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第四章
66 ベルトランの旧友のアドバイス
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「うへへへっ、ほっ、本物のダリオ様だあ……! ちょ、超可愛い……至高のかわゆさで私が浄化されるっ……!」
などと喚きながら一瞬目を細めたマノンが、すぐに両目を見開いてダリオを凝視する。
ダリオはそんな無遠慮な見られ方に別段不快感を表すこともなく、少し顎を上げ、下目でマノンを見た。
「ヒナリに一番似合うドレスを用意できたら、君のその態度は許容しなくもない」
「うはあっ! ありがたき幸せっ……! 必ずや、聖女ヒナリ様に最高の一着をご用意してみせます……!」
そう宣言するなり踵を返し、また早足でヒナリたちの元に戻ってきた。
「やべっ、超天使だった……! 天使がめっちゃ冷たい目で私のこと見てくれたあっ……!」
今にも涎を垂らしそうな勢いで呼吸を繰り返すマノンが、ベルトランの腕をつかんで項垂れた。
「緊張したあ……! なあベルトラン、ダリオ様とちゃんとお話しできた私を褒め称えてっ……!」
「はいはい、よくできました」
そう言って苦笑したベルトランが、ヒナリに肩をすくめてみせる。
「ごめんねヒナリ、マノンは本当に年下の男の子が大好きだから」
「ううん、気にしてないよ」
マノンの全く飾らない自分を剥き出しにした態度には、好感が持てたのだった。
◇◇◆◇◇
衝立の向こうから、四人の賢者の談笑が聞こえてくる。
ヒナリはマノンやマノンの数名の付き人の手で、次々と着替えさせられていた。着付けられている間にも、付き人の女性たちがヒナリを輝く目で見つめて『こんなにスタイルが良い方は初めて見ました』だの『お肌が美しすぎます』だのと口々に褒め称えてくる。マノンに至っては、ぎょっとした顔でヒナリの全身を見渡したあと『腰、細っ……!』と呟いたりしていた。
着替える度に賢者たちの前に立ち、くるりと一周回ってドレス姿を披露する。
皆口々に『似合う』と言ってくれたものの、具体的に意見を言ってきたのはベルトランだけだった。デコルテの開き具合だとかスカートの広がり具合だとか、ヒナリが気にしていなかった部分についての意見を次から次へと挙げていく。
また別の一着に着替えていると、鏡越しにマノンが微笑んだ。
「ヒナリ様。ベルトランを元気にしてくださってありがとうございます。あいつ、とんでもないハイスペ野郎なせいで女にモテすぎてストレスを抱え込んでたんで、ずっと心配してたんです」
とんだ言い草だなと思うも、仲の良さが窺える気がした。
「私は何も……。私こそ、ベルトランに支えられてばかりで、早く恩返しをせねばとは思っているのですが」
「あら。でしたら……」
耳元に近付いてきたマノンが、ひそひそ話をする。
「――!?」
とんでもない助言をされて、ヒナリは一瞬にして顔が赤くなった。
鏡の中でマノンがにやりとする。
「こうすれば、ベルトランはヒナリ様にメロメロになること請け合いですよ!」
マノンのアドバイスは、儀式よりかはずっと軽い触れ合いだった。
(それ以上のことをとっくにしてるんだけどね……)
と言えるはずもなく、質問をぶつけてみる。
「そういうことを、ベルトランにされたことがあるのですか?」
「いやいやまさか! でも長年の付き合いだから分かるんです、ベルトランが欲してることは」
会話が一段落したところで、衝立の向こうからベルトランが声を掛けてきた。
「マノン? ヒナリに変なこと吹き込まないでね?」
「さ~て、どうでしょうねえ」
と言って歯を見せて笑う。
悪戯を仕掛けている最中の子供じみた笑顔に、ヒナリも釣られて微笑んだ。
結局ドレスはヒナリ自身ではいまいち決めきれず、ベルトランとマノンとで相談してもらい『一番似合うのはこれ』と決定してもらったのだった。
◇◇◆◇◇
ドレスを選び終えた日の夜。ヒナリはあるひとつの目的をもってベルトランの部屋を訪ねた。
扉をノックすれば、すぐに『どうぞ』と返ってくる。
ヒナリが部屋に入ると、ベルトランは書斎机でペンを走らせていた。
普段と違って眼鏡を掛けていて、初めて見るその知的な雰囲気に胸がときめく。さらには時折顔に掛かる金髪を耳に掛けていて、その仕草の色っぽさにますます心臓が高鳴った。
真剣な眼差しで書類に目を落としているベルトランの伏し目にすらドキドキしてしまい、胸を押さえつつ話し掛ける。
「何してるの?」
「今はワインの発注をまとめてるんだ」
ベルトランが、ペンを走らせながら口元を微笑ませる。
