起き上がらせる。
「モニーク、中和剤を」
「はい!」
ヒナリの背を支えたまま振り返らずに指示すれば、モニークが即座に中和剤を手渡してくる。
小さな器を受け取り、再びヒナリを見る。自力で座ってはいるものの、まだはっきりと目覚めてはいない様子だった。
クレイグは中和剤を一気に煽ると、ヒナリの頭を支え、顎をすくい――。
「クレイグ様、何を……!?」
助手の動揺する声が聞こえる中、ヒナリの顎を押して口を開かせると口移しで中和剤を飲ませたのだった。
「ん……」
誰かに呼び掛けられた気がして意識が浮上する。いつの間にか診察台の上に倒れ込んでいるようだった。
『起き上がれるか』と尋ねてくる声に、即座に頷く。聖女が倒れているなんて大騒動になってしまう――そこまで辛うじて考えが回っても全身が重く、うまく動かせない。
すると抱き締められるような感触がして、強引に体を起き上がらせられた。
その直後、口の中に液体が流し込まれて反射的に飲み込む。
誰かに指で唇を拭われる感触がして、徐々に意識がはっきりとしてくる。
目を開くと、クレイグが正面から顔を覗き込んで来ていた。ヒナリの唇を親指でぐっと拭ってきたのはクレイグのようだった。
「あれ、私……?」
視線を巡らすと、ヒューゴが泣きじゃくっていた。モニークは顔を真っ赤にし、目を潤ませている。
状況を確認し終えた途端、クレイグがヒナリの目を覗き込んできた。
「ヒナリ、お体の調子はいかがですか」
「あ、うん……? うん、どこもおかしくないよ」
さきほどまで頭が朦朧としていたのが嘘のように、今は短時間だけ昼寝したかのようにすっきりとしていた。手を見下ろして握ったり開いたりしてみる。体も自由に動かせるようになっていた。
大丈夫だと示すために自ら腰を浮かせて診察台に座り直すと、ほっとした表情に変わったクレイグが丸椅子に腰を下ろし、胸に手を当てて頭を下げた。
「申し訳ございません、ヒナリ。こんな少量で急性中毒を起こすとは、完全に予想外でした」
直後、ヒューゴが勢いよく土下座した。床に額を付けて涙声で叫ぶ。
「申し訳ございませんでした聖女ヒナリ様! もっと微量から試させていただくべきでした……!」
ふと、どこからかひそひそ声が聞こえてきた。辺りを見回すと、わずかに開かれた扉の隙間から大勢の人が覗き込んできていることに気付いた。
(うわ……すごい人が集まってきちゃってる。クレイグに教えた方がいいのかな)
などと迷っているうちに、人垣のさらに向こう側から『どいてくださーい』と叫ぶ声が聞こえてきた。
ひとりまたひとりと覗き見してくる人が減っていき、扉が大きく開かれる。
「お待たせしましたー!」
そこには白衣姿の少年が立っていた。その手には、王室の宝物庫にあっても違和感がなさそうな上等な小箱を持っている。
クレイグが少年を手で指し示す。
「こちらはヒューゴ・スタレネル、魔力測定器の管理責任者です。本日の測定は彼が担当します」
「聖女ヒナリ様! お会いできて光栄です! 本日は私が魔力測定を担当させていただきます! どうぞよろしくお願い致します!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
元気いっぱいな少年に釣られてヒナリも張り切って挨拶すると、満面の笑みを返された。
ヒナリに頭を下げたヒューゴは小箱を一旦机の上に置くと、また人々が覗こうとしてきているドアを勢いよく閉じた。
ヒナリの視線の先で、クレイグと助手のモニークが作業をしている。
「こちらとこちらと……この順番で行きます。量は四分の一で」
「はい」
クレイグに指示されたモニークが、慣れた手付きで薬を準備していく。
何かをクレイグに言われる度に、顔を上げてクレイグの目をじっと見つめる。その眼差しには明らかな熱がこもっているように見える。その熱さは、ヒナリを見据えてきたときとは異質なものな気がした。
(気のせいではない、かな)
ふたりから目を逸らして、小さく首を振る。
