【R18】転生聖女は四人の賢者に熱い魔力を注がれる【完結】

阿佐夜つ希

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第四章

65 王家主催の舞踏会

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 薬学研究所での騒動から三ヶ月。季節は秋が終わり、冬を迎えていた。

 木々の葉が落ちきる中、四回目の祈りの儀も無事に終え、浄化の期間が半年にまで伸びたある日のこと。

「王家主催の舞踏会?」
「ええ。ひと月後に開催されます」

 居間のソファーに座るヒナリの向かい側で、アルトゥールが頷く。
 ヒナリは四人の賢者を見回してから再び視線を正面に戻すと、一番気になったことを一同に問い掛けた。

「みんなも踊るの?」
「ええ、もちろん」
「そうなんだ。私もみんなが踊るところ、見てみたいな。私、見に行ってもいいのかな」

 ただでさえ見目よい四人が着飾り、ワルツを舞う光景を思い浮かべてみる。

(きっと素敵だろうなあ。楽しみだなあ)

 ヒナリが賢者たちの晴れ姿を想像してにこにこしていると、アルトゥールの隣に座るクレイグが溜め息をついた。

「何ですか、その他人事みたいな口振りは。ヒナリ、私たち賢者は貴女と踊るのですよ」
「はい?」

 夢のような光景が、たちまち霧散する。

「私と!? なんで!? 踊れないよ私!」

 思いの外声が大きくなってしまい、慌てて口を押さえる。

「はー。久しぶりにこんな大声出した……」

 ヒナリが指先の陰で息を吐き出していると、隣に居たベルトランが組んだ足の上で頬杖を突き、にやにやしながらヒナリの顔を覗き込んだ。

「儀式のときは、もっと大きな声出てるけど」
「ぎゃっ!?」

 信じがたい言葉を聞かされて、瞬時に顔が燃え上がる。

「出してない! 変なこと言わないでよベルトラン!」

 涼しい顔をするベルトランを睨み付けていると、アルトゥールが『まあそれはその通りなのだが……』と呟いたところで拳を手に当て咳払いした。
 アルトゥールにまで畳み掛けられて、ますます頬が熱くなり両手で顔を覆い隠す。
 一体何の話をしているのかと抗議したい気分になったところで、ダリオの落ち着いた声が聞こえてきた。

「ヒナリを苛めるのはそれくらいにして、舞踏会の説明をしたら?」
「うむ、すまないヒナリ」

 謝罪を受けたヒナリは渋々顔を上げて、話の続きを聞くことにしたのだった。


 王家主催の舞踏会とは――四回目の浄化後、聖女の祈りの効果が半年間発動している間におこなわれるパーティーで、平穏無事な日々を皆で喜び合い、その平和をもたらしてくれた聖女様に、どれだけ国民が喜んでいるかを踊ってみせることによって伝えましょうという主旨で開催されるらしい。

「それって聖女まで踊る必要ある!?」
「あるんだよねぇ」

 ベルトランがしみじみと呟く。

「舞踏会で踊らないということは、その場に居たとしても参加を拒否したも同然になってしまうんだ。王家主催の催し物を神殿側の人間が拒む形になると、王家と神殿との分断を目論む派閥に格好の餌を与える事態になってしまうんだよね」
「それが良くないことだってのは理解できるけど。ダンスなんてしたことないし。聖女がダンスを免除される条件とかってないのかなあ」
「免除ねえ。まあ、大怪我した場合とかかな? 君が怪我するなんて、考えたくもないけれど」

 と言って、困り顔をしたベルトランが小さく笑った。

「君が踊れるようになるまでいくらでも練習に付き合うからさ。頑張ってみない?」

(まあ、やるしかないんだろうな)

 突如として降って湧いた聖女の責務。全く経験のないことだとつい尻込みしてしまう。

「みんなは踊れるの?」

 四人の賢者が当然だと言わんばかりの表情で一斉に頷いた。

「クレイグも?」
「なぜ私だけ名指しなのですか! 私だって夜会に出席せざるを得ない立場でしたから当然踊れます!」
「そっか、ごめん」

 失礼なことを言ってしまったなとヒナリが萎縮していると、アルトゥールがぽつりと呟いた。

「私はどうも苦手だな、ダンスは」

 頭に手をやり、困惑気味の表情を浮かべる。
 その顔を見たベルトランが、歯を見せて笑った。

「アルトゥールは舞踏会ではいつも申し訳程度に従姉と一回踊ってみせるだけで済ませてたもんね。あとは群がってくる女性たちから一目散に逃げるだけだったね」
「うむ、迷惑を掛け通しですまない」

 ベルトランはアルトゥールに軽く首を振ってみせると、ヒナリに振り向いた。

「ヒナリ。とりあえず軽く練習を始めてみない? 案外楽しく思えるかも知れないよ?」
「でも舞踏会で私が失敗したら、みんなの顔に泥を塗ることになっちゃう」
「ならないし、そもそも失敗なんてさせないよ。僕らが支えるから」

 頼もしい口振りに顔を上げると、賢者たち全員に見つめられていた。今の発言が真であると、四色の瞳が語る。
 突然の熱い視線にヒナリがうつむいた直後、ベルトランが言葉を継いだ。