「個人的な好みとしては、オークレール領産のワインがいいんだけど。発注先を片寄らせると、他のワインの産地から『聖女様にうちのワインをお飲みいただく機会を賢者が奪っている』と抗議されかねないから、なるべく均等に発注するようにしているんだ。それでも僕が許せる味に限定してはいるけれど」
「そういうのって、どなたか召し使いの方が担当するものではないの?」
「本来はね。少し仕事を分けてもらってるんだ。僕はアルトゥールやクレイグのような立派な職は持っていないからさ。何かしら皆の役に立ちたいっていう、単なる僕のわがまま」
「なるほど……」
(そんなことまで考えてるんだ。すごいな、ベルトランって)
かつては遊び人だったと自称する賢者の真面目さに、ヒナリは尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
ソファーに座るように促されたヒナリは、腰を落ち着けるとまたベルトランに問い掛けた。
「お仕事が終わるまで、ここで待っててもいい?」
「もちろん。急いで片付けるよ」
顔を上げずに即答したベルトランが、卓上の呼び鈴を鳴らす。
しばらくすると、執事のライズボローが茶を持ってきた。
ヒナリは香り豊かな紅茶を口にしつつ、ベルトランの仕事姿をこっそり眺め続けたのだった。
「……ふう」
ペンをペン立てに差したベルトランが、息を吐き出しながら顔を上げる。
「お待たせ、ヒナリ」
その言葉を聞くなりヒナリはソファーから立ち上がると、緊張感を抱きつつ書斎机に向けて歩き出した。
眼鏡を外したベルトランが、それを眼鏡ケースにしまいつつ問い掛けてくる。
「ねえヒナリ。昼間、マノンになんて言われたの?」
ヒナリはそれには答えなかった。ベルトランの、手元を見ている伏し目の色気に胸を高鳴らせつつ、書斎机を回り込む。
目の前に立てば、顔を上げたベルトランがエメラルドグリーンの瞳で『どうしたの?』と問い掛けてくる。
ヒナリは一度深呼吸して腹を括ると、ベルトランの頭をぎゅっと胸に抱き込んだ。
「!?」
途端にベルトランがびくっと肩を跳ねさせる。
その反応に嬉しくなりつつ、胸の谷間に顔を埋めさせて、柔らかな金髪をやんわりと撫でる。
それを繰り返すうちに、ベルトランの耳が赤く染まっていった。
「……こうしろって言われたの?」
「うん」
「なるほど……。彼女は年下の男の子たちがこうすると喜ぶからって、ヒナリにアドバイスしたんだろうね」
衣服越しに吐息が伝わってきて、その熱さにどきどきさせられる。
「ベルトランは、こうされるのは好きじゃない?」
「君にしてもらえることなら何だって嬉しいよ」
そう言ってベルトランはヒナリの腰に手を回すと、自らヒナリの胸に顔を埋めて頬擦りしてきた。
などと喚きながら一瞬目を細めたマノンが、すぐに両目を見開いてダリオを凝視する。
ダリオはそんな無遠慮な見られ方に別段不快感を表すこともなく、少し顎を上げ、下目でマノンを見た。
「ヒナリに一番似合うドレスを用意できたら、君のその態度は許容しなくもない」
「うはあっ! ありがたき幸せっ……! 必ずや、聖女ヒナリ様に最高の一着をご用意してみせます……!」
そう宣言するなり踵を返し、また早足でヒナリたちの元に戻ってきた。
「やべっ、超天使だった……! 天使がめっちゃ冷たい目で私のこと見てくれたあっ……!」
今にも涎を垂らしそうな勢いで呼吸を繰り返すマノンが、ベルトランの腕をつかんで項垂れた。
「緊張したあ……! なあベルトラン、ダリオ様とちゃんとお話しできた私を褒め称えてっ……!」
「はいはい、よくできました」
そう言って苦笑したベルトランが、ヒナリに肩をすくめてみせる。
「ごめんねヒナリ、マノンは本当に年下の男の子が大好きだから」
「ううん、気にしてないよ」
マノンの全く飾らない自分を剥き出しにした態度には、好感が持てたのだった。
◇◇◆◇◇
衝立の向こうから、四人の賢者の談笑が聞こえてくる。
ヒナリはマノンやマノンの数名の付き人の手で、次々と着替えさせられていた。着付けられている間にも、付き人の女性たちがヒナリを輝く目で見つめて『こんなにスタイルが良い方は初めて見ました』だの『お肌が美しすぎます』だのと口々に褒め称えてくる。マノンに至っては、ぎょっとした顔でヒナリの全身を見渡したあと『腰、細っ……!』と呟いたりしていた。
着替える度に賢者たちの前に立ち、くるりと一周回ってドレス姿を披露する。
皆口々に『似合う』と言ってくれたものの、具体的に意見を言ってきたのはベルトランだけだった。デコルテの開き具合だとかスカートの広がり具合だとか、ヒナリが気にしていなかった部分についての意見を次から次へと挙げていく。
また別の一着に着替えていると、鏡越しにマノンが微笑んだ。
「ヒナリ様。ベルトランを元気にしてくださってありがとうございます。あいつ、とんでもないハイスペ野郎なせいで女にモテすぎてストレスを抱え込んでたんで、ずっと心配してたんです」