(なに私、嫉妬しちゃってるんだろう。聖女らしく寛容さを持たないと。こんなもやもやを抱えてちゃダメだよ)
そう自分に言い聞かせても、胸の内に湧いた負の感情は消えてくれなかったのだった。
魔力測定器管理責任者ヒューゴ・スタレネルがヒナリの前に立ち、小さな魔道具を差し出してくる。どことなく、大きめの洗濯ばさみを彷彿とさせる見た目をしている。
「こちらが今回ヒナリ様に使用させていただく魔力測定器です」
少年が差し出してきた魔道具は、想像していたものよりずっと小さかった。
「測定器って、随分と小さいんですね」
「そうなんです。昔はもっと大きくて精度も低かったのですが、クレイグ様の弟君であらせられる魔道具師グレッグ・カスティル様が、小型化と性能向上に成功し……」
「ヒューゴ。余計なおしゃべりはおやめなさい」
「はいっ」
クレイグにたしなめられたヒューゴはいたずらに失敗した風な苦笑を浮かべると、ひそひそ声でヒナリに話し掛けてきた。
「(ヒナリ様は、クレイグ様とグレッグ様の仲がお悪いことはご存じですか?)」
「(ええ。グレッグ様を邸宅にお招きした際、私の目の前で喧嘩してましたよ)」
「ぶふっ」
噴き出したヒューゴが慌てて口を押さえる。するとクレイグが顔だけを振り向かせてヒューゴを鋭く睨み付けた。
「ヒューゴ。さっさと準備なさい」
「はいっ! ではヒナリ様、右手をお出しいただけますか」
「あ、はい」
ヒナリが言われた通りに右手を差し出すと、魔道具で人差し指を挟まれた。洗濯ばさみ風の見た目に反して、ただ隙間に指を差し込んだだけという感触がする。
「痛くはありませんか?」
「はい、大丈夫です」
そう言って手元を見下ろすと、測定器の数値が変化していた。それを目にしたヒューゴがクレイグに振り返る。
「クレイグ様。数値が既に増加しておりますがこちらがヒナリ様の魔力ですか?」
「ええ。それを踏まえて試験をおこなっていきます」
「分かりました」
クレイグが目の前に立ち、その斜め後ろに助手のモニークが控える。
ヒューゴはヒナリの前に丸椅子を用意して腰掛け、手元にバインダーとペンを構えた。
クレイグが説明を始める。
「ではヒナリ。これから数種類の試験薬をお飲みいただき、貴女の体内に流れる魔力濃度を測定していきます」
「はい」
「これらの薬は魔力が含まれている以外に何の効果もありませんのでご心配なく」
「わかりました」
「まず始めに通常の試験薬、次に私がこの研究所内で調合したものを二種類、続いて私が邸宅内で調合したものを二種類、合計五杯の薬をお飲みいただきます。まずは通常のものを」
指先で摘まめるサイズの器を手渡される。そこには透明な液体が入っていた。クレイグを見上げて小首を傾げる。
「これ、一気に飲んじゃっていいの?」
「はい。極端な結果を招かぬよう、一般的な量より大幅に減らしてあります」
「そうなんだ。それじゃ、いただきます」
試験薬はとろみの付いた水のようだった。少しだけ甘みが感じられる。
「わ……!」
測定器を見たヒューゴが目を輝かせる。
「こんなに魔力が増幅するんですね! 聖女様のお体ってすごい……!」
と言ってさらさらと数値を記録していく。
じっと測定器を見るヒューゴに釣られてヒナリもそこに視線を落とす。時間が経つごとに数値が減っていき、数分と経たずに元の値に戻った。
ヒューゴが結果を書き込んだ紙を眺めて何度も頷く。
「なるほどなるほど……これは実に興味深い。特に一段階目の数値の跳ね上がり方が常人とは比べ物にならない……!」
その言葉を聞いて、この少年も研究員であることに改めて気付かされる。こんなにも若いのに研究所の一員として大勢の大人と共に研究に励んでいるなんてすごいなとヒナリは思ったのだった。
二杯目、三杯目と試していく。その度に新たな発見があるらしく、ヒューゴが声を弾ませる。
「すごい、すごい……! また予想値を上回ってる……! 賢者様の持つ魔力の聖女様への影響ってこんなにも強いのか……!」
感激しているヒューゴの横で、クレイグが冷静な目でヒナリを見下ろしてきた。
「ヒナリ。お体に異変を感じたりはしていませんか?」