「それに、歴代の聖女様がたは、どの方もダンスはあまりお得意ではなかったそうだよ。全てにおいて完璧だと思われていた聖女様が慣れない様子ながらも一生懸命踊られる様は、いつの代でも語り草になっているらしいね」
「それって子供のお遊戯を見守る心境じゃない。そんなのなんの慰めにもならないよ~」

 いくら嘆いたところで聖女の舞踏会への参加は確定している。ヒナリは気乗りしないまま、ひと月後の本番に向けて練習を開始することを了承した。


『聖女の義務だから仕方ない』といった気分がまだ抜けずにいる中、ベルトランがヒナリの頭を撫で始める。

「それでね、ヒナリ。早速なんだけど。君の舞踏会での衣装を決めるために、明日、商人にドレスを持ってこさせる手筈になっているんだ。僕ら四人も同席するから一緒に選ぼうね」
「そっか。ドレスを着て踊るんだもんね。選ぶのを手伝ってくれてありがとう。よろしくお願いします」

 王家主催のパーティーにふさわしい装いをしなければならないことに気付けば気合が入る。
 貴族の令嬢風のドレスを着るのはダリオの実家を訪れたとき以来で、ヒナリはお姫様のような格好がまたできると分かり、舞踏会そのものには気後れしつつも心を弾ませてしまったのだった。


    ◇◇◆◇◇


 舞踏会がおこなわれると聞かされた次の日。
 ヒナリが応接室に入ると、そこには四人の賢者の他に、ひとりの大柄な女性が待ち構えていた。
 派手なオレンジ色のウェーブヘアが目を引く。体は全体的にやや太めで、ボリュームのある胸をさらに強調したワンピースを着ている。二十代半ばであろう女性のそばかすを隠そうともしない顔は、人の良さそうな印象を受けた。

「聖女ヒナリ様。お初にお目にかかります。わたくし、マノン・ギラーロニエと申します。聖女ヒナリ様のお役に立てること、恐悦至極に存じます」
「ようこそいらしてくださいました、マノン・ギラーロニエ様。本日はよろしくお願いしますね」

 ハスキーボイスの挨拶にヒナリが応じれば、女商人が目を伏せて、しずしずとお辞儀する。
 ゆっくりと顔を上げたマノン・ギラーロニエは、ヒナリから視線を外すやいなや屈託無い笑顔になった。

「よお! ベルトラン久しぶりだな!」

 ソファーに座っていたベルトランに大声で呼び掛ける。
 すぐさま立ち上がったベルトランがマノンに歩み寄り、思い切りハグした。

「マノン、元気だったかい?」
「おー! 元気元気!」

 抱擁を解くなりベルトランの肩をつかんで前後に揺さぶる。

「よかったあ、だいぶ肌艶が良くなってるじゃないか!」

 大口を開けて笑い出し、ベルトランの肩をばしばしと叩く。
 ベルトランはその乱暴にも見える扱いを気にすることなく笑顔になった。

「そう見えるかい? ヒナリ様と過ごしているからだろうね」
「私とお茶してるときはもうストレスの塊!って感じだったもんなあ。いやーよかったよかった!」

 ヒナリはベルトランが他人から雑な扱いを受けているところを初めて目の当たりにして、思わず固まってしまった。
 そんな中、ベルトランとマノンが同時にヒナリに振り返る。

「ヒナリ様、突然すみません。久しぶりにこいつと会えたのが嬉しくて。ベルトランとは幼馴染みなんです」
「まあ、そうなのですね」

 子供の頃からの知り合いであれば、あれくらい気さくになるのも当然だなと納得させられる。

「なあベルトラン、ヒナリ様はベルトランが遊んでたことはご存じで?」
「もちろん。遊び呆けてた僕であっても、ヒナリ様は温かく接してくださっているよ」
「さーっすが聖女様!」

 会話を弾ませるふたりを見て、ヒナリは気になったことをおずおずと尋ねた。

「あ、あのっ、あなたもそういったご関係だった、とか……?」
「まさか!」

 マノンが天井を見上げて爆笑する。笑う動きに合わせて大きな胸がゆさゆさと揺れた。

「私の好みは断然! 年下なんで!」
「各地にお相手が居るもんねえ、マノンは」
「だーってよお、みんな可愛いんだもんよお。みんな『他に相手が居ても構わない』って言ってくれてるし。どの子も手放す気は全くないな!」

 がはははは、とまるで中年男性のように豪快に笑った。
 かと思えばふと何かを思い出した顔付きに変わる。

「……はっ! そうだダリオ様は!?」

 オレンジ色の髪を振り乱しながら部屋中を見回す。

「――居たあっ!」

 ダリオは部屋の角に寄せた円卓の椅子に腰掛けていた。足を組み、無表情でヒナリたちを眺めている。
 マノンは一目散にダリオに駆け寄ると、ほとんどひっくり返った声で叫んだ。

「うわあああ! お、お初にお目に掛かりますうう賢者ダリオ様!」

 はあはあ……と息を切らしている。ヒナリはダリオが怒り出しやしないかと、その若干変態じみた挙動にはらはらしてしまった。
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