とんだ言い草だなと思うも、仲の良さが窺える気がした。
「私は何も……。私こそ、ベルトランに支えられてばかりで、早く恩返しをせねばとは思っているのですが」
「あら。でしたら……」
耳元に近付いてきたマノンが、ひそひそ話をする。
「――!?」
とんでもない助言をされて、ヒナリは一瞬にして顔が赤くなった。
鏡の中でマノンがにやりとする。
「こうすれば、ベルトランはヒナリ様にメロメロになること請け合いですよ!」
マノンのアドバイスは、儀式よりかはずっと軽い触れ合いだった。
(それ以上のことをとっくにしてるんだけどね……)
と言えるはずもなく、質問をぶつけてみる。
「そういうことを、ベルトランにされたことがあるのですか?」
「いやいやまさか! でも長年の付き合いだから分かるんです、ベルトランが欲してることは」
会話が一段落したところで、衝立の向こうからベルトランが声を掛けてきた。
「マノン? ヒナリに変なこと吹き込まないでね?」
「さ~て、どうでしょうねえ」
と言って歯を見せて笑う。
悪戯を仕掛けている最中の子供じみた笑顔に、ヒナリも釣られて微笑んだ。
結局ドレスはヒナリ自身ではいまいち決めきれず、ベルトランとマノンとで相談してもらい『一番似合うのはこれ』と決定してもらったのだった。
◇◇◆◇◇
ドレスを選び終えた日の夜。ヒナリはあるひとつの目的をもってベルトランの部屋を訪ねた。
扉をノックすれば、すぐに『どうぞ』と返ってくる。
ヒナリが部屋に入ると、ベルトランは書斎机でペンを走らせていた。
普段と違って眼鏡を掛けていて、初めて見るその知的な雰囲気に胸がときめく。さらには時折顔に掛かる金髪を耳に掛けていて、その仕草の色っぽさにますます心臓が高鳴った。
真剣な眼差しで書類に目を落としているベルトランの伏し目にすらドキドキしてしまい、胸を押さえつつ話し掛ける。
「何してるの?」
「今はワインの発注をまとめてるんだ」
ベルトランが、ペンを走らせながら口元を微笑ませる。
「個人的な好みとしては、オークレール領産のワインがいいんだけど。発注先を片寄らせると、他のワインの産地から『聖女様にうちのワインをお飲みいただく機会を賢者が奪っている』と抗議されかねないから、なるべく均等に発注するようにしているんだ。それでも僕が許せる味に限定してはいるけれど」
「そういうのって、どなたか召し使いの方が担当するものではないの?」
「本来はね。少し仕事を分けてもらってるんだ。僕はアルトゥールやクレイグのような立派な職は持っていないからさ。何かしら皆の役に立ちたいっていう、単なる僕のわがまま」
「なるほど……」
(そんなことまで考えてるんだ。すごいな、ベルトランって)
かつては遊び人だったと自称する賢者の真面目さに、ヒナリは尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
ソファーに座るように促されたヒナリは、腰を落ち着けるとまたベルトランに問い掛けた。
「お仕事が終わるまで、ここで待っててもいい?」
「もちろん。急いで片付けるよ」
顔を上げずに即答したベルトランが、卓上の呼び鈴を鳴らす。
しばらくすると、執事のライズボローが茶を持ってきた。
ヒナリは香り豊かな紅茶を口にしつつ、ベルトランの仕事姿をこっそり眺め続けたのだった。
「……ふう」
ペンをペン立てに差したベルトランが、息を吐き出しながら顔を上げる。
「お待たせ、ヒナリ」
その言葉を聞くなりヒナリはソファーから立ち上がると、緊張感を抱きつつ書斎机に向けて歩き出した。
眼鏡を外したベルトランが、それを眼鏡ケースにしまいつつ問い掛けてくる。
「ねえヒナリ。昼間、マノンになんて言われたの?」
ヒナリはそれには答えなかった。ベルトランの、手元を見ている伏し目の色気に胸を高鳴らせつつ、書斎机を回り込む。
目の前に立てば、顔を上げたベルトランがエメラルドグリーンの瞳で『どうしたの?』と問い掛けてくる。
ヒナリは一度深呼吸して腹を括ると、ベルトランの頭をぎゅっと胸に抱き込んだ。
「!?」
途端にベルトランがびくっと肩を跳ねさせる。
その反応に嬉しくなりつつ、胸の谷間に顔を埋めさせて、柔らかな金髪をやんわりと撫でる。
それを繰り返すうちに、ベルトランの耳が赤く染まっていった。
「……こうしろって言われたの?」
「うん」
「なるほど……。彼女は年下の男の子たちがこうすると喜ぶからって、ヒナリにアドバイスしたんだろうね」
衣服越しに吐息が伝わってきて、その熱さにどきどきさせられる。
「ベルトランは、こうされるのは好きじゃない?」
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