「うん。なにもないよ。元気元気」
にっこりと微笑んでみせれば、クレイグもまた顔を綻ばせる。直後、
「!?」
クレイグを見たヒューゴとモニークが小さく身じろぎして目を見開いた。
「クレイグ様が笑ってる……!?」
ヒューゴがぽかんと口を開ける。
クレイグは、ふたりの視線に気付くやいなや口元に拳をやり咳払いした。
「くだらないことを言っていないで、次に行きますよ」
測定は順調に進み、次が最後の試験となった。
「こちらは私が邸宅内で、魔力が伝わりやすいと思しき調剤器具を使用して調合したものです。予想では、こちらが最も体内魔力濃度が上がるはずです」
「はい。では、飲みます」
それまでと同じように、試験薬をひと息で煽った直後――。
ヒナリは気を失った。
「ヒナリ! ヒナリ!」
ヒナリが五種類目の試験薬を口にした途端、突如として診察台に倒れ込んだ。クレイグがいくら呼び掛けても目を開かない。
ヒューゴが悲痛な叫び声を上げる。
「クレイグ様! 数値が測定限界に達しています!」
「測定を中止します。……ヒナリ、ヒナリ!」
頬をさすり、幾度も呼び掛ける。
この状態は急性魔力中毒とみられるが、失神するほどの深刻な事態に陥った人を見るのはクレイグも初めてだった。それどころか恐らく前例がないはずである。
魔法薬を飲んで中毒症状が現れた者には、ただちに中和剤を飲ませなければならない。
繰り返し名を呼びつつ頬を叩いていると、ようやく『うう……』と反応があった。
「ヒナリ、起き上がれますか」
「ん……」
目は閉じたままで微かに頷き、腕を持ち上げようとする動きを見せる。しかし体に力が入らない様子だった。
体を抱き締めるように支えて、強引に起き上がらせる。
「モニーク、中和剤を」
「はい!」
ヒナリの背を支えたまま振り返らずに指示すれば、モニークが即座に中和剤を手渡してくる。
小さな器を受け取り、再びヒナリを見る。自力で座ってはいるものの、まだはっきりと目覚めてはいない様子だった。
クレイグは中和剤を一気に煽ると、ヒナリの頭を支え、顎をすくい――。
「クレイグ様、何を……!?」
助手の動揺する声が聞こえる中、ヒナリの顎を押して口を開かせると口移しで中和剤を飲ませたのだった。
「ん……」
誰かに呼び掛けられた気がして意識が浮上する。いつの間にか診察台の上に倒れ込んでいるようだった。
『起き上がれるか』と尋ねてくる声に、即座に頷く。聖女が倒れているなんて大騒動になってしまう――そこまで辛うじて考えが回っても全身が重く、うまく動かせない。
すると抱き締められるような感触がして、強引に体を起き上がらせられた。
その直後、口の中に液体が流し込まれて反射的に飲み込む。
誰かに指で唇を拭われる感触がして、徐々に意識がはっきりとしてくる。
目を開くと、クレイグが正面から顔を覗き込んで来ていた。ヒナリの唇を親指でぐっと拭ってきたのはクレイグのようだった。
「あれ、私……?」
視線を巡らすと、ヒューゴが泣きじゃくっていた。モニークは顔を真っ赤にし、目を潤ませている。
状況を確認し終えた途端、クレイグがヒナリの目を覗き込んできた。
「ヒナリ、お体の調子はいかがですか」
「あ、うん……? うん、どこもおかしくないよ」
さきほどまで頭が朦朧としていたのが嘘のように、今は短時間だけ昼寝したかのようにすっきりとしていた。手を見下ろして握ったり開いたりしてみる。体も自由に動かせるようになっていた。
大丈夫だと示すために自ら腰を浮かせて診察台に座り直すと、ほっとした表情に変わったクレイグが丸椅子に腰を下ろし、胸に手を当てて頭を下げた。
「申し訳ございません、ヒナリ。こんな少量で急性中毒を起こすとは、完全に予想外でした」
直後、ヒューゴが勢いよく土下座した。床に額を付けて涙声で叫ぶ。
「申し訳ございませんでした聖女ヒナリ様! もっと微量から試させていただくべきでした……!」
5
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる